上 下
4 / 8

絶望の元・大聖女

しおりを挟む
「コレット。いや、神に選ばれし稀代の大聖女よ。貴女にこの国の行末をたくそうぞ!!」

 そう言うと、国王陛下ちちうえはワタクシの聖印にキスをする。
 と同時に、背後では一斉にひざまずく音が聞こえ、「聖女殿下のために!!」と声が重なった。
 その快感に打ち震えながらも、人受けのするいい笑顔を作り込み、瞳になみだを浮かべ頬を染め「はい」とやさしく微笑んだ。



 ◇◇◇



 ――コレットが聖女と国王に認定されてから七時間半後。城の地下牢で魔女認定された、みじめな娘が、ひたいに水滴があたり目覚める。

 んんん……冷たい。からだもあちこち痛い……ここはいったい?
 鈍い痛みを感じながら、ゆっくりと体を起こす。

「痛たッ!? 頭が、え、なに?」

 そう言いながら体を起こして周囲を見渡すけど、うっすらと明るさがあるだけで暗い石牢だと気がつく。

「……そっか。魔女だって言われて……デレク様にも殴られて……」

 気絶する前の状況を思い出し、すごく切ない気持ちで悲しくなり、大粒の涙があふれでてきた。
 思わず嗚咽おえつとなって、その声が大きくなると「うるせえぞクソ魔女が!!」と鉄格子を硬いもので殴られた音で背筋が震える。

「あの、牢番さん聞いてください! 私は何も悪いことをしていないのです! どうかお父様へおとりつぎを!!」
「黙れと言っている! 魔女の声など聞くだけで不愉快だ!!」
「そ、そんな……」
「フン。なんて嫌な時に当番になったものか」

 太った牢番さんは私へと唾を吐き捨て、それが袖へとネトリと付着した。
 もわりと立ち上る悪臭でむせそうになったけれど、となりの痩せた牢番さんがもっと嫌そうに話す。

「いい加減にしろ。汚れた魔女と言葉をかわすのも汚らわしい。どうせ明日には火あぶりなんだからな」
「え、火あぶりってそんな!? お願いです、どうかお父様へおとりつぎを!!」
「「黙れ常闇の魔女!!」」

 そう二人は声を揃えていうと、階段を上っていってしまう。

「お願い! まって、待ってください牢番さん!!」

 その声が虚しく石壁へと反響し、小さな明かり窓から外へと抜け出ていく。
 ギュッと鉄格子を握りしめると同時に、明かり窓からさしこむ満月が私の顔を照らす。
 その時だった。鉄格子の向こう側の壁にかけられている鏡に、顔がただれたバケモノが浮かび上がり「ひぃ!?」と息を呑む。

「そうか……そうなんだよね。これが私……」

 片方だけ黄金の瞳。黄金で美しかった髪は漆黒にそまり、半分ただれた顔面。
 その現実に涙だけが流れ落ち、ただただ悲しかった。
 十七年の間、王族として気品ある生き方を目指し、それを守り生きてきた。
 だから人前ではじめて、みっともなく声を大きくあげて泣きだす。

 そう、誰も。もう誰も。私の事などみていない。そう思うとさらに悲しくなり、涙が止まらないまま疲れはて寝落ちしてしまう……。


▷▷▷▷▷▷完結まで残り――4話
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

聖女でなくなったので婚約破棄されましたが、幸せになります。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:2,409

主従

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

昨今の現代社会を愚痴りたい人のカレーなる異世界転生スローライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

お試し派遣は、恋の始まり。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:69

おもしろ中編小説集

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

時空を超えて愛し合う2人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

長野ヨミは、瓶の中で息をする

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

処理中です...