大好きだけど

根鳥 泰造

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第三話 真っ直ぐな愛と歪んだ愛

夏めくや 装置故障の所為にして

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 裕ちゃんに、こんな美人の独身の娘がいるとは思わなかった。親子だと思えないほど似てないが、彼女も超絶美女だ。
 歳は三十二歳と俺より一回りも年上らしいが、ガキんちょファッションに、JKっぽい話し方で、全く年齢差を感じない。
 何より笑顔が超絶かわいい。
 しかも、俺に興味をもっている素振り。
 彼女の話が本当なら、今は誰とも付き合っていないそうだ。一昨年のクリスマスまで、アメリカ人男性と付き合っていたらしいが、別れ、それからは会社設立等で奔走し、恋愛なんてしている時間はなかったのだとか。
 俺もこの三か月間、死に物狂いで、勉強して仕事を覚え、女性と付き合うつもりは毛頭なかったが、この子となら、付き合ってもいい。

 そんな訳で、日曜日の夕食の後、つい裕ちゃんと話している来夢さんをじっと見つめていたら、急にこっちを向いてきて、睨まれた。
 失礼な事をしてしまったと反省し、それからは注意していたけど、今日は、思いっきり彼女を見ていられる。
 午後から、買い物の荷物持ち役という名目で、彼女とデートできるからだ。
 荷物持ち役でも何でもして、彼女を喜ばせ、その気にさせて、楽しいことをさせてもらうつもりだ。
 そう思って、昨晩は出さずに、貯めておいた。

 ただ、少し気がかりな点がある。実は、俺は女とデートと言うのをしたことがないのだ。
 当然、女は何人も知っている。刑期を終えた半年後、まだ十七歳だった時、健さんのチームにお世話になった時、童貞を失った。
 五人での集団レイプだったのだが、その女はとんでもないビッチで、直ぐに楽しみだし、俺も罪悪感なく、抱かせてもらった。
 その後も、顔がいいからと、ナンパのエサにされ、こっちは和姦での3Pが三回。
 組に入ってからも、AV女優八人と経験がしている。

 だが、普通の恋愛経験がなく、デートでどう振舞えば良いのか分からない。
 彼女の方からその気を見せる合図がきて、俺からラブホに誘う様にするのだろうが、その辺のやり方がさっぱりわからない。
 家を出かけるとき、「私をお姉さんだと思ってね」と言ってきたが、ホテルの誘いも任せてよいと言うことなのだろうか。
 これから一か月間、付き合っていくなら、最初が肝心。ここの誘いどころが、一番の課題だ。

 今日のデートは、原宿の竹下通りでのショッピング。
 いきなり、女性ものの下着売り場に連れて行かれ困惑したが、ちゃんと外で待つ選択子を用意してくれた。
 その後も、行く店々で、かわいい、素敵と言っては、試着して、俺に服を見せてくる。美人は何でも似合うし、かわいいし、ショッピングに付き合うのも悪くないと思った。
 それから、健さんに連れて行ってもらったことがあるトンカツ屋の前を、表参道側に曲がって、表参道を青山通り側に左折。デカいカップのアイスを奢ってくれた。
 彼女といると、皆がちらちら、こっちを見てくるので、俺も優越感にも浸れ、嬉しかった。
 その後も何件か店に立ち寄り、青山通りを右折して渋谷に向かう事になった。
 渋谷に行くと言うのは、いよいよホテル街に行くのだと思っていたら、宮益坂下のカラオケ館に来て、いま、こうして、一緒に歌っている。

 でも、さっきので、彼女は完全に天然ちゃんだ確信した。
 自らマイクのスイッチを切っときながら、「あれ、マイクの調子がおかしい」と、装置をいじくり始めたのだ。「今、自分で、スイッチ切ったろ」と、遂に、耐えきれずに、突っ込みを入れてしまった。
 実は、天然の予感は、今日、ずっと感じていた。

 最初は午前中。皆が居る場で、「まだノーパンなの」と裕ちゃんの秘密を暴露したのだ。
 裕ちゃんは、ノーパンだし、俺のちんこを見たがるし、あの齢で三十歳の容姿で、毎週セックスしていて、しかも二重人格という不思議ちゃんそのものだが、それをあの場で、指摘するか? 
 正直、こっちが恥ずかしくなった。
 まぁ、今日のデートでの会話で、その不思議の一端が理解でき、半分は、俺の責任だった。
 あの時、俺達が誘拐し、心臓発作を起こさせてしまった所為で、ノーパンになったり、二重人格になったりした。
 申し訳ない事をしたと胸が痛んだが、裕ちゃんが、エッチな不思議ちゃんだと言う事実は変わらない。
 彼女が不思議ちゃんで、その娘は天然ちゃんと言うとんでもない親子だ。

 それから、二つ目は、デートの最初の休憩のドトールでの出来事。
「一つずつで良いよね」と言いながら、ミルクを二つ渡してきた。
 その時は、年上だし、自分で入れる時に気づくだろうと、指摘せずに様子を見たが、そのまま、ガムシロップを二つも入れて、それをストローでかき回して飲み始めた。
 いくら話に夢中だったとしても、流石に、かき回す時には気づくだろう。
 ドトールを出る時も、タッチ式自動ドアなのに、後ろの俺に話し掛けたまま、ドアに激突。
 極めつけは、このカラオケ館に入る時。後から来たお客さんが、エレベーターに乗ろうと駆けて来たところで、閉ボタンを連打してドアを締め、「このボタン壊れてる、私のせいじゃ無いから」と言い訳した。
 流石に、これには思わず笑ってしまった。
 でも、全ての仕草がかわいいから許す。

 その後、一緒にビールを飲んで、二人でワイワイ、さわいで歌い、本当に楽しい時を過ごせた。
 結局、今日は、ホテルに誘う事もなく、彼女の天然ブリを満喫しただけで終わってしまったが、デートが、こんなに楽しいものだと、初めて知った。
 真剣に来夢の恋人になりたい。そう思う様になっていて、彼女に自分の過去を知って欲しいとすら思い始めていた。
 でも、彼女は、本当に弟の様に見ているだけなのかもしれない。
 考えてみれば、彼女はエリート。慶桜大学出身で、誰よりも早く四葉商事の主任になり、その地位を捨てて、共同出資の会社を立ち上げ、そこの副社長をするほどの凄い人。
 俺みたいな元ヤクザな半人前では、来夢さんの彼氏として相応しくない。釣り合わないし、高嶺の花だ。
 それに、この間の話も、御愛想で言っただけで、本当は素敵な婚約者がいるのかもしれない。
 こんな美女に彼氏がいないわけがない。
 所詮、俺なんか眼中にないんだ。

 大人しく諦めるしかないかと、考えながら歩いていると、彼女が小門の扉を開けようと俺の前に出た。
 そのホットパンツのお尻を見ると、昨日出さずにいたためか、急にむらむらしてきて、無性に彼女を抱きしめたい衝動に駆られた。
 そんなことをすると、口もきいてもらえなくなるが、健の兄貴が「女は強引な男を好きなんだ」と言っていたのを思い出した。
 どうせ、最初で最後のデートだ。無理やりキスして、胸を揉もう。それで嫌われたら、もうきれいさっぱり諦めればいい。

 そう思って、神谷邸の顧問を潜ると直ぐ、抱き着こうとしたのだが、彼女が急に振り向いてきた。
「今日は本当に楽しかった。また来週も、付き合ってくれる?」
 ということは、来週も彼女とデートできる。
 胸も程よい大きさで、抱きしめたい衝動は変わらないが、それならまだ、嫌われるかもしれない行動はしたくない。
「喜んで。来夢さんて、天然で楽しいから、またデートしたい」
 彼女の本当の気持ちが、判らないが、今日は我慢した。

 その夜、勿論、来夢と愛し合う妄想をして、自慰してすっきりさせたが、なぜかますます来夢としたくなった。出すと賢者になって、そんな気持ちは起きなくなるのに、来夢のお尻や胸、あの笑顔ばかりが浮かんできて、無性に抱きしめて、一つになりたい衝動が消えてくれない。
 こんなことは初めてだが、もしかして、これが恋と言うものかもしれない。
 胸がドキドキと高鳴るとか、胸がキュンとして苦しいとか、青春の様な恋とは明らかに違うが、来夢を抱きたくて、可笑しくなりそうだ。
 明日からも、毎日、彼女と顔を合わすが、今までの様に接していられる自信がない。
 来夢を強く抱きしめて、はやく一つになりたい。
 来週こそ、彼女を抱くぞ。早く一週間後が来ないかな。
 俺は、そんなことばかり考えて、何時までも眠れなかった。

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