大好きだけど

根鳥 泰造

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第三話 真っ直ぐな愛と歪んだ愛

若竹の伸びたる力 夢も押し

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 私が日本にいるのは後三日。あの後も、二度、一緒にお風呂に入ったけど、何も進展なしで、婚約も解消していない。
 ママから、婚約解消するように言われたけど、私の気持ちが曖昧なままだと、婚約解消してくださいとも、切り出せない。
 そろそろ、はっきりさせないとならないと分かっているけど、未だどうするのがいいのかが分からない。

 そして、今日の天気は、私の気持ちを反映しているみたいに、一日中雨。
 それでも、傘を差して、私は一人で出かけた。
 昨日の水曜日、横浜国大の蛇口教授からメールが届いたのだ。
 ダッドがいろいろと頑張ってくれたけど、やはり日電通研究所の見学は無理で、山田さんとの面談も駄目だった。けど、蛇口教授との面談だけは、なんとか了承してもらえた。
 そのメールにて、午後三時に横浜国大の彼の研究室に来て欲しいと書いてあったので、その時間に合わせて、外出することにしたというわけ。

 少し早かったけど、蛇口教授は、私を迎い入れてくれ、教授室の応接スペースで、研究室の紹介から話してくれた。
 蛇口教授の研究室は、私の会社と同じ目的の次世代ネットワークの研究室で、主に次世代ファイアーウォールの研究をしているのだそう。
 現主流のUTM型との違いは、AFCと呼ぶアプリケーションフローチェック機能を備えている点だと言う。最近のUTMは、アプリケーションフィルタ機能も備えているが、透過可能設定されたアプリケーションのヘッダ情報を借用して、通信すると、別アプリなのに、通信許可されてしまう。
 ところが、AFCでは、ソフト固有のパケットフロトコルの癖を機械学習し、癖とは違うフロトコルを発生するアプリは、偽アプリとみなして通信遮断すると言う。
 勿論、アプリケーションフィルタ機能と同様に、プロキシ経由でも、このフィルタは有効で、本来の運用想定されているソフト以外の侵入を完全にシャットアウトできる技術らしい。
 これはうちの会社の武器にできる技術なのは間違いなく、私の会社との共同開発研究を提案してみた。
 すると、教授も、もう少し研究費が欲しかったから、喜んで契約したいと言ってもらえた。
 まだ社長承認も得られておらず、契約も後日となるが、思わぬ収穫で、きっとデビッドとゲイリーも賛同してくれると確信している。

 その後は、先生の研究室でやっている研究の詳細説明を、研究室見学をしながら説明してくれた。
 説明は、修士の学生さんがしてくれたけど、私が鋭い質問をすると、赤くなって、少しどもりはじめ、ゲイリーみたいで楽しかった。

 その後、教授室に戻り、本題であるエバネッセント波活用のフォトニックルーターについて訊いた。
 もちろん、研究資料を盗み出して見たとは言っていない。義父のヒントから、自分なりに考え出した装置原理を私が説明し、それに対する意見を求める形で質問した。
 先生は、日電通時代に同じような装置を作って、実験した事があると話を始めた。
 実際の数値データは言わなかったが、チャンピオン性能としては、とんでもない高性能の通過速度を記録したそうだ。しかも、それを出したのは、かなり昔だと言う。
 なのに、実用化されないのは、組立て時の加工精度に問題があるらしい。
 この性能を出すには、20nm以下の精度が必要で、量産は困難なレベル。日電通では、見切りをつけてお蔵入り技術になっていると言う。
 これでずっと頭に掛かっていたもやもやが晴れた。やはり、先人に話を聞けて良かった。

 その後も、院生二人と学生四人とを交えて、研究室でビールを飲みながら、私の買ってきたクロッカンシューザクザク食べ、意見交換と言う白熱した議論を交わした。
 私の会社で取っているセキュリティー対策を紹介したり、さっき説明を受けた研究に対するハッカーとして思ったセキュリティー欠陥なんかを指摘したりして、あっという間に三時間が過ぎた。
 好きな研究の話をするのは本当に楽しい。
 蛇口教授に、丁重にお礼をして帰宅し、直ぐに会社の二人と連絡を取り、共同研究契約の承認も得られた。
 蛇口教授にも、その事を知らせ、後日、契約のため、社長と共に訪問させてもらうと、あらためてメールでお礼した。
 本当に有意義な一日だった。

 そして、私は今回の蛇口研究室の見学で確信した。
 私に、会社を辞めて、日本で生活する選択肢はなく、翔とは結婚できないと、明確になった。
 翔にアメリカに来てもらうと言う選択子はあるけど、その選択は、翔の事を大切に考えると有りえない。
 そして、結婚しないなら、セックスもしない。そんなことすれば、彼の心にも大きな傷跡を残すときづいたから。
 私としては、彼との思い出の一つとして、セックスも含めたいけど、それは自分の我儘に過ぎず、彼の気持ちを全く考えていない行為だと分かった。
 だから、全ての約束を白紙に戻して、何もないまま別れましょうというつもり。
 勿論、ママに言われたように、自分勝手に決めつけてはいけないので、翔に私の本当の気持ちをぶつけて、彼に判断を委ねるつもり。
 彼は、我儘は言わないと思うけど、もしそれでも抱きたいと言ってきたら、抱かせてあげ、それで終わりにするつもり。

 その夜、私は、そっと自分の部屋を抜け出し、二階への階段を上って行った。

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