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ジャズが流れる菊池の部屋で、俺は『菊池は関係ないんだ』と、心の中で膨れ上がっていく感情を抑え込もうとしていた。
四年前、内装工事の会社を経営していた俺の父が、首吊り自殺した。
仕事が取れず、銀行に見放され、街金の借金取りに追われて、従業員への支払も出来ずに追い詰められての自殺だった。
だがその背景には菊池ホームがあった。
その一年程前まで、うちの会社は、主に菊池ホームの下請けをしていた。
菊池ホームからの再三に渡る工期短縮の圧力と、今後依頼数を増やすという甘い言葉を信じ、親父は高額な設備投資をした。
だが三ヶ月もしないうちに、菊池ホームは約束を違え、あっさり下請け切りした。
親父の保険金で、仕入れ業者や従業員にも恨まれずに済んだこともあり、その時はさほど恨みは抱かず、親父が馬鹿なだけだと思っていた。
だが小さなアパートで、俺と弟との為に無理して働く母を見ていると、次第に菊池信介への恨みが膨らんでいった。
あの男を見返す男になって、何時か頭を下げさせてやる。その思いで新聞配達のアルバイトをしながら、寸暇を惜しんで勉強した。
その恨みも、三年前のあいつが刺されたニュースで晴れたはずだった。
それなのに、この湧き上がる感情は何だ。菊池は俺の友達だ。互いに高めあい切磋琢磨できると見込んだ男で、あいつとは違う。
そう自分に言い聞かせるが、怒りの様な何かが膨れ上がっていき、抑え込めない。
頑張って入学を果たした東京大学で、同級生として菊池信介の息子と出会ったのは、宿命にすら思える。
しかも、菊池は家政婦が二人もいる豪邸に住み、十二畳もある自分の部屋で、趣味を満喫して何不自由なく生きている。
父を縊死に追い込んだ恨みとは違うが、それに起因した怒りのような何かが、俺の中でどんどん大きくなっていく。
菊池が自慢の二枚目のレコードに針を落とした時、ノック音がして、ドアが開いた。
「祐ちゃんのお友達が来ているって聞いて……」
紺のビジネススーツ姿の三十歳前後の美女が姿を見せた。
くるりとした大きな目に、スッとした鼻、少し厚めの下唇。それが絶妙のバランスに配置され、女優のようなオーラを放っている。
「うちの祐介がお世話になっています。下にケーキを準備させましたので、宜しければ召し上がって下さい」
その美女は、妖艶な笑顔を向け、静かにドアを閉めて立ち去っていった。
「お姉さんか? すげえ美人だな」
「ひとりっ子だから、姉なんていないよ。僕の母さんだ」
「嘘だろう。そんな齢には見えない」
三井と金子は、うちの親とは大違いだとはしゃいでいたが、俺は腕時計を確認して、ますます怒りを膨らませた。
四時を回ったばかりの時間に帰ってくるとは、良い御身分だ。俺の母は、残業代を稼ぐため、毎晩遅くまで働いているのに、社長というだけで、その何倍も給料をもらっているに違いない。
二枚目のレコードが終わり、皆でダイニングにケーキと紅茶を飲みに降りて行った。
家政婦が紅茶を入れてくれていると、菊池の母親が露出たっぷりのナイトドレスに着替えて現れた。
さっきは気づかなかったが、凄い巨乳で、視線のやり場に困る。
俺達は悩殺されて言葉を失い、視線をケーキに向けたが、彼女は「お名前を聞かせて頂けるかしら?」とぐいぐいと質問攻めにして視線を彼女に集めてきた。
金子なんて、顔を真っ赤にして、滑舌が悪くなり、返答を噛んでいた。
俺も年上のお姉さんにしか思えず、鼓動が高鳴り、興奮してしまった。
その時、一匹の紋白蝶が家政婦と入れ替わりに舞い込んで来た。
「どうしてこんな所に、早く殺して……」
菊池の母親は異常な程に怖がったが、その目は何故か、らんらんと輝いていた。
菊池が席を立ち、そのひらひらと舞う蝶を追いかけ始めた。そして蝶がカーテンにとまると、菊池はその翅を親指と人差し指とでそっと摘まんだ。
その瞬間、彼はにやりと口角を上げ、俺は肌が粟立つのを覚えた。
あいつは母親の言い付け通りに、蝶を殺すつもりに違いない。なんとかしないと……。
俺は急いで窓を開け、「ここから逃がしてやれよ」と指示を出した。
その甲斐あって、蝶はひらひらと無事に飛び去って行ったが、振り向いた時、菊池の母親が、がっくりと肩を落とすのを、俺は見逃さなかった。
この女は、さっきも「殺して」なんて口走り、目をきらりと輝かせていた。
この一族はやはり狂っている。弱者をいたぶって殺すことに、なんら罪悪感を覚えない。それどころか、それを喜びにしているとすら思える。
その瞬間、俺の中の感情が更に大きくなり、それが何だかはっきりした。
この親子に、敗北感を味あわせたいのだ。俺に負け、悔しそうに唇を噛み締める顔を見たいという欲求だった。
それなら、俺の取るべき方針は……。菊池の様子をみていれば、最も苦しめられる行為は必然的に決まる。同時に彼女を悲しませることもできる。
その後の俺は、平気であの女を見られるようになり、油断を誘うように話に調子を合わせ、気に入られるように笑いを取った。
そして菊池の部屋に戻ると、もう一度この家を訪れるように、奴のベッドの下に、持参した文庫本を隠した。
駅までの帰り道で、俺は菊池より上で、全てを分っているのだと知らしめるように、切り出した。
「菊池、お前、マザコンだろう。お前のお袋さんを見る目、少し異常だった」
金子と三井が食いついて、そうなのかと騒ぎ出したが、俺は菊池の反応をじっと窺った。
彼は常々、隙を見せないように、表情をあまり表に出さない。この日も平静を装ったままで、視線を合わさないように前に向いたまま、話し始めた。
「君はなんでもお見通しだな。でも少し違う。母は後妻で、僕とは血が繋がっていないんだ。恋心は抱いてないが、彼女の気を惹きたい気はあるかな」
奴の瞳が見られないので感情は推し量れないが、彼の行動の全てが分った気がした。
俺は菊池と別れて駅のホームに立つと、「あっ忘れ物をした」と金子と三井とに別れを告げ、踵を返して菊池の家へと急いだ。
菊池邸へと向かう途中の夏みかんの木の生えた家の前で、菊池に追いついた。塀に向って、一羽の揚羽蝶を両手で広げるようにして掴んだ状態で、じっとそれを眺めていた。
しかも帰宅途中のサラリーマンらしき背広姿の男が、道路脇のつつじの花の陰に身を隠し、菊池を観察している。
おそらく彼も菊池が蝶を殺そうとしていると直感したに違いない。だが最近は何を考えているのか判らない若者が多いので、注意するかを躊躇っているのだろう。
俺は、早くしないと菊池が蝶を殺してしまうと思いつつ、その二人の観察者として、電信柱の陰に隠れて様子を窺った。
菊池は、思った通りにその揚羽蝶の美しい翅をむしり取った。お腹にたくさんの卵を抱えているだろう蝶の胴が、ぽとりと地面に落ちる。そして綺麗な大きな翅が、花弁が舞うように、ひらひらと四つに別れて落ちていく。
菊池は手についた鱗粉を払うように、手を擦り合わせると、留めを刺すように、蝶の胴体を運動靴で踏みつけた。
「君!」隠れていた男が漸く声を出して立ち上った。
菊池は一瞬渋い顔をみせたが、直ぐに普段の優等生面へと変わり、こっちに向き直った。
二人が何を話したのかは、ここからでは聞えなかったが、菊池は笑顔になり、その紳士の後をついて歩き出した。
どういうことだろう。あの反応は、どうも菊池に注意をしたのではないらしい。知り合いなのだろうか? もしかして、彼もまた弱者をいたぶる彼らの同類なのか?
二人が、その先の脇道を折れて姿を消すと、俺は走って彼らの後を追った。
四年前、内装工事の会社を経営していた俺の父が、首吊り自殺した。
仕事が取れず、銀行に見放され、街金の借金取りに追われて、従業員への支払も出来ずに追い詰められての自殺だった。
だがその背景には菊池ホームがあった。
その一年程前まで、うちの会社は、主に菊池ホームの下請けをしていた。
菊池ホームからの再三に渡る工期短縮の圧力と、今後依頼数を増やすという甘い言葉を信じ、親父は高額な設備投資をした。
だが三ヶ月もしないうちに、菊池ホームは約束を違え、あっさり下請け切りした。
親父の保険金で、仕入れ業者や従業員にも恨まれずに済んだこともあり、その時はさほど恨みは抱かず、親父が馬鹿なだけだと思っていた。
だが小さなアパートで、俺と弟との為に無理して働く母を見ていると、次第に菊池信介への恨みが膨らんでいった。
あの男を見返す男になって、何時か頭を下げさせてやる。その思いで新聞配達のアルバイトをしながら、寸暇を惜しんで勉強した。
その恨みも、三年前のあいつが刺されたニュースで晴れたはずだった。
それなのに、この湧き上がる感情は何だ。菊池は俺の友達だ。互いに高めあい切磋琢磨できると見込んだ男で、あいつとは違う。
そう自分に言い聞かせるが、怒りの様な何かが膨れ上がっていき、抑え込めない。
頑張って入学を果たした東京大学で、同級生として菊池信介の息子と出会ったのは、宿命にすら思える。
しかも、菊池は家政婦が二人もいる豪邸に住み、十二畳もある自分の部屋で、趣味を満喫して何不自由なく生きている。
父を縊死に追い込んだ恨みとは違うが、それに起因した怒りのような何かが、俺の中でどんどん大きくなっていく。
菊池が自慢の二枚目のレコードに針を落とした時、ノック音がして、ドアが開いた。
「祐ちゃんのお友達が来ているって聞いて……」
紺のビジネススーツ姿の三十歳前後の美女が姿を見せた。
くるりとした大きな目に、スッとした鼻、少し厚めの下唇。それが絶妙のバランスに配置され、女優のようなオーラを放っている。
「うちの祐介がお世話になっています。下にケーキを準備させましたので、宜しければ召し上がって下さい」
その美女は、妖艶な笑顔を向け、静かにドアを閉めて立ち去っていった。
「お姉さんか? すげえ美人だな」
「ひとりっ子だから、姉なんていないよ。僕の母さんだ」
「嘘だろう。そんな齢には見えない」
三井と金子は、うちの親とは大違いだとはしゃいでいたが、俺は腕時計を確認して、ますます怒りを膨らませた。
四時を回ったばかりの時間に帰ってくるとは、良い御身分だ。俺の母は、残業代を稼ぐため、毎晩遅くまで働いているのに、社長というだけで、その何倍も給料をもらっているに違いない。
二枚目のレコードが終わり、皆でダイニングにケーキと紅茶を飲みに降りて行った。
家政婦が紅茶を入れてくれていると、菊池の母親が露出たっぷりのナイトドレスに着替えて現れた。
さっきは気づかなかったが、凄い巨乳で、視線のやり場に困る。
俺達は悩殺されて言葉を失い、視線をケーキに向けたが、彼女は「お名前を聞かせて頂けるかしら?」とぐいぐいと質問攻めにして視線を彼女に集めてきた。
金子なんて、顔を真っ赤にして、滑舌が悪くなり、返答を噛んでいた。
俺も年上のお姉さんにしか思えず、鼓動が高鳴り、興奮してしまった。
その時、一匹の紋白蝶が家政婦と入れ替わりに舞い込んで来た。
「どうしてこんな所に、早く殺して……」
菊池の母親は異常な程に怖がったが、その目は何故か、らんらんと輝いていた。
菊池が席を立ち、そのひらひらと舞う蝶を追いかけ始めた。そして蝶がカーテンにとまると、菊池はその翅を親指と人差し指とでそっと摘まんだ。
その瞬間、彼はにやりと口角を上げ、俺は肌が粟立つのを覚えた。
あいつは母親の言い付け通りに、蝶を殺すつもりに違いない。なんとかしないと……。
俺は急いで窓を開け、「ここから逃がしてやれよ」と指示を出した。
その甲斐あって、蝶はひらひらと無事に飛び去って行ったが、振り向いた時、菊池の母親が、がっくりと肩を落とすのを、俺は見逃さなかった。
この女は、さっきも「殺して」なんて口走り、目をきらりと輝かせていた。
この一族はやはり狂っている。弱者をいたぶって殺すことに、なんら罪悪感を覚えない。それどころか、それを喜びにしているとすら思える。
その瞬間、俺の中の感情が更に大きくなり、それが何だかはっきりした。
この親子に、敗北感を味あわせたいのだ。俺に負け、悔しそうに唇を噛み締める顔を見たいという欲求だった。
それなら、俺の取るべき方針は……。菊池の様子をみていれば、最も苦しめられる行為は必然的に決まる。同時に彼女を悲しませることもできる。
その後の俺は、平気であの女を見られるようになり、油断を誘うように話に調子を合わせ、気に入られるように笑いを取った。
そして菊池の部屋に戻ると、もう一度この家を訪れるように、奴のベッドの下に、持参した文庫本を隠した。
駅までの帰り道で、俺は菊池より上で、全てを分っているのだと知らしめるように、切り出した。
「菊池、お前、マザコンだろう。お前のお袋さんを見る目、少し異常だった」
金子と三井が食いついて、そうなのかと騒ぎ出したが、俺は菊池の反応をじっと窺った。
彼は常々、隙を見せないように、表情をあまり表に出さない。この日も平静を装ったままで、視線を合わさないように前に向いたまま、話し始めた。
「君はなんでもお見通しだな。でも少し違う。母は後妻で、僕とは血が繋がっていないんだ。恋心は抱いてないが、彼女の気を惹きたい気はあるかな」
奴の瞳が見られないので感情は推し量れないが、彼の行動の全てが分った気がした。
俺は菊池と別れて駅のホームに立つと、「あっ忘れ物をした」と金子と三井とに別れを告げ、踵を返して菊池の家へと急いだ。
菊池邸へと向かう途中の夏みかんの木の生えた家の前で、菊池に追いついた。塀に向って、一羽の揚羽蝶を両手で広げるようにして掴んだ状態で、じっとそれを眺めていた。
しかも帰宅途中のサラリーマンらしき背広姿の男が、道路脇のつつじの花の陰に身を隠し、菊池を観察している。
おそらく彼も菊池が蝶を殺そうとしていると直感したに違いない。だが最近は何を考えているのか判らない若者が多いので、注意するかを躊躇っているのだろう。
俺は、早くしないと菊池が蝶を殺してしまうと思いつつ、その二人の観察者として、電信柱の陰に隠れて様子を窺った。
菊池は、思った通りにその揚羽蝶の美しい翅をむしり取った。お腹にたくさんの卵を抱えているだろう蝶の胴が、ぽとりと地面に落ちる。そして綺麗な大きな翅が、花弁が舞うように、ひらひらと四つに別れて落ちていく。
菊池は手についた鱗粉を払うように、手を擦り合わせると、留めを刺すように、蝶の胴体を運動靴で踏みつけた。
「君!」隠れていた男が漸く声を出して立ち上った。
菊池は一瞬渋い顔をみせたが、直ぐに普段の優等生面へと変わり、こっちに向き直った。
二人が何を話したのかは、ここからでは聞えなかったが、菊池は笑顔になり、その紳士の後をついて歩き出した。
どういうことだろう。あの反応は、どうも菊池に注意をしたのではないらしい。知り合いなのだろうか? もしかして、彼もまた弱者をいたぶる彼らの同類なのか?
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