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一の姫
十二、貴船神社
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貴船神社は、京の町から離れた鞍馬山のなかにある。
鞍馬山には恐ろしい天狗が出るという噂もあるが、それに関しては今回は無視をすることにした。
何はともあれ、恋愛成就だ。
山までは牛車に乗っているだけで移動は楽ちんである。
箱入り娘の葵にとって、こんなに遠くまで移動するというのは初めてだった。
何もしなくたって、欲しいものはすべて手に入るのだ。身動きせずとも、いつの間にか手の中にあった。
そんな自分が本当に欲しいものだけは手に入らないなんて、皮肉な話だ。
何刻もかけて貴船神社にたどり着いたころには、出発したときに登りかけていた太陽はすでに頭の上にある。
女房に支えられ、降り立った空気の静けさに、葵は息をのんだ。
どっしりした杉の木が立ち並ぶなかに、朱色の鳥居がぽつんと立っている。その脇にはさらさらと小川が流れていた。
清浄な空気に圧倒される葵に、貴船神社を教えてくれた女房が得意げに笑いかけた。
「姫さま、ここからすこし歩いた奥の院はもっとすごいですよ」
「ここから歩くの!?」
驚きの声をあげた葵に、女房はしたり顔でうなずく。
「もちろんです。奥の院に御利益があるんですから。さっ、姫さま。こっちです」
立ちすくむ葵と違い、女房はひょいひょいと山道を歩き始めた。
堂々と立つ朱の鳥居を横目に、葵は彼女のあとを付いていく。その他、葵についてきた3人の女房たちも、主人を支えなければと山道をえっちらほっちら登りはじめた。
そこからの道のりは、まさに地獄だった。
ふだん、自分からあえて動くことのない葵にとっては、なだらかな山道でさえ急勾配に見えた。
いつの間にか、一歩一歩踏み出すたびに、足が震えるようになっていた。
「姫さま、あとすこしですよー」
まるで赤ん坊でもあやすかのような女房たち。
葵と違い、女房たちはいつも忙しく歩き回っているから、これぐらいの山道はへっちゃらなのだ。
(こんな屈辱を味わったのは、初めてだわ……!)
こんな思いをしたのだから、絶対に素敵な殿方をつかまえる。
一層つよい決意をしながら、葵はやっとのことで奥の院にたどり着いたのであった。
女房が言う通り、奥の院は最初に見た鳥居よりも雰囲気があった。
苔むした小さなお社のまえで、手をそろえる。
(私にぴったりの殿方に出会えますように)
それを神様が聞き届けてくれたのかは分からない。
その時、一瞬だがふわりと葵の頬をあたたかい風が撫でていった。
はっとして目をあけるも、葵の目の前にあるのは、ただのお社だけ。
首をかしげつつも、それが神様からが葵の願いを聞き届けてくれた合図だと思うことにした。
神様は、すぐ願いを叶えてくれた。
貴船神社からの帰り道、石にはまり、車輪が動かなくなってしまった一台の牛車と出会った。
いつもなら無視していただろう。
それなのに、その時はなぜか助けなければいけないと思った。
動かなくなった牛車を助けるよう、御者に命じたところ、その中にいたのが頭中将だったのである。
まさか、あの頭中将が――。
あのときのお礼です、と葵の葉とともに届けられた和歌を見たときは、卒倒しそうになった。
葵にとって、まさに初恋だったのだと、今となっては思う。
最初はいけ好かないやつだと思っていたのに、会えば会うほどその魅力に取り込まれていった。
もう二度と、会えないと知っていても、その気持ちを断ち切るのが難しいほどに。
鞍馬山には恐ろしい天狗が出るという噂もあるが、それに関しては今回は無視をすることにした。
何はともあれ、恋愛成就だ。
山までは牛車に乗っているだけで移動は楽ちんである。
箱入り娘の葵にとって、こんなに遠くまで移動するというのは初めてだった。
何もしなくたって、欲しいものはすべて手に入るのだ。身動きせずとも、いつの間にか手の中にあった。
そんな自分が本当に欲しいものだけは手に入らないなんて、皮肉な話だ。
何刻もかけて貴船神社にたどり着いたころには、出発したときに登りかけていた太陽はすでに頭の上にある。
女房に支えられ、降り立った空気の静けさに、葵は息をのんだ。
どっしりした杉の木が立ち並ぶなかに、朱色の鳥居がぽつんと立っている。その脇にはさらさらと小川が流れていた。
清浄な空気に圧倒される葵に、貴船神社を教えてくれた女房が得意げに笑いかけた。
「姫さま、ここからすこし歩いた奥の院はもっとすごいですよ」
「ここから歩くの!?」
驚きの声をあげた葵に、女房はしたり顔でうなずく。
「もちろんです。奥の院に御利益があるんですから。さっ、姫さま。こっちです」
立ちすくむ葵と違い、女房はひょいひょいと山道を歩き始めた。
堂々と立つ朱の鳥居を横目に、葵は彼女のあとを付いていく。その他、葵についてきた3人の女房たちも、主人を支えなければと山道をえっちらほっちら登りはじめた。
そこからの道のりは、まさに地獄だった。
ふだん、自分からあえて動くことのない葵にとっては、なだらかな山道でさえ急勾配に見えた。
いつの間にか、一歩一歩踏み出すたびに、足が震えるようになっていた。
「姫さま、あとすこしですよー」
まるで赤ん坊でもあやすかのような女房たち。
葵と違い、女房たちはいつも忙しく歩き回っているから、これぐらいの山道はへっちゃらなのだ。
(こんな屈辱を味わったのは、初めてだわ……!)
こんな思いをしたのだから、絶対に素敵な殿方をつかまえる。
一層つよい決意をしながら、葵はやっとのことで奥の院にたどり着いたのであった。
女房が言う通り、奥の院は最初に見た鳥居よりも雰囲気があった。
苔むした小さなお社のまえで、手をそろえる。
(私にぴったりの殿方に出会えますように)
それを神様が聞き届けてくれたのかは分からない。
その時、一瞬だがふわりと葵の頬をあたたかい風が撫でていった。
はっとして目をあけるも、葵の目の前にあるのは、ただのお社だけ。
首をかしげつつも、それが神様からが葵の願いを聞き届けてくれた合図だと思うことにした。
神様は、すぐ願いを叶えてくれた。
貴船神社からの帰り道、石にはまり、車輪が動かなくなってしまった一台の牛車と出会った。
いつもなら無視していただろう。
それなのに、その時はなぜか助けなければいけないと思った。
動かなくなった牛車を助けるよう、御者に命じたところ、その中にいたのが頭中将だったのである。
まさか、あの頭中将が――。
あのときのお礼です、と葵の葉とともに届けられた和歌を見たときは、卒倒しそうになった。
葵にとって、まさに初恋だったのだと、今となっては思う。
最初はいけ好かないやつだと思っていたのに、会えば会うほどその魅力に取り込まれていった。
もう二度と、会えないと知っていても、その気持ちを断ち切るのが難しいほどに。
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