平安あやかし奇譚 〜少女陰陽師とかんざしの君~

花橘 しのぶ

文字の大きさ
12 / 58
一の姫

十二、貴船神社

しおりを挟む
 貴船神社は、京の町から離れた鞍馬山のなかにある。
 鞍馬山には恐ろしい天狗が出るという噂もあるが、それに関しては今回は無視をすることにした。
 
 何はともあれ、恋愛成就だ。
 
 山までは牛車に乗っているだけで移動は楽ちんである。
 箱入り娘の葵にとって、こんなに遠くまで移動するというのは初めてだった。
 何もしなくたって、欲しいものはすべて手に入るのだ。身動きせずとも、いつの間にか手の中にあった。
 
 そんな自分が本当に欲しいものだけは手に入らないなんて、皮肉な話だ。

 何刻もかけて貴船神社にたどり着いたころには、出発したときに登りかけていた太陽はすでに頭の上にある。
 女房に支えられ、降り立った空気の静けさに、葵は息をのんだ。
 どっしりした杉の木が立ち並ぶなかに、朱色の鳥居がぽつんと立っている。その脇にはさらさらと小川が流れていた。
 清浄な空気に圧倒される葵に、貴船神社を教えてくれた女房が得意げに笑いかけた。

「姫さま、ここからすこし歩いた奥の院はもっとすごいですよ」

「ここから歩くの!?」

 驚きの声をあげた葵に、女房はしたり顔でうなずく。

「もちろんです。奥の院に御利益があるんですから。さっ、姫さま。こっちです」

 立ちすくむ葵と違い、女房はひょいひょいと山道を歩き始めた。
 堂々と立つ朱の鳥居を横目に、葵は彼女のあとを付いていく。その他、葵についてきた3人の女房たちも、主人を支えなければと山道をえっちらほっちら登りはじめた。

 そこからの道のりは、まさに地獄だった。
 ふだん、自分からあえて動くことのない葵にとっては、なだらかな山道でさえ急勾配に見えた。
 いつの間にか、一歩一歩踏み出すたびに、足が震えるようになっていた。

「姫さま、あとすこしですよー」

 まるで赤ん坊でもあやすかのような女房たち。
 葵と違い、女房たちはいつも忙しく歩き回っているから、これぐらいの山道はへっちゃらなのだ。
 
(こんな屈辱を味わったのは、初めてだわ……!)

 こんな思いをしたのだから、絶対に素敵な殿方をつかまえる。
 一層つよい決意をしながら、葵はやっとのことで奥の院にたどり着いたのであった。

 女房が言う通り、奥の院は最初に見た鳥居よりも雰囲気があった。
 苔むした小さなお社のまえで、手をそろえる。

(私にぴったりの殿方に出会えますように)

 それを神様が聞き届けてくれたのかは分からない。
 その時、一瞬だがふわりと葵の頬をあたたかい風が撫でていった。
 はっとして目をあけるも、葵の目の前にあるのは、ただのお社だけ。
 首をかしげつつも、それが神様からが葵の願いを聞き届けてくれた合図だと思うことにした。
 
 
 神様は、すぐ願いを叶えてくれた。
 貴船神社からの帰り道、石にはまり、車輪が動かなくなってしまった一台の牛車と出会った。

 いつもなら無視していただろう。
 それなのに、その時はなぜか助けなければいけないと思った。
 動かなくなった牛車を助けるよう、御者に命じたところ、その中にいたのが頭中将だったのである。

 まさか、あの頭中将が――。
 あのときのお礼です、と葵の葉とともに届けられた和歌を見たときは、卒倒しそうになった。
 葵にとって、まさに初恋だったのだと、今となっては思う。
 最初はいけ好かないやつだと思っていたのに、会えば会うほどその魅力に取り込まれていった。

 もう二度と、会えないと知っていても、その気持ちを断ち切るのが難しいほどに。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~

扇 レンナ
キャラ文芸
政略結婚でド貧乏な伯爵家、桐ケ谷《きりがや》家の当主である律哉《りつや》の元に嫁ぐことになった真白《ましろ》は大きな事業を展開している商家の四女。片方はお金を得るため。もう片方は華族という地位を得るため。ありきたりな政略結婚。だから、真白は律哉の邪魔にならない程度に存在していようと思った。どうせ愛されないのだから――と思っていたのに。どうしてか、律哉が真白を見る目には、徐々に甘さがこもっていく。 (雇う余裕はないので)使用人はゼロ。(時間がないので)邸宅は埃まみれ。 そんな場所で始まる新婚生活。苦労人の伯爵さま(軍人)と不遇な娘の政略結婚から始まるとろける和風ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、アルファポリス ※エブリスタさんにて先行公開しております。ある程度ストックはあります。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

追放先で気づいた。この世界の精霊使いは全員、聞き方を間違えている~最安もふもふ白狐と始めた、問いかけの冒険~

Lihito
ファンタジー
精霊と暮らす世界で、ノエルはギルドを追い出された。処理ミスは誰より少ない。でも「やりづらい」の一言で、理由には足りた。 手元に残ったのは、最安で契約した手のひらサイズの白い子狐だけ。言葉はたどたどしいし、力もない。誰が見ても「使えない」と笑う精霊だ。 たどり着いた町では疫病が広がっていた。高額な精霊が三度探して見つからない薬草。ノエルは最弱の白狐と半日で見つけ出す。 力で勝ったんじゃない。聞く範囲を絞り、段階を分け、小さな鼻に合った問いを重ねただけ。 ——なぜこの世界では、誰も精霊への「聞き方」を知らないのか。 その違和感が、ノエルの旅を動かしていく。

処理中です...