平安あやかし奇譚 〜少女陰陽師とかんざしの君~

花橘 しのぶ

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一の姫

十六、隠れんぼ

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 六花に手を引かれ、着いた先は大きな屏風の前だった。
 屏風には、色とりどりの紅葉を楽しむ人々が描かれていた。
 絵の真ん中には、川と橋。そのうえで、紅葉を眺めている親子の姿。

「……この絵、好きなの」

 ぽつりと、六花がつぶやいた。
 悲しげな横顔に、なぜか心がぎゅっと締め付けられる。
 六花は、そっと手を伸ばして親子が描かれているあたりを優しく撫でた。

「あんたも、あたしと同じなんだよね」

 小春に聞こえるか聞こえないかの声で、六花が言う。

「え……?」

 もう一度聞き返したとき、六花の顔はまた元の無邪気な笑顔に戻っていた。
 

「そうだ。あたしと隠れんぼしよ。あたしを見つけられたら勝ちね」

「ちょ、ちょっと待って――」

 小春が止めるより前に、だっと駆け出していった六花。
 その背を追おうと六花が駆け出した角を曲がると、そこにはすでに六花の姿はなかった。

「足が早すぎるって……」

 呆然とつぶやいた小春は、六条の君の屋敷のなかに一人取り残されてしまったことになる。
 そう言えば、ここに来るまでの間は誰にも会わなかったが、もし誰かに見つかったらかなりまずい。
 そもそも、小春は六条の君に招かれた客ではないのだ。
 もし見つかったらどうやって言い訳をしようかと悩みながら、小春はとぼとぼと歩き出す。

 とりあえず、子どもが隠れられそうなところをしらみつぶしで見ていくことにした。
 飾ってある屏風の後ろ。つくえの下。庭の木の影。
 どこにも見当たらないうえ、手がかりがなさすぎる。

「おーい、六花ぁ。出てきてくれぇ」

 声を抑えながら、六花の名を呼ぶ。屋敷のなかは小春以外いないと錯覚するほどに静かだった。

 ――隠れんぼなら、出てこないのは当たり前か。

 そういえば、小春の小さな弟も隠れんぼが大好きだったっけ。
 ふと、口元に笑みが浮かぶのが分かった。
 毎回同じところに隠れるものだから、すぐに小春に見つかっていた。
 今思えば、きっと弟は小春に見つけて欲しかったのだと思う。

 もし、見つけて貰えなかったら、きっと自分はそのまま、一生家に戻れない。
 そんな恐怖を、小さいながらに抱えていたのではないかと、小春は思う。
 おなじ村の子どもがいつの間にか消えていく様子を、弟は弟なりに解釈していたのだろう。

 昔のすこし苦い思い出が浮かんだところで、ひと休みと思い、小春は庭に面したひさしに腰を下ろした。夜半の月が桜を照らす。庭に植えられている桜は、ぷっくりとつぼみを付けていた。

 ふと、そのさくらの木の影に小さな背中が見えているのが分かった。

「六花、やっと見つけた」

 六花のもとに近づいて、そっと背を叩く。
 はっとして小春を見上げた顔は、六花のものではなかった。

「あれ、六花じゃない……?」

 小春が背を叩いたのは、六花と同じぐらいの歳のこれまた女の子だった。
 ぱっちりとした茶色がかった瞳と、ふわりと空気を含む癖のある髪の毛は、月の光に照らされ、まるで透明に光っているように見えた。少女が着ているのは、すこし古ぼけた稚児装束。六花が着ていた上等な装束とはまるで違う、襤褸の服だった。

「あなた、誰?」

 気の強そうなその少女は、小春を見てむっとしたように言った。

「私は……安倍晴明」

「私、六花と隠れんぼしてたんだけど」

「六花? 私も六花を探しているんだ」

 六花の名を出すと、彼女は憮然として口を尖らせた。

「六花は私と隠れんぼしているのよ。あなたの用事はその後にしてちょうだい」

 焦って言い訳をしようとすればするほど、少女は小春に向けて鋭い視線を投げつけるのだった。
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