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二の姫
二十一、朝顔の君
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頭中将があげた三人の姫君。
一人目は葵の君。
二人目は六条の君。
残る三人目は、朝顔の君だ。
この三人のなかに、左大臣家の姫君を呪った女がいるのではないか、というのか頭中将の見立てだった。
未だ葵の君には文さえ届かず、六条の君は空振りに終わり。
次にどうにか会えないかと画策しているのが朝顔の君だ。
朝顔の君の情報は、あまりに少ない。あまりに高貴なお方というわけでもなく、身分が低すぎるわけでもない。
言い方は悪いが、そこそこの貴族だ。
六条の君や葵の君のように、男関係の噂があるわけでもない。もし頭中将から話を聞かなければ、このまま朝顔の君のことを知らずに過ごしていただろうと思うほどだった。
六条の君と出会った次の日の朝。
陰陽寮では、陰陽師になるため、朝早くから修行がある。修行の内容としては、術を使うために必要な体力作りが主だ。今日は、賀茂川のほとりを見習いたち全員で走らされたところだった。
小さいころからの習慣のため、普段はそこまできついとは思わない。ただ、昨日は六条の君の屋敷まで行き、遅くまで起きていたものだから、終わるころにはへとへとになっていた。
同じ距離を走ったというのに、隣を歩く保憲の顔はと言えば涼しげだ。
「……兄上、朝顔の君からの文はありましたか?」
ほかに人がいない隙を見計らって、保憲にたずねる。そろそろ、朝顔の君にも会ってみたいところだった。
「この間送ったものの返事がまだきていない。……使いにやった童も、帰ってきていないんだ」
「それって何か、あったってことですかね?」
声をひそめてたずねる。
使いの童になにかあったのだとすれば、朝顔の君がその元凶となっている可能性もある。
葵の君にはまだ出会えていないが、ここで左大臣家の姫君を呪い殺した相手を突き止められる分に越したことはなかった。
「その可能性もなくはないな。……白に偵察に行ってもらうか」
保憲はそう言って、懐から紙を出した。紙には賀茂家に代々伝わる呪印が書かれており、それを用いて白を喚びだすことができる。
「急急如律令」
保憲が言うと、一瞬だけ突風が吹き、小春の髪を揺らした。あまりの風に目をあけていられず、瞳を閉じる。風が頬を通り過ぎたのを確認してから、ゆっくりと目を開くと、ふるふると全身を震わせて伸びをする白の姿が見えた。
「白さん! お久しぶりです!」
今のうちに白のもふもふに抱きつこうとするも、白はひょいっと小春の手を交わした。
「ひどい!」
咄嗟に声をあげると、白は煩わしそうな顔で小春を見た。
「そんな目で見なくて良いじゃないですか」
「……」
じっと小春を見つめる白。
ぺしんぺしんと地面を叩く音だけが響く。
これは白の機嫌があまりよろしくないときの癖だ。
「えぇえ。ひどいひどい」
「喚ばれた瞬間にこうなるとは思いませんでしたので」
ははは、と保憲が笑い声をあげる。
「白もそこまで嫌がらなくたっていいじゃないか」
小春はぷうっと頬を膨らませるも、白は我関せずと言ったところだった。
「さて、今日は白にお願いがあって喚んだんだ。行ってもらいたいところがあってね」
「何処でしょう」
保憲から朝顔の君の居場所を聞いた白は、身体を翻して立ち去っていった。
「さて、僕らは帰ろうか。きっと白がよい知らせを持ってきてくれるだろうよ」
一人目は葵の君。
二人目は六条の君。
残る三人目は、朝顔の君だ。
この三人のなかに、左大臣家の姫君を呪った女がいるのではないか、というのか頭中将の見立てだった。
未だ葵の君には文さえ届かず、六条の君は空振りに終わり。
次にどうにか会えないかと画策しているのが朝顔の君だ。
朝顔の君の情報は、あまりに少ない。あまりに高貴なお方というわけでもなく、身分が低すぎるわけでもない。
言い方は悪いが、そこそこの貴族だ。
六条の君や葵の君のように、男関係の噂があるわけでもない。もし頭中将から話を聞かなければ、このまま朝顔の君のことを知らずに過ごしていただろうと思うほどだった。
六条の君と出会った次の日の朝。
陰陽寮では、陰陽師になるため、朝早くから修行がある。修行の内容としては、術を使うために必要な体力作りが主だ。今日は、賀茂川のほとりを見習いたち全員で走らされたところだった。
小さいころからの習慣のため、普段はそこまできついとは思わない。ただ、昨日は六条の君の屋敷まで行き、遅くまで起きていたものだから、終わるころにはへとへとになっていた。
同じ距離を走ったというのに、隣を歩く保憲の顔はと言えば涼しげだ。
「……兄上、朝顔の君からの文はありましたか?」
ほかに人がいない隙を見計らって、保憲にたずねる。そろそろ、朝顔の君にも会ってみたいところだった。
「この間送ったものの返事がまだきていない。……使いにやった童も、帰ってきていないんだ」
「それって何か、あったってことですかね?」
声をひそめてたずねる。
使いの童になにかあったのだとすれば、朝顔の君がその元凶となっている可能性もある。
葵の君にはまだ出会えていないが、ここで左大臣家の姫君を呪い殺した相手を突き止められる分に越したことはなかった。
「その可能性もなくはないな。……白に偵察に行ってもらうか」
保憲はそう言って、懐から紙を出した。紙には賀茂家に代々伝わる呪印が書かれており、それを用いて白を喚びだすことができる。
「急急如律令」
保憲が言うと、一瞬だけ突風が吹き、小春の髪を揺らした。あまりの風に目をあけていられず、瞳を閉じる。風が頬を通り過ぎたのを確認してから、ゆっくりと目を開くと、ふるふると全身を震わせて伸びをする白の姿が見えた。
「白さん! お久しぶりです!」
今のうちに白のもふもふに抱きつこうとするも、白はひょいっと小春の手を交わした。
「ひどい!」
咄嗟に声をあげると、白は煩わしそうな顔で小春を見た。
「そんな目で見なくて良いじゃないですか」
「……」
じっと小春を見つめる白。
ぺしんぺしんと地面を叩く音だけが響く。
これは白の機嫌があまりよろしくないときの癖だ。
「えぇえ。ひどいひどい」
「喚ばれた瞬間にこうなるとは思いませんでしたので」
ははは、と保憲が笑い声をあげる。
「白もそこまで嫌がらなくたっていいじゃないか」
小春はぷうっと頬を膨らませるも、白は我関せずと言ったところだった。
「さて、今日は白にお願いがあって喚んだんだ。行ってもらいたいところがあってね」
「何処でしょう」
保憲から朝顔の君の居場所を聞いた白は、身体を翻して立ち去っていった。
「さて、僕らは帰ろうか。きっと白がよい知らせを持ってきてくれるだろうよ」
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