平安あやかし奇譚 〜少女陰陽師とかんざしの君~

花橘 しのぶ

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二の姫

三十三、終着

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 朝顔の君は、それからしばらく賀茂家に滞在することになった。保憲の妹君が、甲斐甲斐しく世話をやいているらしい。歳の近い妹ができたようで、喜んでいるという。

 あれから何日か経ったが、小春も保憲も、まだ朝顔の君本人には出会えていない。命に別状はないといえ、かなり身体が消耗しているとのことで、しばらくは療養の日々を送るということだ。
 ということで、玉藻の件や頭中将の件について気になるところだが、無理に話を聞き出そうというわけにもいかない。

(どうせ、憑かれていた間の記憶なんて、嫌なものだもの……)

 あとで調べさせた結果、あの屋敷に住んでいただろう父や母たちは、皆消息を絶っていた。近隣の村人たちも、おそらくはあの日みた骨の山のどこかにいるとしか言えないそうだ。

 天涯孤独になってしまった朝顔の君を思うと、なぜだか他人事の気がしない。なんとかできることはないかと思う反面、小春のような陰陽師見習いという立場の中途半端な人間では、お見舞いに贈り物をするのが精一杯だった。

 朝顔の君本人から話が聞けないとなると、残るは朝顔の君に取り憑いた玉藻本人から聞くほかない。そうは言っても、あれだけの悪行を目の当たりにしたあとでは、喚び出そうという勇気はなかなか出ないものだ。

「……」

 小春の目の前に置かれているのは、玉藻を呼び出すための呪符だ。呼び出そうとしては諦めて、をこの数日何十回と繰り返している。

(私だけで呼び出したい……)

 そうは思うものの、やはり怖いというのが本音だった。保憲に頼りたいけれど、こんなことで頼って良いものかとも思ってしまう自分がいる。
 保憲は、朝顔の君の件について、方々に周り事情を説明しているのだ。どうにか養女として置いてくれるところがないかの説得も兼ねているらしい。
 陰陽師の家系である賀茂家より、よっぽど朝顔の君のためになる生き方があるのではないか。そう、保憲は言っていた。賀茂家の跡取り息子として、小さい頃から陰陽師としての道しか見てこなかった保憲らしい考えとも言える。

 もう一度ため息をついて、小春はじーっと呪符を睨みつけた。いつまで経っても埒があかない。そんな自分が嫌だ。

「晴明、ちょっと良いか?」

 その時、野太い声がかかる。この声は——忠行の声だった。

「父上、どうかされましたか!」

 すぐに居住まいを正し、小春は忠行を自室に迎え入れる。
 忠行は小春の几に置いてある呪符を目ざとく見つける。

「いや、保憲から聞いたぞ。あやかしを使役したようだな」

「は、はい」

 これがそのあやかしか、と忠行はつぶやき、呪符を手に取る。

「わわっ! 父上、勝手にとっては——」

「これは……」

 忠行は呪符を見て唸るようにつぶやく。

「な、なにかありましたか?」

「……」

 たずねるも、忠行は何も答えない。

「ち、父上?」

「晴明、よくやったな」

 しみじみと、忠行は言った。
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