チョコが溶ける前に君に伝えたい

ha-tsu

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チョコが溶ける前に君に伝えたい

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今年もこの季節がやってきた。
毎年オレを苦しめるバレンタインの季節がやって来た。
「今年もあいつからは貰えないのかなぁ……」
オレは幼なじみである楠木くすのき  杏莉あんりに昔から片思いをしている。
片思いをしているが、一度も思いを伝えたり、素振りを見せた事も無かった。
そうして十六年過ごしてきた。
杏莉の事を忘れようと思い他の人と付き合ったりもした。
だけどやっぱり忘れられずに彼女との関係も長続きしなかった。
「今年はもう彼女も作らないし一人で過ごすかなぁ……」
そうボソッと言うと、後ろから話かけられる。
高史たかふみ、珍しいなぁ彼女が居ないバレンタイン、じゃあ今年はオレと過ごすか?」
高校時代の友人とそんな話をしながら歩いていると、突然ケータイの着信音が鳴る。
オレは画面を見て出るか考える。
「高史出ないんか?切れるで?」
出るのを躊躇いながらも出ようとした瞬間に切れる。
「あ……切れた、何の用だったんだ?かけ直すか……」
そう思いふと友人を見ると、何やらニヤニヤしてこちらを見ていた。
オレはこのまま電話をすると絶対にいじられると思い、メールをする事にした。

「さっきは電話出れなくてゴメン何か用だったか?」

そう杏莉に送る。
少ししてメールの返信が来る。

「ゴメン別に用は無いんだけどね、お二人の邪魔しちゃったかな?本当にゴメンね。」

杏莉のメールを見た瞬間オレは辺りを見渡した……が杏莉らしき人はいなかった。
「……ってかオレの行動読まれてんのか?」
そう思いながら返信をした。

「用が無いのかよ(笑)ってかなんで二人で居るの知ってんだよ、ウケる。」

そう返信し終わり友人を見るととてもニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「高史、彼女何て?クリスマス一緒に過ごそうとか?」
「ちっ違うから……そんなんじゃないし……」
そう言うとオレは少し下を向いた。
「振られたか……しゃあないなぁ、バレンタインの日は高史の慰め会な、夜の二十一時にいつもの居酒屋集合で。」
友人の誘いを断る理由もないので、行くことにした。
その日の夜、オレは杏莉のメールを思い出し、何だかいつもと違うような気がしてならなかった。
結局杏莉の事を考え過ぎて朝になっていた。
オレは一応気になり、杏莉にメールする事にした。

「おはよう、昨日の用は無いは嘘だろ?何か聞きたいか、言いたいかは知らないがオレに遠慮しなくてもいいからな、気が変わったらまたメールしろよ。」

オレはそうメールを送ると、とりあえず寝ることにした。

数日後事前に杏莉に予定を確認され、その日は友人との飲み会があり、杏莉とは十九時に待ち合わせる事にした。
オレは十八時に仕事が終わると、すぐにでも杏莉に会いたくて会社を出ようとした。
「あっ、橋本くん、ちょっといいかしら。」
オレの部署の上司に呼び止められる。
「はい、何ですか?オレ今から帰るところなんですけど。」
今ここで仕事を押し付けられると約束に間に合わないと思い、精一杯帰りたいアピールをする。
「帰る所は見たら分かるわよ、今日は今からどこかに行くの?」
「あぁ……そうですね……ちょっと待ち合わせしてて、駅前の広場に……」
オレがどこへ行くかを聞くとその上司はニコッと笑った。
「じゃあ途中まで一緒に行かない?私もそっちに用事があるの、いいでしょ?」
上司に言われると断りずらかったので結局途中まで一緒に歩くことになった。
「ねぇ橋本くん、今日は何の日か知ってる?」
「……バレンタインですか?知ってますよ、オレチョコ貰ってないですけど。」
少し興味なさげに返答する。
「チョコ欲しかったの?あげてもいいけど、今持ってないから……今から一緒に買いに行かない?私今から友達と買い物行くんだけど一緒にどう?」
少し目をキラキラさせながらそう言っていた。
「……すみません、オレこの後約束有るんで。」
「それって彼女?」
「……違いますけど。」
杏莉は彼女とは違うが好きな人なので約束には遅れたくなかった。
「彼女今居ないってこの前言ってたもんね……橋本くん私のお願い聞いてくれる?」
オレの進路を塞ぎ上司は頼み込んできた。
「……なんすか?」
「実は友達に彼氏がいるって言っちゃってね、フリでいいから今だけ彼氏になってくれないかな?」
深々と頭を下げられた。
「……あの……無理っすよ、オレ好きな人いるんで。」
そう言った瞬間後ろから呼ぶ声が聞こえた。
「あっいたいた!優香ゆうか。」
「あっあの子なの友達。」
ボソッとそう言うと、小走りでそちらへ向かった。
そしてオレの方を指差しながら近寄ってくる。
「紹介するわね、私の彼氏の橋本くんよ。」
その言葉を聞き一瞬オレは固まった。
「……ちょっ先輩……」
言いかけるも、上司の言葉で揉み消される。
「こっちね、私の友達の美保みほよ。」
そう上司が言うと、友達の美保は浅く頭を下げ、高史の顔をまじまじと見る。
「へー君が噂の彼氏くんか、結構イケメンだね。」
そう言われオレはすぐにでも違うと訂正しようとする。
「オレ別に彼氏じゃ……」
そこまで言うと、上司からこっそりと肘鉄が飛んできた。
「結構照れ屋な所があってね、いつもこんな感じで……」
オレは否定すればするほど悪い方へ行くと思い、これ以上は何も言わない事にした。
「じゃあ今から彼氏くんも一緒に買い物行こ。」
そう言われるもオレは用事がある事を伝え、勘弁してもらう事にした。
「もしかして彼氏くん他に女がいたりするの?今日バレンタインだよ。」
他に女は居ないが、好きな人は居るので、答えにくい質問には無言を通した。
そうやって三人で話しながらいつの間にか駅前の広場に着いていた。
時計を見ると、すでに約束の時間を十分も過ぎていた。
オレは何かの視線に気付き視線がする方を見た。
するとそこには杏莉が居た。
(やばい!絶対にこの状況誤解されそう。)
オレはそう思い、とっさに杏莉に手を振り、杏莉の方へと駆け寄った。

「ゴメンちょっと遅くなった、今日寒いよな、どっか店入る?」
上司とその友達といた事を後悔しながら話しかけた。
「……ねぇ高史、さっきの人と過ごさなくていいの?」
杏莉はボソッとそう言ったのをオレはしっかりと聞いていた。
やっぱり見られてたかと少し後悔もした。
「さっきの人は仕事の上司とその友達なんだよ、途中まで一緒の道だからって言われて一緒に歩いてただけだよ、どしたん?今日何かおかしいぞ?」
そう言いオレは杏莉の顔を覗き込んだ。
「な……何でもないんだからね!別に何も気にしてないし。」
そう言いながらも杏莉の顔は真っ赤になって行った。
「……でも顔真っ赤だよ?」
オレがそう言うと、杏莉は急に顔を上げ、「高史のアホ!!」と一言言うと走って行ってしまった。
「え……えーオレが何か悪いんか?」
一人ボソッとそう言うと、我に帰り杏莉を追うことにした。
杏莉を見失いそうになりながらも何とか追いつくと、少し遠くの方で杏莉が何やらブツブツ言っていた。
ゆっくり杏莉に近づくと、少し周りをキョロキョロし始めたと思うと、杏莉はいきなり叫び出す。
「私のあほー!こんなにも高史の事好きなのに、意気地無し!!」
その言葉を聞いた瞬間、杏莉の気持ちが嬉しくなり気付けば後ろから抱きつかずにはいられなかった。
「ゴメン……さっきのって本当?そうだったらうれしいんだけど……オレも実は好きなんだ、ずっと前から好きなんだ、オレと付き合ってくれる?」
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