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第35話:決勝戦、先鋒戦

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オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。
お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で【学内選抜戦】に挑戦。

なんとか決勝戦まで駒を進めることができた
破れていった同級生たちから想いを託されて、オレたちは決勝戦に挑む。



キタエル学園の一年生たちに背中を押されて、オレたちハリト団は闘技場の辿りつく。
待機場所で各自の最終チェック。

三人とも調子は最高潮。
これなら最高のコンディションで戦いに挑める。

『それでは両チームの先鋒は、開始線に移動をしてください』

司会者のアナウンスが響き渡る。
いよいよ、決勝戦が開始となるのだ。

「それでは一つ目の勝ち星を、手に入れてきます!」

ハリト団の先鋒……マリエルが闘技場に登っていく。
足取りかは軽やか。

その後ろ姿は、もはや頼もしささえ感じる。

(マリエルの調子が良そうだな……だが……)

何となくオレは、妙な胸騒ぎがしていた。
仲間のマリエルが原因ではない。

(この嫌な感じ……アイツ等……剣士教団学園の人からか?)

これから対戦する相手。
剣士教団学園の三人が発する雰囲気が、どうしても気にかかるのだ。

(でも事前の最終チェックでも、彼らはクリアだった。オレの思い違いかもな……)

試合前には学園の教師陣が、選手に違反がないかチェックしてくれる。

(まぁ、何かあってもカテリーナ先生が審判するし、大丈夫だろう……)

今日の審判は担任のカテリーナ先生。
オレに固執で接する時はエロスが全開だが、普段は真面目な性格。

相手が何か不正を仕込んでいても、即座に看破。
試合を止めてくれるであろう。

『なお、決勝戦の審判は、格式ある“剣士教団”の司祭長様が行います!』

そんな時、会場のアナウンスが響き渡る。

「なっ⁉」

まさかの内容に、オレは自分の耳を疑う。

何故なら審判が、カテリーナ先生から変更されるのだ。

(そんな馬鹿な⁉ 不公平すぎるだろうが⁉)

決勝の相手の剣士教団学園は、剣士教団が経営している。
それなのに審判が司祭長に変更。
明らかに不正な臭いがする。

(カテリーナ先生は、この件を許したのか⁉)

会場の中を見渡す。
だが肝心の先生の姿が、どこにも見えない。

こんな大事な時に、どこに消えてしまったんだ?
もしかしたら何かの事件に、巻き込まれている最中なのか?

(とにかくこの決勝、何もかも怪しすぎる。止めないと!)

オレは観客席の審判団に、抗議をしようとする。

――――だが時は既に遅かった。

『それでは先鋒戦、はじめ!』

間に合わなかった。
審判の合図と共に、先鋒戦が開始されたのだ。

こうなったらタイミングが悪い。
あとはマリエルに全てを託すしかない。

「参ります! 『風の斬撃よ、彼方の敵を斬り裂け!』……剣術技【第二階位】二の型……【飛風斬ひふうざん】!」

合図と同時、マリエルが猛攻を仕掛けていく。
得意の風の剣術技を、繰り出していく。

「ちっ⁉ ……剣術技【第二階位】一の型……【旋水斬り】!」

相手の先鋒も、剣術を発動して対抗。
双方とも開幕から全力で飛ばしていた。

「いきます!」

たがいに【第二階位】の使い手、
初撃は互角。

だがマリエルは負けじと、更に攻撃をしかけていく。

細かい斬撃で牽制しつつ、相手の崩しにかかる。

(よし! マリエル、いいぞ! かなり調子がいいぞ!)

相手の先鋒の戦闘能力は高い。

だが今のところマリエルが優勢。
巧みに攻め込んでいるのだ。

(これも特訓の成果か……あと、今日で格段に成長しているのか⁉)

マリエルは戦い方が、前よりも格段に上手くなっている。
特に実戦での戦いが“強く”なっていた。
実力以上の動きをしていたのだ。

「よし、いいぞ! このまま押し込めるぞ、マリエル!」

マリエルの連続攻撃が、相手を着実に追い詰めていた。
オレも思わず応援にも熱が入る。

先ほどの違和感も、オレの杞憂だったのかもしれない。
このままでいけば得意の剣術技を決めて、マリエルが勝ち星を得られる。

「っ⁉」

その時であった。
オレは背筋に悪寒が走る。

何だ、この不快感は?

「――――いっ⁉」

直後、マリエルが苦悶の声を上げる。
そして突如、攻撃の足が急に止まる。

更に顔色が急変。
血の気が引いていた。

「えっ……マリエル、一回退くんだ!」

異変を感じ、オレは思わず叫ぶ。
彼女の状態は普通ではないの。

「くっ……」

だがマリエルは動けなかった。
片膝をついて、その場に動けなくなってしまう。

「隙あり! 剣術技【第二階位】三の型……【骨砕き】!」

そんなマリエルに向かって、相手の先鋒は剣術技を発動。

動けない相手に向かって、無慈悲な斬撃を喰らわせる。

「キャァーー!」

まともに攻撃を喰らい、マリエルは悲鳴を上げる。
場外まで吹き飛び、そのまま倒れてこむ。

『勝者! 剣士教団学園チーム!』

エルザが場外負けとなったところで、審判が宣言。
勝者の右手を掲げる。

その二人の口元には、怪しい笑みが浮かんでいた。

「くそっ、アイツら! いや……今はマリエルが先だ!」

審判に推し寄りたいが、ぐっとこらえる。
倒れているマリエルの元に、ミーケと一緒に急いで向かう。

「大丈夫か、マリエル⁉」

「マリエルたん! しっかりするニャー!」

医務係よりも早く、二人でマリエルの元に駆け寄る。
頼む……生きていてくれ。

「うっ……」

よかった、マリエルは生きていた。
だが意識が朦朧もうろうとしている。

近くに設置してある回復用の魔道を、すぐにマリエルに使う。
お蔭で何とかマリエルは意識を取り戻す。

「ごめんなさい……ハリト様……ミーケ……」

マリエルは倒れながら、謝ってきた。
まだ動けないにも関わらず。頭を下げようとしてくる。

「私……先鋒の役目を果たせませんでした……本当にごめんなさい……」

不本意な結果に、マリエルは悔やんでいた。
悔し涙を見せないように、必死で歯を食いしばっていた。

『それはで次鋒戦を始めます。両チームの代表は登壇してください!』

非情なタイミングで、アナウンスが流れる。
このまま次鋒戦に突入するという。

「おい! 待ってくれ! 何かがおかしい! 試合を中止してくれ!」

観客席の審判団に向かって、オレは大声で抗議する。

先ほどのマリエルが止まった瞬間、明らかに何が起きた。
このまま次鋒戦を続けるのは危険。

会場を調べてくれと、直訴する。

『……ただ今、調査してみましたが、特に異変はありません。よって、次鋒戦は続行します!』

「なっ⁉」

だが審判団は、話を聞いてくれなかった。
探知の魔道具で調査したが、特に異変無しだと説明してくる。

会場の安全を確認できた。
ゆえに次鋒戦に移ると。

『もしも異論があるのなら、ハリト団は棄権しても構いませんよ? 六十秒以内に決断してください』

更に審判……司祭長は、オレに向かって宣言してきた。
大会ルールに従って返答がなければ、このまま棄権とみなすと。

「なんだと……?」

「ハリトたん、棄権はダメ……ミー、いってくるニャー!」

「でもミーケ、危険すぎる!」

「大丈夫ニャー……だって、三人で、ここまで頑張ってきたから……だから大丈夫ニャー!」

ミーケは笑顔で開始線に向かう。

大事な仲間であるマリエルの仇を討つ。
ミーケは強い覚悟で、次鋒戦に挑もうとしているのだ。

『それでは、これより次鋒戦を始めます』

こうなったら止めるのは不可能。
今のオレはミーケを信じて、見守ることしか出来ない。

『それでは次鋒戦、始め!』

こうして次鋒戦の開始の声が、非情に響き渡るのであった。
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