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第五章 コトリバコ編
256話
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「何時ものこと? それって、神様から得た力と記憶?」
「さあな。それより、俺が番をしているから、明日の為にさっさと寝ておけ」
「……言われなくても、そうする」
そこは素直なのか。
俺は時計を確認する。
時刻は、午後9時。
すぐに、アディールの寝息が聞こえてくる。
「やれやれ」
俺は立ち上がり、俺達が入ってきた側の通路の天井を手刀で斬り崩落させる。
もちろん、崩落と言っても崩れてきた土砂は生体電流を利用して集めた砂鉄で受け止めて静かに通路を塞ぐ。
これで後方から攻められることはない。
「――さて……」
俺は、唯一の出口となっている廃村の方へと続く通路を歩く。
コトリバコがあるかどうかは分からないが、俺の目的はそこではない。
通路を出たところで、下から俺達の方へと向かって道を登ってくる異様な化け物の姿を確認した。
化け物は包帯を体中に巻いたミイラのような姿をしていて――、身長3メートルを超える大柄な姿。
そして、数は200を超える。
さらには、後ろからは暗闇の中で白く発光する輝きを纏った女の姿が見えた。
女は、年齢的には見た目からして20代前半と言ったところか。
金髪に赤眼をしているが、頭の上には狐の耳を付けている事から人間でない事は一目で分かる。
「あららら。馬鹿ねー。寝ていれば良かったのに……。目を覚ましてしまうなんて――」
俺を見た女は目を細めると小馬鹿にするかのように話しかけてくる。
「それとも自分ひとりで何とか出来ると思っているのかしら?」
女は、空中に浮遊しながら腕を組み、俺に向かって続いて語り掛けてくる。
「もう一人の強い霊力の持ち主は寝ているみたいだけど、私を討伐に来る人間がいるかもしれないからと思って色々と用意していたけど、本当に無駄になったわね」
「無駄?」
「ええ、そうよ。ここには結界が張ってあるの。負の力が外に漏れないようにって人間達がね。それを応用して、人間の霊力の力を弱めるように、私が調整したのよね」
「なるほど……」
「まぁ、そんな事にも気が付かずに呑気に休息している辺り、実戦経験は乏しいのかしら? まぁ、貴方は違ったみたいだけど――。でも――、霊力も何も貴方からは感じない。これなら殺す事は容易ね」
「そう思うか?」
「思うわよ。だって、貴方――、体を鍛えているようには見えないし侍って感じにも見えないわ。それに何より、これだけの戦力差を、たった一人で何とか出来ると思っているのか知らないけど、後退できる唯一の道を断ったわよね?」
「そうだな」
俺は、200近くの魔物と女を見据えながら答える。
「はぁー。本当につまらないわね。貴方、本当に自分の置かれた立場を理解しているのかしら? それとも、理解できてないの? 私は、こう見えても――」
「妖狐の類だろ?」
「分かっているのならいいわ。私は、白狐の白亜(はくあ)。貴方とは生きてきた年月が雲泥の差。今なら、何もしないのなら、このまま帰ることを許してあげなくもないわ」
「ほう。問答無用で殺しにくると思っていたが、俺達を帰す意味が――、その意図が分からないな」
肩を竦めながら――、しかし女の真意を測るように、俺は――、
「なあ、白亜」
「――な、何よ!」
「俺達を殺すと言った言葉、本当か?」
「そ、そうよ! すぐに出ていかないと死んじゃうんだからっ!」
「なるほど……」
「帰るつもりになったかしら!」
「いや、まったく――。俺にも、コトリバコを調査するという仕事があるからな」
俺の『コトリバコ』と、いう言葉に、狐耳をピン! と、動かし反応する白亜は、小さく「そう……」と呟くと、ハイライトの消えた瞳で俺を見てくる。
「やっぱり人間は愚かだったようね」
表情を見せないように、そう小さく呟くと手を振り下ろしてくると、それが合図だと言わんばかりに、ミイラが俺目掛けて向かってくる。
「さあな。それより、俺が番をしているから、明日の為にさっさと寝ておけ」
「……言われなくても、そうする」
そこは素直なのか。
俺は時計を確認する。
時刻は、午後9時。
すぐに、アディールの寝息が聞こえてくる。
「やれやれ」
俺は立ち上がり、俺達が入ってきた側の通路の天井を手刀で斬り崩落させる。
もちろん、崩落と言っても崩れてきた土砂は生体電流を利用して集めた砂鉄で受け止めて静かに通路を塞ぐ。
これで後方から攻められることはない。
「――さて……」
俺は、唯一の出口となっている廃村の方へと続く通路を歩く。
コトリバコがあるかどうかは分からないが、俺の目的はそこではない。
通路を出たところで、下から俺達の方へと向かって道を登ってくる異様な化け物の姿を確認した。
化け物は包帯を体中に巻いたミイラのような姿をしていて――、身長3メートルを超える大柄な姿。
そして、数は200を超える。
さらには、後ろからは暗闇の中で白く発光する輝きを纏った女の姿が見えた。
女は、年齢的には見た目からして20代前半と言ったところか。
金髪に赤眼をしているが、頭の上には狐の耳を付けている事から人間でない事は一目で分かる。
「あららら。馬鹿ねー。寝ていれば良かったのに……。目を覚ましてしまうなんて――」
俺を見た女は目を細めると小馬鹿にするかのように話しかけてくる。
「それとも自分ひとりで何とか出来ると思っているのかしら?」
女は、空中に浮遊しながら腕を組み、俺に向かって続いて語り掛けてくる。
「もう一人の強い霊力の持ち主は寝ているみたいだけど、私を討伐に来る人間がいるかもしれないからと思って色々と用意していたけど、本当に無駄になったわね」
「無駄?」
「ええ、そうよ。ここには結界が張ってあるの。負の力が外に漏れないようにって人間達がね。それを応用して、人間の霊力の力を弱めるように、私が調整したのよね」
「なるほど……」
「まぁ、そんな事にも気が付かずに呑気に休息している辺り、実戦経験は乏しいのかしら? まぁ、貴方は違ったみたいだけど――。でも――、霊力も何も貴方からは感じない。これなら殺す事は容易ね」
「そう思うか?」
「思うわよ。だって、貴方――、体を鍛えているようには見えないし侍って感じにも見えないわ。それに何より、これだけの戦力差を、たった一人で何とか出来ると思っているのか知らないけど、後退できる唯一の道を断ったわよね?」
「そうだな」
俺は、200近くの魔物と女を見据えながら答える。
「はぁー。本当につまらないわね。貴方、本当に自分の置かれた立場を理解しているのかしら? それとも、理解できてないの? 私は、こう見えても――」
「妖狐の類だろ?」
「分かっているのならいいわ。私は、白狐の白亜(はくあ)。貴方とは生きてきた年月が雲泥の差。今なら、何もしないのなら、このまま帰ることを許してあげなくもないわ」
「ほう。問答無用で殺しにくると思っていたが、俺達を帰す意味が――、その意図が分からないな」
肩を竦めながら――、しかし女の真意を測るように、俺は――、
「なあ、白亜」
「――な、何よ!」
「俺達を殺すと言った言葉、本当か?」
「そ、そうよ! すぐに出ていかないと死んじゃうんだからっ!」
「なるほど……」
「帰るつもりになったかしら!」
「いや、まったく――。俺にも、コトリバコを調査するという仕事があるからな」
俺の『コトリバコ』と、いう言葉に、狐耳をピン! と、動かし反応する白亜は、小さく「そう……」と呟くと、ハイライトの消えた瞳で俺を見てくる。
「やっぱり人間は愚かだったようね」
表情を見せないように、そう小さく呟くと手を振り下ろしてくると、それが合図だと言わんばかりに、ミイラが俺目掛けて向かってくる。
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