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ソフィアとリア
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私の名前はソフィア。
リアと一緒に先日までペアで冒険者をしていた。
「リア、そろそろ起きなさいよ」
私は、一緒のベッドで寝ているリアに体当たりしながら起こそうとする。
ただ、彼女はまるで動く様子がない。
私より背丈が低いのに魔法師らしからぬ筋力を持っているのだ。
「まだ、眠いの……」
リアの言葉には多分に眠気が混じっているかのように感じられる。
私だって、数日前に無理してお金を稼ごうとした後遺症が体に残っているから動きたくない。
外壁工事という男の仕事で、私の体はボロボロだ。
体を動かそうとしただけで、節々が痛む。
ちなみに回復魔法でも、回復させることは出来る。
だけど、回復魔法を掛けてもらおうとすると教会に寄付をしないといけない。
その金額が金貨1枚で高いのだ。
そして先日、仲間になったカンダさんは、魔法を習うために教会の講習に行っている。
教会が行う回復魔法の講習は、回復魔法が使えるようになったら数日間の実務を手伝うという約束をすれば無償で受けられる。
そこで、回復魔法師に教会に所属しないかとアプローチを掛けていると思うけど……カンダさんの話だと教会というか宗教があまり好きではないようなので、そのへんは聞いていて問題ないと私とリアは判断した。
貴重なパーティメンバーを取られるくらいなら、肉体労働をして講習代金金貨10枚を捻出する予定だったけど……。
たぶん、していたら物理的に筋肉痛から二人して死んでいたかも知れない。
「私だって眠いけど……カンダさんは今日、講習終わるんだよね?」
「そうなの……?」
どうやら、リアは大衆浴場を維持管理するために、かなりの魔法力を消費していて色々と意識が飛んでいるらしい。
大衆浴場の魔法師は火の魔法と水の魔法を発動させることが出来て、尚且つ正確無比な威力のある魔法発動が条件らしいから、かなり精神的にくると聞いたことがある。
きっと、いまのリアは、そんな状態だろうと思う。
「わかったわよ……私がカンダさんを迎えにいくからリアは寝ていていいわよ」
「助かるの」
リアの言葉に小さく溜息をつきながら私は、体の節々が痛む身体を動かして部屋を出た。
今、借りている宿というか代金も含めてカンダさんが全額負担してくれている。
彼の話によると仲間だから当然だと言っていたけど……お人よしも、度が過ぎると私やリアも思っていた。
もしかしたらカンダさんは、この大陸の人ではないのかも知れない。
着ていたスーツという服を売った金額も私やリアでは稼ぐのに半年は掛かるほどの額だったから。
カンダさんの名前で借りた宿の階段を下りていく。
階段は、軋む音を響かせる。
「――ッ!」
最後の階段を下りたところで、筋肉が悲鳴を上げた。
「大丈夫か?」
「――えっ?」
カンダさんが言っていた筋肉痛という痛みでその場に蹲っていると頭上から話かけられた。
顔を上げると、私を見下ろしていたのはカンダさんだった。
「ずいぶんと、お帰りが早いのですね……」
「まぁ……、そうだな――」
彼は、頭を掻きながら私に向けて手を差し伸べてきた。
たぶん引き起こしてくれるのかと思い、私も手を差し伸べるとカンダさんは「ヒール」と小さく唱えていた。
一瞬で、身体中の痛みが霧散していく。
「どうかし……」
「えっと……」
私とカンダさんは気まずい雰囲気を作ってしまっていた。
カンダさんは回復魔法を掛けるために私に手を差し伸べてきたのに、私は起こしてくれるのかと思い手を伸ばしていたから。
お互い、そのことに気がつくと無言になってしまっていた。
「ああ、すまないな」
カンダさんは、私が伸ばしていた手を掴むと引き起こしてくれたけど……。
「あっ……」
彼の引く力が強かったこともあり、私の身体はカンダさんの胸に飛び込むような形になってしまっていた。
男性特有の汗や匂いを感じ取れてしまいドキドキしてしまう。
「すまない!」
彼は慌てて私から距離を取って謝罪してきた。
すぐに温もりが消えてしまったことに、若干の寂しさを感じながらも彼は、あくまでも紳士的に振舞おうとしてくれる。
そこは、とても好印象。
「だ、大丈夫です! リアも待っていますから!」
「そ、そうか……」
「はい、リアにも回復魔法を掛けてもらうことはできますか?」
「問題ないと思うが、リアの場合は魔法の使いすぎだろう? 回復魔法が効果あるとは思えないんだけどな……」
カンダさんは、まだ回復魔法を覚えたばかりで自信無さげに答えてきた。
たしかに魔法師は魔法を酷使したあと、酷い頭痛に苛まれ魔力が枯渇することがあると昏睡状態に陥ることだってある。
それでも少しでもリアの頭痛が取り除ければいいと、カンダさんを部屋に誘った。
「あれ? そういえば……カンダさん?」
「なんだ?」
「カンダさんって触媒というか詠唱も杖も使っていないようでしたけど……どこにあるんですか?」
部屋に入る前に、ふと気になって彼に聞くと「ああ、なんだか知らないが俺の回復魔法って触媒も詠唱も必要ないみたいなんだよな」と、非常識なことを言っていた。
私の名前はリア。
カルーダの港へ、一攫千金を夢見て出稼ぎにソフィアと出てきた私たちは、冒険者になった。
最初の数ヶ月間は、本当に大変な毎日だった。
残り少ない資金を切り詰めて宿を取って、その日暮らしをする日々。
最後には、宿代も払えなくなって追い出されてしまった。
そんな不幸のどん底にいた私とソフィアの前に現れパーティに加入したのは黒目黒髪の男性だった。
ソフィアは、ハーフエルフということで精霊眼を持っていた。
彼女が言うとおり、カンダという男性は、神官としての才能をもっていて本来は30日前後かかる魔法の講習を数日で終えて戻ってくるという離れ業をやってのけて彼は戻ってきた。
彼は、ソフィアと一緒に部屋に入ってくると私の容態を見て回復魔法をかけると「どうだ? 大丈夫か?」と、自信無さそうな声色で私を心配してくる。
「大丈夫なの――」
「本当か? 辛そうなら言えよ?」
彼は、ベッドで横になっていた私に優しく語り掛けてくる。
「そんなに心配しなくていいの」
私は、ベッドから立ち上がるけど、ずっと寝ていたからなのか……ふらついてしまい倒れそうになる。
そんな私を「あぶない!」と、カンダという男性は支えてくれた。
私は、顔が赤くなっていくことを自覚しつつ、「ありがとうなの」と、お礼を言うと、すぐに彼から離れた。
心臓が早鐘を打っている。
今まで、村では魔法が使えるおかしな女と見られていた。
だから男性には煙たがられていたし、彼みたく優しく接してくれる異性はいなかったから、初めてのことで――。
「リア、本当に……耳まで顔が赤いけど……大丈夫?」
私よりも背が高いソフィアは、心配な表情をして語りかけてきてくれた。
「――う、うん! だ、大丈夫なの!」
胸元に手を置きながら、大きく深呼吸する。
何度も落ち着けと自分に言い聞かせるように――。
「あ、あの! カンダしゃん!」
「――ん?」
彼の名前を呼ぼうとしたら噛んでしまった……。
「なんでもないの……」
せっかくお礼に、食事に誘おうと思って――あれ? 私……何を思って……。
魔法師は如何なる時でも冷静でいないといけないのに、自分が何を言おうとしたのか一瞬、理解できなかった。
自覚した途端――、立ちくらみを起こして……、私は、不覚にも彼に身体を預けてしまった。
すると彼は、慌てると「くそっ!? やはり俺の回復魔法は、まだ! 未熟だったのか!?」と、すごく慌てていた。
そんな私とカンダさんを見ていた幼馴染のソフィアにだけは私がどういう状態だったのか見抜かれてしまったみたいで「あー……」と呟くと「カンダさん、大丈夫です。乙女の病みたいなものです」と呟いていた。
「乙女の病? それは何かの病気か何かなのか?」
カンダさんが必死に考えたあと、頭を振るうと私を抱き上げてベッドに寝かせてくれた。
「ごめんな、俺はまだ回復魔法を覚えたばかりで……、今日はソフィアと一緒に冒険者ギルドに冒険者登録してくるから……。今日は、寝ていてくれ、帰りに何か……、そうだな。果物か何か買ってくるからな――」
彼は、私の額に手を当てながら熱を測ってくれていた。
すごく私のことを心配してくる気持ちが伝わってくる。
「大丈夫なの……」
「いや、リアに何かあったら困るからな。今日は、安静にしておいてくれ」
カンダさんは、すごく真剣な瞳で私を心配してくれていた。
こういう風に異性に心配されるのも悪くないかもしれない。
私はおとなしく頷いた。
それから1時間ほどして、ソフィアだけが先に帰ってくると、私のことを彼女はからかった。
「――と、言うことがあったの」
私とリアは、目の前に座っているグローブという男と、その男が連れてきたカンダさんの膝を治せると言っていた男に、カンダさんがどういう人かをソフィアと一緒に語り聞かせていた。
「どうして、あの男の事ばかり――」
「――え? だって……グローブさんがカンダさんは、どんな人か知りたいって言ったからなの」
「言ったが……あの男が持っている剣について知りたいだけで――」
「どうしてなの? 同じパーティの人間だけどカンダさんの持ち物について貴方に教える義務はないと私もソフィアも思っているの。そもそも、あなたはリムルさんが、どうしてもと言ったからパーティに加えただけなの。それなのに、罠の解除もまともに出来ない人だったなんて信じられないの」
「本当です。リムルさんには後で、カンダさんが怪我を負った責任を取らせませんと!」
私の言葉に、ソフィアも同意してくれた。
「……あんた達が、俺達に語ってくれたカンダだが、お前たちを捨てて別のクエストを受けたんだぜ?」
「――私たちに黙ってそんなことするわけありません!」
「――そんなの! 信じられないの!」
私とソフィアの言葉に、グローブが一枚の用紙を見せてきた。
そこには、カンダさんがパーティから抜けることを了承することが、彼の筆談で書かれていた。
さらに、それを受付嬢のリムルが受諾していた。
「うそ!?」
「そんな!?」
私とソフィアは同時に立ち上がる。
そんな私とソフィアの腕をグローブともう一人の神官が掴んでくるけど、同時に振りほどく。
「なあ? カンダがお前たちを捨てたんだぜ? 俺達と仲良くしようぜ? 冒険者パーティBランクなんだからさ」
「話を聞く限り、教会が嫌いなんだろ? そんな回復魔法師にロクな奴いないって!」
二人が、私たちの神経を逆撫でするような物言いで諭そうとしてくるけど逆効果にも程がある。
「どくの!」
私は、すぐに受付に歩いていく。
そして新人だと思われる女性に「リムルはどこにいるの!」と大声で怒鳴った。
「か、カンダ様なら……リムル先輩の案内で開拓村に……それに今はリムル先輩が用事で外に出ていて……」
新人の冒険者ギルド受付嬢の言葉を聞いてブチ切れた。
あのリムルって女……カンダさんを逆恨みして嫌っているのは知っていたけど、オークが出没する危険だと言われている開拓村の仕事にカンダさんを行かせたなんて……許せないの!
怒りでどうにかなりそうになっていたところで、「リア! すぐに市場に向かいましょう! 開拓村のクエストを受けているのなら食料とか買い揃えていると思うから!」と、ソフィアが叫んできた。
「分かったの!」
すぐに二人して冒険者ギルドを出ようとすると、額に青筋を立てたグローブと、カンダさんの膝を治すと言っていた神官が入り口の前に立っていて通れないようにしていた。
カンダさんの膝が治せるかも知れないと思って、愛想よくしていたのに……。
「そこを退くの!」
「あんな男のどこがいいんだよ? 俺の方がずっと良い男だろう?」
「あんな男……」
段々と苛立ってきた。
同じパーティメンバーと戦ったら冒険者ギルドから追放されるかも知れないけど、今の「あんな男」という言葉は……許せなかった。
外への出入り口を封鎖している男たちに杖を向けると、ソフィアが横に並んだのが気配から察することができて――。
「ソフィア、止めても無駄なの! カンダさんを侮辱した物言いは許せないの!」
「止めませんよ?」
横目でソフィアを見る。
彼女も弓を番えてグローブの額に鏃の先を向けていた。
「――お、おい……じ、冗談だよな……」
グーなんとかって男が慌てて両手を広げて何か言っていたけどファイアーボールで、扉ごと吹き飛ばすと静かになった。
手加減はしたから生きていると思うけど神官ごと吹き飛ばしたから、たぶん教会もあとで文句を言ってきそう。
「リア! 早くいきましょう!」
「分かったの!」
私とリアは市場へと走り……。
市場をあっちこっち必死に探したけど、カンダさんとは行き違いになって会う事はできなかった。
「ソフィア! 開拓村エルにいくの!」
「歩きになるから、すごく時間かかるわね……」
その日のうちに宿を引き払う。
後々、文句を言われても困るから冒険者ギルド建物修理費を支払った。
ただ身内で私闘を厳禁としていた冒険者ギルドからは、冒険者の資格を剥奪されてしまった。
まぁ、もう十分に稼いだし別にいい。
今は、カンダさんに会いにいくことが重要だから。
「きっと、カンダさんは膝を痛めて一人では何も出来なくて大変なはずなの! オークもいるかもしれないから急ぐの!」
「そうね! 急ぎましょう!」
「目指すは、開拓村エルなの!」
私とソフィアは、旅の支度をしてカルーダの港町を出た。
リアと一緒に先日までペアで冒険者をしていた。
「リア、そろそろ起きなさいよ」
私は、一緒のベッドで寝ているリアに体当たりしながら起こそうとする。
ただ、彼女はまるで動く様子がない。
私より背丈が低いのに魔法師らしからぬ筋力を持っているのだ。
「まだ、眠いの……」
リアの言葉には多分に眠気が混じっているかのように感じられる。
私だって、数日前に無理してお金を稼ごうとした後遺症が体に残っているから動きたくない。
外壁工事という男の仕事で、私の体はボロボロだ。
体を動かそうとしただけで、節々が痛む。
ちなみに回復魔法でも、回復させることは出来る。
だけど、回復魔法を掛けてもらおうとすると教会に寄付をしないといけない。
その金額が金貨1枚で高いのだ。
そして先日、仲間になったカンダさんは、魔法を習うために教会の講習に行っている。
教会が行う回復魔法の講習は、回復魔法が使えるようになったら数日間の実務を手伝うという約束をすれば無償で受けられる。
そこで、回復魔法師に教会に所属しないかとアプローチを掛けていると思うけど……カンダさんの話だと教会というか宗教があまり好きではないようなので、そのへんは聞いていて問題ないと私とリアは判断した。
貴重なパーティメンバーを取られるくらいなら、肉体労働をして講習代金金貨10枚を捻出する予定だったけど……。
たぶん、していたら物理的に筋肉痛から二人して死んでいたかも知れない。
「私だって眠いけど……カンダさんは今日、講習終わるんだよね?」
「そうなの……?」
どうやら、リアは大衆浴場を維持管理するために、かなりの魔法力を消費していて色々と意識が飛んでいるらしい。
大衆浴場の魔法師は火の魔法と水の魔法を発動させることが出来て、尚且つ正確無比な威力のある魔法発動が条件らしいから、かなり精神的にくると聞いたことがある。
きっと、いまのリアは、そんな状態だろうと思う。
「わかったわよ……私がカンダさんを迎えにいくからリアは寝ていていいわよ」
「助かるの」
リアの言葉に小さく溜息をつきながら私は、体の節々が痛む身体を動かして部屋を出た。
今、借りている宿というか代金も含めてカンダさんが全額負担してくれている。
彼の話によると仲間だから当然だと言っていたけど……お人よしも、度が過ぎると私やリアも思っていた。
もしかしたらカンダさんは、この大陸の人ではないのかも知れない。
着ていたスーツという服を売った金額も私やリアでは稼ぐのに半年は掛かるほどの額だったから。
カンダさんの名前で借りた宿の階段を下りていく。
階段は、軋む音を響かせる。
「――ッ!」
最後の階段を下りたところで、筋肉が悲鳴を上げた。
「大丈夫か?」
「――えっ?」
カンダさんが言っていた筋肉痛という痛みでその場に蹲っていると頭上から話かけられた。
顔を上げると、私を見下ろしていたのはカンダさんだった。
「ずいぶんと、お帰りが早いのですね……」
「まぁ……、そうだな――」
彼は、頭を掻きながら私に向けて手を差し伸べてきた。
たぶん引き起こしてくれるのかと思い、私も手を差し伸べるとカンダさんは「ヒール」と小さく唱えていた。
一瞬で、身体中の痛みが霧散していく。
「どうかし……」
「えっと……」
私とカンダさんは気まずい雰囲気を作ってしまっていた。
カンダさんは回復魔法を掛けるために私に手を差し伸べてきたのに、私は起こしてくれるのかと思い手を伸ばしていたから。
お互い、そのことに気がつくと無言になってしまっていた。
「ああ、すまないな」
カンダさんは、私が伸ばしていた手を掴むと引き起こしてくれたけど……。
「あっ……」
彼の引く力が強かったこともあり、私の身体はカンダさんの胸に飛び込むような形になってしまっていた。
男性特有の汗や匂いを感じ取れてしまいドキドキしてしまう。
「すまない!」
彼は慌てて私から距離を取って謝罪してきた。
すぐに温もりが消えてしまったことに、若干の寂しさを感じながらも彼は、あくまでも紳士的に振舞おうとしてくれる。
そこは、とても好印象。
「だ、大丈夫です! リアも待っていますから!」
「そ、そうか……」
「はい、リアにも回復魔法を掛けてもらうことはできますか?」
「問題ないと思うが、リアの場合は魔法の使いすぎだろう? 回復魔法が効果あるとは思えないんだけどな……」
カンダさんは、まだ回復魔法を覚えたばかりで自信無さげに答えてきた。
たしかに魔法師は魔法を酷使したあと、酷い頭痛に苛まれ魔力が枯渇することがあると昏睡状態に陥ることだってある。
それでも少しでもリアの頭痛が取り除ければいいと、カンダさんを部屋に誘った。
「あれ? そういえば……カンダさん?」
「なんだ?」
「カンダさんって触媒というか詠唱も杖も使っていないようでしたけど……どこにあるんですか?」
部屋に入る前に、ふと気になって彼に聞くと「ああ、なんだか知らないが俺の回復魔法って触媒も詠唱も必要ないみたいなんだよな」と、非常識なことを言っていた。
私の名前はリア。
カルーダの港へ、一攫千金を夢見て出稼ぎにソフィアと出てきた私たちは、冒険者になった。
最初の数ヶ月間は、本当に大変な毎日だった。
残り少ない資金を切り詰めて宿を取って、その日暮らしをする日々。
最後には、宿代も払えなくなって追い出されてしまった。
そんな不幸のどん底にいた私とソフィアの前に現れパーティに加入したのは黒目黒髪の男性だった。
ソフィアは、ハーフエルフということで精霊眼を持っていた。
彼女が言うとおり、カンダという男性は、神官としての才能をもっていて本来は30日前後かかる魔法の講習を数日で終えて戻ってくるという離れ業をやってのけて彼は戻ってきた。
彼は、ソフィアと一緒に部屋に入ってくると私の容態を見て回復魔法をかけると「どうだ? 大丈夫か?」と、自信無さそうな声色で私を心配してくる。
「大丈夫なの――」
「本当か? 辛そうなら言えよ?」
彼は、ベッドで横になっていた私に優しく語り掛けてくる。
「そんなに心配しなくていいの」
私は、ベッドから立ち上がるけど、ずっと寝ていたからなのか……ふらついてしまい倒れそうになる。
そんな私を「あぶない!」と、カンダという男性は支えてくれた。
私は、顔が赤くなっていくことを自覚しつつ、「ありがとうなの」と、お礼を言うと、すぐに彼から離れた。
心臓が早鐘を打っている。
今まで、村では魔法が使えるおかしな女と見られていた。
だから男性には煙たがられていたし、彼みたく優しく接してくれる異性はいなかったから、初めてのことで――。
「リア、本当に……耳まで顔が赤いけど……大丈夫?」
私よりも背が高いソフィアは、心配な表情をして語りかけてきてくれた。
「――う、うん! だ、大丈夫なの!」
胸元に手を置きながら、大きく深呼吸する。
何度も落ち着けと自分に言い聞かせるように――。
「あ、あの! カンダしゃん!」
「――ん?」
彼の名前を呼ぼうとしたら噛んでしまった……。
「なんでもないの……」
せっかくお礼に、食事に誘おうと思って――あれ? 私……何を思って……。
魔法師は如何なる時でも冷静でいないといけないのに、自分が何を言おうとしたのか一瞬、理解できなかった。
自覚した途端――、立ちくらみを起こして……、私は、不覚にも彼に身体を預けてしまった。
すると彼は、慌てると「くそっ!? やはり俺の回復魔法は、まだ! 未熟だったのか!?」と、すごく慌てていた。
そんな私とカンダさんを見ていた幼馴染のソフィアにだけは私がどういう状態だったのか見抜かれてしまったみたいで「あー……」と呟くと「カンダさん、大丈夫です。乙女の病みたいなものです」と呟いていた。
「乙女の病? それは何かの病気か何かなのか?」
カンダさんが必死に考えたあと、頭を振るうと私を抱き上げてベッドに寝かせてくれた。
「ごめんな、俺はまだ回復魔法を覚えたばかりで……、今日はソフィアと一緒に冒険者ギルドに冒険者登録してくるから……。今日は、寝ていてくれ、帰りに何か……、そうだな。果物か何か買ってくるからな――」
彼は、私の額に手を当てながら熱を測ってくれていた。
すごく私のことを心配してくる気持ちが伝わってくる。
「大丈夫なの……」
「いや、リアに何かあったら困るからな。今日は、安静にしておいてくれ」
カンダさんは、すごく真剣な瞳で私を心配してくれていた。
こういう風に異性に心配されるのも悪くないかもしれない。
私はおとなしく頷いた。
それから1時間ほどして、ソフィアだけが先に帰ってくると、私のことを彼女はからかった。
「――と、言うことがあったの」
私とリアは、目の前に座っているグローブという男と、その男が連れてきたカンダさんの膝を治せると言っていた男に、カンダさんがどういう人かをソフィアと一緒に語り聞かせていた。
「どうして、あの男の事ばかり――」
「――え? だって……グローブさんがカンダさんは、どんな人か知りたいって言ったからなの」
「言ったが……あの男が持っている剣について知りたいだけで――」
「どうしてなの? 同じパーティの人間だけどカンダさんの持ち物について貴方に教える義務はないと私もソフィアも思っているの。そもそも、あなたはリムルさんが、どうしてもと言ったからパーティに加えただけなの。それなのに、罠の解除もまともに出来ない人だったなんて信じられないの」
「本当です。リムルさんには後で、カンダさんが怪我を負った責任を取らせませんと!」
私の言葉に、ソフィアも同意してくれた。
「……あんた達が、俺達に語ってくれたカンダだが、お前たちを捨てて別のクエストを受けたんだぜ?」
「――私たちに黙ってそんなことするわけありません!」
「――そんなの! 信じられないの!」
私とソフィアの言葉に、グローブが一枚の用紙を見せてきた。
そこには、カンダさんがパーティから抜けることを了承することが、彼の筆談で書かれていた。
さらに、それを受付嬢のリムルが受諾していた。
「うそ!?」
「そんな!?」
私とソフィアは同時に立ち上がる。
そんな私とソフィアの腕をグローブともう一人の神官が掴んでくるけど、同時に振りほどく。
「なあ? カンダがお前たちを捨てたんだぜ? 俺達と仲良くしようぜ? 冒険者パーティBランクなんだからさ」
「話を聞く限り、教会が嫌いなんだろ? そんな回復魔法師にロクな奴いないって!」
二人が、私たちの神経を逆撫でするような物言いで諭そうとしてくるけど逆効果にも程がある。
「どくの!」
私は、すぐに受付に歩いていく。
そして新人だと思われる女性に「リムルはどこにいるの!」と大声で怒鳴った。
「か、カンダ様なら……リムル先輩の案内で開拓村に……それに今はリムル先輩が用事で外に出ていて……」
新人の冒険者ギルド受付嬢の言葉を聞いてブチ切れた。
あのリムルって女……カンダさんを逆恨みして嫌っているのは知っていたけど、オークが出没する危険だと言われている開拓村の仕事にカンダさんを行かせたなんて……許せないの!
怒りでどうにかなりそうになっていたところで、「リア! すぐに市場に向かいましょう! 開拓村のクエストを受けているのなら食料とか買い揃えていると思うから!」と、ソフィアが叫んできた。
「分かったの!」
すぐに二人して冒険者ギルドを出ようとすると、額に青筋を立てたグローブと、カンダさんの膝を治すと言っていた神官が入り口の前に立っていて通れないようにしていた。
カンダさんの膝が治せるかも知れないと思って、愛想よくしていたのに……。
「そこを退くの!」
「あんな男のどこがいいんだよ? 俺の方がずっと良い男だろう?」
「あんな男……」
段々と苛立ってきた。
同じパーティメンバーと戦ったら冒険者ギルドから追放されるかも知れないけど、今の「あんな男」という言葉は……許せなかった。
外への出入り口を封鎖している男たちに杖を向けると、ソフィアが横に並んだのが気配から察することができて――。
「ソフィア、止めても無駄なの! カンダさんを侮辱した物言いは許せないの!」
「止めませんよ?」
横目でソフィアを見る。
彼女も弓を番えてグローブの額に鏃の先を向けていた。
「――お、おい……じ、冗談だよな……」
グーなんとかって男が慌てて両手を広げて何か言っていたけどファイアーボールで、扉ごと吹き飛ばすと静かになった。
手加減はしたから生きていると思うけど神官ごと吹き飛ばしたから、たぶん教会もあとで文句を言ってきそう。
「リア! 早くいきましょう!」
「分かったの!」
私とリアは市場へと走り……。
市場をあっちこっち必死に探したけど、カンダさんとは行き違いになって会う事はできなかった。
「ソフィア! 開拓村エルにいくの!」
「歩きになるから、すごく時間かかるわね……」
その日のうちに宿を引き払う。
後々、文句を言われても困るから冒険者ギルド建物修理費を支払った。
ただ身内で私闘を厳禁としていた冒険者ギルドからは、冒険者の資格を剥奪されてしまった。
まぁ、もう十分に稼いだし別にいい。
今は、カンダさんに会いにいくことが重要だから。
「きっと、カンダさんは膝を痛めて一人では何も出来なくて大変なはずなの! オークもいるかもしれないから急ぐの!」
「そうね! 急ぎましょう!」
「目指すは、開拓村エルなの!」
私とソフィアは、旅の支度をしてカルーダの港町を出た。
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