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正妻戦争(2)
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ニードルス伯爵の言葉に俺は頷く。
別に立っていても問題ないのだが、相手がこちらを立てるなら断り理由もない。
中央のテーブルに近づく。
「すまないが、もう一つ椅子を用意してもらえないか?」
「……わかりました」
伯爵が頷くと同時に室内に立っていた兵士が椅子を持ってくる。
メイドが持ってくると思っていたが力仕事は兵士がやるようだな……。
「エルナ、椅子に座りなさい」
「はいでしゅ!」
俺とエルナのやり取りを見ていて好奇心かどうかは知らないが「神田様は、ずいぶんとその獣人と仲が良いのですね」と問いかけてきた。
「仲がいい?」
「はい。先日の銀髪の狐族の女性もそうですが……、本来は狐族と言うのは人間には敵愾心を抱いているのが普通なのです」
そんな話は聞いたことがなかったな。
そもそも、俺は獣人に関しては殆ど何も知らない。
異世界転移してから10年間、生きることに必死だった。
それに、リアもソフィアも俺には何も言わなかったし、そういう話題は避けているような節があった。
だから、俺は獣人に関しては知識がまったく無い。
「ふむ――」
「それに――、金髪と銀髪の狐なんてとても珍しいのですよ? 何せ魔力が使える獣人なのですから、私も領主として仕事に携わってから狐族について調べましたが……、その何と言うか――、詳しくは分かりませんでしたが金髪と銀髪の狐族は部族内でも孤立する存在らしく――」
「なるほど……」
だから、俺のところに転がりこんできたのか?
いや、そんな感じではなかった気がするが……。
普通に最初から、お腹を空かせて近寄ってきたような?
まぁ、いきなり商談の話をするのもあれだからな。
少しは世間話をして、こちらのペースにしてから商談を切り出したほうがいいだろう。
俺は、用意された椅子に座りながら、「そういえば、以前に兎族のことについてニードルス伯爵様は、何か聞いていましたが何かあるので?」と、話すことにする。
「はい! じつは、男性に需要が高いのが兎族なのです!」
「――ん? そうなのか?」
俺は、伯爵の言葉に内心で首を傾げる。
エルナが以前、「兎族は面倒くさいでしゅ!」と、言っていたことを思い出したからだ。
「貴族の間では、獣人は忌み嫌われていますが町長くらいですと兎族の女性は男性によく仕えるので、狐族の女性よりは! ずっと! 人気が高いですね!」
「うそでしゅ! 兎族の女は、男をいつも寝取っているでしゅ!」
「寝取っていません! これだから、狐族は……。神田様、狐族は妄想を口にして厄介なのです。だいたい常時発情している狐族に何か言われたくありませんし」
「兎族だって毎日発情しているでしゅ!」
俺はとっさにエルナの口を塞ぐ。
いくらなんでも失礼が過ぎる。
目の前の相手は人間で、しかも世間話で狐族と兎族の話をしているだけなのだ。
たしかに狐族のことを悪く言われるのは俺も我慢ならない。
だが、相手は貴族であり伯爵であり揉め事を起こしても仕方ないだろう。
ここは無難に話を合わせておくのが最善策だ。
とりあえず相手が兎族であるかのように口論を仕掛けるのは伯爵の不評を買ってしまう恐れがあるからやめてほしい。
エルナは、しっかりしているように見えてもまだまだ幼い。
言ったらけないことを言ってしまったことについてはあとでキチンと注意しておく必要があるだろう。
「申し訳ない。この子は俺の妻リルカの妹エルナと言うのだが――、目上の者に対する話し方が分かってないので――」
「そうなのですか? なら……仕方ありませんね。まだ幼女ですからね」
「はい、まだ10歳なもので――」
「――!? そ、そうですか……、成人まであと少しなのですね。ところで神田栄治様は、奥様がいるようですが、それは正式な書類を出されたのですか?」
「正式な書類ですか?」
「はい。神田様は、エンパスの町を救った英雄――、王宮ではそのような扱いになるようです。そのため、準男爵の位を与えられることになると思います」
「……俺が貴族の位を? 特に領地とかはないのですが……」
「まぁ、そうなのですか!」
俺の言葉に、初めて聞きました! と言った感じでニードルス伯爵は両手を叩く。
「それならエンパスの町を神田様が統治されたらいかがでしょうか?」
「エンパスの町は、他に貴族が居たのでは?」
「あんな問題を起こしておいて何の責任も取らないなんてありえません。それに魔王が出た場所ですから、他の貴族も欲しがるとは思えませんし……。それを見越して英雄として神田様を扱うことで貴族位を与えて統治させる予定だと私は思っています」
「なるほど……」
さすがは王族。
色々と考えているんだな。
それにしても――。俺が英雄とか、そんな大したことはしていないんだが……。
「それに! 領地が隣同士になるのです」
「――へ?」
「お気付きになられませんでしたか? ソドムの町を統治しているニードルス伯爵家と、今度エンパスの町を統治するかも知れない神田栄治様の領地は隣り合わせなのですよ?」
別に立っていても問題ないのだが、相手がこちらを立てるなら断り理由もない。
中央のテーブルに近づく。
「すまないが、もう一つ椅子を用意してもらえないか?」
「……わかりました」
伯爵が頷くと同時に室内に立っていた兵士が椅子を持ってくる。
メイドが持ってくると思っていたが力仕事は兵士がやるようだな……。
「エルナ、椅子に座りなさい」
「はいでしゅ!」
俺とエルナのやり取りを見ていて好奇心かどうかは知らないが「神田様は、ずいぶんとその獣人と仲が良いのですね」と問いかけてきた。
「仲がいい?」
「はい。先日の銀髪の狐族の女性もそうですが……、本来は狐族と言うのは人間には敵愾心を抱いているのが普通なのです」
そんな話は聞いたことがなかったな。
そもそも、俺は獣人に関しては殆ど何も知らない。
異世界転移してから10年間、生きることに必死だった。
それに、リアもソフィアも俺には何も言わなかったし、そういう話題は避けているような節があった。
だから、俺は獣人に関しては知識がまったく無い。
「ふむ――」
「それに――、金髪と銀髪の狐なんてとても珍しいのですよ? 何せ魔力が使える獣人なのですから、私も領主として仕事に携わってから狐族について調べましたが……、その何と言うか――、詳しくは分かりませんでしたが金髪と銀髪の狐族は部族内でも孤立する存在らしく――」
「なるほど……」
だから、俺のところに転がりこんできたのか?
いや、そんな感じではなかった気がするが……。
普通に最初から、お腹を空かせて近寄ってきたような?
まぁ、いきなり商談の話をするのもあれだからな。
少しは世間話をして、こちらのペースにしてから商談を切り出したほうがいいだろう。
俺は、用意された椅子に座りながら、「そういえば、以前に兎族のことについてニードルス伯爵様は、何か聞いていましたが何かあるので?」と、話すことにする。
「はい! じつは、男性に需要が高いのが兎族なのです!」
「――ん? そうなのか?」
俺は、伯爵の言葉に内心で首を傾げる。
エルナが以前、「兎族は面倒くさいでしゅ!」と、言っていたことを思い出したからだ。
「貴族の間では、獣人は忌み嫌われていますが町長くらいですと兎族の女性は男性によく仕えるので、狐族の女性よりは! ずっと! 人気が高いですね!」
「うそでしゅ! 兎族の女は、男をいつも寝取っているでしゅ!」
「寝取っていません! これだから、狐族は……。神田様、狐族は妄想を口にして厄介なのです。だいたい常時発情している狐族に何か言われたくありませんし」
「兎族だって毎日発情しているでしゅ!」
俺はとっさにエルナの口を塞ぐ。
いくらなんでも失礼が過ぎる。
目の前の相手は人間で、しかも世間話で狐族と兎族の話をしているだけなのだ。
たしかに狐族のことを悪く言われるのは俺も我慢ならない。
だが、相手は貴族であり伯爵であり揉め事を起こしても仕方ないだろう。
ここは無難に話を合わせておくのが最善策だ。
とりあえず相手が兎族であるかのように口論を仕掛けるのは伯爵の不評を買ってしまう恐れがあるからやめてほしい。
エルナは、しっかりしているように見えてもまだまだ幼い。
言ったらけないことを言ってしまったことについてはあとでキチンと注意しておく必要があるだろう。
「申し訳ない。この子は俺の妻リルカの妹エルナと言うのだが――、目上の者に対する話し方が分かってないので――」
「そうなのですか? なら……仕方ありませんね。まだ幼女ですからね」
「はい、まだ10歳なもので――」
「――!? そ、そうですか……、成人まであと少しなのですね。ところで神田栄治様は、奥様がいるようですが、それは正式な書類を出されたのですか?」
「正式な書類ですか?」
「はい。神田様は、エンパスの町を救った英雄――、王宮ではそのような扱いになるようです。そのため、準男爵の位を与えられることになると思います」
「……俺が貴族の位を? 特に領地とかはないのですが……」
「まぁ、そうなのですか!」
俺の言葉に、初めて聞きました! と言った感じでニードルス伯爵は両手を叩く。
「それならエンパスの町を神田様が統治されたらいかがでしょうか?」
「エンパスの町は、他に貴族が居たのでは?」
「あんな問題を起こしておいて何の責任も取らないなんてありえません。それに魔王が出た場所ですから、他の貴族も欲しがるとは思えませんし……。それを見越して英雄として神田様を扱うことで貴族位を与えて統治させる予定だと私は思っています」
「なるほど……」
さすがは王族。
色々と考えているんだな。
それにしても――。俺が英雄とか、そんな大したことはしていないんだが……。
「それに! 領地が隣同士になるのです」
「――へ?」
「お気付きになられませんでしたか? ソドムの町を統治しているニードルス伯爵家と、今度エンパスの町を統治するかも知れない神田栄治様の領地は隣り合わせなのですよ?」
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