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正妻戦争(6)

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 ニードルス伯爵に、アイテムボックスから石鹸を出したと説明したから、ここでベックにアイテムボックスから出したというと、話が食い違ってくることになる。
 もし、そのことがニードルス伯爵に知られたら、俺が築き上げてきた信用が崩れてしまうことになるだろう。
 
 俺が何と説明していいのか躊躇していたところで、ソルティも興味を引かれたのか石鹸で出来た山の方へと視線を向けると「全ての白い物からカンダさんが感じられます」と、言い放った。
 
「……ま、まあ……、そりゃ俺が作ったものだからな……」
 
 アイテムボックスから出したとも言わず、生活魔法で作ったとも言わず中間地点を見極めるようにして俺は言葉を口から吐き出す。
 
「きっと! カンダさんの! 白いぬるぬるした液体からも! カンダさんがふがふが――」
 
 俺は途中でソルティの口を塞ぐ。
 人が避難して居ない往来の通りと言っても、少しは自重してほしいものだ。
 
「それでベックは、あの山に驚いていたって事はソドムの町に着いたばかりなのか?」
「はい、カンダの旦那は違うので?」
「俺は――、昨日だな」
 
 ベックの問いかけに答えながらも話を逸らす事が出来たことに内心ガッツポーズをとる。
 
「ところで、どうしてソルティと一緒に行動をしているんだ?」
 
 俺は最初に聞いておかないといけないことを忘れていた。
 
「そりゃ、ソルティさんにカンダの旦那に会いに行きたいと頼まれまして」
「そうか……」
 
 俺は別にソルティには村から出るなとは言った。
 ただ、それをベックが知っているわけもない。
 彼女が、約束を破るとは思っていなかった。
 いや、こいつを唆した奴が問題か……。
 それにしても香辛料とか言っていたな……。
 
「ベック、一つ聞きたいんだが――」
「何でしょう?」
「さっき、香辛料と言っていたが――」
「ああ、ソルティさんから色々ともらったので――」
「……ソルティ」
「――んっ。勘違いしないで。私は神田さんのものだから。体は許してないから安心して」
「いや、そういうので心配はしてないが――」
 
 俺は安易に香辛料を作り出したのか? と思っただけだが……。
 案内してきた兵士も居る手前、余計なことを聞くことも出来ないからな。
 
「――神田様」
 
 ソルティに何と問いかけていいか迷っていたのを、会話が一区切りついたと思ったのか兵士が話かけてきた。
 
「どうかしたのか?」
「はい。大まかな被害などもご理解頂けたと思いますので、そろそろ戻りましょうか?」
「そうだな――」
 
 そういえば、エルナとニードルス伯爵がどういう話をしたのかも気になる。
 あまり長い時間を、エルナ一人だけにしておくのも問題だろう。
 さすがにエルナに用事があったと言っていても、まだまだエルナは子供だからな。
 何か変なことに巻き込まれたりしたら、リルカに怒られそうだ。
 そう考えると早く帰ったほうがいいかもしれない。
 
「神田さん。何かあったんですか?」
「いや――、じつはリルカの妹のエルナがニードルス伯爵と対話しているんだが……」
「エルナって、あの腹ぐ――「神田様、そろそろ馬車に――」……」
 
 ソルティが何かを言いかけたがさすがに兵士をいつまでも待たせるわけには行かない。
 俺は兵士の言葉に頷くと馬車に乗る。
 
「ソルティ、ベック。俺はすぐに村に戻るから、先に戻っていてくれ。その際に、今後の話をしよう」
「了解ですぜ、旦那!」
 
 ベックが頷くのを確認すると同時に、馬車は走り出した。
 それと同時に「ここまで来て帰るなんて選択肢は存在しません! ベック! 神田さんの乗った馬車を追うのです! ハーリー、ハーリー」と言うソルティの声と、「ソルティさん、背中を叩かないでください」と言う声が聞こえてくる。
 
 窓から後ろを見ると、ベックの馬車が追いかけてきていた。
 どうやら、ソルティは帰るつもりはないようだな。
 それにしても、エルナは大丈夫だろうか?
 ニードルス伯爵に失礼なことをしていなければいんだが……。
 ニードルス伯爵と対話をした建物へ到着し俺は、首を傾げた。
 俺が、エルナと建物に来た時とは様子が違っていたからだ。
 
 馬車から降りた俺が、建物の周囲で待機しているメイドや兵士達に視線を向けながら考え込んでいると、「神田さん!」と、ソルティが俺の腕に抱きついてきた。
 ベックの方を振り向くと、彼は両手を擦り合わせて申し訳なさそうに頭を下げてくる。
 
 別に、ベックが悪いわけではない。
 彼も商人の端くれだから、ソルティが香辛料で買収することも十分に考えられたのを予測できなかった俺は悪い。
 
 ――それにしても、ベックとすれ違いになるとは相当ついてないと言っていい。
 
「ソルティ、離れてくれ」
「いやです!  神田さん、私は早く女神に復帰したいのです。早く子供を!」
「――おい……」
 
 こんな往来の道で、この駄女神は何を言っている?
 日本だったら、警察官に連れていかれる事案案件だぞ。
 俺は溜息混じりに「……少しは自重しろよな」と、周囲の兵士やメイドに聞こえないように語り掛ける。
するとソルティは「自重?」と、首を傾げてくる。





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