上 下
66 / 196

正妻戦争(16)エルナ VS 神田栄治

しおりを挟む
 私は思わず爪を噛み締める。
 計画では、私が正妻になるために全員を利用する予定だった。
 ――でも、その計画には山猫族と狼族、そして兎族と部下の兵士がお姉ちゃんを消耗させることが前提で。
 
「使えないやつらでしゅ――」
「「エルナしゃま?」」
「エルナ殿?」
「――何でもないでしゅ!」
 
 私は、すぐに取り繕う。
 お母様は言っていた。
 私たち獣人族は全員、神代文明人に作られたと――。
 そして神代文明人を好むように私たちは遺伝子に書き込まれていると。
 遺伝子という単語を、お母様に聞いたけど良く知らなかった。
 でも、神田栄治に出会った時に気がついてしまう。
 彼を見た時に、私の中に神田栄治を伴侶に! 子供が欲しいと体が思ってしまったから。
 だから、お腹が空いていたのもあるけど彼の姿を見たときに私は、幼子の真似をして近づいたのだ!
 
 お姉ちゃんが、神田栄治に気がつく前に森に行くと言って騙して遠回りして先に近づいた。
 ――なのに、神田栄治は私じゃなくておねえちゃんを選んだ。
  
「このままでは……」
 
 ――私は、爪を噛む。
 
 もともと私は、お母様の連れ子だった。
 そして、お姉ちゃんはお父様の連れ子。
 新しい父親は、狐族の部族の長になるために私のお父様を殺した。
 獣人では良くあることだった。
 でも、私は許せなかった。
 
 ――だって、いつもお母様が泣いていたから。
 
 それに……、新しく部族の長となった父親は、お姉ちゃんばかり可愛がっていた。
 部族の長に、相手にされない子供は、部族の中では迫害されるようになる。
 群れから出ていくようにとされたことだってある。
 それに私は、獣人が持っていない魔力を持っていたから、父親が守ってくれなかったからより一層立場は酷かった。
 お姉ちゃんは、私と同じで魔力を持っていたのに部族の長に守られているから、いつも笑っていた。
 そんなことが毎日続けば、憎くて仕方なくなる。
 
 ――そんなとき、お母様は教えてくれた。
 
 神代文明人を見つけて正妻になれたら全ての獣人を従えることが出来ると!
 私は、お母様の言葉に少しだけ希望を見出した。
 だって、お母様が教えてくれたから。
 神代文明人が、かなり前に大陸に現れたかも知れないと言っていたから。
 
 ――でも、部族の村からすぐに出ていくことはできなかった。
 何故なら、お姉ちゃんが私を庇ったから。
 自分が、憎む相手に庇ってもらう。
 それが、どれほど――、惨めだったものか……。
 
 ……でも、魔王が攻めてきて結局は部族の村から出ることを余儀なくされたけど――。
 でも、そこでも私はおねえちゃんと行動を共にしていた。
 
 だけど、私一人じゃ生きていけない。
 私は憎い相手――、リルカと行動を共にして――。
 
「お姉ちゃんは、私が欲しいと思ったものを全て奪っていく……」
「エルナ殿。お主の姉は、かなりの力を持っているのでは?」
 
 兎族の女が私に問いかけてくる。
 本当に、この女は役に立たない。
 
「「エルナしゃま! 私たちはどうしたら!」」
 
 狼族と山猫族の女達の心象を良くするために、小さな子供たちの面倒を見ていたけど、こうなったら使い道がない。
 むしろ邪魔にしかならない。
 きっと私が知らない力をリルカは持っている。
 
 その隠していた力――、それが可愛がられた理由で私を庇っていたのも自分よりも私が圧倒的に弱いと思っていたからに違いない。
 
「盾くらいには使えるでしゅか……」
「盾? どういうことだ?」
 
 私の一人ごとを聞きとがめた兎族の女が不審な表情で近づいてくる。
 
 ――その時。
 空気を切り裂いて何かが飛んでくる。
 それと同時に飛来してきた何かは、兎族の女が持っているランスを弾き飛ばしていた。
 辛うじて何かが飛んできた方向だけは見ることできたけど。
 
「――あれは……、一体――」
 
 そこには、お姉ちゃん――、リルカの姿があった。
 リルカは見たことがない杖を持っていて私をまっすぐに見てきた。
 おそらく……。
 あの杖が、私の知らないリルカの力――。
 
 私は込み上げてくる憎しみと共に、リルカへと怒りの眼差しを向けた。
 
 
 
  エルナと目が合った瞬間――、生存本能が、警鐘を鳴らしてきた。
 俺は、体全体で感じた感覚に逆らうことなくスナイパーライフルを投げ出して屋根の上から跳躍する。
 
 ――そして、隣の屋根上に飛び移ったと同時に、俺が先ほどまで立っていた屋根が吹き飛んだ。
 
「――マジか!?」
 
 思わず、声に出てしまっていた。
 先ほどまで立っていた建物の4割が消し飛んでいたからだ。
 
 すかさず生活魔法で双眼鏡を作りだしながらエルナの方を確認すると、エルナの体からは、金色の蒸気のようなものが吹き出ている。
 
さらに驚嘆するべきことは、エルナの掌底が吹き飛んだ建物の方へと向けられていたことだ。
 
「魔法でもなく、肉弾戦で離れている建物を吹き飛ばしたのか?」
 
 俺は、突っ込みどころのあるエルナの馬鹿げた身体能力に思わず突っ込みを入れていた。
 ダンジョン内のドラゴンですら、もう少し常識のある攻撃力を持っていたというのに、明らかにそれを遥かに凌駕する力を、エルナは俺に見せ付けてきた。







しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

フェロ紋なんてクソくらえ

BL / 完結 24h.ポイント:518pt お気に入り:388

【白銀の黒帝:1】最強のギルド隊長は、人に興味なし

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:145

子供を産めない妻はいらないようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:8,789pt お気に入り:276

淫乱お姉さん♂と甘々セックスするだけ

BL / 完結 24h.ポイント:1,194pt お気に入り:10

悪役令息レイナルド・リモナの華麗なる退場

BL / 連載中 24h.ポイント:3,280pt お気に入り:7,264

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:497pt お気に入り:2,707

処理中です...