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暖かい料理

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 ――王城と王宮の警護を行い3日が経過した。
 
 現在、俺は、ソルティとディアナの食事を城門前の広場で作っていた。
 台所で作るのもありではあったが、日が落ちる前に城内と王宮内を回って蝋燭に火を灯すという作業が重労働すぎて、あまり動きたくないというのが本音であった。
 
「ご主人様。今日、みんなは到着するにゃん?」
「ああ。そのはずだ。だよな? ソルティ」
「そのはずです。マスター」
「その割には――」
 
 俺は城壁上に跳躍し上ると外を確認する。
 城門の外には、王城を攻めようと王都民が集まっていた時よりも少なくはあったが、人の集まりが見える。
 ただし、その中には、獣人たちの姿は見受けられない。
 確認したあと、俺は高さ6メートル以上はある城壁から飛び降りる。
 
「やっぱり来てないぞ?」
「妾が確認してきます」
 
 俺の手製の砂糖をかけた棒巻きパンを口に入れて咀嚼したあと、ソルティが姿を消す。
 そして、すぐに戻ってくる。
 
「マスター。どうやら王都への出入りが規制されているようです。王都の人間ではない限り、王都へは入れないようです」
「なるほど。だからか……」
 
 どうせリムルの指示なのだろう。 
どうりで、王都内で好き勝手していたわけだ。
それよりも獣人族を王都に入れないと俺とディアナが過労で死んでしまう!
 
「ご主人様、どこにいくにゃん?」
 
 立ち会がり、寸胴鍋に作っていたスープを、小さ目の鍋に移していると、ディアナが話しかけてくる。
 
「王様に会ってくる。俺が英雄として承認されていると言っても、王都へ入るためには王家の承諾が必要になってくるはずだからな。それに、そろそろな……」
「ご主人様?」
「――いや、何でもない。それよりも、ディアナは城門の警護を頼む。ソルティ」
「はい。マスター」
「お前は、今から俺についてきてくれ」
「分かりました」
 
 俺は串に巻いて焼いた出来立ての棒巻きパンを3本と、温かいスープを手に取り国王陛下の寝室へと向かう。
 
 ――コンコン
 
「どうした? エイジ」
「もう俺のノックで、俺が分かるようになったのか」
「当たり前だ」
 
 向こうから返事があると同時に、寝室と廊下を隔てているドアを封印していた結界が解除される。
 
「ソルティ、ドアを開けてくれ」
 
 左手でスープの入った片手鍋を。
 右手で串巻きパンを3本もっていたので、ドアを開けるのはソルティに任せる。
 
「どうした? エイジ。この時間に尋ねてくるなんて――」
「――いや、ちょっと頼みがあってな」
「私に頼みか?」
「いや、お前に頼みとか無いから」
「じゃ、何だ? それに、その手に持っているのは……。料理か!?」
「まぁ、お前がまともに食事を作れないのは知っているからな。そろそろかなって思ってな」
「エイジって、そういう細かいところに気が利くよな」
「そんな期待しているような目を俺に向けてくるな」
 
 国王陛下の寝室のテーブルの上に串巻きパンと、スープの入った片手鍋を置きながら答える。
 
「――何か! いい匂いがするぞ!」
 
 カーテンから小走りで姿を見せた陛下。
 その姿を見せて――、やはり! と、俺は考える。
 ロランは、料理に関してはさっぱりだったからな。
 陛下が新鮮な食事だけで満足するのは数日くらいなのは想定内だった。
 
「これ、ロラン。用意をするのだ」
「はっ。陛下」
「それと、ソルティ様。起こし頂き恐縮です」
「先に妾に挨拶するよりもマスターに挨拶するのが筋なのだがな――。まあ、よい。マスターがメディデータに対して寛容になるようにと言っておったし、今回は大目に見るとしよう」
 
 とんでもなく上から目線で国王陛下に駄目だしをするソルティを横目で見ながら、俺は【生活魔法:火種】を発動し、片手鍋をしたから炎で炙り温める。
 十分温めたところで――、
 
「ロラン、お皿の用意はできたか?」
「ああ」
 
 テーブルの上にお皿を並べ終えたロランが親指を立ててドヤ顔を向けてくるが、お皿を見て俺は溜息をつく。
 お皿には、果汁などが残っていてカビが生えているモノもある。
 
「お前、少しは洗浄というかお皿を洗えよ」
「きちんとい洗っているぞ?」
「これは! 洗っているとは! 言わねーんだよ! ちょっと、これをもっていろ!」
 
 片手鍋をロランに渡した後、【生活魔法:水生成】により水を作り出して大き目のボールに水を注いだ後、追加で【生活魔法:火種】の魔法によりお湯にしたあと、お皿を洗う。
 もちろん石鹸も作り出した上で、手ぬぐいを使い粗い、新しい手ぬぐいで水気を取って皿を綺麗にしたあと――、
 
「ロラン、このお皿にスープを注いでくれ」
「任せておけ」
 
 そこでようやく、俺が作ったスープがお皿に注がれていく。
 その様子を陛下が椅子に座りキラキラとした目で見ている。
 
「もうよいか?」
「どうぞ」
 
 まぁ、あまり焦らしても心象も悪いだろうからな。
 
「うまい! うまいぞ! 久しぶりに旨い料理を食べたぞ!」
「料理は、温かい内に食べると美味しいですから」
「そうであるな。それよりも本当に旨い! メリアも生きていれば……」
 
 陛下が、涙声で呟く。
 そのメリア王女がリムルと一緒になって王都を破壊しようとしたとは言えないので、俺は黙って陛下の独白を聞き流すことにした。
 
 
 
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