人里離れた森の洋館 <兄弟愛編>

人血

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二人きりの茶会

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「はい。こちら加羅配達です。」
「あ。また配達を頼みたいんだ」

声を聴いて忘れていた記憶を思い出した。あの洋館の人だ。

「洋館に住んでいる人ですよね。またお届けに上がりますね」
「うん。よろしく頼むよ。時間はまた正午に。明日お願い」
「わかりました。」

俺はメモに書き。そのまま配達に行った。

翌日の正午ピッタリに洋館についた。

門をくぐると男は待ち構えていた。

「時間ぴったりだね。さすが。」
そう言い、荷物を玄関の靴置きに置いた
「時間あるかな。拓海君。」
「はい。ありますよ」
と言い男とともにリビングに行く。
男はまた奥に紅茶を沸かしにいった。
俺はその間周りにある本を見て回った。

<明治5年 産院記録>
<明治5年 各妊婦の身体的及び精神的変化>
<明治5年 胎児の可逆的変化についての所見>
<明治6年 流行病に感染した妊婦及び胎児への影響>
<西洋医学の妊婦及び胎児の取り扱いについて>・・・
と様々なカルテと外国語で書かれた論文集が並んである。
どれも俺にはわからない。弟ならわかるだろう。
あいつは医学系の大学出身だからな。

と流しながら見ていると気になる本があった。

<堕胎した胎児と母体への精神変容の治療についての実験的取り組み>

昔、ここは産院所で生まれる子もいれば、家庭的な理由で中絶して死して出てくる子もいる。
いくら、経済的に中絶しても母親は相当の精神的ショックもあるだろう。
ましてや今みたいに発達した医療技術もない時代だ。
中絶も並大抵の事じゃないだろう。
この時代はすべてが手取り足取りで行われていた。
俺は少し考えていると男が紅茶を手にしてやってきた。

「紅茶ができましたよ。あぁそこの本棚を見ていたのですね。確かに名誉なことですよ。
国のために産ませ増やせと行われていたので。しかし中絶する子もいる。
曾祖父も結構、それで悩んでいたらしいです。」
「この市にはここしか産院所はなかったのですか」
「はい。ここしか開設していませんでした。私の先祖が地主で当時高価だった医療道具をそろえれるのはうちしかなかったので」
「ですが今は立派な屋敷になっていますよね。いつ頃に改装したのですか」
「そうですね。改装したのは父の代の時ですかね。ですが奥はまだ当時の状態がありますよ手前だけ改装したので」
「よかったら奥もご覧になりますか?」
「え?いいのですか」
「ええ勿論。少し埃っぽいですが」
俺は男と一緒に奥に入っていった。

奥は確かに昔の病院だ。
手術台があり、奥にはベッドがある。

そして一番奥には鉄で出来た分厚い扉がある。

「この奥には何があるのですか?」
「この奥は物置部屋です。急患の患者が来た時にベッドなどをしまっているのです」
「あぁ成程。」

がしかしこれほど頑丈にするか?
物置部屋にしては大分厳重だ。

男と俺はもと来たほうへ踵を返した。

「ところで今日は弟君は一緒に来ていないのですか?」
「いえ。今日は別件でいません」
「そうですか。残念。弟君は面白い子ですね」
「はは。ありがとうございます」
リビングまで戻ってきた。

再びソファに座る。

「あ。そうだ。これからも配達を頼むから自己紹介をしなくちゃ。」
「だいぶ遅れたね。江藤と言います。以後お見知りおきを」
「あ。俺は加羅拓海です。」
「知っていますよ。だってシャツに書いてありますから」
「あ。すみません。」
「謝ることではありません」

俺は気まずかった。
が男はニコニコしている。

「貴方と弟君は、昔からここに住んでいるのですか?」
「いえ。俺ら家族は、各地を転々としながら住んでいました。」
「親父が40の時に脱サラして曾祖母の家で配送業をし始めてからこの地に住み始めました」
「そうでしたか。お父様もさぞ大変だったでしょう。確かあの時は氷河期世代で職もまともになかったはずですから」
「そうです。俺ら家族も親父が脱サラすると決めて大変でした。ですがちょうどその時地方で、配送業の仕事ならいけると思ったんでしょね」
「はは。お父様も先見の明があるようだ」
「話が変わりますが、貴方と弟君は大学を出ていますか?」
「俺は出ていません。あいつは医学系の大学を出ています。が何を思ったのか医者になるのを辞め、配送業の仕事を手伝いようになりました。
まったくとんだ親不孝者ですよ」
「そうでしたか。弟君は何故医者になるのを辞めたのですか」
「それがわからないんですよ。いくら聞いても濁すので」

男はそれからも俺たち家族のことを頻りに聞いてくる。

「紅茶が冷めましたね。今日はこれでお開きとしましょうか。楽しかったですよ。久しぶりに人と話せたので」
「この屋敷には一人で住んでいるのですか」
「いえ。ここには週に一度来るだけです。実はここをアトリエにしようかなと考えておりまして」
「なるほど。では俺も行きますね。毎度美味しい紅茶ありがとうございます」
「じゃあ。また」

と俺は丁寧にお辞儀をし車へと戻った。
スマホを見ると時間は16時を回っていた。
だが運転中もあの鉄の扉の事が頭から離れなかった。
家に帰宅し、風呂に入る。
風呂に入っている途中に弟が入ってきた。

「お兄、今日もあの洋館に配達に行ったの?」
「ああそうだ。いったがそれがどうした?」
「次、行くとき、俺一人で配達しにいてもいいかな?」
「ああいいぞ。お前なら本棚に書いていることがわかるだろう」
「本棚?。お兄、あのリビングに置いてある本棚を見たの?お兄にはわからなかったでしょ」
「うるせぇ!俺でも日本語で書かれている文献ならわかるわ。それと早く締めてくれ寒い」
「ごめん。すぐ閉めるね」

弟にはあの鉄の扉の事は教えなかった。どうせ教えたら要らぬことまで考えて、何かしでかすに違いない。

それから1か月。あの洋館の男から電話はなかった。

親父とお袋が金婚式でハワイに行きたいと言ってきた。
俺と弟は賛成した。別にダメな理由なんてない。二人いたら配送なんて回るからな。

それから2週間もの間二人はハワイにいった。
まさかこの二週間のことがあんな地獄になるなんて思いもしなかった。
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