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第四話
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「えーと……ここがこう、で……」
凛莉さんとの共同生活が始まって一週間が経った頃、ある程度のネタは手に入ったので私と凛莉さんが主人公とヒロインの百合ラブコメを書き始めていた。最初はどうなるかと思っていたけれど、書き始めてみると意外と書けるもので、私がモデルの美尾結梨と凛莉さんがモデルの里川立華は生き生きと動き回っていた。
「それにしても、こうして見ると私って結構凛莉さんからアプローチされてるんだなあ……」
実際に体験するとそれをどうにかするために必死になって気づかなかったけれど、凛莉さんは何かにつけて私にちょっかいをかけてきたり少しエッチな誘いをしてきたりしていた。照れながらとはいえ、それを何度も断られているのにそれにも負けずに何度も同じように誘ってくる辺り、凛莉さんはだいぶ私の事を気に入ってくれているのかもしれない。
「でも、やっぱりそういうのは難しいなあ……」
そういうのに耐性がないというのもあるけれど、私が性的な話題が苦手なのは小さい頃のちょっとしたトラウマも理由だったりする。だから凛莉さんからのそういう誘いには応えられないし、応えられる気がしない。
「でも、前には進まないとだよね……」
いつまでも囚われてばかりでもいられない。生きていく以上はそういう性的な話題から逃げられるわけはないし、逃げたってしょうがないと思ってる。この作品、『闇深ダウナーお姉さんを拾ったら深い愛に包まれた』こと『ふかふか』を通して私は成長しないといけないんだ。
「よし、続きをか――」
「美音、ちょっといいかい?」
部屋のドアを開けて凛莉さんが入ってくる。
「どうしましたか?」
「今日の夕飯の買い物に行こうと思ってね。なにかリクエストはあるかい?」
「そうですね……今日は結構書き進めたいと思うので、力が出るようにガッツリ食べたいかもしれないです」
「そしたらお肉メインがいいね。それじゃあちょっと行ってくるよ」
「はい、いってらっしゃい」
「いってきます」
凛莉さんは微笑みながら答えると、そのまま部屋のドアを閉める。凛莉さんは少しずつ姉御肌的な性質を取り戻しつつあるようだ。初対面の時のダウナー気味なのも人によってはいいんだろうけど、私は姉御肌な凛莉さんの方がいいとは思う。そういう人が特に好みというわけじゃないけれど。
「さて、それじゃあ書き進めようかな」
私はまた机に向かって書き始めた。私が描く世界で結梨と立華が生き生きと動いて私の目を楽しませる。でも、この『ふかふか』の最後についてはまだわからない。そこが不安とは言える。
「結梨と立華、そして私と凛莉さんの未来、か……」
百合ラブコメだから、結梨と立華はいずれはお互いに好き合い、幸せな未来を予感させながら終わっていくのがセオリーだ。でも、私達はどうなんだろう。同性愛というのは世界的に見れば珍しくはないのだろうし、サブカル的な目で見ればそれを好む人は数多くいる。けど、実際に私達が付き合い始めた場合、それに対して好奇の視線はやはり向けられるだろう。
「私はまだいいけど、凛莉さんがそれが原因で気を病んでしまったら……」
それがやっぱり不安だ。あんなに余裕のある様子しか見せてこない凛莉さんだけど、元を考えたらメンヘラ的な彼女からの束縛や暴力、そして相談していた友達との決別が理由で雨に一人濡れながら暗くなっていたのだ。それを考えたら私が見てきた凛莉さんはやはりまだ表面上でしかないのだ。
「……なんだか、悔しいな」
ポツリと溢れる声と目から流れる一筋の涙。私は凛莉さんをまだ理解しきれてないし、あのアプローチだって本当は凛莉さんが見せてくれている弱みの可能性だってある。それなのに、私はそれを拒んできていた。相手の気持ちも考えずにただ私がそういうのが苦手だというだけで。
「……だから、少しずつ凛莉さんのそういうのに応えてみよう。でも、何から始めていけばいいのかな……」
もちろん、行為に及ぶまではまだ出来ない。そもそも男性との交際すらまだだったのだから、そういう経験すら当然ない。そんな私がいきなりそういう事をしようとしても緊張やら何やらでまともに出来る気がしない。
「……私から抱きついてみる、とか?」
ハグなら挨拶の範疇だしそれならいいだろう。日に一回とかから始めて回数を増やすようにし、その後に手を繋ぐとかキスとかそういった事もしていけばいいはずだ。
「よし、凛莉さんが帰ってきたらおかえりなさいって言いながらやってみ――」
その時、机の上に置いていた携帯電話が震え出す。画面を見ると、そこには凛莉さんの名前が表示されていた。
「凛莉さんからだ。なんだろ……とりあえず出てみようかな」
突然の事に首を傾げながら私は携帯電話を手に取る。そして通話ボタンを押してから携帯電話を耳に当てた。
「もしもし……」
『あ、もしもし。ごめんなんだけど、いま時間ってあったかい?』
「はい、大丈夫ですけど……何かあったんですか?」
『実はさ、買い物しにスーパーまで来たはいいけど、財布を忘れてきたことに気づいてさ。戻るよりも美音に持ってきてもらって一緒に買い物をした方がいいと思ったんだ』
「お財布……部屋にありますか?」
部屋から出ながら聞く。
『ああ。机の上にあると思うよ』
「机の上……あ、ありました。これを持って近くのスーパーまで行けばいいんですね?」
『ああ、すまないね。けど、焦らなくていいからゆっくりおいでね』
「ありがとうございます。あ、それと……」
『ん?』
私の言葉に凛莉さんが疑問の声を上げる。
「少しずつでも応えられるようにしていきますからね」
『へえ?』
「とりあえず持っていくので待っててください」
『わかった。それじゃあまた後でね』
「はい、また後で」
凛莉さんとの電話を終えて私は部屋に戻ってから軽く着替える。春に近づいてきたとはいえ、まだ外は冷える。少しでもあたたかい格好をしていくのがいいだろう。
「私もお財布は持ったし、凛莉さんのお財布も持った。携帯電話もあるし……鍵もあるから大丈夫そうかな」
持ち物や戸締まりの確認を終え、私は玄関に向かう。焦るなとは言われたけれど、やはり早めに届けた方がいいだろう。
「よし、それじゃあいきますか」
少し気合いを入れてからドアを開けて外に出る。少し冷えた空気が手足を冷やしていくけれど、それでも防寒対策をしていたことでなんとか大丈夫そうだった。
「近くのスーパーといえばたぶんあそこ――」
「ちょっとアンタ!」
「え?」
突然声をかけられた事で驚きながらそちらに顔を向ける。そこには少し小柄で長い黒髪をツインテールにしていわゆる地雷系と言われるファッションに身を包んだ女性が立っていた。可愛らしい人ではあるけれど、そのくりくりとした目の奥には怒りの色が浮かんでいた。
「えーと……あなたは?」
「アンタ、リリーのなんなのよ」
「リリー……?」
「そうよ!」
地雷系ファッションの女性は腰に手を当てる。
「アタシは太刀川凛莉の元カノ! 来栖愛奈よ! 何者か答えなさい、この泥棒猫!」
凛莉さんとの共同生活が始まって一週間が経った頃、ある程度のネタは手に入ったので私と凛莉さんが主人公とヒロインの百合ラブコメを書き始めていた。最初はどうなるかと思っていたけれど、書き始めてみると意外と書けるもので、私がモデルの美尾結梨と凛莉さんがモデルの里川立華は生き生きと動き回っていた。
「それにしても、こうして見ると私って結構凛莉さんからアプローチされてるんだなあ……」
実際に体験するとそれをどうにかするために必死になって気づかなかったけれど、凛莉さんは何かにつけて私にちょっかいをかけてきたり少しエッチな誘いをしてきたりしていた。照れながらとはいえ、それを何度も断られているのにそれにも負けずに何度も同じように誘ってくる辺り、凛莉さんはだいぶ私の事を気に入ってくれているのかもしれない。
「でも、やっぱりそういうのは難しいなあ……」
そういうのに耐性がないというのもあるけれど、私が性的な話題が苦手なのは小さい頃のちょっとしたトラウマも理由だったりする。だから凛莉さんからのそういう誘いには応えられないし、応えられる気がしない。
「でも、前には進まないとだよね……」
いつまでも囚われてばかりでもいられない。生きていく以上はそういう性的な話題から逃げられるわけはないし、逃げたってしょうがないと思ってる。この作品、『闇深ダウナーお姉さんを拾ったら深い愛に包まれた』こと『ふかふか』を通して私は成長しないといけないんだ。
「よし、続きをか――」
「美音、ちょっといいかい?」
部屋のドアを開けて凛莉さんが入ってくる。
「どうしましたか?」
「今日の夕飯の買い物に行こうと思ってね。なにかリクエストはあるかい?」
「そうですね……今日は結構書き進めたいと思うので、力が出るようにガッツリ食べたいかもしれないです」
「そしたらお肉メインがいいね。それじゃあちょっと行ってくるよ」
「はい、いってらっしゃい」
「いってきます」
凛莉さんは微笑みながら答えると、そのまま部屋のドアを閉める。凛莉さんは少しずつ姉御肌的な性質を取り戻しつつあるようだ。初対面の時のダウナー気味なのも人によってはいいんだろうけど、私は姉御肌な凛莉さんの方がいいとは思う。そういう人が特に好みというわけじゃないけれど。
「さて、それじゃあ書き進めようかな」
私はまた机に向かって書き始めた。私が描く世界で結梨と立華が生き生きと動いて私の目を楽しませる。でも、この『ふかふか』の最後についてはまだわからない。そこが不安とは言える。
「結梨と立華、そして私と凛莉さんの未来、か……」
百合ラブコメだから、結梨と立華はいずれはお互いに好き合い、幸せな未来を予感させながら終わっていくのがセオリーだ。でも、私達はどうなんだろう。同性愛というのは世界的に見れば珍しくはないのだろうし、サブカル的な目で見ればそれを好む人は数多くいる。けど、実際に私達が付き合い始めた場合、それに対して好奇の視線はやはり向けられるだろう。
「私はまだいいけど、凛莉さんがそれが原因で気を病んでしまったら……」
それがやっぱり不安だ。あんなに余裕のある様子しか見せてこない凛莉さんだけど、元を考えたらメンヘラ的な彼女からの束縛や暴力、そして相談していた友達との決別が理由で雨に一人濡れながら暗くなっていたのだ。それを考えたら私が見てきた凛莉さんはやはりまだ表面上でしかないのだ。
「……なんだか、悔しいな」
ポツリと溢れる声と目から流れる一筋の涙。私は凛莉さんをまだ理解しきれてないし、あのアプローチだって本当は凛莉さんが見せてくれている弱みの可能性だってある。それなのに、私はそれを拒んできていた。相手の気持ちも考えずにただ私がそういうのが苦手だというだけで。
「……だから、少しずつ凛莉さんのそういうのに応えてみよう。でも、何から始めていけばいいのかな……」
もちろん、行為に及ぶまではまだ出来ない。そもそも男性との交際すらまだだったのだから、そういう経験すら当然ない。そんな私がいきなりそういう事をしようとしても緊張やら何やらでまともに出来る気がしない。
「……私から抱きついてみる、とか?」
ハグなら挨拶の範疇だしそれならいいだろう。日に一回とかから始めて回数を増やすようにし、その後に手を繋ぐとかキスとかそういった事もしていけばいいはずだ。
「よし、凛莉さんが帰ってきたらおかえりなさいって言いながらやってみ――」
その時、机の上に置いていた携帯電話が震え出す。画面を見ると、そこには凛莉さんの名前が表示されていた。
「凛莉さんからだ。なんだろ……とりあえず出てみようかな」
突然の事に首を傾げながら私は携帯電話を手に取る。そして通話ボタンを押してから携帯電話を耳に当てた。
「もしもし……」
『あ、もしもし。ごめんなんだけど、いま時間ってあったかい?』
「はい、大丈夫ですけど……何かあったんですか?」
『実はさ、買い物しにスーパーまで来たはいいけど、財布を忘れてきたことに気づいてさ。戻るよりも美音に持ってきてもらって一緒に買い物をした方がいいと思ったんだ』
「お財布……部屋にありますか?」
部屋から出ながら聞く。
『ああ。机の上にあると思うよ』
「机の上……あ、ありました。これを持って近くのスーパーまで行けばいいんですね?」
『ああ、すまないね。けど、焦らなくていいからゆっくりおいでね』
「ありがとうございます。あ、それと……」
『ん?』
私の言葉に凛莉さんが疑問の声を上げる。
「少しずつでも応えられるようにしていきますからね」
『へえ?』
「とりあえず持っていくので待っててください」
『わかった。それじゃあまた後でね』
「はい、また後で」
凛莉さんとの電話を終えて私は部屋に戻ってから軽く着替える。春に近づいてきたとはいえ、まだ外は冷える。少しでもあたたかい格好をしていくのがいいだろう。
「私もお財布は持ったし、凛莉さんのお財布も持った。携帯電話もあるし……鍵もあるから大丈夫そうかな」
持ち物や戸締まりの確認を終え、私は玄関に向かう。焦るなとは言われたけれど、やはり早めに届けた方がいいだろう。
「よし、それじゃあいきますか」
少し気合いを入れてからドアを開けて外に出る。少し冷えた空気が手足を冷やしていくけれど、それでも防寒対策をしていたことでなんとか大丈夫そうだった。
「近くのスーパーといえばたぶんあそこ――」
「ちょっとアンタ!」
「え?」
突然声をかけられた事で驚きながらそちらに顔を向ける。そこには少し小柄で長い黒髪をツインテールにしていわゆる地雷系と言われるファッションに身を包んだ女性が立っていた。可愛らしい人ではあるけれど、そのくりくりとした目の奥には怒りの色が浮かんでいた。
「えーと……あなたは?」
「アンタ、リリーのなんなのよ」
「リリー……?」
「そうよ!」
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