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第五話
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「来栖さん……凛莉さんの元カノ……」
「そうよ! リリーったらアタシの事を着拒してるからつけてたどこ行ったかと思って今日までずっと探してたの。そしたらこの家から出てくるのが見えて、待ち伏せしてたらアンタが出てきたわけ。それで、アンタはリリーのなんなのよ?」
「なにって……」
言うなれば同居人だろうか。けれど、それでこの来栖さんが納得してくれるとは思えないし、このまま着いてきかねない。だったら、すぐにでも諦めそうな事を言えばいいのかもしれない。
「私は……凛莉さんの今カノです」
「は、はあ!? リリー、アタシをほっといてこんな冴えな……」
来栖さんの言葉が止まる。どうしたのかと思っていると、来栖さんは私をジロジロ見始めた。
「な、なんですか?」
「アンタ……一見冴えない地味女子のようだけど、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでる辺りちゃんとスタイルはいいし、肌ツヤの良さや愛嬌を感じさせるその顔も合格点。短い黒髪のお手入れもしっかりとしてるようだし、服装もブルゾンの黒のジャケットに白のインナーやベージュのロングスカートって感じでまあ悪くない。ただ、アクセントとしてもう少し明るい色がほしいわね……ちゃんと診断してからがいいけど、イエベやブルベも考えてもう少しコーディネートをしたくなるだけの素質があるし……」
「え、えーと……?」
「ああ、アタシはこれでもアパレルショップの店員してて、お客さんのメイクやコーディネートの相談にも乗ってるのよ。だから、ダイヤの原石を見つけたらついついこうなっちゃうのよね」
「な、なるほど……」
凛莉さんから来栖さんがメンヘラで結構癇癪持ちだと聞いていたから身構えていたけれど、いつだってそうじゃなく仕事にも真面目な一面があるんだなと感じた。
「来栖さん」
「んー、愛奈でいいわ。どうせリリーの今カノっていうのはウソで、そう言えばアタシを追い返せると思ったんでしょ?」
「え……ま、まあそうですけど……」
「やっぱりね。一瞬驚いたしカッとはなったけど、どちらかと言えばリリーから色々ちょっかいかけられてる方なんじゃない? 認めるのは癪だけど、アンタみたいな子はリリーの好みだから」
「そう、なんだ……」
愛奈さんの言葉に驚くと同時に少しだけ嬉しさを感じた。
「愛奈さん、凛莉さんから癇癪持ちの件とかその……」
「メンヘラ?」
「は、はい……」
「まあ事実だから怒りはしないわよ。アタシもリリーと同じで恋愛対象がオンナで、好きな子が出来るとついつい後をつけたくなったりアタシだけを見ていてほしくなるの。さっき泥棒猫って言ったのも癇癪が爆発しかけた結果出た言葉よ。悪かったわね」
「あ、いえ……」
愛奈さんはきっと好きな相手が関わってこなければちゃんと冷静に話せる人で、世話好きな人なのかもしれない。もっとも、好きが爆発するとあまり良くないところも見えてしまうようだけれど。
「愛奈さん、凛莉さんと別れる事になったことをまだ認められないとかですか?」
「……正直そう。リリーはね、あの通りけっこう世話好きで、親身になって話を聞いてくれるし料理人だけあって料理も上手。頼れるアネゴ的な感じだから最初は警戒してたアタシもすぐに甘えたくなるようになったし、アタシの性質も理解した上でそれすらも愛してくれると思ってた。でも、リリーは結局それには耐えられなくなってアタシに別れると言ってからそのまま去っていった。だから許せないのよ。アタシの気持ちも聞かずにそのままいなくなるんだから」
「そんな事が……」
「アンタ、名前は?」
「由利美音、小説家です」
私の自己紹介に愛奈さんは少し驚いた様子を見せた。
「へー、作家先生なのね。そしたらリリーもお世話のしがいがあるって喜んでるんじゃない?」
「実際、今となっては家事全般をやってくれてます。今だって買い物に行ったけどお財布を忘れたとかで――」
「美音!」
その声にビクリとしながら顔を向ける。そこには手に買い物用のバッグを持って息を切らしている凛莉さんがいた。
「凛莉さん……」
「やっぱりアンタにわざわざ届けさせるのも悪いと思ってキャッシュレス決済で買い物終わらせて来たけど、まさか愛奈が来てたとはね……」
「リリー、会いたかったわよ。いきなり別れるなんて言っていなくなるんだから」
「そ、それは……」
凛莉さんの表情が暗くなる。まるで初めて会ったあの日のように。
「リリー、アンタに言いたい事があるの」
「な、なんだよ……」
「アタシはやっぱりリリーと別れたくない。リリーみたいにしっかりとアタシを見てくれた人はいなかったし、飲酒の回数やリスカの回数が減って少しずつ前に進めたのもリリーのお陰。そうじゃなきゃ、今ごろ酒と欲に溺れて身体も心もボロボロだった」
「愛奈……」
「でも、今のアンタにはその子がいる。アタシみたいにスレてなくてアンタを昔のアンタみたいにしてるその子が」
愛奈さんの目が私に向けられる。悔しさと悲しみ、そういった感情が渦巻いているその目は見ているこちらまで悲しくなるものであり、愛奈さん自身がやっぱり優しい人なんだと思わせるものだった。
「リリー、アンタと別れる分にはもういいわ。ただ、また友達として始めたい。恋人としてじゃなくてもアンタと一緒にまたお出掛けしたり話したりしたいから」
「愛奈……」
「……ダメ?」
愛奈さんの目が不安そうなものに変わる。その瞬間、私は愛奈さんの事を抱き締めていた。
「え……」
「美音……」
「愛奈さん、大丈夫ですよ。今の愛奈さんなら凛莉さんだって友達としてまた始めてくれるはずですから。そうですよね、凛莉さん」
「え、まあそれはいいけど……」
「ほんと!?」
愛奈さんの目が今度は嬉しさに満ちたものに変わる。愛奈さんはけっこう感情表現豊かな人みたいだ。
「正直アンタの事はまだ怖いし、すぐに美音から離したい気持ちはある。けど、アンタの事を怖がったままでいられるわけはないし、アタシだって前に進まないといけないのはわかってる。だから、アンタとまた友達になって少しずつこの怖さを無くしてく。そうすればきっとアンタとまた笑い合えるはずだから」
「リリー……」
愛奈さんの声が涙混じりになる。そんな愛奈さんの事を私は静かに抱き締める。
「よかったですね、愛奈さん」
「うん、うん……! ありがとう、リリー……ありがとう、美音……!」
「私はなにもしてないですよ。癇癪に負けずにしっかりと気持ちを伝えた愛奈さんの頑張りが生んだ結果ですよ」
「うっ……うわーん……!」
抱き締められながら愛奈さんが泣き始める。こういうところを見て凛莉さんは愛奈さんと付き合っていたんだと感じたけれど、その事に私は少しだけ胸が痛んだ気がした。何故なのかはわからないけれど。
「美音」
凛莉さんが心配そうな顔をしながら近づいてくる。そんな凛莉さんを見ながら私は静かに笑った。
「凛莉さんも頑張りましたね。怖さから逃げなかったから愛奈さんとまた話せるようになったわけですし、本当にすごいと思います」
「ああ、ありがとうね」
「どういたしまして」
また微笑んでくれた凛莉さんの顔を見て私も笑いながら私は愛奈さんが泣き止むまでその身体を抱き締め続けた。
「そうよ! リリーったらアタシの事を着拒してるからつけてたどこ行ったかと思って今日までずっと探してたの。そしたらこの家から出てくるのが見えて、待ち伏せしてたらアンタが出てきたわけ。それで、アンタはリリーのなんなのよ?」
「なにって……」
言うなれば同居人だろうか。けれど、それでこの来栖さんが納得してくれるとは思えないし、このまま着いてきかねない。だったら、すぐにでも諦めそうな事を言えばいいのかもしれない。
「私は……凛莉さんの今カノです」
「は、はあ!? リリー、アタシをほっといてこんな冴えな……」
来栖さんの言葉が止まる。どうしたのかと思っていると、来栖さんは私をジロジロ見始めた。
「な、なんですか?」
「アンタ……一見冴えない地味女子のようだけど、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでる辺りちゃんとスタイルはいいし、肌ツヤの良さや愛嬌を感じさせるその顔も合格点。短い黒髪のお手入れもしっかりとしてるようだし、服装もブルゾンの黒のジャケットに白のインナーやベージュのロングスカートって感じでまあ悪くない。ただ、アクセントとしてもう少し明るい色がほしいわね……ちゃんと診断してからがいいけど、イエベやブルベも考えてもう少しコーディネートをしたくなるだけの素質があるし……」
「え、えーと……?」
「ああ、アタシはこれでもアパレルショップの店員してて、お客さんのメイクやコーディネートの相談にも乗ってるのよ。だから、ダイヤの原石を見つけたらついついこうなっちゃうのよね」
「な、なるほど……」
凛莉さんから来栖さんがメンヘラで結構癇癪持ちだと聞いていたから身構えていたけれど、いつだってそうじゃなく仕事にも真面目な一面があるんだなと感じた。
「来栖さん」
「んー、愛奈でいいわ。どうせリリーの今カノっていうのはウソで、そう言えばアタシを追い返せると思ったんでしょ?」
「え……ま、まあそうですけど……」
「やっぱりね。一瞬驚いたしカッとはなったけど、どちらかと言えばリリーから色々ちょっかいかけられてる方なんじゃない? 認めるのは癪だけど、アンタみたいな子はリリーの好みだから」
「そう、なんだ……」
愛奈さんの言葉に驚くと同時に少しだけ嬉しさを感じた。
「愛奈さん、凛莉さんから癇癪持ちの件とかその……」
「メンヘラ?」
「は、はい……」
「まあ事実だから怒りはしないわよ。アタシもリリーと同じで恋愛対象がオンナで、好きな子が出来るとついつい後をつけたくなったりアタシだけを見ていてほしくなるの。さっき泥棒猫って言ったのも癇癪が爆発しかけた結果出た言葉よ。悪かったわね」
「あ、いえ……」
愛奈さんはきっと好きな相手が関わってこなければちゃんと冷静に話せる人で、世話好きな人なのかもしれない。もっとも、好きが爆発するとあまり良くないところも見えてしまうようだけれど。
「愛奈さん、凛莉さんと別れる事になったことをまだ認められないとかですか?」
「……正直そう。リリーはね、あの通りけっこう世話好きで、親身になって話を聞いてくれるし料理人だけあって料理も上手。頼れるアネゴ的な感じだから最初は警戒してたアタシもすぐに甘えたくなるようになったし、アタシの性質も理解した上でそれすらも愛してくれると思ってた。でも、リリーは結局それには耐えられなくなってアタシに別れると言ってからそのまま去っていった。だから許せないのよ。アタシの気持ちも聞かずにそのままいなくなるんだから」
「そんな事が……」
「アンタ、名前は?」
「由利美音、小説家です」
私の自己紹介に愛奈さんは少し驚いた様子を見せた。
「へー、作家先生なのね。そしたらリリーもお世話のしがいがあるって喜んでるんじゃない?」
「実際、今となっては家事全般をやってくれてます。今だって買い物に行ったけどお財布を忘れたとかで――」
「美音!」
その声にビクリとしながら顔を向ける。そこには手に買い物用のバッグを持って息を切らしている凛莉さんがいた。
「凛莉さん……」
「やっぱりアンタにわざわざ届けさせるのも悪いと思ってキャッシュレス決済で買い物終わらせて来たけど、まさか愛奈が来てたとはね……」
「リリー、会いたかったわよ。いきなり別れるなんて言っていなくなるんだから」
「そ、それは……」
凛莉さんの表情が暗くなる。まるで初めて会ったあの日のように。
「リリー、アンタに言いたい事があるの」
「な、なんだよ……」
「アタシはやっぱりリリーと別れたくない。リリーみたいにしっかりとアタシを見てくれた人はいなかったし、飲酒の回数やリスカの回数が減って少しずつ前に進めたのもリリーのお陰。そうじゃなきゃ、今ごろ酒と欲に溺れて身体も心もボロボロだった」
「愛奈……」
「でも、今のアンタにはその子がいる。アタシみたいにスレてなくてアンタを昔のアンタみたいにしてるその子が」
愛奈さんの目が私に向けられる。悔しさと悲しみ、そういった感情が渦巻いているその目は見ているこちらまで悲しくなるものであり、愛奈さん自身がやっぱり優しい人なんだと思わせるものだった。
「リリー、アンタと別れる分にはもういいわ。ただ、また友達として始めたい。恋人としてじゃなくてもアンタと一緒にまたお出掛けしたり話したりしたいから」
「愛奈……」
「……ダメ?」
愛奈さんの目が不安そうなものに変わる。その瞬間、私は愛奈さんの事を抱き締めていた。
「え……」
「美音……」
「愛奈さん、大丈夫ですよ。今の愛奈さんなら凛莉さんだって友達としてまた始めてくれるはずですから。そうですよね、凛莉さん」
「え、まあそれはいいけど……」
「ほんと!?」
愛奈さんの目が今度は嬉しさに満ちたものに変わる。愛奈さんはけっこう感情表現豊かな人みたいだ。
「正直アンタの事はまだ怖いし、すぐに美音から離したい気持ちはある。けど、アンタの事を怖がったままでいられるわけはないし、アタシだって前に進まないといけないのはわかってる。だから、アンタとまた友達になって少しずつこの怖さを無くしてく。そうすればきっとアンタとまた笑い合えるはずだから」
「リリー……」
愛奈さんの声が涙混じりになる。そんな愛奈さんの事を私は静かに抱き締める。
「よかったですね、愛奈さん」
「うん、うん……! ありがとう、リリー……ありがとう、美音……!」
「私はなにもしてないですよ。癇癪に負けずにしっかりと気持ちを伝えた愛奈さんの頑張りが生んだ結果ですよ」
「うっ……うわーん……!」
抱き締められながら愛奈さんが泣き始める。こういうところを見て凛莉さんは愛奈さんと付き合っていたんだと感じたけれど、その事に私は少しだけ胸が痛んだ気がした。何故なのかはわからないけれど。
「美音」
凛莉さんが心配そうな顔をしながら近づいてくる。そんな凛莉さんを見ながら私は静かに笑った。
「凛莉さんも頑張りましたね。怖さから逃げなかったから愛奈さんとまた話せるようになったわけですし、本当にすごいと思います」
「ああ、ありがとうね」
「どういたしまして」
また微笑んでくれた凛莉さんの顔を見て私も笑いながら私は愛奈さんが泣き止むまでその身体を抱き締め続けた。
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