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第七話
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「……よし、やっぱりもう少しだけ頑張ろう」
ある日、私は『ふかふか』の執筆をしていた。立華への恋心に気づいた結梨の心の揺れを描きながら少しずつアプローチをし始めるもののそれが失敗に終わってその度に立華にからかわれるといったコメディ展開を書けるようになった事で筆の進みが少しずつよくなっていた。
「愛奈さんからも面白いし色々笑っちゃうって言われたし、塔子さんもいい感じだって言ってくれた。それに、凛莉さんも……」
その瞬間に凛莉さんに対して生まれた恋心がまたうずいた。一週間ほど前に凛莉さんへの想いを確認した事で私は作中の結梨のようには出来ないまでも少しずつボディタッチをしてみたり少し意味深な視線を向けてみたりしていた。もっとも、凛莉さんは私の気持ちには気づいていない。でも、気づかれなくてもいいのだ。それは私の言葉で伝えたいのだから。
「うーん……でもそろそろ新しいキャラが欲しいところかな。このままじゃどこか冗長って感じだし……」
執筆中、私はそんな事を思った。『ふかふか』は別にそんなに多くのキャラクターを必要としてる作品でもないから私と凛莉さんと愛奈さん、そして塔子さんをモデルにしたキャラクター達だけでも十分話は進められるし、変に多くしても逆に扱いきれなくなってやりづらさを感じてしまう。ただ、もう一人くらい、それも愛実のように立華に関係するキャラクターがいればそこの仲良さそうな関係性を見せつけてより結梨をやきもきさせて立華との距離を縮めさせる事にも繋がるからどうにかして新キャラを出していきたいところだ。
「でも、あくまでも『ふかふか』は私達の身の周りで起きた事を脚色を加えて小説にしてるもの。だから、その新キャラも凛莉さんの実在の知り合いをモデルにしたいんだよなあ……」
とはいえ、ピンと来る知り合いなんていうのはいない。共通の友達と言うなら愛奈さんで共通の知り合いとなると塔子さんになる。そもそも凛莉さん自身も友達はそんなに多くないと言っていたし、凛莉さんが誰かに連絡しているところを見たことがない。
「んー……誰かいないかな。それかそこだけオリジナルキャラにしてしまってもいいのかもだけど……」
新キャラ候補について悩んでいたその時、ノックと同時に凛莉さんが部屋に入ってきた。
「美音、そろそろお昼ごはんだよ。すぐに準備しちゃうからリビングまで来てくれるかい?」
「あ、はーい。凛莉さん、今日はお昼ごはんはなんですか?」
「ふふ、今日は――」
その時、凛莉さんの携帯電話がブルブル震え出し、私達の視線はそちらに注がれた。
「ん、誰だろ……」
「愛奈さんですかね?」
「その場合は連絡せずに来るでしょ。まあでも、着拒も解除したしアタシに連絡してくるのもあり得……」
言いながら携帯の画面を見た凛莉さんの顔がとても暗いものに変わる。どうやら電話の主は凛莉さんにとってあまり望ましくない相手のようだ。
「出なくていいんですか?」
「……いや、出るよ」
凛莉さんの表情もそうだけど、声もどこか暗い。電話の主はよほどの相手なのだろうか。凛莉さんが電話に出る中、そう考えた私は聞かないようにするために外に出ようとした。けれど、その手を凛莉さんの手が掴み、ここにいて欲しいと目で訴えてきた。
「凛莉さん……」
その寂しげで辛そうな目を見て断れるわけはなかった。私は何も言わずに頷いてから椅子に戻り、凛莉さんは電話を続けた。
「ああ……うん、アタシこそごめん」
相槌を打ちながら話す凛莉さんの様子と内容から私は電話の相手に察しがついた。あの日、無くしたと言っていた友達なのだろう。
「……え、今から?」
凛莉さんの目が大きく開く。どうやら電話の主は今から会いたいみたいだ。
「えーと、それは……」
凛莉さんがちらりと私を見てくる。それに対して私は微笑みながら頷き、ここに呼んでもいいですよと言う代わりに床を指差した。それに凛莉さんは驚いたものの、ありがたそうに頷いた後にここの住所を口にし始めた。そして電話を終えると、凛莉さんは私を見ながら申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「すまないね、美音。ただでさえ一緒にいてもらったのに」
「大丈夫ですよ。相手は……もしかしてあの日に無くしたって言ってた友達ですか?」
「ああ。愛奈との関係について色々アドバイスしてくれたり相談に乗ってくれたりしてたんだけど、あの日のアタシのメンタルは結構参ってたから別れた事を言う前にアイツの事を一方的に責めちまったのさ。そしたらケンカになって絶交だと言われたんだけど、さっきアイツの方から謝られてね。アタシの方が悪いってのにさ」
「けど、それは仕方ないと思いますよ。その人は無事に来られそうですか?」
「大丈夫だと思うけど……近いところまで来たら連絡してくれるはずだから、その時には迎えに行くよ。アイツとの関係は大事にしたかったからね」
微笑みながら言う凛莉さんの姿に私の胸の奥はズキンと痛む。凛莉さんにだって大切にしたい人はいるし、誰かと友達になるのは別に構わない。けれど、それでもやっぱりどこか辛い。その人よりも私を見て欲しいとすら思ってしまう。
「とりあえずおもてなしの準備しないと……なにか好きな物とかあるんですか?」
「んー……まあ、コーヒーが好きな奴なのは間違いないよ。菓子以外にもコーヒーを併せたがるくらいにコーヒーが好きで、自分でも淹れるくらいに凝ってるよ」
「そんな人に対してコーヒーを淹れるのは結構ハードルが高いですね」
苦笑いしながら言うと、凛莉さんはニッと笑いながら首を横に振る。
「そんな気張らなくてもいいよ。美音が淹れるコーヒーの味はアタシが保証するからね」
「凛莉さん……はい、ありがとうございます」
「どういたしまして。さーて、早速準備していくかね」
「はい」
凛莉さんの言葉に答えてから私達は準備を始める。食べようとしていたお昼ごはんは後で食べることにしてラップをかけ、私は凛莉さんと協力しながらコーヒーやお茶菓子の準備を進めた。そしてそれから30分くらいが経った頃、凛莉さんの携帯が震え出した。
「ん……ああ、アイツからだね。そしたら迎えに行ってくるよ」
「わかりました。いってらっしゃい」
「いってきます」
一緒に住み始めてから何度となく繰り返されてきたこのやり取り。でも、凛莉さんへの恋心が私の中に芽生えてからはそれすらも楽しみになっていた。そして凛莉さんが迎えに行った後、私は準備を進めた。そしてそれから十数分後、玄関のドアが開く音が聞こえて私は玄関に向かった。
「でも、どんな人なんだろ……」
少しのワクワクと不安が入り交じる中で私は玄関に着いた。すると、そこには凛莉さんの他に短い茶髪が爽やかで見るからに明るそうな雰囲気の女性が立っていて、まだ少し肌寒い気温の中なのにその人は腕や足を出すような服装をしていてその素肌のハリや雰囲気が眩しく感じた。
「おかえりなさい、凛莉さん。その人がさっきの電話の……」
「ただいま。ああ、そうだよ。ほら、この子がさっき説明したここに住まわせてくれてる由利美音だよ」
「あ、この子がそうなんだ!」
その人は明るい笑顔を浮かべると、感じのよさそうな笑顔のままで少し幼さを感じる声で話し始めた。
「私は大竹友美! 美音ちゃん、よろしくね!」
ある日、私は『ふかふか』の執筆をしていた。立華への恋心に気づいた結梨の心の揺れを描きながら少しずつアプローチをし始めるもののそれが失敗に終わってその度に立華にからかわれるといったコメディ展開を書けるようになった事で筆の進みが少しずつよくなっていた。
「愛奈さんからも面白いし色々笑っちゃうって言われたし、塔子さんもいい感じだって言ってくれた。それに、凛莉さんも……」
その瞬間に凛莉さんに対して生まれた恋心がまたうずいた。一週間ほど前に凛莉さんへの想いを確認した事で私は作中の結梨のようには出来ないまでも少しずつボディタッチをしてみたり少し意味深な視線を向けてみたりしていた。もっとも、凛莉さんは私の気持ちには気づいていない。でも、気づかれなくてもいいのだ。それは私の言葉で伝えたいのだから。
「うーん……でもそろそろ新しいキャラが欲しいところかな。このままじゃどこか冗長って感じだし……」
執筆中、私はそんな事を思った。『ふかふか』は別にそんなに多くのキャラクターを必要としてる作品でもないから私と凛莉さんと愛奈さん、そして塔子さんをモデルにしたキャラクター達だけでも十分話は進められるし、変に多くしても逆に扱いきれなくなってやりづらさを感じてしまう。ただ、もう一人くらい、それも愛実のように立華に関係するキャラクターがいればそこの仲良さそうな関係性を見せつけてより結梨をやきもきさせて立華との距離を縮めさせる事にも繋がるからどうにかして新キャラを出していきたいところだ。
「でも、あくまでも『ふかふか』は私達の身の周りで起きた事を脚色を加えて小説にしてるもの。だから、その新キャラも凛莉さんの実在の知り合いをモデルにしたいんだよなあ……」
とはいえ、ピンと来る知り合いなんていうのはいない。共通の友達と言うなら愛奈さんで共通の知り合いとなると塔子さんになる。そもそも凛莉さん自身も友達はそんなに多くないと言っていたし、凛莉さんが誰かに連絡しているところを見たことがない。
「んー……誰かいないかな。それかそこだけオリジナルキャラにしてしまってもいいのかもだけど……」
新キャラ候補について悩んでいたその時、ノックと同時に凛莉さんが部屋に入ってきた。
「美音、そろそろお昼ごはんだよ。すぐに準備しちゃうからリビングまで来てくれるかい?」
「あ、はーい。凛莉さん、今日はお昼ごはんはなんですか?」
「ふふ、今日は――」
その時、凛莉さんの携帯電話がブルブル震え出し、私達の視線はそちらに注がれた。
「ん、誰だろ……」
「愛奈さんですかね?」
「その場合は連絡せずに来るでしょ。まあでも、着拒も解除したしアタシに連絡してくるのもあり得……」
言いながら携帯の画面を見た凛莉さんの顔がとても暗いものに変わる。どうやら電話の主は凛莉さんにとってあまり望ましくない相手のようだ。
「出なくていいんですか?」
「……いや、出るよ」
凛莉さんの表情もそうだけど、声もどこか暗い。電話の主はよほどの相手なのだろうか。凛莉さんが電話に出る中、そう考えた私は聞かないようにするために外に出ようとした。けれど、その手を凛莉さんの手が掴み、ここにいて欲しいと目で訴えてきた。
「凛莉さん……」
その寂しげで辛そうな目を見て断れるわけはなかった。私は何も言わずに頷いてから椅子に戻り、凛莉さんは電話を続けた。
「ああ……うん、アタシこそごめん」
相槌を打ちながら話す凛莉さんの様子と内容から私は電話の相手に察しがついた。あの日、無くしたと言っていた友達なのだろう。
「……え、今から?」
凛莉さんの目が大きく開く。どうやら電話の主は今から会いたいみたいだ。
「えーと、それは……」
凛莉さんがちらりと私を見てくる。それに対して私は微笑みながら頷き、ここに呼んでもいいですよと言う代わりに床を指差した。それに凛莉さんは驚いたものの、ありがたそうに頷いた後にここの住所を口にし始めた。そして電話を終えると、凛莉さんは私を見ながら申し訳なさそうに頭を下げてきた。
「すまないね、美音。ただでさえ一緒にいてもらったのに」
「大丈夫ですよ。相手は……もしかしてあの日に無くしたって言ってた友達ですか?」
「ああ。愛奈との関係について色々アドバイスしてくれたり相談に乗ってくれたりしてたんだけど、あの日のアタシのメンタルは結構参ってたから別れた事を言う前にアイツの事を一方的に責めちまったのさ。そしたらケンカになって絶交だと言われたんだけど、さっきアイツの方から謝られてね。アタシの方が悪いってのにさ」
「けど、それは仕方ないと思いますよ。その人は無事に来られそうですか?」
「大丈夫だと思うけど……近いところまで来たら連絡してくれるはずだから、その時には迎えに行くよ。アイツとの関係は大事にしたかったからね」
微笑みながら言う凛莉さんの姿に私の胸の奥はズキンと痛む。凛莉さんにだって大切にしたい人はいるし、誰かと友達になるのは別に構わない。けれど、それでもやっぱりどこか辛い。その人よりも私を見て欲しいとすら思ってしまう。
「とりあえずおもてなしの準備しないと……なにか好きな物とかあるんですか?」
「んー……まあ、コーヒーが好きな奴なのは間違いないよ。菓子以外にもコーヒーを併せたがるくらいにコーヒーが好きで、自分でも淹れるくらいに凝ってるよ」
「そんな人に対してコーヒーを淹れるのは結構ハードルが高いですね」
苦笑いしながら言うと、凛莉さんはニッと笑いながら首を横に振る。
「そんな気張らなくてもいいよ。美音が淹れるコーヒーの味はアタシが保証するからね」
「凛莉さん……はい、ありがとうございます」
「どういたしまして。さーて、早速準備していくかね」
「はい」
凛莉さんの言葉に答えてから私達は準備を始める。食べようとしていたお昼ごはんは後で食べることにしてラップをかけ、私は凛莉さんと協力しながらコーヒーやお茶菓子の準備を進めた。そしてそれから30分くらいが経った頃、凛莉さんの携帯が震え出した。
「ん……ああ、アイツからだね。そしたら迎えに行ってくるよ」
「わかりました。いってらっしゃい」
「いってきます」
一緒に住み始めてから何度となく繰り返されてきたこのやり取り。でも、凛莉さんへの恋心が私の中に芽生えてからはそれすらも楽しみになっていた。そして凛莉さんが迎えに行った後、私は準備を進めた。そしてそれから十数分後、玄関のドアが開く音が聞こえて私は玄関に向かった。
「でも、どんな人なんだろ……」
少しのワクワクと不安が入り交じる中で私は玄関に着いた。すると、そこには凛莉さんの他に短い茶髪が爽やかで見るからに明るそうな雰囲気の女性が立っていて、まだ少し肌寒い気温の中なのにその人は腕や足を出すような服装をしていてその素肌のハリや雰囲気が眩しく感じた。
「おかえりなさい、凛莉さん。その人がさっきの電話の……」
「ただいま。ああ、そうだよ。ほら、この子がさっき説明したここに住まわせてくれてる由利美音だよ」
「あ、この子がそうなんだ!」
その人は明るい笑顔を浮かべると、感じのよさそうな笑顔のままで少し幼さを感じる声で話し始めた。
「私は大竹友美! 美音ちゃん、よろしくね!」
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