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第十一話
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「うわあ……」
「こんなところでアタシ達これから編集長さんに会うんだねえ……」
数日後、私達は一軒のレストランの前に立っていた。そこはなかなか高級そうなところで、普段からそういうところに行かない私にとって緊張するばかりだった。
「太子編集長曰く、せっかくなら会食という形にしたいからとのことです。事前にお知らせしたようにドレスコードなどはない場所なので気楽にしていて問題はないですよ」
「それはそうかもしれないですけど、それでも緊張はするような……」
「まあねえ。ただまあ、緊張しなくていいって言うなら、その言葉通り気楽にいかせてもらおうかね。変に緊張してると、いらない失敗だってしかねないからね」
「それはたしかに……」
「それについては同意ですね。ではいきましょうか」
それに頷いた後、私達はレストランの中に向けて歩き始めた。中に入ってみると、そこは外観と同じくらい豪華そうなところであり、ドレスコードがないというのが信じられないくらいだった。
「中まで豪華……」
「アタシも色々な場所で働いたことあるけど、こんなところで働いた経験は流石にないね」
「そういえば、凛莉さんは料理人でしたね」
「ああ。働いてたところは少し前に辞めちゃったけど、また近い内にどこか見つけないとだ。美音にばかり働かせるわけにはいかないからね」
「ゆっくりでいいですからね。それで、太子編集長は……」
私が店内を軽く見回して太子編集長を探そうとした時、ホールに立っていた店員さんが私達に近づいてきた。
「いらっしゃいませ。ご予約の方ですか?」
「太子で予約していた者です」
「太子様ですね、お待ちしておりました。それではこちらにどうぞ」
その案内に従って私達は歩き始める。その先にはスーツ姿の太子編集長ともう一人知らない男性が座っていた。
「太子編集長、お待たせいたしました」
「いえ、私達もいま来たところよ。由利さんのお隣にいらっしゃるのが太刀川凛莉さんね」
「初めまして、太刀川凛莉です。今は美音の家に住まわせてもらいながら家事を請け負っています」
「太子衣瑠です。こっちは息子の恋斗です」
「初めまして」
恋斗さんは立ち上がると丁寧に一礼した。ただ不思議なことに初めましてのはずなのに恋斗さんの事を知っている気がしたのだ。もっとも、どこで会ったかはわからないけれど。
「とりあえず座って。例の作品も気になるけれど、由利さんの今の生活の様子も気になっていたから」
「わかりました」
私達は椅子に座った。そして店員さんに幾つか注文をした後、太子編集長は静かに微笑んだ。
「さて、まずは何から聞こうかしら」
「そういえば、生活の事が気になっていたと言っていましたけど、太子さんはだいぶ美音の事を気にかけているみたいですね。」
「まあそうね。編集長が一人の作家ばかりを目にかけるのはよくないと思うけれど、由利さんの事はどうにもほっとけないのよね。まあ他の作家が私に反発してよそに行ったり作品をボツにされた新人がネット上で騒いだりする中でもあなたは負けじと頑張ってきた。だから私も応援したくなるのよ。あなたの作家生活だけじゃなく日々の生活もね」
「太子編集長……」
太子編集長のその言葉はとても身に染みた。たしかに編集長が一人の作家の肩ばかりを持つのはよくないのかもしれないけれど、太子編集長は私の努力を認めてくれた上で色々な面を応援してくれようとしている。その事はとても嬉しかったのだ。
「ありがとうございます、太子編集長」
「どういたしまして。でも、作品のチェックは手を抜かないからね。あなたの作品、ボツにして来たものは多いけど、何だかんだで好きなものが多かったからこそより厳しく見てきたつもりだし」
「それじゃあ早速読んでみますか?」
「そうね。そうしようかしら」
私は頷いた後、『ふかふか』のデータが入ったUSBメモリを出し、太子編集長はそれを受け取ってから内容を読み始めた。
「ふむふむ、なるほど……」
「どうですか?」
「いい出来だと思う。恋愛に重きを置きながらもしっかりとしたコメディ要素もあるし、時にはシリアス展開もあって一気に引き締まる感じがする。これで本当に完結?」
「あ、はい」
「ふむ……」
太子編集長が考え込む。何かよくなかったんだろうか。そんなことを考えていた時、恋斗さんが少し不安そうな顔で話しかけてきた。
「あの、由利さん……」
「はい、なんですか?」
「僕のこと、覚えてませんか?」
「え?」
それを聞いて私は驚く。たしかに初めましてのはずなのに知っている気はしたけれど、まさか本当にどこかで会った事があるのだろうか。
「初めましてだと思ってましたけど、もしかしてどこかでお会いしたことありました?」
「ええ、まあ……正確には小学生の頃なんですけど……」
「小学生の時……」
私は記憶の網を手繰る。けれど、太子という名字はクラスメートにはいなかったと思う。
「太子という名字はクラスメートや同じ学校で聞いたことないと思いますけど……」
「あの時は名字が違いましたからね。では、武蔵野だとどうですか?」
「武蔵野……ああ、それなら覚えがありま……」
その瞬間、私はハッとした。ここに太子編集長の息子さんがいる理由、そしてこの人が誰なのかを。
「もしかして、武蔵野恋斗君……なの?」
「はい。久しぶりですね、由利美音さん」
私のトラウマの元凶と言ってもいい武蔵野恋斗君がそこにはいて、あの頃と変わらない笑みを浮かべていた。
「こんなところでアタシ達これから編集長さんに会うんだねえ……」
数日後、私達は一軒のレストランの前に立っていた。そこはなかなか高級そうなところで、普段からそういうところに行かない私にとって緊張するばかりだった。
「太子編集長曰く、せっかくなら会食という形にしたいからとのことです。事前にお知らせしたようにドレスコードなどはない場所なので気楽にしていて問題はないですよ」
「それはそうかもしれないですけど、それでも緊張はするような……」
「まあねえ。ただまあ、緊張しなくていいって言うなら、その言葉通り気楽にいかせてもらおうかね。変に緊張してると、いらない失敗だってしかねないからね」
「それはたしかに……」
「それについては同意ですね。ではいきましょうか」
それに頷いた後、私達はレストランの中に向けて歩き始めた。中に入ってみると、そこは外観と同じくらい豪華そうなところであり、ドレスコードがないというのが信じられないくらいだった。
「中まで豪華……」
「アタシも色々な場所で働いたことあるけど、こんなところで働いた経験は流石にないね」
「そういえば、凛莉さんは料理人でしたね」
「ああ。働いてたところは少し前に辞めちゃったけど、また近い内にどこか見つけないとだ。美音にばかり働かせるわけにはいかないからね」
「ゆっくりでいいですからね。それで、太子編集長は……」
私が店内を軽く見回して太子編集長を探そうとした時、ホールに立っていた店員さんが私達に近づいてきた。
「いらっしゃいませ。ご予約の方ですか?」
「太子で予約していた者です」
「太子様ですね、お待ちしておりました。それではこちらにどうぞ」
その案内に従って私達は歩き始める。その先にはスーツ姿の太子編集長ともう一人知らない男性が座っていた。
「太子編集長、お待たせいたしました」
「いえ、私達もいま来たところよ。由利さんのお隣にいらっしゃるのが太刀川凛莉さんね」
「初めまして、太刀川凛莉です。今は美音の家に住まわせてもらいながら家事を請け負っています」
「太子衣瑠です。こっちは息子の恋斗です」
「初めまして」
恋斗さんは立ち上がると丁寧に一礼した。ただ不思議なことに初めましてのはずなのに恋斗さんの事を知っている気がしたのだ。もっとも、どこで会ったかはわからないけれど。
「とりあえず座って。例の作品も気になるけれど、由利さんの今の生活の様子も気になっていたから」
「わかりました」
私達は椅子に座った。そして店員さんに幾つか注文をした後、太子編集長は静かに微笑んだ。
「さて、まずは何から聞こうかしら」
「そういえば、生活の事が気になっていたと言っていましたけど、太子さんはだいぶ美音の事を気にかけているみたいですね。」
「まあそうね。編集長が一人の作家ばかりを目にかけるのはよくないと思うけれど、由利さんの事はどうにもほっとけないのよね。まあ他の作家が私に反発してよそに行ったり作品をボツにされた新人がネット上で騒いだりする中でもあなたは負けじと頑張ってきた。だから私も応援したくなるのよ。あなたの作家生活だけじゃなく日々の生活もね」
「太子編集長……」
太子編集長のその言葉はとても身に染みた。たしかに編集長が一人の作家の肩ばかりを持つのはよくないのかもしれないけれど、太子編集長は私の努力を認めてくれた上で色々な面を応援してくれようとしている。その事はとても嬉しかったのだ。
「ありがとうございます、太子編集長」
「どういたしまして。でも、作品のチェックは手を抜かないからね。あなたの作品、ボツにして来たものは多いけど、何だかんだで好きなものが多かったからこそより厳しく見てきたつもりだし」
「それじゃあ早速読んでみますか?」
「そうね。そうしようかしら」
私は頷いた後、『ふかふか』のデータが入ったUSBメモリを出し、太子編集長はそれを受け取ってから内容を読み始めた。
「ふむふむ、なるほど……」
「どうですか?」
「いい出来だと思う。恋愛に重きを置きながらもしっかりとしたコメディ要素もあるし、時にはシリアス展開もあって一気に引き締まる感じがする。これで本当に完結?」
「あ、はい」
「ふむ……」
太子編集長が考え込む。何かよくなかったんだろうか。そんなことを考えていた時、恋斗さんが少し不安そうな顔で話しかけてきた。
「あの、由利さん……」
「はい、なんですか?」
「僕のこと、覚えてませんか?」
「え?」
それを聞いて私は驚く。たしかに初めましてのはずなのに知っている気はしたけれど、まさか本当にどこかで会った事があるのだろうか。
「初めましてだと思ってましたけど、もしかしてどこかでお会いしたことありました?」
「ええ、まあ……正確には小学生の頃なんですけど……」
「小学生の時……」
私は記憶の網を手繰る。けれど、太子という名字はクラスメートにはいなかったと思う。
「太子という名字はクラスメートや同じ学校で聞いたことないと思いますけど……」
「あの時は名字が違いましたからね。では、武蔵野だとどうですか?」
「武蔵野……ああ、それなら覚えがありま……」
その瞬間、私はハッとした。ここに太子編集長の息子さんがいる理由、そしてこの人が誰なのかを。
「もしかして、武蔵野恋斗君……なの?」
「はい。久しぶりですね、由利美音さん」
私のトラウマの元凶と言ってもいい武蔵野恋斗君がそこにはいて、あの頃と変わらない笑みを浮かべていた。
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