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第十九話
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「ふう、今日も暑いな」
夏休みのある日、俺は首にかけたタオルで汗を拭きながら庭の手入れをしていた。夏休みの課題の傍らで作業をしていたが、だいぶ手入れには慣れてきていて、日差しや気温が暑いくらいでそれ以外はまったく苦にはならなかった。
「週に一度は手入れしてるのもあるしな。こういう作業も気分転換にはなるし、いい運動にもなってるからこの生活が終わった後もたまにやらせてもらいに来ようかな」
その場合、たぶん松也さん達は喜んでくれる気がするし、なんならお手伝い料とか言って帰る時に何かを渡してきそうだ。
「気持ちは嬉しいけど、申し訳なさもあるな」
その光景を想像して苦笑いを浮かべていた時、ゆっくりと近づいてくる足音が聞こえて俺はそちらに顔を向けた。
「あ、真夏さん」
「お疲れ様です、冬矢さん。そろそろ休憩なさってはどうですか?」
「あれ、もうそんな時間ですか?」
「冬矢さんが作業を始めてから一時間くらいが経つのでお知らせに来たんです。茉莉ちゃんも宿題の休憩をしているところですし、冬矢さんも休憩して水分補給をしませんか?」
「たしかにそうですね。俺もある程度作業が終わったところなのでそうします」
俺の返事を聞いて真夏さんは嬉しそうに笑う。その笑顔を見ていた時、俺はふとある事を思い出した。
「そういえば……七夕祭りの時、俺と真夏さんは三が日に出会ったのが初めてじゃないと言ってましたよね? 俺はあの日が初めましてだと思ってましたけど、その前にどこで会っていたんですか?」
「ああ、その事ですか。そうですね……教えてもいいんですけど、せっかくなので冬矢さんに思い出してほしいんです。もっとも、冬矢さんからすればそんなに記憶に残っていない出来事かもしれませんが」
「つまり、結構何気ない出来事だったわけですか」
「そんな感じです。冬矢さん、その時の事を思い出してくれるのを楽しみにしてますからね」
「はい」
本当に楽しみにしてる様子の真夏さんに対して俺は頷きながら答える。真夏さんが言うには俺にとっては何気ない日常の中の一つの出来事のようだけど、真夏さんにとってはしっかりと記憶に残っている大事な出来事のようだ。それならしっかりと思い出そう。そしてそれを真夏さんに伝えるんだ。
心の中でそれを誓いながら俺は庭の水道で手を洗ってから真夏さんと一緒にお屋敷の中に入った。エントランスを通って食堂に行くと、茉莉ちゃんが美味しそうにレモネードを飲んでおり、俺が近づくと茉莉ちゃんは嬉しそうに笑った。
「パパ、お疲れ様! お庭はもういいの?」
「ある程度終わらせたから、休憩してから仕上げをして後片付けをするよ。この暑さは大変だけど、庭の手入れ自体は楽しいしやりがいもあるからね」
「そっかあ。あっ、私も後でお花さんに水をあげていい? この暑さだとお花さんも喉がカラカラで大変だもん」
「そうだね。それじゃあ水やりは後でみんなでやろうか。真夏さんもいいですか?」
「もちろん。ふふっ、楽しみですね」
真夏さんが優しい笑みを浮かべ、茉莉ちゃんは美味しそうにレモネードを飲む。この生活も半年とちょっとが過ぎて俺達もすっかり家族のようになっていた。この共同生活が終わるまでの関係とはいえ、真夏さんと茉莉ちゃんと一緒の生活はやはり楽しいし、お互いの事を尊重しながらの生活だからケンカ一つない。ケンカも時には必要だろうけど、無いなら無い方がいい。真夏さんと茉莉ちゃんが悲しそうにしている姿は見たくないからだ。
「そういえば茉莉ちゃん、宿題は順調?」
「うん。ドリルと感想文は終わってるから、あとは自由研究と絵日記だけだよ」
「それならあとはのんびりしても大丈夫だね。それにしても、自由研究なんて久しぶりに聞きましたね」
「たしかに。工作をして何かを作ったりアサガオとかの成長記録をつけたりして色々な事をやりますよね」
「パパ達はそうだったんだ。私は何をしようかな……」
「そうだな……」
自由研究によさそうなものを考えていたその時、ふと俺はある事を思い出した。
「そういえば、そろそろ花火大会だったな」
「花火大会……ああ、少し歩いたところにある川の辺りで毎年やっているものですね」
「あ、私も知ってる! パパ、今年はいつやるの?」
「えーと……」
俺は携帯電話を使って花火大会の日取りを調べる。毎年8月の中旬ごろにやっているが、どうやら今年も同じ辺りみたいで来週にやるようだった。
「来週みたいだよ。せっかくだから観に行こうか」
「ほんと!? やったあ!」
「真夏さんも受験勉強の息抜きで一緒に行きましょう」
「ええ、もちろん。あ、そうだ……茉莉ちゃん、自由研究の内容なんだけど、花火について調べるのはどう?」
「花火について?」
「そう。花火も色々な種類があるし、歴史も長くて国によって色々違いがあるみたいなんだ。だからそれを調べて、お休み明けに発表するのはどう?」
真夏さんの提案に茉莉ちゃんは目を輝かせながら大きく頷く。
「うん、それいいね! 花火の事あまり知らないからいっぱい知りたい!」
「うん、そうだね。そういえば、よく聞く話ですけど、文系と理系だと花火の見方が違うみたいですよね」
「ふふ、よく言われてますよね。文系は花火の綺麗さを見て、理系は炎色反応の一つとして見ているみたいな」
「えんしょくはんのー?」
聞きなれない言葉に茉莉ちゃんが首をかしげる。たしかに小学生には聞き馴染みの無い言葉だろう。
「もっと大きくなってから理科の授業で学ぶ事なんだけど、花火の色って金属が燃えてる事で出てきてるもので、それを花火を作ってる職人さんが色々考えているから、あんな風に綺麗な形になって空に打ち上げるんだよ」
「へー! 職人さん達ってすごいんだね!」
「少しでも設計図とずれるだけでも形が崩れるそうですしね。職人さん達の頑張りには頭が下がります」
「それじゃあそれも自由研究の一つにしたい! でも、いっぱい書く事あると持ってくの大変かも……ううー、どうしよう……!」
茉莉ちゃんが頭を抱える。同年代の子達からすれば自由研究なんて適当に終わらせたり面倒くさがったりすはる物だろうけど、茉莉ちゃんからすれば学びの宝庫なのだ。そういうところも普段から茉莉ちゃんが頑張り屋さんだったり成績がよかったりする所以なんだろう。
「とりあえず色々調べて、その後に三人でどんな風に作っていくか考えようか」
「うん! 花火大会の写真もいっぱい撮りたいし、それも自由研究に使いたいな!」
「それもいいね。茉莉ちゃん、花火大会では迷子にならないようにちゃんと手を繋いでようね」
「はーい!」
茉莉ちゃんが元気よく手を上げながら答える。その姿を見ながらクスクス笑っていた時だった。
「花火大会……なんだろ、何かひっかかる事がある気がするな……」
去年のその頃はまだ愛花と付き合っていなかったから花火大会には一人で行っていた。だから、誰かと何かがあった記憶はないんだけど、何故か去年の花火大会がどこかひっかかっていた。
「もしかして、真夏さんと去年の花火大会で会ってるのか?」
チラリと真夏さんを見ると、真夏さんは俺が考えている事がわかっている様子でクスリと笑う。どうやらそのようだけど、まだどのタイミングで出会ったのかはわかっていなかった。
「なんかこうなったらしっかりと思い出さないとな」
そしてそれを花火大会が終わるまでに真夏さんに伝えるのだ。それを目標にしよう。それを胸に誓いながら俺は真夏さんと茉莉ちゃんと一緒に花火大会の計画を立て始めた。
夏休みのある日、俺は首にかけたタオルで汗を拭きながら庭の手入れをしていた。夏休みの課題の傍らで作業をしていたが、だいぶ手入れには慣れてきていて、日差しや気温が暑いくらいでそれ以外はまったく苦にはならなかった。
「週に一度は手入れしてるのもあるしな。こういう作業も気分転換にはなるし、いい運動にもなってるからこの生活が終わった後もたまにやらせてもらいに来ようかな」
その場合、たぶん松也さん達は喜んでくれる気がするし、なんならお手伝い料とか言って帰る時に何かを渡してきそうだ。
「気持ちは嬉しいけど、申し訳なさもあるな」
その光景を想像して苦笑いを浮かべていた時、ゆっくりと近づいてくる足音が聞こえて俺はそちらに顔を向けた。
「あ、真夏さん」
「お疲れ様です、冬矢さん。そろそろ休憩なさってはどうですか?」
「あれ、もうそんな時間ですか?」
「冬矢さんが作業を始めてから一時間くらいが経つのでお知らせに来たんです。茉莉ちゃんも宿題の休憩をしているところですし、冬矢さんも休憩して水分補給をしませんか?」
「たしかにそうですね。俺もある程度作業が終わったところなのでそうします」
俺の返事を聞いて真夏さんは嬉しそうに笑う。その笑顔を見ていた時、俺はふとある事を思い出した。
「そういえば……七夕祭りの時、俺と真夏さんは三が日に出会ったのが初めてじゃないと言ってましたよね? 俺はあの日が初めましてだと思ってましたけど、その前にどこで会っていたんですか?」
「ああ、その事ですか。そうですね……教えてもいいんですけど、せっかくなので冬矢さんに思い出してほしいんです。もっとも、冬矢さんからすればそんなに記憶に残っていない出来事かもしれませんが」
「つまり、結構何気ない出来事だったわけですか」
「そんな感じです。冬矢さん、その時の事を思い出してくれるのを楽しみにしてますからね」
「はい」
本当に楽しみにしてる様子の真夏さんに対して俺は頷きながら答える。真夏さんが言うには俺にとっては何気ない日常の中の一つの出来事のようだけど、真夏さんにとってはしっかりと記憶に残っている大事な出来事のようだ。それならしっかりと思い出そう。そしてそれを真夏さんに伝えるんだ。
心の中でそれを誓いながら俺は庭の水道で手を洗ってから真夏さんと一緒にお屋敷の中に入った。エントランスを通って食堂に行くと、茉莉ちゃんが美味しそうにレモネードを飲んでおり、俺が近づくと茉莉ちゃんは嬉しそうに笑った。
「パパ、お疲れ様! お庭はもういいの?」
「ある程度終わらせたから、休憩してから仕上げをして後片付けをするよ。この暑さは大変だけど、庭の手入れ自体は楽しいしやりがいもあるからね」
「そっかあ。あっ、私も後でお花さんに水をあげていい? この暑さだとお花さんも喉がカラカラで大変だもん」
「そうだね。それじゃあ水やりは後でみんなでやろうか。真夏さんもいいですか?」
「もちろん。ふふっ、楽しみですね」
真夏さんが優しい笑みを浮かべ、茉莉ちゃんは美味しそうにレモネードを飲む。この生活も半年とちょっとが過ぎて俺達もすっかり家族のようになっていた。この共同生活が終わるまでの関係とはいえ、真夏さんと茉莉ちゃんと一緒の生活はやはり楽しいし、お互いの事を尊重しながらの生活だからケンカ一つない。ケンカも時には必要だろうけど、無いなら無い方がいい。真夏さんと茉莉ちゃんが悲しそうにしている姿は見たくないからだ。
「そういえば茉莉ちゃん、宿題は順調?」
「うん。ドリルと感想文は終わってるから、あとは自由研究と絵日記だけだよ」
「それならあとはのんびりしても大丈夫だね。それにしても、自由研究なんて久しぶりに聞きましたね」
「たしかに。工作をして何かを作ったりアサガオとかの成長記録をつけたりして色々な事をやりますよね」
「パパ達はそうだったんだ。私は何をしようかな……」
「そうだな……」
自由研究によさそうなものを考えていたその時、ふと俺はある事を思い出した。
「そういえば、そろそろ花火大会だったな」
「花火大会……ああ、少し歩いたところにある川の辺りで毎年やっているものですね」
「あ、私も知ってる! パパ、今年はいつやるの?」
「えーと……」
俺は携帯電話を使って花火大会の日取りを調べる。毎年8月の中旬ごろにやっているが、どうやら今年も同じ辺りみたいで来週にやるようだった。
「来週みたいだよ。せっかくだから観に行こうか」
「ほんと!? やったあ!」
「真夏さんも受験勉強の息抜きで一緒に行きましょう」
「ええ、もちろん。あ、そうだ……茉莉ちゃん、自由研究の内容なんだけど、花火について調べるのはどう?」
「花火について?」
「そう。花火も色々な種類があるし、歴史も長くて国によって色々違いがあるみたいなんだ。だからそれを調べて、お休み明けに発表するのはどう?」
真夏さんの提案に茉莉ちゃんは目を輝かせながら大きく頷く。
「うん、それいいね! 花火の事あまり知らないからいっぱい知りたい!」
「うん、そうだね。そういえば、よく聞く話ですけど、文系と理系だと花火の見方が違うみたいですよね」
「ふふ、よく言われてますよね。文系は花火の綺麗さを見て、理系は炎色反応の一つとして見ているみたいな」
「えんしょくはんのー?」
聞きなれない言葉に茉莉ちゃんが首をかしげる。たしかに小学生には聞き馴染みの無い言葉だろう。
「もっと大きくなってから理科の授業で学ぶ事なんだけど、花火の色って金属が燃えてる事で出てきてるもので、それを花火を作ってる職人さんが色々考えているから、あんな風に綺麗な形になって空に打ち上げるんだよ」
「へー! 職人さん達ってすごいんだね!」
「少しでも設計図とずれるだけでも形が崩れるそうですしね。職人さん達の頑張りには頭が下がります」
「それじゃあそれも自由研究の一つにしたい! でも、いっぱい書く事あると持ってくの大変かも……ううー、どうしよう……!」
茉莉ちゃんが頭を抱える。同年代の子達からすれば自由研究なんて適当に終わらせたり面倒くさがったりすはる物だろうけど、茉莉ちゃんからすれば学びの宝庫なのだ。そういうところも普段から茉莉ちゃんが頑張り屋さんだったり成績がよかったりする所以なんだろう。
「とりあえず色々調べて、その後に三人でどんな風に作っていくか考えようか」
「うん! 花火大会の写真もいっぱい撮りたいし、それも自由研究に使いたいな!」
「それもいいね。茉莉ちゃん、花火大会では迷子にならないようにちゃんと手を繋いでようね」
「はーい!」
茉莉ちゃんが元気よく手を上げながら答える。その姿を見ながらクスクス笑っていた時だった。
「花火大会……なんだろ、何かひっかかる事がある気がするな……」
去年のその頃はまだ愛花と付き合っていなかったから花火大会には一人で行っていた。だから、誰かと何かがあった記憶はないんだけど、何故か去年の花火大会がどこかひっかかっていた。
「もしかして、真夏さんと去年の花火大会で会ってるのか?」
チラリと真夏さんを見ると、真夏さんは俺が考えている事がわかっている様子でクスリと笑う。どうやらそのようだけど、まだどのタイミングで出会ったのかはわかっていなかった。
「なんかこうなったらしっかりと思い出さないとな」
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