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第三十三話
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「まだまだ寒いな」
2月、放課後に俺は学校の廊下を歩いていた。少しずつ春に近づいているとはいえ、校内もまだ寒く、軽く手がかじかむ程だった。
「まあでも、もう少しで暖かくはなってくるし、もう少しの辛抱だよな。さて、そろそろ生徒会室にいかな――」
「あ、父川生徒会長!」
その声に振り返ると、そこには新聞部の女子部員がいた。
「お疲れさま。何か用事だったかな?」
「実はちょっとした情報をつかんだのでそれの事実確認に参りました」
「情報?」
「はい。父川生徒会長、前生徒会長の田母神先輩とは両家公認の仲というのは本当ですか?」
「え? まあ、そうだけど……どこからそれを?」
新聞部の部員はにこりと笑いながら答えた。
「先日、田母神先輩のクラスを通りかかった際にそんな話が聞こえてきまして。校内で話題になっている生徒にインタビューをした記事を新聞に載せているのはご存じですよね?」
「ああ、あれか。運動部のエースとか文化祭で話題になった出し物をしたクラスにインタビューしてる奴」
「その通りです。今月は2月、そしてバレンタインデーという事で誰かいいカップルがいたらなと思っていたところに生徒会長達の話を聞き付けたので、よろしければお話を聞かせてもらえたらと思いまして」
「なるほどな」
なるほどとは思ったが、どう答えたものかと少し悩んでしまった。別に話せない事はしてないし、物語の中みたいな俺達の出会いから今までの事を話せばこの生徒はとても喜ぶだろう。ただ、真夏さんは共通テストが終わって今度は個別試験に向けて頑張っているところだ。そんな中で自分達が変に話題になった事でそれの対応に追われて勉強の時間が減ってしまう事になったらとても申し訳ないのだ。
「んー……話すのはいいけど、どんな風に話したもんかな」
「どんな風にでも大丈夫ですよ。それではどうぞ」
「そうだな……」
話す内容に悩む振りをしながらどうにかこの場を切り抜ける手段について考えていたその時だった。
「あ、父川生徒会長」
「え? あ、田母神先輩」
振り返ると校内モードの真夏さんがそこにはいた。俺を見ながら嬉しそうにしてくれていたが、俺が女子部員と一緒にいるのを見ると一瞬眉間にシワを寄せてから話しかけてきた。
「どうかしましたか? どうやら新聞部の方とお話をなさっていたようですが」
「それなんですけど、俺達が両家公認の仲だっていうのを聞いて、それの事実確認と校内新聞のバレンタイン特集のインタビューをさせてくれないかと言われていたところなんです」
「なるほど、それは構いませんよ」
「でも、いいんですか? 田母神先輩のクラスの人達や生徒会メンバー以外は知らない事ですし、それが広まってその事を聞きに来る生徒が増えたら大変かなと思って少し話すのをためらってたところだったんですが……」
「大丈夫ですよ。父川生徒会長、いえ冬矢さん達のご支援の甲斐もあって試験には万全の態勢で臨めそうですし、こういうのも気分転換になりますから」
「わかりました。それじゃあせっかくなので生徒会室でインタビューに答えましょうか。君もそれでいいかな?」
「もちろんです! 色々お話を聞かせてくださいね!」
新聞部の部員は嬉しそうに言う。そして生徒会室に移動した後、俺と真夏さんはこれまでの事を話し始めた。新聞部の部員は話の内容にとても驚いていたし、色々な反応を見せていたけれど、話自体はとても楽しそうに聞いていた。そして話を終えると、新聞部の部員は満足げな顔でメモ帳を閉じた。
「お話を聞かせていただきありがとうございました! これはいい記事になりますよ!」
「喜んでもらえてよかったです。あなたが書く記事を楽しみにしていますね」
「はい、しっかりと書かせていただきます! あ、それと……」
新聞部の部員はポケットから小さな箱を取り出して俺達に渡してきた。
「今回お話を聞かせていただいたお礼のチョコレートです。お口に合えばいいんですが……」
「心配はいらないよ。今日はありがとう、しっかりと食べさせてもらうからな」
「本日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。それでは失礼しました」
新聞部の部員が生徒会室を出ていくと、真夏さんはメガネと髪ゴムをはずした。
「ふう……」
「お疲れさまです、真夏さん。中々ない経験でしたね」
「たしかにそうですね。それにしても……」
「ん、どうしました?」
「お礼だと言っていたこのチョコレートですが、恐らく本当は冬矢さんに渡すための物だった気がします」
「え、そうですか?」
俺が驚く中、真夏さんは真剣な顔で頷く。
「たしかに事実確認はしに来たのだと思いますが、それはあくまでも新聞部という自分の立場を利用しての事な気がするんです。冬矢さんは気づいていなかったと思いますが、あの女子生徒が冬矢さんを見る目はしっかりと異性を見る目でしたから」
「やっぱり同性だからこそそういうのはわかる感じですね」
「はい。恐らく二つあったのは本来はどちらか選ばせるため。けれど、私が来てしまったのでそれを隠すために私にも渡してきたという事だと思います。真偽の程は定かではないですけどね」
「たしかに……でも、心配はいらないですよ。前にも言ったように俺は真夏さん以外の異性に目を奪われる事はな――」
顔を上げたその瞬間、俺は真夏さんに唇を奪われていた。瑞々しくてプルンとした唇の柔らかい感触と真夏さんから漂う花のように甘くて穏やかな香りが俺を魅了し、俺が呆ける中で真夏さんは顔を離してからクスリと笑った。
「ふふ、二度目のキスですね」
「ま、真夏さん……」
「私だって嫉妬深いところはあるんです。なので、冬矢さんの中にもっと私を刻み付けちゃいました」
「そこまでしなくたって真夏さん以外には目を奪われる事はないですよ」
「わかっていてもですよ。冬矢さんは確実に周囲の異性の目を惹く存在になりましたし、この前の初詣でも他の人から視線を向けられていました。だからこそ証明したいんです。冬矢さんは私だけのものだって」
真夏さんはクスクス笑っていたが、その目は少し寂しそうに見えた。だからだろうか、俺が自然に真夏さんを抱き締めていたのは。
「冬矢さん……」
「これで、わかってくれましたか?」
「……はい、もちろん。とても温かくて心地よいです」
「俺も温かいです。しっかりと真夏さんの存在を感じる熱ですから」
「そうですね。さて、バレンタインデーという事で、私もお渡しするものがあります」
俺が体を離すと、真夏さんはポケットから小さな箱を取り出した。
「今年のバレンタインデーのチョコレートです」
「ありがとうございます。あれ……でも、茉莉ちゃんと一緒に渡さなくていいんですか?」
「それは別であるんです。これは冬矢さんにいち早く渡したくて特別に用意していたものです。その前に別の人に渡されてしまいましたが、こればかりは仕方ありません。ゆっくり食べてくださいね」
「わかりました。あ、それなら他の生徒会役員達が来るまでここでゆったりしていきましょうか。真夏さんも頭を休めるために糖分をとった方がいいですし、俺も味の感想をすぐにでも言いたいですから」
「ふふ、そうですね。ではのんびりさせてもらいますね」
真夏さんが微笑みながら言った後、俺達は談笑しながらチョコを食べ始めた。そして他の役員達も少しずつ姿を見せ始めたが、自分がもらった物や友チョコを持ってきていた事で、俺達のチョコパーティーはさらに豪華なものになった。
2月、放課後に俺は学校の廊下を歩いていた。少しずつ春に近づいているとはいえ、校内もまだ寒く、軽く手がかじかむ程だった。
「まあでも、もう少しで暖かくはなってくるし、もう少しの辛抱だよな。さて、そろそろ生徒会室にいかな――」
「あ、父川生徒会長!」
その声に振り返ると、そこには新聞部の女子部員がいた。
「お疲れさま。何か用事だったかな?」
「実はちょっとした情報をつかんだのでそれの事実確認に参りました」
「情報?」
「はい。父川生徒会長、前生徒会長の田母神先輩とは両家公認の仲というのは本当ですか?」
「え? まあ、そうだけど……どこからそれを?」
新聞部の部員はにこりと笑いながら答えた。
「先日、田母神先輩のクラスを通りかかった際にそんな話が聞こえてきまして。校内で話題になっている生徒にインタビューをした記事を新聞に載せているのはご存じですよね?」
「ああ、あれか。運動部のエースとか文化祭で話題になった出し物をしたクラスにインタビューしてる奴」
「その通りです。今月は2月、そしてバレンタインデーという事で誰かいいカップルがいたらなと思っていたところに生徒会長達の話を聞き付けたので、よろしければお話を聞かせてもらえたらと思いまして」
「なるほどな」
なるほどとは思ったが、どう答えたものかと少し悩んでしまった。別に話せない事はしてないし、物語の中みたいな俺達の出会いから今までの事を話せばこの生徒はとても喜ぶだろう。ただ、真夏さんは共通テストが終わって今度は個別試験に向けて頑張っているところだ。そんな中で自分達が変に話題になった事でそれの対応に追われて勉強の時間が減ってしまう事になったらとても申し訳ないのだ。
「んー……話すのはいいけど、どんな風に話したもんかな」
「どんな風にでも大丈夫ですよ。それではどうぞ」
「そうだな……」
話す内容に悩む振りをしながらどうにかこの場を切り抜ける手段について考えていたその時だった。
「あ、父川生徒会長」
「え? あ、田母神先輩」
振り返ると校内モードの真夏さんがそこにはいた。俺を見ながら嬉しそうにしてくれていたが、俺が女子部員と一緒にいるのを見ると一瞬眉間にシワを寄せてから話しかけてきた。
「どうかしましたか? どうやら新聞部の方とお話をなさっていたようですが」
「それなんですけど、俺達が両家公認の仲だっていうのを聞いて、それの事実確認と校内新聞のバレンタイン特集のインタビューをさせてくれないかと言われていたところなんです」
「なるほど、それは構いませんよ」
「でも、いいんですか? 田母神先輩のクラスの人達や生徒会メンバー以外は知らない事ですし、それが広まってその事を聞きに来る生徒が増えたら大変かなと思って少し話すのをためらってたところだったんですが……」
「大丈夫ですよ。父川生徒会長、いえ冬矢さん達のご支援の甲斐もあって試験には万全の態勢で臨めそうですし、こういうのも気分転換になりますから」
「わかりました。それじゃあせっかくなので生徒会室でインタビューに答えましょうか。君もそれでいいかな?」
「もちろんです! 色々お話を聞かせてくださいね!」
新聞部の部員は嬉しそうに言う。そして生徒会室に移動した後、俺と真夏さんはこれまでの事を話し始めた。新聞部の部員は話の内容にとても驚いていたし、色々な反応を見せていたけれど、話自体はとても楽しそうに聞いていた。そして話を終えると、新聞部の部員は満足げな顔でメモ帳を閉じた。
「お話を聞かせていただきありがとうございました! これはいい記事になりますよ!」
「喜んでもらえてよかったです。あなたが書く記事を楽しみにしていますね」
「はい、しっかりと書かせていただきます! あ、それと……」
新聞部の部員はポケットから小さな箱を取り出して俺達に渡してきた。
「今回お話を聞かせていただいたお礼のチョコレートです。お口に合えばいいんですが……」
「心配はいらないよ。今日はありがとう、しっかりと食べさせてもらうからな」
「本日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。それでは失礼しました」
新聞部の部員が生徒会室を出ていくと、真夏さんはメガネと髪ゴムをはずした。
「ふう……」
「お疲れさまです、真夏さん。中々ない経験でしたね」
「たしかにそうですね。それにしても……」
「ん、どうしました?」
「お礼だと言っていたこのチョコレートですが、恐らく本当は冬矢さんに渡すための物だった気がします」
「え、そうですか?」
俺が驚く中、真夏さんは真剣な顔で頷く。
「たしかに事実確認はしに来たのだと思いますが、それはあくまでも新聞部という自分の立場を利用しての事な気がするんです。冬矢さんは気づいていなかったと思いますが、あの女子生徒が冬矢さんを見る目はしっかりと異性を見る目でしたから」
「やっぱり同性だからこそそういうのはわかる感じですね」
「はい。恐らく二つあったのは本来はどちらか選ばせるため。けれど、私が来てしまったのでそれを隠すために私にも渡してきたという事だと思います。真偽の程は定かではないですけどね」
「たしかに……でも、心配はいらないですよ。前にも言ったように俺は真夏さん以外の異性に目を奪われる事はな――」
顔を上げたその瞬間、俺は真夏さんに唇を奪われていた。瑞々しくてプルンとした唇の柔らかい感触と真夏さんから漂う花のように甘くて穏やかな香りが俺を魅了し、俺が呆ける中で真夏さんは顔を離してからクスリと笑った。
「ふふ、二度目のキスですね」
「ま、真夏さん……」
「私だって嫉妬深いところはあるんです。なので、冬矢さんの中にもっと私を刻み付けちゃいました」
「そこまでしなくたって真夏さん以外には目を奪われる事はないですよ」
「わかっていてもですよ。冬矢さんは確実に周囲の異性の目を惹く存在になりましたし、この前の初詣でも他の人から視線を向けられていました。だからこそ証明したいんです。冬矢さんは私だけのものだって」
真夏さんはクスクス笑っていたが、その目は少し寂しそうに見えた。だからだろうか、俺が自然に真夏さんを抱き締めていたのは。
「冬矢さん……」
「これで、わかってくれましたか?」
「……はい、もちろん。とても温かくて心地よいです」
「俺も温かいです。しっかりと真夏さんの存在を感じる熱ですから」
「そうですね。さて、バレンタインデーという事で、私もお渡しするものがあります」
俺が体を離すと、真夏さんはポケットから小さな箱を取り出した。
「今年のバレンタインデーのチョコレートです」
「ありがとうございます。あれ……でも、茉莉ちゃんと一緒に渡さなくていいんですか?」
「それは別であるんです。これは冬矢さんにいち早く渡したくて特別に用意していたものです。その前に別の人に渡されてしまいましたが、こればかりは仕方ありません。ゆっくり食べてくださいね」
「わかりました。あ、それなら他の生徒会役員達が来るまでここでゆったりしていきましょうか。真夏さんも頭を休めるために糖分をとった方がいいですし、俺も味の感想をすぐにでも言いたいですから」
「ふふ、そうですね。ではのんびりさせてもらいますね」
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