婚約破棄と溺愛のアンソロジー[短編集]

イアペコス

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忘れられた歌姫と隻眼の公爵の契約婚約

第四章:響き渡る魂の歌

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フィロメーラの声に力の兆しが見えたことは、すぐに王都にも伝わった。それは、ある人物たちを酷く焦らせることになる。
元婚約者のカシアンと、その新たな婚約者イゾルデだ。

「あの女、まだ公爵に庇護されているというの!? それどころか、声が戻りつつあるですって!?」

イゾルデは、手にした扇子をヒステリックに握りつぶした。彼女こそが、五年前にフィロメーラの才能を妬み、井戸に突き落とさせた張本人だったのだ。その事実が明るみに出ることを、彼女は何よりも恐れていた。

「こうなったら、力ずくでも黙らせるしかないわ」

イゾルデは、彼女の家が陰で繋がりを持つ暗殺者ギルドに、フィロメーラの殺害を依頼した。
数日後の夜、月のない闇に紛れて、数人の刺客がヴァーミリオン城に忍び込んだ。彼らの目的はただ一つ、フィロメーラの命。

しかし、彼らはヴァーミリオン公爵の警備体制を甘く見ていた。侵入者はすぐに発見され、城内は瞬く間に戦場と化した。ゼファニアスも、自ら剣を抜き、フィロメーラの部屋へと急ぐ。

「フィロメーラ! 無事か!」

扉を蹴破って入ってきたゼファニアスは、フィロメーラを庇うようにして、襲いかかってきた刺客の一人と斬り結んだ。しかし、敵は多勢。ゼファニアスの肩が、毒を塗った刃に浅く切り裂かれた。

「ぐっ……!」
「公爵様!」

彼の動きが、明らかに鈍る。毒が回るのが早い。
このままでは、彼が殺されてしまう。
その恐怖が、フィロメーラの全身を貫いた。

――嫌。
彼を失いたくない。
この温かい場所を、私に生きる意味をくれた人を、奪われたくない。

トラウマが、絶望が、再び喉を締め付ける。
だが、それよりも強く、彼を救いたいという想いが、フィロメーラの魂を震わせた。

「やめ……て……」

か細い声が漏れる。
そして、彼女は息を吸い込み、固く閉じていた唇を開いた。

あぁ――――――

それは、歌だった。
過去のトラウマを乗り越え、愛する人を守りたいという一心で紡がれた、魂の歌。
フィロメーラの声は、もうか細くはなかった。清らかで、力強く、そしてどこまでも優しい光のような音色が、城全体に響き渡る。

その歌声に触れた刺客たちは、まるで金縛りにあったかのように動きを止めた。彼らの目に宿っていた殺意が、困惑へと変わっていく。
ゼファニアスを蝕んでいた毒の痛みも、その歌声によって和らいでいくのが分かった。領地全体を覆っていた灰色の靄が、少しずつ晴れていく。

歌声は、呪いを癒やし、人の心を浄化する力そのものだった。
戦意を失った刺客たちは、次々と捕らえられ、イゾルデの陰謀は全て白日の下に晒されることとなった。
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