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硝子の鼻を持つ騎士と、香りを紡ぐ令嬢の調香盟約
硝子の鼻を持つ騎士と、香りを紡ぐ令嬢の調香盟約
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第一章:価値なき花の香り
初夏の薔薇が咲き誇る、王家主催のガーデンパーティー。そこは、色とりどりのドレスと、甘やかな香水、そして見栄と虚飾が渦巻く社交界の縮図だった。
私、エララ・フォン・ヴァンス子爵令嬢は、その華やかな空間で、場違いな存在だった。高価な香水の代わりに私の身にまとうのは、工房から持ち込んでしまった薬草と樹脂のかすかな匂い。繊細なレースの手袋の下には、調香のための乳鉢でできた、決して消えない豆と染みが隠されている。
私の情熱は、刺繍でもダンスでもなく、「香り」そのものを創り出すこと――調香にあった。それは貴族令嬢の慰み事ではなく、錬金術にも通じる、私のすべてを懸けた研究であり、芸術だった。
「エララ。少し、話がある」
声をかけてきたのは、私の婚約者であるジュリアン・フォン・アインスワース伯爵子息。陽光を浴びて輝く金髪に、甘いマスク。彼は、全ての令嬢が夢見る理想の婚約者像そのものだった。しかし、彼の美しい青い瞳は、今日に限って冷ややかに私を射抜いていた。
彼は私を、人の輪から離れた噴水のほとりへと連れ出した。
「君との婚約を、白紙に戻したい」
その言葉は、噴水の水音にかき消されることもなく、私の心に真っ直ぐに突き刺さった。
「……ジュリアン様、それは、どういう……?」
「わからないのか? もう、我慢の限界なんだ」
彼は、まるで汚物でも見るかのような目で、私の手元を見下ろした。
「君は、いつだってそうだ。その手は染みだらけ、服からは草の匂いがする。私がどれだけ、友人たちに『薬草臭い婚約者』と笑われてきたか、君にわかりはしないだろう!」
彼の言葉は、私の誇りを、私の人生そのものを、無価値だと断じているようだった。
「私が求める妻は、家の名誉となり、私の隣で美しく咲き誇る薔薇のような女性だ。雑草のような匂いをさせて、書物にばかり没頭する女ではない!」
彼はそう言うと、パーティーの中心で薔薇のように微笑む令嬢、セリーヌ嬢に視線を送った。
「私は、セリーヌ嬢を新たな婚約者として迎える。彼女こそ、アインスワース伯爵家にふさわしい、完璧な貴婦人だ」
世界から、音が消えていく。周囲の令嬢たちが、面白そうに、あるいは侮蔑的にこちらを窺っているのがわかった。私の価値は、「良い香り」がするか、「美しいか」だけで決められてしまうのか。
涙が滲みそうになるのを、ぐっと堪える。ここで泣いたら、彼の思う壺だ。私は、背筋を伸ばし、静かに頭を下げた。
「……承知、いたしました。ジュリアン様と、セリーヌ様のお幸せを、心よりお祈り申し上げます」
惨めだった。しかし、私の愛した「調香」を否定されたことの方が、何倍も悔しかった。
その場から立ち去ろうと、踵を返した、その時だった。
「――実に興味深い議論だ。薔薇の価値が、ただその香りだけで決まるのならば、嵐で散った花弁に価値はないということか」
低く、重みのある声が、その場の空気を一変させた。声の主を見て、誰もが息を呑む。
そこに立っていたのは、漆黒の騎士服を身にまとった、長身の男性だった。彫刻のように硬質な顔立ちに、狼を思わせる鋭い灰色の瞳。彼は、この国の守護神と謳われる王立騎士団の総長、「戦場の黒狼」グリフィン・デ・ヴァレリウスその人だった。
数多の武功を立て、国王からも絶大な信頼を得ている英雄。しかし、彼は戦場で負った傷が原因で、一切の匂いを感じることができないと噂されていた。
グリフィン騎士団長は、ジュリアンを一瞥すると、何の感情も浮かべない声で言った。
「アインスワース子息。君が不要だというのなら、その『価値なきもの』を、私が引き受けよう」
「き、騎士団長閣下……!? い、いえ、これは……」
「返事は不要だ」
彼はジュリアンを無視すると、まっすぐに私の方へ歩み寄った。そして、私の目の前で足を止めると、こう言ったのだ。
「ヴァンス嬢。君に、私のための『香り』を創ってはもらえないだろうか。これは、騎士団総長としての、正式な依頼だ」
第二章:香りを忘れた騎士との盟約
グリフィン騎士団長の突然の申し出は、ジュリアンの婚約破棄宣言よりも大きな波紋を広げた。社交界の花形であるジュリアンが捨てた令嬢に、国の英雄が個人的な依頼をする。その異様な光景に、誰もが言葉を失っていた。
「さあ、場所を変えよう。ここは話をするには騒がしすぎる」
彼は、有無を言わさぬ口調でそう言うと、私に背を向け歩き出した。私は、戸惑いながらも、その後を追うしかなかった。呆然と立ち尽くすジュリアンの顔が、視界の端に映った。
彼に連れてこられたのは、王宮の片隅にある、静かなテラスだった。
「……騎士団長閣下。先ほどのお話ですが、私に、閣下のための香りを、と……」
「ああ、そうだ」
彼は、遠くの森を見つめながら、静かに語り始めた。
「俺は、戦場で負った呪いの後遺症で、一切の匂いを感じることができない。味も、だ。食事はただの作業で、世界から彩りが半分消え失せた」
その瞳には、深い諦観と、かすかな寂しさの色が浮かんでいた。
「だが、記憶の中には、まだ香りが残っている。幼い頃に駆け回った、故郷の森の匂い。雨上がりの土と、湿った苔、そして名も知らぬ野草の香りだ。それを、もう一度感じたい。いや、感じなくともいい。ただ、そこに『在る』という事実が欲しい」
彼は、私に向き直った。その灰色の瞳は、真剣そのものだった。
「君の噂は聞いている。ヴァンス嬢。君は、ただ流行の香水を作るのではない。人の記憶や感情に働きかける、特殊な調香を行うと。君ならば、俺の失われた森を、香りで再現できるのではないかと思った」
それは、あまりにも突飛で、そしてあまりにもロマンティックな依頼だった。
「君を、私の専属調香師として雇いたい。国で最高の設備を整えた工房と、君が望むあらゆる材料を、私が用意しよう。その代わり、君の創る香りは、すべて私が独占する。これは、取引であり、盟約だ」
盟約――。ジュリアンに捨てられた私にとって、それはあまりにも魅力的な提案だった。私の技術を、私の知識を、この国の英雄が求めてくれている。私の創る香りが、誰かの心を救えるかもしれない。
「……お受けいたします。その盟約」
私がそう答えると、彼は初めて、ほんの少しだけ口元を緩めたように見えた。
「礼を言う。明日、正式な馬車を迎えに寄越そう。君は、研究道具だけを持ってくればいい。その他の一切は、俺が用意する」
こうして、私は婚約破棄されたその日のうちに、新たな主君を得た。それは、愛も恋もない、ただの仕事上の契約。それでも、私の心は、久しぶりに希望の光で満たされていた。
第三章:黒狼の不器用な花束
グリフィン騎士団長の言葉に偽りはなかった。
翌日、私が連れていかれた彼の屋敷には、私の想像を遥かに超える、完璧な調香のための工房が用意されていた。ガラス張りの天井から陽光が降り注ぎ、壁一面には世界中から集められたであろう希少な香料が、整然と並べられている。
「ここで、自由に研究するといい。必要なものがあれば、何でも言え。たとえ、ドラゴンの涙が必要だと言っても、俺が手に入れてくる」
「……ありがとうございます、閣下。これ以上望むものはございません」
私と彼の奇妙な同居生活が始まった。彼は日中、騎士団の執務で忙しく、屋敷に戻るのは夜遅くが常だった。食事も別々で、私たちが顔を合わせるのは、私がその日に試作した香りを、彼の書斎へ届けに行く時だけだった。
彼は、香りを嗅ぐことができない。だから、私が差し出した小瓶を受け取ると、ただ静かにそれを見つめるだけだった。
「これは、夜明け前の霧をイメージしました。ベルガモットの冷たさに、微かなヒノキの苦味を加えて……」
「……そうか」
彼は、私の説明にただ静かに耳を傾ける。そして、私が香りに込めた物語や情景を、まるで本を読むように吟味するのだ。
「昨日の『陽だまりの猫』とやらは、少し甘すぎた。今日の『霧』の方が、情景が目に浮かびやすい」
彼の評価は、常に的確で、そして私の本質を見ていた。匂いという表面的なものに惑わされないからこそ、彼は私の調香の真価を、誰よりも正確に理解してくれた。
そんな彼の「溺愛」は、やはり独特な形で現れた。
ある朝、工房の扉を開けると、そこに無造作に置かれた麻袋があった。中を覗くと、それは北の山脈の頂にしか咲かないという幻の花、『月光花』だった。その花弁は、夜気に触れると自ら発光し、心を鎮める幽玄な香りを放つという。
呆然としていると、通りかかった執事が教えてくれた。
「昨夜、騎士団長閣下が、自ら崖を登り採ってこられました。『エララが必要とするかもしれん』と、それだけおっしゃって」
花束の代わりに、命がけで手に入れた希少な香料。それが、彼の不器用な愛情表現だった。
またある時は、私が古い文献に記された伝説の樹脂『太陽の琥珀』の話をすると、その二日後には、彼は南の砂漠でキャラバンを襲っていた盗賊団を壊滅させ、奪われていた『太陽の琥珀』を「戦利品だ」と言って私に差し出した。
彼の与えてくれるものは、いつだって私の想像を超えていた。そしてそのどれもが、私の「調香師」としての魂を、この上なく満たしてくれるものだった。
いつしか、私は彼の帰りを待つのが日課になっていた。彼の無愛想な顔の奥にある、深い優しさを知ってしまったから。彼が私の創る香りを語る時の、少年のような真剣な眼差しを、愛おしいと感じるようになってしまったから。
この感情は、盟約違反だろうか。
私は、この香りを忘れた騎士に、心をすっかり奪われてしまっていた。
第四章:偽りの薔薇と真実の盾
私の調香師としての評判は、グリフィン騎士団長の庇護のもと、静かに、しかし確実に広がっていった。特に、騎士たちの精神を安定させ、集中力を高めるために創った『静寂の森』という香りは、騎士団の任務成功率を劇的に向上させ、「見えない守護」として重宝されるようになった。
そんな噂を聞きつけたのか、ある日、思いもよらない人物が屋敷を訪ねてきた。ジュリアンだった。
彼は、以前の傲慢さが嘘のように、憔悴した表情で私の前に現れた。
「エララ。君に、謝罪がしたい。私は、君という才能の本当の価値に気づけなかった愚か者だ」
彼は、大きな薔薇の花束を私に差し出した。しかし、その甘い香りは、今の私にはひどく空虚なものに感じられた。
「セリーヌ嬢との婚約は、間違いだった。家同士の体裁ばかりで、心が通っていなかった。君といた時の方が、ずっと……。どうか、もう一度、私にチャンスをくれないだろうか」
あまりの身勝手さに、呆れて言葉も出ない。私が断りの言葉を口にしようとした、その時だった。
「その花は、どこのものだ」
背後から聞こえたのは、氷のように冷たいグリフィンの声だった。彼は、いつの間にか私の隣に立っていた。
「き、騎士団長閣下……! こ、これは、エララに謝罪の意を……」
「この薔薇は、温室で無理やり咲かせたものだな。形は美しいが、香りに深みがない。見せかけだけの、空っぽな花だ」
嗅覚がないはずの彼が、なぜ。ジュリアンが混乱していると、グリフィンは続けた。
「エララが教えてくれた。本物の薔薇の香りは、甘さだけでなく、青々しい葉の苦味や、湿った土の匂いが混じり合って、初めて完成されるのだと。お前のそれは、上辺だけの甘さしかない。まるで、お前自身のようだな」
彼の言葉は、刃物のように鋭くジュリアンを切り裂いた。
「エララは、俺の調香師だ。彼女の才能は、お前のような男の虚栄心を満たすためにあるのではない。この国の兵士たちの命を、心を、守るためにある。彼女は、俺の、そして王国にとっての『盾』なのだ」
グリフィンは、私の肩を抱き寄せた。その腕は、力強く、そしてどこまでも優しかった。
「彼女の価値が分からないのなら、二度と我々の前に現れるな。次にその面を見せたら、今度は花束ではなく、お前の首をへし折ることになる」
戦場の黒狼が放つ本物の殺気に、ジュリアンは顔面蒼白になり、ほうほうの体で逃げ去っていった。
嵐が去った後、グリフィンは私に向き直り、その瞳に初めて、焦りのような色を浮かべた。
「……すまない。勝手なことを言った」
「いいえ。……ありがとうございます、グリフィン様。守ってくださって」
「俺は、君を……」
彼は何かを言いかけて、しかし、唇を固く結んでしまった。その不器用な姿が、私の心を締め付けた。
最終章:心が嗅ぎ分ける香り
数ヶ月の試行錯誤の末、私はついに、グリフィンのための香りを完成させた。
彼の記憶の中にある、故郷の森の香り。雨上がりの土、湿った苔、そして名も知らぬ野草たち。数百種類の香料を組み合わせ、彼の断片的な記憶の言葉だけを頼りに紡ぎ上げた、世界に一つだけの香り。
私は、完成した香水を入れた小瓶を手に、彼の書斎を訪れた。
「グリフィン様。盟約の香り、完成いたしました」
彼は、緊張した面持ちでそれを受け取ると、静かに蓋を開けた。もちろん、彼がその香りを嗅ぐことはできない。
私は、彼の許可を得て、その香水を一滴、彼の手首に垂らした。
「目を、閉じてみてください」
彼が言われた通りにすると、奇跡が起きた。
香りが肌に馴染んだ瞬間、彼の眉がぴくりと動き、その固く閉ざされた瞼が微かに震えたのだ。
「……見える」
彼の唇から、驚きに満ちた声が漏れた。
「森が……見える。木々の隙間から、光が……。足元には、あの時の……」
私の調香は、彼の失われた嗅覚を蘇らせたわけではなかった。それは、香りを触媒として、彼の魂に直接働きかけ、記憶の奥深くに眠っていた情景を、鮮やかに呼び覚ましたのだ。彼は、鼻でなく、心で、その香りを「体験」していた。
やがて、彼の頬を、一筋の涙が伝った。
失われた世界を取り戻した英雄は、子供のように静かに泣いていた。
私は、ただ黙って、彼のそばに寄り添っていた。
長い静寂の後、彼はゆっくりと目を開けた。その灰色の瞳は、雨上がりの森のように澄み渡り、そして、今まで見たこともないほどの熱を帯びて、私を捉えていた。
「エララ」
彼は私の手を取り、その前に跪いた。
「俺は、この盟約を、ここで終わりにしたい」
その言葉に、心が凍りつく。やはり、目的を果たした今、私はもう不要なのだと――。
しかし、彼は私の手を、より強く握りしめた。
「そして、新たに、生涯を共にするという『婚姻の盟約』を結びたい」
「……え?」
「俺は、愚かだった。君に求めていたのは、失われた森の香りではなかった。俺が本当に求めていたのは、君という存在そのものだったのだと、今、ようやく気づいた」
彼は、私の染みだらけの手を、愛おしそうに自分の頬に押し当てた。
「君の情熱も、君の頑固さも、薬草の匂いがする君の指も、俺にとっては、どんな高価な香水よりも、心を揺さぶる『香り』なのだ。俺は、君を愛している、エララ。俺の硝子の鼻が唯一嗅ぎ分けることができた、ただ一つの、愛しい香りを放つ君を」
それは、世界で一番、心を震わせる告白だった。
「はい……喜んで。グリフィン様」
涙で滲む視界の中で、私は力強く頷いた。
こうして、「硝子の鼻を持つ騎士」と「香りを紡ぐ令嬢」の、新たな盟約が結ばれた。
彼の世界に彩りを取り戻したのは、森の香りではない。
私の全てを愛してくれる、彼の深い、深い愛情だった。そして、彼の無骨で不器用な優しさこそが、私の人生を何よりも豊かに香らせてくれることを、私は知っている。
初夏の薔薇が咲き誇る、王家主催のガーデンパーティー。そこは、色とりどりのドレスと、甘やかな香水、そして見栄と虚飾が渦巻く社交界の縮図だった。
私、エララ・フォン・ヴァンス子爵令嬢は、その華やかな空間で、場違いな存在だった。高価な香水の代わりに私の身にまとうのは、工房から持ち込んでしまった薬草と樹脂のかすかな匂い。繊細なレースの手袋の下には、調香のための乳鉢でできた、決して消えない豆と染みが隠されている。
私の情熱は、刺繍でもダンスでもなく、「香り」そのものを創り出すこと――調香にあった。それは貴族令嬢の慰み事ではなく、錬金術にも通じる、私のすべてを懸けた研究であり、芸術だった。
「エララ。少し、話がある」
声をかけてきたのは、私の婚約者であるジュリアン・フォン・アインスワース伯爵子息。陽光を浴びて輝く金髪に、甘いマスク。彼は、全ての令嬢が夢見る理想の婚約者像そのものだった。しかし、彼の美しい青い瞳は、今日に限って冷ややかに私を射抜いていた。
彼は私を、人の輪から離れた噴水のほとりへと連れ出した。
「君との婚約を、白紙に戻したい」
その言葉は、噴水の水音にかき消されることもなく、私の心に真っ直ぐに突き刺さった。
「……ジュリアン様、それは、どういう……?」
「わからないのか? もう、我慢の限界なんだ」
彼は、まるで汚物でも見るかのような目で、私の手元を見下ろした。
「君は、いつだってそうだ。その手は染みだらけ、服からは草の匂いがする。私がどれだけ、友人たちに『薬草臭い婚約者』と笑われてきたか、君にわかりはしないだろう!」
彼の言葉は、私の誇りを、私の人生そのものを、無価値だと断じているようだった。
「私が求める妻は、家の名誉となり、私の隣で美しく咲き誇る薔薇のような女性だ。雑草のような匂いをさせて、書物にばかり没頭する女ではない!」
彼はそう言うと、パーティーの中心で薔薇のように微笑む令嬢、セリーヌ嬢に視線を送った。
「私は、セリーヌ嬢を新たな婚約者として迎える。彼女こそ、アインスワース伯爵家にふさわしい、完璧な貴婦人だ」
世界から、音が消えていく。周囲の令嬢たちが、面白そうに、あるいは侮蔑的にこちらを窺っているのがわかった。私の価値は、「良い香り」がするか、「美しいか」だけで決められてしまうのか。
涙が滲みそうになるのを、ぐっと堪える。ここで泣いたら、彼の思う壺だ。私は、背筋を伸ばし、静かに頭を下げた。
「……承知、いたしました。ジュリアン様と、セリーヌ様のお幸せを、心よりお祈り申し上げます」
惨めだった。しかし、私の愛した「調香」を否定されたことの方が、何倍も悔しかった。
その場から立ち去ろうと、踵を返した、その時だった。
「――実に興味深い議論だ。薔薇の価値が、ただその香りだけで決まるのならば、嵐で散った花弁に価値はないということか」
低く、重みのある声が、その場の空気を一変させた。声の主を見て、誰もが息を呑む。
そこに立っていたのは、漆黒の騎士服を身にまとった、長身の男性だった。彫刻のように硬質な顔立ちに、狼を思わせる鋭い灰色の瞳。彼は、この国の守護神と謳われる王立騎士団の総長、「戦場の黒狼」グリフィン・デ・ヴァレリウスその人だった。
数多の武功を立て、国王からも絶大な信頼を得ている英雄。しかし、彼は戦場で負った傷が原因で、一切の匂いを感じることができないと噂されていた。
グリフィン騎士団長は、ジュリアンを一瞥すると、何の感情も浮かべない声で言った。
「アインスワース子息。君が不要だというのなら、その『価値なきもの』を、私が引き受けよう」
「き、騎士団長閣下……!? い、いえ、これは……」
「返事は不要だ」
彼はジュリアンを無視すると、まっすぐに私の方へ歩み寄った。そして、私の目の前で足を止めると、こう言ったのだ。
「ヴァンス嬢。君に、私のための『香り』を創ってはもらえないだろうか。これは、騎士団総長としての、正式な依頼だ」
第二章:香りを忘れた騎士との盟約
グリフィン騎士団長の突然の申し出は、ジュリアンの婚約破棄宣言よりも大きな波紋を広げた。社交界の花形であるジュリアンが捨てた令嬢に、国の英雄が個人的な依頼をする。その異様な光景に、誰もが言葉を失っていた。
「さあ、場所を変えよう。ここは話をするには騒がしすぎる」
彼は、有無を言わさぬ口調でそう言うと、私に背を向け歩き出した。私は、戸惑いながらも、その後を追うしかなかった。呆然と立ち尽くすジュリアンの顔が、視界の端に映った。
彼に連れてこられたのは、王宮の片隅にある、静かなテラスだった。
「……騎士団長閣下。先ほどのお話ですが、私に、閣下のための香りを、と……」
「ああ、そうだ」
彼は、遠くの森を見つめながら、静かに語り始めた。
「俺は、戦場で負った呪いの後遺症で、一切の匂いを感じることができない。味も、だ。食事はただの作業で、世界から彩りが半分消え失せた」
その瞳には、深い諦観と、かすかな寂しさの色が浮かんでいた。
「だが、記憶の中には、まだ香りが残っている。幼い頃に駆け回った、故郷の森の匂い。雨上がりの土と、湿った苔、そして名も知らぬ野草の香りだ。それを、もう一度感じたい。いや、感じなくともいい。ただ、そこに『在る』という事実が欲しい」
彼は、私に向き直った。その灰色の瞳は、真剣そのものだった。
「君の噂は聞いている。ヴァンス嬢。君は、ただ流行の香水を作るのではない。人の記憶や感情に働きかける、特殊な調香を行うと。君ならば、俺の失われた森を、香りで再現できるのではないかと思った」
それは、あまりにも突飛で、そしてあまりにもロマンティックな依頼だった。
「君を、私の専属調香師として雇いたい。国で最高の設備を整えた工房と、君が望むあらゆる材料を、私が用意しよう。その代わり、君の創る香りは、すべて私が独占する。これは、取引であり、盟約だ」
盟約――。ジュリアンに捨てられた私にとって、それはあまりにも魅力的な提案だった。私の技術を、私の知識を、この国の英雄が求めてくれている。私の創る香りが、誰かの心を救えるかもしれない。
「……お受けいたします。その盟約」
私がそう答えると、彼は初めて、ほんの少しだけ口元を緩めたように見えた。
「礼を言う。明日、正式な馬車を迎えに寄越そう。君は、研究道具だけを持ってくればいい。その他の一切は、俺が用意する」
こうして、私は婚約破棄されたその日のうちに、新たな主君を得た。それは、愛も恋もない、ただの仕事上の契約。それでも、私の心は、久しぶりに希望の光で満たされていた。
第三章:黒狼の不器用な花束
グリフィン騎士団長の言葉に偽りはなかった。
翌日、私が連れていかれた彼の屋敷には、私の想像を遥かに超える、完璧な調香のための工房が用意されていた。ガラス張りの天井から陽光が降り注ぎ、壁一面には世界中から集められたであろう希少な香料が、整然と並べられている。
「ここで、自由に研究するといい。必要なものがあれば、何でも言え。たとえ、ドラゴンの涙が必要だと言っても、俺が手に入れてくる」
「……ありがとうございます、閣下。これ以上望むものはございません」
私と彼の奇妙な同居生活が始まった。彼は日中、騎士団の執務で忙しく、屋敷に戻るのは夜遅くが常だった。食事も別々で、私たちが顔を合わせるのは、私がその日に試作した香りを、彼の書斎へ届けに行く時だけだった。
彼は、香りを嗅ぐことができない。だから、私が差し出した小瓶を受け取ると、ただ静かにそれを見つめるだけだった。
「これは、夜明け前の霧をイメージしました。ベルガモットの冷たさに、微かなヒノキの苦味を加えて……」
「……そうか」
彼は、私の説明にただ静かに耳を傾ける。そして、私が香りに込めた物語や情景を、まるで本を読むように吟味するのだ。
「昨日の『陽だまりの猫』とやらは、少し甘すぎた。今日の『霧』の方が、情景が目に浮かびやすい」
彼の評価は、常に的確で、そして私の本質を見ていた。匂いという表面的なものに惑わされないからこそ、彼は私の調香の真価を、誰よりも正確に理解してくれた。
そんな彼の「溺愛」は、やはり独特な形で現れた。
ある朝、工房の扉を開けると、そこに無造作に置かれた麻袋があった。中を覗くと、それは北の山脈の頂にしか咲かないという幻の花、『月光花』だった。その花弁は、夜気に触れると自ら発光し、心を鎮める幽玄な香りを放つという。
呆然としていると、通りかかった執事が教えてくれた。
「昨夜、騎士団長閣下が、自ら崖を登り採ってこられました。『エララが必要とするかもしれん』と、それだけおっしゃって」
花束の代わりに、命がけで手に入れた希少な香料。それが、彼の不器用な愛情表現だった。
またある時は、私が古い文献に記された伝説の樹脂『太陽の琥珀』の話をすると、その二日後には、彼は南の砂漠でキャラバンを襲っていた盗賊団を壊滅させ、奪われていた『太陽の琥珀』を「戦利品だ」と言って私に差し出した。
彼の与えてくれるものは、いつだって私の想像を超えていた。そしてそのどれもが、私の「調香師」としての魂を、この上なく満たしてくれるものだった。
いつしか、私は彼の帰りを待つのが日課になっていた。彼の無愛想な顔の奥にある、深い優しさを知ってしまったから。彼が私の創る香りを語る時の、少年のような真剣な眼差しを、愛おしいと感じるようになってしまったから。
この感情は、盟約違反だろうか。
私は、この香りを忘れた騎士に、心をすっかり奪われてしまっていた。
第四章:偽りの薔薇と真実の盾
私の調香師としての評判は、グリフィン騎士団長の庇護のもと、静かに、しかし確実に広がっていった。特に、騎士たちの精神を安定させ、集中力を高めるために創った『静寂の森』という香りは、騎士団の任務成功率を劇的に向上させ、「見えない守護」として重宝されるようになった。
そんな噂を聞きつけたのか、ある日、思いもよらない人物が屋敷を訪ねてきた。ジュリアンだった。
彼は、以前の傲慢さが嘘のように、憔悴した表情で私の前に現れた。
「エララ。君に、謝罪がしたい。私は、君という才能の本当の価値に気づけなかった愚か者だ」
彼は、大きな薔薇の花束を私に差し出した。しかし、その甘い香りは、今の私にはひどく空虚なものに感じられた。
「セリーヌ嬢との婚約は、間違いだった。家同士の体裁ばかりで、心が通っていなかった。君といた時の方が、ずっと……。どうか、もう一度、私にチャンスをくれないだろうか」
あまりの身勝手さに、呆れて言葉も出ない。私が断りの言葉を口にしようとした、その時だった。
「その花は、どこのものだ」
背後から聞こえたのは、氷のように冷たいグリフィンの声だった。彼は、いつの間にか私の隣に立っていた。
「き、騎士団長閣下……! こ、これは、エララに謝罪の意を……」
「この薔薇は、温室で無理やり咲かせたものだな。形は美しいが、香りに深みがない。見せかけだけの、空っぽな花だ」
嗅覚がないはずの彼が、なぜ。ジュリアンが混乱していると、グリフィンは続けた。
「エララが教えてくれた。本物の薔薇の香りは、甘さだけでなく、青々しい葉の苦味や、湿った土の匂いが混じり合って、初めて完成されるのだと。お前のそれは、上辺だけの甘さしかない。まるで、お前自身のようだな」
彼の言葉は、刃物のように鋭くジュリアンを切り裂いた。
「エララは、俺の調香師だ。彼女の才能は、お前のような男の虚栄心を満たすためにあるのではない。この国の兵士たちの命を、心を、守るためにある。彼女は、俺の、そして王国にとっての『盾』なのだ」
グリフィンは、私の肩を抱き寄せた。その腕は、力強く、そしてどこまでも優しかった。
「彼女の価値が分からないのなら、二度と我々の前に現れるな。次にその面を見せたら、今度は花束ではなく、お前の首をへし折ることになる」
戦場の黒狼が放つ本物の殺気に、ジュリアンは顔面蒼白になり、ほうほうの体で逃げ去っていった。
嵐が去った後、グリフィンは私に向き直り、その瞳に初めて、焦りのような色を浮かべた。
「……すまない。勝手なことを言った」
「いいえ。……ありがとうございます、グリフィン様。守ってくださって」
「俺は、君を……」
彼は何かを言いかけて、しかし、唇を固く結んでしまった。その不器用な姿が、私の心を締め付けた。
最終章:心が嗅ぎ分ける香り
数ヶ月の試行錯誤の末、私はついに、グリフィンのための香りを完成させた。
彼の記憶の中にある、故郷の森の香り。雨上がりの土、湿った苔、そして名も知らぬ野草たち。数百種類の香料を組み合わせ、彼の断片的な記憶の言葉だけを頼りに紡ぎ上げた、世界に一つだけの香り。
私は、完成した香水を入れた小瓶を手に、彼の書斎を訪れた。
「グリフィン様。盟約の香り、完成いたしました」
彼は、緊張した面持ちでそれを受け取ると、静かに蓋を開けた。もちろん、彼がその香りを嗅ぐことはできない。
私は、彼の許可を得て、その香水を一滴、彼の手首に垂らした。
「目を、閉じてみてください」
彼が言われた通りにすると、奇跡が起きた。
香りが肌に馴染んだ瞬間、彼の眉がぴくりと動き、その固く閉ざされた瞼が微かに震えたのだ。
「……見える」
彼の唇から、驚きに満ちた声が漏れた。
「森が……見える。木々の隙間から、光が……。足元には、あの時の……」
私の調香は、彼の失われた嗅覚を蘇らせたわけではなかった。それは、香りを触媒として、彼の魂に直接働きかけ、記憶の奥深くに眠っていた情景を、鮮やかに呼び覚ましたのだ。彼は、鼻でなく、心で、その香りを「体験」していた。
やがて、彼の頬を、一筋の涙が伝った。
失われた世界を取り戻した英雄は、子供のように静かに泣いていた。
私は、ただ黙って、彼のそばに寄り添っていた。
長い静寂の後、彼はゆっくりと目を開けた。その灰色の瞳は、雨上がりの森のように澄み渡り、そして、今まで見たこともないほどの熱を帯びて、私を捉えていた。
「エララ」
彼は私の手を取り、その前に跪いた。
「俺は、この盟約を、ここで終わりにしたい」
その言葉に、心が凍りつく。やはり、目的を果たした今、私はもう不要なのだと――。
しかし、彼は私の手を、より強く握りしめた。
「そして、新たに、生涯を共にするという『婚姻の盟約』を結びたい」
「……え?」
「俺は、愚かだった。君に求めていたのは、失われた森の香りではなかった。俺が本当に求めていたのは、君という存在そのものだったのだと、今、ようやく気づいた」
彼は、私の染みだらけの手を、愛おしそうに自分の頬に押し当てた。
「君の情熱も、君の頑固さも、薬草の匂いがする君の指も、俺にとっては、どんな高価な香水よりも、心を揺さぶる『香り』なのだ。俺は、君を愛している、エララ。俺の硝子の鼻が唯一嗅ぎ分けることができた、ただ一つの、愛しい香りを放つ君を」
それは、世界で一番、心を震わせる告白だった。
「はい……喜んで。グリフィン様」
涙で滲む視界の中で、私は力強く頷いた。
こうして、「硝子の鼻を持つ騎士」と「香りを紡ぐ令嬢」の、新たな盟約が結ばれた。
彼の世界に彩りを取り戻したのは、森の香りではない。
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