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書庫の姫君と氷血公爵の誤算な求愛 ~忘れられた文字は愛の言葉~
書庫の姫君と氷血公爵の誤算な求愛 ~忘れられた文字は愛の言葉~
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第一章:玻璃の音が砕ける夜
王都の夜を彩る、侯爵家主催の夜会。その喧騒の中心で、セレスフィアナ・フォン・クライナー伯爵令嬢は、まるで自分だけが色褪せた絵画の一部であるかのように、息を潜めていた。シャンデリアの光が宝石のように煌めき、人々の楽しげな笑い声が音楽と溶け合う。しかし、彼女の心は鉛のように重く、目の前の婚約者の言葉だけが、悪夢のように響いていた。
「セレスフィアナ、君との婚約を、今この場で破棄させてもらう」
婚約者であるグレイグ・フォン・ヴァインベルク侯爵子息の声は、冷たく、そして侮蔑に満ちていた。彼の隣には、燃えるような赤いドレスを纏ったリズベラ男爵令嬢が、勝ち誇ったような笑みを浮かべて寄り添っている。
周囲のざわめきが、一瞬にして静寂に変わる。好奇と嘲笑、そして憐憫の視線が、セレスフィアナに突き刺さった。
グレイグは、まるで観衆に語りかけるかのように言葉を続ける。「クライナー伯爵令嬢、君はあまりにも地味で、華がない。書物ばかりに埋もれ、社交界の花であるべき私の隣に立つには、あまりにも魅力に欠けるのだよ。これからは、太陽のように輝くこのリズベラこそが、私の隣に立つにふさわしい」
リズベラが、くすくすと喉を鳴らして笑う。「まぁ、グレイグ様。そんなにはっきりとおっしゃっては、セレスフィアナ様がお可哀想ですわ。埃っぽい書庫がお似合いの方も、いらっしゃるのですから」
セレスフィアナは、唇を強く噛みしめた。血の味が滲む。悔しい。悲しい。だがそれ以上に、彼の言葉が心の奥底で凍りついていた何かを、静かに砕いていくのを感じていた。彼が求めていたのは、クライナー伯爵家が持つ古い鉱山の利権だけ。彼女自身を見てくれたことなど、一度もなかったのだ。
震える指先を固く握りしめ、セレスフィアナは背筋を伸ばした。俯いていては、彼らの思う壺だ。
「ヴァインベルク侯爵子息。その決定、謹んでお受けいたします」
凛とした声が、静まり返ったホールに響く。予想外の反応に、グレイグとリズベラが一瞬、虚を突かれた顔をした。
セレスフィアナは、ゆっくりと続けた。「わたくしのような書痴の女では、あなた様の輝かしい未来の隣に立つには、確かに力不足でございましょう。あなた様と、そちらの…太陽のように輝かしいご令嬢の未来に、幸多からんことをお祈りしております」
彼女は完璧なカーテシーを見せると、背を向けた。一歩、また一歩と、突き刺さる視線の中を歩く。ドレスの裾が床を擦る音だけが、やけに大きく聞こえた。ホールの扉にたどり着き、外の冷たい空気に触れた瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れた。
「…っ」
涙が溢れそうになるのを、奥歯を噛み締めて堪える。馬車に乗り込むと、御者に一言だけ告げた。
「屋敷へ」
ガタガタと揺れる馬車の中で、セレスフィアナは初めて嗚咽を漏らした。婚約破棄は覚悟していた。だが、これほどまでに心が抉られるとは思わなかった。彼女の価値は、華やかさや社交性でしか測られないのか。彼女が愛してきた知識は、積み重ねてきた学びは、何の意味も持たないというのか。
屋敷に戻り、自室に駆け込むと、セレスフィアナは壁一面を埋め尽くす本棚に囲まれて、ようやく安堵の息をついた。ここだけが、彼女の聖域だった。古い羊皮紙の匂い、インクの香り。それだけが、傷ついた心を慰めてくれる。
「もう、いいわ…」
ぽつりと呟く。
「もう、誰かのために自分を偽るのはやめましょう。わたくしは、わたくしの好きなものと生きていく」
その夜、セレスフィアナは一つの決意を固めた。王都の喧騒から離れ、実家の領地にある古い屋敷で、愛する書物と共に静かに暮らそう、と。
彼女の瞳の奥で、小さな、しかし確かな光が灯っていた。それは、絶望の闇の中で見つけた、自分自身で生きるという、ささやかな希望の光だった。
第二章:森の賢者と氷の公爵
王都を離れ、クライナー伯爵領の片田舎にある古い別邸に移り住んでから、ひと月が経った。セレスフィアナの生活は、一変した。きらびやかな夜会も、意味のないお茶会もない。あるのは、朝露に濡れた森の匂いと、鳥のさえずり、そして無限に広がる知識の海だけだ。
彼女は水を得た魚のように、研究に没頭した。特に、この地方に自生する薬草や、古代の遺跡に関する文献を読み解く時間は、何物にも代えがたい喜びだった。婚約者だったグレイグに「女の学問など無意味だ」と嘲笑された彼女の知識は、ここでは領民たちの役に立った。ちょっとした病や怪我に効く薬草を教えれば感謝され、古い伝承を子供たちに語って聞かせれば喜ばれた。
「セフィ様は、まるで森の賢者様みたいだね」
子供たちにそう呼ばれるのが、今の彼女の誇りだった。
その日、セレスフィアナは特に珍しいとされる、古代の儀式に使われたという植物『月光草』を探しに、森の奥深くへと分け入っていた。古い地図を片手に、苔むした岩や倒木を乗り越えていく。
鬱蒼とした木々の間から、微かに光を反射する何かが見えた。近づいてみると、それは古代文字が刻まれた石碑だった。
「まあ…こんな場所に…」
夢中で石碑に刻まれた文字に指を這わせる。それは失われたはずの古代魔法言語の一部だった。風化が激しく、ほとんど読み取れない。それでも、セレスフィアナの心は高鳴った。
「…『星の雫、大地に眠る…力を…』?」
判読できる部分を、夢中で羊皮紙に書き写す。その時だった。
「そこで何をしている」
背後からかけられた、低く、冷徹な声に、セレスフィアナの肩が跳ねた。驚いて振り返ると、そこには一人の男が立っていた。黒曜石のような髪、氷を削り出したかのような鋭い貌。そして、見る者を射竦める、凍てつくような青い瞳。高価そうな黒衣を纏い、その存在感は森の静寂の中で異様なまでに際立っていた。
セレスフィアナは、その男を知っていた。一度だけ、遠くから見たことがある。
ゼィヴェリアス・フォン・アークライト公爵。
戦場で鬼神のごとき活躍を見せ、社交界ではその冷酷さから『氷血公爵』と畏怖される、帝国で最も権勢を誇る男。
「これは、アークライト公爵閣下…」
セレスフィアナは慌ててスカートの裾をつまみ、淑女の礼をとった。「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。わたくしは、セレスフィアナ・フォン・クライナーと申します」
ゼィヴェリアスは彼女を一瞥すると、その視線を石碑へと移した。
「クライナー…ああ、ヴァインベルクに捨てられた令嬢か」
その言葉は、刃物のようにセレスフィアナの胸を刺した。噂は、こんな辺鄙な場所にまで届いているのだ。
しかし、彼の次の言葉は予想外のものだった。「その石碑が読めるのか?」
「…いえ、ほとんどが風化しておりまして。ですが、おそらく古代魔法言語かと…」
「ほう」ゼィヴェリアスは興味深そうに眉をひそめ、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。「では、これはどうだ?」
広げられた羊皮紙には、複雑な紋様と、石碑と同じ古代文字がびっしりと書き込まれていた。それは、彼が所有する古代遺物の写しらしかった。
セレスフィアナは息を呑んだ。石碑よりも保存状態が良く、文脈が読み取れる。彼女は知らず知らずのうちに、羊皮紙に顔を近づけていた。
「…これは、驚きました。この文様は『魂の循環』を示しています。そしてこの文字は…『天穹の門を開く鍵は、地上の最も静かなる場所にて、月の涙を待つ者に与えられん』…と」
夢中で呟く。学究的な興奮が、恐怖を上回っていた。
「…驚いたな」
ゼィヴェリアスの声には、初めて温度のようなものが灯っていた。「何人もの古代言語学者が匙を投げたものを、こうも容易く…」
彼はセレスフィアナを改めて見つめた。着飾ってもいない、化粧も薄い、王都の令嬢たちとは似ても似つかない女。だが、その瞳は知性の輝きに満ち、古代文字を見つめる横顔は、不思議な魅力に溢れていた。
「セレスフィアナ・フォン・クライナー」
彼が、初めて彼女の名前を呼んだ。
「君、面白いな。私の下で働け」
「…え?」
あまりに唐突な言葉に、セレスフィアナは間の抜けた声を上げた。
「私の屋敷には、未解読の古文書や遺物が山ほどある。それを君に任せたい。もちろん、ただ働きではない。破格の待遇を約束しよう。君が望むなら、クライナー伯爵家以上の庇護を与えることも可能だ」
それは、命令であり、勧誘であり、そして抗いがたい提案だった。
セレスフィアナは混乱した。婚約を破棄され、世間から見捨てられた自分を、この氷血公爵が評価している?自分の知識を、必要としてくれている?
「…なぜ、わたくしなのでしょうか」
かろうじて、そう尋ねるのが精一杯だった。
ゼィヴェリアスは、ふいと視線を逸らし、空を見上げた。「本物には、価値がある。それだけだ」
彼の横顔は、どこか寂しげに見えた。
セレスフィアナは、目の前の男を見つめた。冷酷だと噂されるこの人が、初めて自分自身を、その知識を、価値あるものだと言ってくれた。
「…お受け、いたします」
気づけば、彼女はそう答えていた。
それは、絶望の淵から這い上がった令嬢と、孤独な氷血公爵の、奇妙な契約が結ばれた瞬間だった。
第三章:不器用な溺愛の始まり
アークライト公爵邸に研究員として迎え入れられたセレスフィアナの生活は、再び劇的な変化を遂げた。彼女に与えられたのは、賓客用の豪華な一室と、公爵邸の広大な書庫を自由に使う権利、そして専属のメイドまで付けられるという、まさに破格の待遇だった。
「セフィ様、本日のドレスはこちらでいかがでしょうか?公爵閣下が、あなた様のためにとご用意されたものです」
メイドのサラが広げて見せたのは、夜空のような深い青色のシルクのドレスだった。控えめながらも上品な刺繍が施され、セレスフィアナの白い肌を美しく引き立てるであろうことは、一目でわかった。
「こ、こんな高価なもの…!それに、わたくしは研究をするだけですので、普段着で…」
「いえ、閣下のご命令です。『私の研究員は、帝国の至宝だ。それにふさわしい扱いをしろ』と」
サラは誇らしげに胸を張る。使用人たちは、最初こそ「公爵様がどこからか変わった愛人を連れてきた」と訝しんでいたが、セレスフィアナが書庫に籠もり、何日もかけて難解な古文書を解読していく姿を見て、次第に尊敬の念を抱くようになっていた。
セレスフィアナは、戸惑いながらもドレスに袖を通した。鏡に映った自分の姿は、まるで別人のようだ。しかし、それ以上に彼女を驚かせたのは、ゼィヴェリアスの行動だった。
彼は毎晩のように、夕食を共にすることを求めた。広いダイニングテーブルで、向かい合って座る。会話は、ほとんどがセレスフィアナの研究の進捗についてだった。
「それで、あの『賢者の石板』の解読は進んだか?」
「はい、閣下。どうやらあれは単なる錬金術の記録ではなく、古代の天文学に関する記述のようです。星の配置から、季節の移ろいや豊穣の時期を予測していたらしく…」
セレスフィアナが熱っぽく語ると、ゼィヴェリアスは表情こそ変えないものの、興味深そうに耳を傾けていた。彼の青い瞳が、ただ真っ直ぐに自分だけを見つめている。その事実に、セレスフィアナは気づかないふりをしながらも、胸が微かに高鳴るのを感じていた。
ある夜、セレスフィアナが書庫で研究に没頭していると、静かにゼィヴェリアスが入ってきた。
「まだ起きていたのか。少しは休め」
「閣下…。この部分が、どうしても解読できなくて…」
彼女が指し示した羊皮紙を、彼は覗き込む。そして、ふとセレスフィアナの冷えた手に気づいた。
「…手が氷のようだ」
彼は何も言わずに彼女の手を取ると、自分の大きな手で包み込んだ。驚くほど温かい。
「か、閣下!?」
「黙っていろ。温まるまでだ」
ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、その手つきは驚くほど優しかった。セレスフィアナの心臓が、大きく音を立てる。公爵の指が、インクで汚れた彼女の指先をそっと撫でた。
「君のこの指が、失われた歴史を紡ぎ出す。…大事にしろ」
その低い声は、まるで囁きのようだった。セレスフィアナは顔が熱くなるのを感じ、俯くことしかできなかった。
これが、氷血公爵の不器用な優しさなのだと、彼女は理解し始めていた。彼は高価なドレスや宝石を贈ることで、彼女の価値を示そうとする。彼は彼女の研究に熱心に耳を傾けることで、敬意を示そうとする。そして、こうして不意に、凍えた心を溶かすような温もりを与えるのだ。
それは、今まで誰も彼女に与えてくれなかったものだった。
一方、セレスフィアナが氷血公爵の庇護下で華々しい生活を送っているという噂は、すぐにグレイグとリズベラの耳にも届いていた。
「なんですって!?あの地味な女が、氷血公爵のところにですって!?」
リズベラは、甲高い声で叫んだ。
グレイグも苦虫を噛み潰したような顔をしていた。「ありえん…。あの公爵が、女に興味を示すなど…。しかも、よりによってセレスフィアナだと?」
当初、彼らはその噂を一笑に付していた。しかし、セレスフィアナが公爵の名代として高価なドレスを纏い、学術会に出席したという話が伝わると、彼らは焦りを隠せなくなった。
「グレイグ様、まさかあの女、公爵を誑かして何か企んでいるんじゃありませんこと?」
「…あるいは、あの女が持つ知識に、公爵が気づいたのかもしれん」
グレイグの脳裏に、セレスフィアナが熱心に読んでいた古い文献の数々が蘇る。彼はそれを鼻で笑っていたが、もしやそこに、氷血公爵さえも欲しがるほどの価値があったとしたら?
「リズベラ、少し調べる必要がある。セレスフィアナが、アークライト公爵邸で一体何を調べているのかをな…」
グレイグの瞳に、嫉妬と欲望のどす黒い光が宿っていた。一度捨てたはずの玩具が、今や手の届かない場所で宝石のように輝いている。それが、彼には我慢ならなかったのだ。
第四章:暴かれる陰謀と、育まれる愛
グレイグは、金に物を言わせてアークライト公爵邸に仕える下働きの者を買収し、セレスフィアナの動向を探らせた。そして、彼女が『星の雫』と呼ばれる古代遺跡の解読に成功し、その場所を特定したという情報を掴んだ。
「その遺跡には、莫大な価値を持つ魔石が眠っている、だと…?」
報告を聞いたグレイグは、ゴクリと喉を鳴らした。氷血公爵が執心するほどの遺跡だ。手に入れれば、ヴァインベルク家の財政は一気に潤い、侯爵家としての地位も盤石なものになるだろう。
「グレイグ様、素晴らしいですわ!そんな価値あるものを、あの地味な女なんかに独り占めさせておく必要はありませんわ!」リズベラが興奮したように彼の腕に絡みつく。「横取りしてしまいましょう?」
「…ああ、もちろんだ。元はと言えば、クライナー伯爵家の利権は、俺のものになるはずだったんだからな」
グレイグは邪悪な笑みを浮かべた。彼は、セレスフィアナが遺跡の場所を記した地図を、彼女の私室に保管していることを突き止めた。公爵邸の警備は厳重だが、夜会が開かれる日ならば、警備が手薄になる瞬間があるはずだ。彼はその隙を突いて、地図を盗み出す計画を立てた。
数日後、公爵邸で大規模な夜会が催された。招待客が華やかなホールに集う中、セレスフィアナはゼィヴェリアスの隣に寄り添っていた。彼が用意した、月光のように輝く銀色のドレスは、驚くほど彼女に似合っており、多くの招待客が賞賛の視線を送っていた。
「美しいな、セフィ」
喧騒の中、ゼィヴェリアスが彼女の耳元で囁いた。彼の吐息が耳にかかり、セレスフィアナは頬を染めた。彼が自分の愛称を呼ぶのは、二人きりの時だけだ。
「閣下こそ、素敵です」
彼女がそう言うと、彼は初めて、ほんの少しだけ口元を緩めた。その稀有な微笑みに、セレスフィアナの心臓はまたしても跳ね上がる。
その頃、グレイグは裏口から公爵邸に忍び込み、手筈通りセレスフィアナの部屋へと向かっていた。侍女を買収して手に入れた合鍵で、やすやすと部屋に侵入する。
「ふん、相変わらず書物だらけのつまらん部屋だ」
悪態をつきながら、机の引き出しを探る。そして、古びた羊皮紙に描かれた地図を見つけ出した。
「あったぞ…!これで俺は…!」
勝利を確信し、ほくそ笑んだその時だった。
「私の屋敷で、鼠が何を漁っている?」
部屋の入り口に、氷のような怒気をまとったゼィヴェリアスが立っていた。彼の隣には、信じられないものを見るような目でグレイグを見つめる、セレスフィアナの姿もあった。
「こ、公爵閣下!?なぜここに…」
グレイグは狼狽した。夜会の主役であるはずの公爵が、なぜこんな場所にいるのか。
ゼィヴェリアスは、冷たい笑みを浮かべた。「お前のような下衆が嗅ぎ回っていることに、私が気づかぬとでも思ったか?お前が買収した下働きは、最初から私の人間だ」
「なっ…!?」
全ては、罠だったのだ。セレスフィアナが心配そうにゼィヴェリアスの腕を掴む。
「閣下…」
「安心しろ、セフィ。お前の大切な研究を、こんな輩に汚させはしない」
ゼィヴェリアスはそう言うと、衛兵たちに命じた。「この男を捕らえろ。不法侵入及び窃盗未遂の現行犯だ。ヴァインベルク侯爵家には、こちらから然るべき通達をしておく」
「ま、待ってくれ!俺は騙されたんだ!あの女が…セレスフィアナが俺を誘惑したんだ!」
グレイグは往生際悪く叫んだが、衛兵たちに無情にも取り押さえられた。
ホールでは、グレイグが連行されていく姿に、招待客たちが騒然となっていた。リズベラは顔面蒼白で立ち尽くしている。
全ての騒ぎが収まった後、ゼィヴェリアスはセレスフィアナを連れて、静かなバルコニーに出た。
「すまなかったな。怖い思いをさせた」
「いえ…。閣下が、守ってくださいましたから」
セレスフィアナは、心からの感謝を込めて彼を見上げた。
「なぜ、わたくしのために、ここまでしてくださるのですか?」
ずっと聞きたかった問いだった。彼はなぜ、ただの研究員に過ぎない自分を、これほどまでに気にかけるのか。
ゼィヴェリアスは、夜空に浮かぶ月を見上げた。その横顔は、いつもより少しだけ、柔らかく見えた。
「…初めて君に会った時、君は泥だらけで、石碑の文字を読んでいた。その瞳は、どんな宝石よりも輝いて見えた」
彼はセレスフィアナに向き直り、彼女の肩を優しく掴んだ。
「世間の誰もが君の価値に気づかず、君自身さえも見失っていた。だが、私にはわかった。君こそが、私が長年探し求めていた『本物』の宝なのだと」
彼の青い瞳が、熱を帯びてセレスフィアナを捉える。
「君の知識に惹かれたのは事実だ。だが、今は違う。私は、セレスフィアナ・フォン・クライナーという一人の女性に、どうしようもなく惹かれている」
それは、紛れもない愛の告白だった。氷血公爵と呼ばれた男が、初めて見せた魂からの言葉だった。
セレスフィアナの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは、悲しみや悔しさの涙ではない。婚約を破棄されたあの夜とは全く違う、温かく、そして幸せな涙だった。
「わたくしも…」
彼女は、震える声で答えた。
「わたくしも、あなたの側にいたいです、ゼィヴェリアス様」
彼女が初めて彼の名を呼ぶと、ゼィヴェリアスは愛おしそうに目を細め、セレスフィアナをそっと腕の中に抱きしめた。
失われた文字を巡る出会いは、いつしか二人の心に、愛という名の言葉を刻みつけていた。
第五章:忘れられた文字は愛の言葉
グレイグの陰謀は、ヴァインベルク侯爵家の没落という形で幕を閉じた。アークライト公爵への敵対行為と見なされ、爵位も財産も剥奪されたのだ。リズベラも、早々に見切りをつけて彼の元を去ったという。
セレスフィアナの心に、もはや彼らへの感情はなかった。ただ、遠い世界の出来事のように感じるだけだった。今の彼女の世界の中心には、ゼィヴェリアスがいたからだ。
あの日以来、二人の距離は急速に縮まった。彼はもはや感情を隠そうとはせず、セレスフィアナへの深い愛情を、言葉と行動で示し続けた。
そして、季節が一周した春の日。二人は、『星の雫』の遺跡へと馬を並べていた。
「ここが…」
セレスフィアナが解読した地図の場所に、荘厳な石造りの扉があった。ゼィヴェリアスが扉に手を触れると、古代魔法の力が働き、重々しい音を立てて開いていく。
遺跡の内部は、壁一面に夜光石が埋め込まれ、まるで星空の中にいるような幻想的な空間だった。その中央には、澄んだ水をたたえた泉があり、水面には天井の光が反射して、きらきらと輝いている。
「これが…『星の雫』」
セレスフィアナは、息を呑んだ。
「君が解き明かしてくれたおかげだ」
ゼィヴェリアスは、彼女の隣に立ち、その肩を優しく抱いた。
「セフィ。君に、見せたいものがある」
彼が指し示したのは、泉の底に沈む一枚の石板だった。そこには、他のどの場所よりも丁寧に、古代文字が刻まれている。
「これを、読んでみてくれないか」
セレスフィアナは頷き、水面に顔を近づけた。揺らめく文字を、ゆっくりと目で追っていく。
「…『我が最愛の伴侶へ。幾千の星霜を経ようとも、我が魂は常に汝の傍らに。この泉に誓う永遠の愛が、いつか再び、天穹の門を開く鍵とならんことを』…」
読み終えたセレスフィアナは、はっと顔を上げた。これは、ただの記録ではない。遠い昔、誰かが愛する人に宛てて遺した、壮大な愛の詩だ。
彼女が振り返ると、ゼィヴェリアスがその場に片膝をついていた。彼の大きな手には、泉の水面のように澄んだ青い宝石が嵌められた指輪が、恭しく掲げられている。
「セレスフィアナ・フォン・クライナー」
彼の声は、真摯な響きに満ちていた。
「君の知性が、私の凍てついた心を解かしてくれた。君の優しさが、私が忘れていた温もりを教えてくれた。私の隣で、未来という名の歴史を、共に読み解いてはくれないだろうか」
彼は、少し照れたように視線を逸らすと、言葉を続けた。
「君を、生涯をかけて愛し、守り抜くと誓う。どうか、私の妻になってほしい」
それは、氷血公爵の求愛の言葉であり、ゼィヴェリアスという一人の男の、魂からの叫びだった。
セレスフィアナの瞳から、大粒の涙がとめどなく溢れ、泉に落ちて波紋を広げた。彼女は泣きながら、最高の笑顔で頷いた。
「はい…!喜んで、ゼィヴェリアス様…!」
ゼィヴェリアスは安堵の息を漏らし、立ち上がると、指輪を彼女の左手の薬指にそっと滑らせた。それは、まるで彼女のために作られたかのように、ぴったりと収まった。
彼はセレスフィアナを強く抱きしめる。
「愛している、セフィ」
「わたくしも、愛しております、ゼィヴェリアス様」
忘れられた文字が繋いだ、二つの魂。書庫の片隅で埃を被っていた姫君は、その知識と愛によって、誰よりも輝く存在となった。氷のように冷たいと噂された公爵は、ただ一人の女性への愛によって、誰よりも熱い情熱を取り戻した。
これは、婚約破棄から始まった、一つの恋の物語。
そして、二人がこれから紡いでいく、新しい歴史の、ほんの始まりに過ぎなかった。
エピローグ
数年後。アークライト公爵夫妻の名は、帝国中に知れ渡っていた。公爵の揺るぎない決断力と、公爵夫人の類まれなる知性は、国の発展に大きく貢献した。二人が発見した古代の技術は、農業や医療に革新をもたらし、多くの民を救った。
アークライト公爵邸の広大な書庫には、今日も寄り添う二人の姿があった。
「ゼィヴェリアス様、こちらの文献ですが、どうやら失われた古代都市『天空の都』への道筋を示しているようなのです」
「ほう。それは面白いな。今度の休みにでも、二人で探しに行ってみるか」
夫の腕に心地よく身を預けながら、セレスフィアナは幸せそうに微笑む。彼女の薬指には、あの日の青い指輪が、変わらぬ輝きを放っていた。
ゼィヴェリアスは、愛おしそうに妻の髪に口づける。
「君となら、世界のどんな謎も解き明かせる気がするよ」
「ふふ、わたくしもですわ」
書庫の静寂の中、二人の穏やかな笑い声が響く。
忘れられた文字は、愛の言葉となって、今も二人を、そして未来を、優しく照らし続けていた。
王都の夜を彩る、侯爵家主催の夜会。その喧騒の中心で、セレスフィアナ・フォン・クライナー伯爵令嬢は、まるで自分だけが色褪せた絵画の一部であるかのように、息を潜めていた。シャンデリアの光が宝石のように煌めき、人々の楽しげな笑い声が音楽と溶け合う。しかし、彼女の心は鉛のように重く、目の前の婚約者の言葉だけが、悪夢のように響いていた。
「セレスフィアナ、君との婚約を、今この場で破棄させてもらう」
婚約者であるグレイグ・フォン・ヴァインベルク侯爵子息の声は、冷たく、そして侮蔑に満ちていた。彼の隣には、燃えるような赤いドレスを纏ったリズベラ男爵令嬢が、勝ち誇ったような笑みを浮かべて寄り添っている。
周囲のざわめきが、一瞬にして静寂に変わる。好奇と嘲笑、そして憐憫の視線が、セレスフィアナに突き刺さった。
グレイグは、まるで観衆に語りかけるかのように言葉を続ける。「クライナー伯爵令嬢、君はあまりにも地味で、華がない。書物ばかりに埋もれ、社交界の花であるべき私の隣に立つには、あまりにも魅力に欠けるのだよ。これからは、太陽のように輝くこのリズベラこそが、私の隣に立つにふさわしい」
リズベラが、くすくすと喉を鳴らして笑う。「まぁ、グレイグ様。そんなにはっきりとおっしゃっては、セレスフィアナ様がお可哀想ですわ。埃っぽい書庫がお似合いの方も、いらっしゃるのですから」
セレスフィアナは、唇を強く噛みしめた。血の味が滲む。悔しい。悲しい。だがそれ以上に、彼の言葉が心の奥底で凍りついていた何かを、静かに砕いていくのを感じていた。彼が求めていたのは、クライナー伯爵家が持つ古い鉱山の利権だけ。彼女自身を見てくれたことなど、一度もなかったのだ。
震える指先を固く握りしめ、セレスフィアナは背筋を伸ばした。俯いていては、彼らの思う壺だ。
「ヴァインベルク侯爵子息。その決定、謹んでお受けいたします」
凛とした声が、静まり返ったホールに響く。予想外の反応に、グレイグとリズベラが一瞬、虚を突かれた顔をした。
セレスフィアナは、ゆっくりと続けた。「わたくしのような書痴の女では、あなた様の輝かしい未来の隣に立つには、確かに力不足でございましょう。あなた様と、そちらの…太陽のように輝かしいご令嬢の未来に、幸多からんことをお祈りしております」
彼女は完璧なカーテシーを見せると、背を向けた。一歩、また一歩と、突き刺さる視線の中を歩く。ドレスの裾が床を擦る音だけが、やけに大きく聞こえた。ホールの扉にたどり着き、外の冷たい空気に触れた瞬間、張り詰めていた糸がぷつりと切れた。
「…っ」
涙が溢れそうになるのを、奥歯を噛み締めて堪える。馬車に乗り込むと、御者に一言だけ告げた。
「屋敷へ」
ガタガタと揺れる馬車の中で、セレスフィアナは初めて嗚咽を漏らした。婚約破棄は覚悟していた。だが、これほどまでに心が抉られるとは思わなかった。彼女の価値は、華やかさや社交性でしか測られないのか。彼女が愛してきた知識は、積み重ねてきた学びは、何の意味も持たないというのか。
屋敷に戻り、自室に駆け込むと、セレスフィアナは壁一面を埋め尽くす本棚に囲まれて、ようやく安堵の息をついた。ここだけが、彼女の聖域だった。古い羊皮紙の匂い、インクの香り。それだけが、傷ついた心を慰めてくれる。
「もう、いいわ…」
ぽつりと呟く。
「もう、誰かのために自分を偽るのはやめましょう。わたくしは、わたくしの好きなものと生きていく」
その夜、セレスフィアナは一つの決意を固めた。王都の喧騒から離れ、実家の領地にある古い屋敷で、愛する書物と共に静かに暮らそう、と。
彼女の瞳の奥で、小さな、しかし確かな光が灯っていた。それは、絶望の闇の中で見つけた、自分自身で生きるという、ささやかな希望の光だった。
第二章:森の賢者と氷の公爵
王都を離れ、クライナー伯爵領の片田舎にある古い別邸に移り住んでから、ひと月が経った。セレスフィアナの生活は、一変した。きらびやかな夜会も、意味のないお茶会もない。あるのは、朝露に濡れた森の匂いと、鳥のさえずり、そして無限に広がる知識の海だけだ。
彼女は水を得た魚のように、研究に没頭した。特に、この地方に自生する薬草や、古代の遺跡に関する文献を読み解く時間は、何物にも代えがたい喜びだった。婚約者だったグレイグに「女の学問など無意味だ」と嘲笑された彼女の知識は、ここでは領民たちの役に立った。ちょっとした病や怪我に効く薬草を教えれば感謝され、古い伝承を子供たちに語って聞かせれば喜ばれた。
「セフィ様は、まるで森の賢者様みたいだね」
子供たちにそう呼ばれるのが、今の彼女の誇りだった。
その日、セレスフィアナは特に珍しいとされる、古代の儀式に使われたという植物『月光草』を探しに、森の奥深くへと分け入っていた。古い地図を片手に、苔むした岩や倒木を乗り越えていく。
鬱蒼とした木々の間から、微かに光を反射する何かが見えた。近づいてみると、それは古代文字が刻まれた石碑だった。
「まあ…こんな場所に…」
夢中で石碑に刻まれた文字に指を這わせる。それは失われたはずの古代魔法言語の一部だった。風化が激しく、ほとんど読み取れない。それでも、セレスフィアナの心は高鳴った。
「…『星の雫、大地に眠る…力を…』?」
判読できる部分を、夢中で羊皮紙に書き写す。その時だった。
「そこで何をしている」
背後からかけられた、低く、冷徹な声に、セレスフィアナの肩が跳ねた。驚いて振り返ると、そこには一人の男が立っていた。黒曜石のような髪、氷を削り出したかのような鋭い貌。そして、見る者を射竦める、凍てつくような青い瞳。高価そうな黒衣を纏い、その存在感は森の静寂の中で異様なまでに際立っていた。
セレスフィアナは、その男を知っていた。一度だけ、遠くから見たことがある。
ゼィヴェリアス・フォン・アークライト公爵。
戦場で鬼神のごとき活躍を見せ、社交界ではその冷酷さから『氷血公爵』と畏怖される、帝国で最も権勢を誇る男。
「これは、アークライト公爵閣下…」
セレスフィアナは慌ててスカートの裾をつまみ、淑女の礼をとった。「ご挨拶が遅れ、申し訳ございません。わたくしは、セレスフィアナ・フォン・クライナーと申します」
ゼィヴェリアスは彼女を一瞥すると、その視線を石碑へと移した。
「クライナー…ああ、ヴァインベルクに捨てられた令嬢か」
その言葉は、刃物のようにセレスフィアナの胸を刺した。噂は、こんな辺鄙な場所にまで届いているのだ。
しかし、彼の次の言葉は予想外のものだった。「その石碑が読めるのか?」
「…いえ、ほとんどが風化しておりまして。ですが、おそらく古代魔法言語かと…」
「ほう」ゼィヴェリアスは興味深そうに眉をひそめ、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。「では、これはどうだ?」
広げられた羊皮紙には、複雑な紋様と、石碑と同じ古代文字がびっしりと書き込まれていた。それは、彼が所有する古代遺物の写しらしかった。
セレスフィアナは息を呑んだ。石碑よりも保存状態が良く、文脈が読み取れる。彼女は知らず知らずのうちに、羊皮紙に顔を近づけていた。
「…これは、驚きました。この文様は『魂の循環』を示しています。そしてこの文字は…『天穹の門を開く鍵は、地上の最も静かなる場所にて、月の涙を待つ者に与えられん』…と」
夢中で呟く。学究的な興奮が、恐怖を上回っていた。
「…驚いたな」
ゼィヴェリアスの声には、初めて温度のようなものが灯っていた。「何人もの古代言語学者が匙を投げたものを、こうも容易く…」
彼はセレスフィアナを改めて見つめた。着飾ってもいない、化粧も薄い、王都の令嬢たちとは似ても似つかない女。だが、その瞳は知性の輝きに満ち、古代文字を見つめる横顔は、不思議な魅力に溢れていた。
「セレスフィアナ・フォン・クライナー」
彼が、初めて彼女の名前を呼んだ。
「君、面白いな。私の下で働け」
「…え?」
あまりに唐突な言葉に、セレスフィアナは間の抜けた声を上げた。
「私の屋敷には、未解読の古文書や遺物が山ほどある。それを君に任せたい。もちろん、ただ働きではない。破格の待遇を約束しよう。君が望むなら、クライナー伯爵家以上の庇護を与えることも可能だ」
それは、命令であり、勧誘であり、そして抗いがたい提案だった。
セレスフィアナは混乱した。婚約を破棄され、世間から見捨てられた自分を、この氷血公爵が評価している?自分の知識を、必要としてくれている?
「…なぜ、わたくしなのでしょうか」
かろうじて、そう尋ねるのが精一杯だった。
ゼィヴェリアスは、ふいと視線を逸らし、空を見上げた。「本物には、価値がある。それだけだ」
彼の横顔は、どこか寂しげに見えた。
セレスフィアナは、目の前の男を見つめた。冷酷だと噂されるこの人が、初めて自分自身を、その知識を、価値あるものだと言ってくれた。
「…お受け、いたします」
気づけば、彼女はそう答えていた。
それは、絶望の淵から這い上がった令嬢と、孤独な氷血公爵の、奇妙な契約が結ばれた瞬間だった。
第三章:不器用な溺愛の始まり
アークライト公爵邸に研究員として迎え入れられたセレスフィアナの生活は、再び劇的な変化を遂げた。彼女に与えられたのは、賓客用の豪華な一室と、公爵邸の広大な書庫を自由に使う権利、そして専属のメイドまで付けられるという、まさに破格の待遇だった。
「セフィ様、本日のドレスはこちらでいかがでしょうか?公爵閣下が、あなた様のためにとご用意されたものです」
メイドのサラが広げて見せたのは、夜空のような深い青色のシルクのドレスだった。控えめながらも上品な刺繍が施され、セレスフィアナの白い肌を美しく引き立てるであろうことは、一目でわかった。
「こ、こんな高価なもの…!それに、わたくしは研究をするだけですので、普段着で…」
「いえ、閣下のご命令です。『私の研究員は、帝国の至宝だ。それにふさわしい扱いをしろ』と」
サラは誇らしげに胸を張る。使用人たちは、最初こそ「公爵様がどこからか変わった愛人を連れてきた」と訝しんでいたが、セレスフィアナが書庫に籠もり、何日もかけて難解な古文書を解読していく姿を見て、次第に尊敬の念を抱くようになっていた。
セレスフィアナは、戸惑いながらもドレスに袖を通した。鏡に映った自分の姿は、まるで別人のようだ。しかし、それ以上に彼女を驚かせたのは、ゼィヴェリアスの行動だった。
彼は毎晩のように、夕食を共にすることを求めた。広いダイニングテーブルで、向かい合って座る。会話は、ほとんどがセレスフィアナの研究の進捗についてだった。
「それで、あの『賢者の石板』の解読は進んだか?」
「はい、閣下。どうやらあれは単なる錬金術の記録ではなく、古代の天文学に関する記述のようです。星の配置から、季節の移ろいや豊穣の時期を予測していたらしく…」
セレスフィアナが熱っぽく語ると、ゼィヴェリアスは表情こそ変えないものの、興味深そうに耳を傾けていた。彼の青い瞳が、ただ真っ直ぐに自分だけを見つめている。その事実に、セレスフィアナは気づかないふりをしながらも、胸が微かに高鳴るのを感じていた。
ある夜、セレスフィアナが書庫で研究に没頭していると、静かにゼィヴェリアスが入ってきた。
「まだ起きていたのか。少しは休め」
「閣下…。この部分が、どうしても解読できなくて…」
彼女が指し示した羊皮紙を、彼は覗き込む。そして、ふとセレスフィアナの冷えた手に気づいた。
「…手が氷のようだ」
彼は何も言わずに彼女の手を取ると、自分の大きな手で包み込んだ。驚くほど温かい。
「か、閣下!?」
「黙っていろ。温まるまでだ」
ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、その手つきは驚くほど優しかった。セレスフィアナの心臓が、大きく音を立てる。公爵の指が、インクで汚れた彼女の指先をそっと撫でた。
「君のこの指が、失われた歴史を紡ぎ出す。…大事にしろ」
その低い声は、まるで囁きのようだった。セレスフィアナは顔が熱くなるのを感じ、俯くことしかできなかった。
これが、氷血公爵の不器用な優しさなのだと、彼女は理解し始めていた。彼は高価なドレスや宝石を贈ることで、彼女の価値を示そうとする。彼は彼女の研究に熱心に耳を傾けることで、敬意を示そうとする。そして、こうして不意に、凍えた心を溶かすような温もりを与えるのだ。
それは、今まで誰も彼女に与えてくれなかったものだった。
一方、セレスフィアナが氷血公爵の庇護下で華々しい生活を送っているという噂は、すぐにグレイグとリズベラの耳にも届いていた。
「なんですって!?あの地味な女が、氷血公爵のところにですって!?」
リズベラは、甲高い声で叫んだ。
グレイグも苦虫を噛み潰したような顔をしていた。「ありえん…。あの公爵が、女に興味を示すなど…。しかも、よりによってセレスフィアナだと?」
当初、彼らはその噂を一笑に付していた。しかし、セレスフィアナが公爵の名代として高価なドレスを纏い、学術会に出席したという話が伝わると、彼らは焦りを隠せなくなった。
「グレイグ様、まさかあの女、公爵を誑かして何か企んでいるんじゃありませんこと?」
「…あるいは、あの女が持つ知識に、公爵が気づいたのかもしれん」
グレイグの脳裏に、セレスフィアナが熱心に読んでいた古い文献の数々が蘇る。彼はそれを鼻で笑っていたが、もしやそこに、氷血公爵さえも欲しがるほどの価値があったとしたら?
「リズベラ、少し調べる必要がある。セレスフィアナが、アークライト公爵邸で一体何を調べているのかをな…」
グレイグの瞳に、嫉妬と欲望のどす黒い光が宿っていた。一度捨てたはずの玩具が、今や手の届かない場所で宝石のように輝いている。それが、彼には我慢ならなかったのだ。
第四章:暴かれる陰謀と、育まれる愛
グレイグは、金に物を言わせてアークライト公爵邸に仕える下働きの者を買収し、セレスフィアナの動向を探らせた。そして、彼女が『星の雫』と呼ばれる古代遺跡の解読に成功し、その場所を特定したという情報を掴んだ。
「その遺跡には、莫大な価値を持つ魔石が眠っている、だと…?」
報告を聞いたグレイグは、ゴクリと喉を鳴らした。氷血公爵が執心するほどの遺跡だ。手に入れれば、ヴァインベルク家の財政は一気に潤い、侯爵家としての地位も盤石なものになるだろう。
「グレイグ様、素晴らしいですわ!そんな価値あるものを、あの地味な女なんかに独り占めさせておく必要はありませんわ!」リズベラが興奮したように彼の腕に絡みつく。「横取りしてしまいましょう?」
「…ああ、もちろんだ。元はと言えば、クライナー伯爵家の利権は、俺のものになるはずだったんだからな」
グレイグは邪悪な笑みを浮かべた。彼は、セレスフィアナが遺跡の場所を記した地図を、彼女の私室に保管していることを突き止めた。公爵邸の警備は厳重だが、夜会が開かれる日ならば、警備が手薄になる瞬間があるはずだ。彼はその隙を突いて、地図を盗み出す計画を立てた。
数日後、公爵邸で大規模な夜会が催された。招待客が華やかなホールに集う中、セレスフィアナはゼィヴェリアスの隣に寄り添っていた。彼が用意した、月光のように輝く銀色のドレスは、驚くほど彼女に似合っており、多くの招待客が賞賛の視線を送っていた。
「美しいな、セフィ」
喧騒の中、ゼィヴェリアスが彼女の耳元で囁いた。彼の吐息が耳にかかり、セレスフィアナは頬を染めた。彼が自分の愛称を呼ぶのは、二人きりの時だけだ。
「閣下こそ、素敵です」
彼女がそう言うと、彼は初めて、ほんの少しだけ口元を緩めた。その稀有な微笑みに、セレスフィアナの心臓はまたしても跳ね上がる。
その頃、グレイグは裏口から公爵邸に忍び込み、手筈通りセレスフィアナの部屋へと向かっていた。侍女を買収して手に入れた合鍵で、やすやすと部屋に侵入する。
「ふん、相変わらず書物だらけのつまらん部屋だ」
悪態をつきながら、机の引き出しを探る。そして、古びた羊皮紙に描かれた地図を見つけ出した。
「あったぞ…!これで俺は…!」
勝利を確信し、ほくそ笑んだその時だった。
「私の屋敷で、鼠が何を漁っている?」
部屋の入り口に、氷のような怒気をまとったゼィヴェリアスが立っていた。彼の隣には、信じられないものを見るような目でグレイグを見つめる、セレスフィアナの姿もあった。
「こ、公爵閣下!?なぜここに…」
グレイグは狼狽した。夜会の主役であるはずの公爵が、なぜこんな場所にいるのか。
ゼィヴェリアスは、冷たい笑みを浮かべた。「お前のような下衆が嗅ぎ回っていることに、私が気づかぬとでも思ったか?お前が買収した下働きは、最初から私の人間だ」
「なっ…!?」
全ては、罠だったのだ。セレスフィアナが心配そうにゼィヴェリアスの腕を掴む。
「閣下…」
「安心しろ、セフィ。お前の大切な研究を、こんな輩に汚させはしない」
ゼィヴェリアスはそう言うと、衛兵たちに命じた。「この男を捕らえろ。不法侵入及び窃盗未遂の現行犯だ。ヴァインベルク侯爵家には、こちらから然るべき通達をしておく」
「ま、待ってくれ!俺は騙されたんだ!あの女が…セレスフィアナが俺を誘惑したんだ!」
グレイグは往生際悪く叫んだが、衛兵たちに無情にも取り押さえられた。
ホールでは、グレイグが連行されていく姿に、招待客たちが騒然となっていた。リズベラは顔面蒼白で立ち尽くしている。
全ての騒ぎが収まった後、ゼィヴェリアスはセレスフィアナを連れて、静かなバルコニーに出た。
「すまなかったな。怖い思いをさせた」
「いえ…。閣下が、守ってくださいましたから」
セレスフィアナは、心からの感謝を込めて彼を見上げた。
「なぜ、わたくしのために、ここまでしてくださるのですか?」
ずっと聞きたかった問いだった。彼はなぜ、ただの研究員に過ぎない自分を、これほどまでに気にかけるのか。
ゼィヴェリアスは、夜空に浮かぶ月を見上げた。その横顔は、いつもより少しだけ、柔らかく見えた。
「…初めて君に会った時、君は泥だらけで、石碑の文字を読んでいた。その瞳は、どんな宝石よりも輝いて見えた」
彼はセレスフィアナに向き直り、彼女の肩を優しく掴んだ。
「世間の誰もが君の価値に気づかず、君自身さえも見失っていた。だが、私にはわかった。君こそが、私が長年探し求めていた『本物』の宝なのだと」
彼の青い瞳が、熱を帯びてセレスフィアナを捉える。
「君の知識に惹かれたのは事実だ。だが、今は違う。私は、セレスフィアナ・フォン・クライナーという一人の女性に、どうしようもなく惹かれている」
それは、紛れもない愛の告白だった。氷血公爵と呼ばれた男が、初めて見せた魂からの言葉だった。
セレスフィアナの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは、悲しみや悔しさの涙ではない。婚約を破棄されたあの夜とは全く違う、温かく、そして幸せな涙だった。
「わたくしも…」
彼女は、震える声で答えた。
「わたくしも、あなたの側にいたいです、ゼィヴェリアス様」
彼女が初めて彼の名を呼ぶと、ゼィヴェリアスは愛おしそうに目を細め、セレスフィアナをそっと腕の中に抱きしめた。
失われた文字を巡る出会いは、いつしか二人の心に、愛という名の言葉を刻みつけていた。
第五章:忘れられた文字は愛の言葉
グレイグの陰謀は、ヴァインベルク侯爵家の没落という形で幕を閉じた。アークライト公爵への敵対行為と見なされ、爵位も財産も剥奪されたのだ。リズベラも、早々に見切りをつけて彼の元を去ったという。
セレスフィアナの心に、もはや彼らへの感情はなかった。ただ、遠い世界の出来事のように感じるだけだった。今の彼女の世界の中心には、ゼィヴェリアスがいたからだ。
あの日以来、二人の距離は急速に縮まった。彼はもはや感情を隠そうとはせず、セレスフィアナへの深い愛情を、言葉と行動で示し続けた。
そして、季節が一周した春の日。二人は、『星の雫』の遺跡へと馬を並べていた。
「ここが…」
セレスフィアナが解読した地図の場所に、荘厳な石造りの扉があった。ゼィヴェリアスが扉に手を触れると、古代魔法の力が働き、重々しい音を立てて開いていく。
遺跡の内部は、壁一面に夜光石が埋め込まれ、まるで星空の中にいるような幻想的な空間だった。その中央には、澄んだ水をたたえた泉があり、水面には天井の光が反射して、きらきらと輝いている。
「これが…『星の雫』」
セレスフィアナは、息を呑んだ。
「君が解き明かしてくれたおかげだ」
ゼィヴェリアスは、彼女の隣に立ち、その肩を優しく抱いた。
「セフィ。君に、見せたいものがある」
彼が指し示したのは、泉の底に沈む一枚の石板だった。そこには、他のどの場所よりも丁寧に、古代文字が刻まれている。
「これを、読んでみてくれないか」
セレスフィアナは頷き、水面に顔を近づけた。揺らめく文字を、ゆっくりと目で追っていく。
「…『我が最愛の伴侶へ。幾千の星霜を経ようとも、我が魂は常に汝の傍らに。この泉に誓う永遠の愛が、いつか再び、天穹の門を開く鍵とならんことを』…」
読み終えたセレスフィアナは、はっと顔を上げた。これは、ただの記録ではない。遠い昔、誰かが愛する人に宛てて遺した、壮大な愛の詩だ。
彼女が振り返ると、ゼィヴェリアスがその場に片膝をついていた。彼の大きな手には、泉の水面のように澄んだ青い宝石が嵌められた指輪が、恭しく掲げられている。
「セレスフィアナ・フォン・クライナー」
彼の声は、真摯な響きに満ちていた。
「君の知性が、私の凍てついた心を解かしてくれた。君の優しさが、私が忘れていた温もりを教えてくれた。私の隣で、未来という名の歴史を、共に読み解いてはくれないだろうか」
彼は、少し照れたように視線を逸らすと、言葉を続けた。
「君を、生涯をかけて愛し、守り抜くと誓う。どうか、私の妻になってほしい」
それは、氷血公爵の求愛の言葉であり、ゼィヴェリアスという一人の男の、魂からの叫びだった。
セレスフィアナの瞳から、大粒の涙がとめどなく溢れ、泉に落ちて波紋を広げた。彼女は泣きながら、最高の笑顔で頷いた。
「はい…!喜んで、ゼィヴェリアス様…!」
ゼィヴェリアスは安堵の息を漏らし、立ち上がると、指輪を彼女の左手の薬指にそっと滑らせた。それは、まるで彼女のために作られたかのように、ぴったりと収まった。
彼はセレスフィアナを強く抱きしめる。
「愛している、セフィ」
「わたくしも、愛しております、ゼィヴェリアス様」
忘れられた文字が繋いだ、二つの魂。書庫の片隅で埃を被っていた姫君は、その知識と愛によって、誰よりも輝く存在となった。氷のように冷たいと噂された公爵は、ただ一人の女性への愛によって、誰よりも熱い情熱を取り戻した。
これは、婚約破棄から始まった、一つの恋の物語。
そして、二人がこれから紡いでいく、新しい歴史の、ほんの始まりに過ぎなかった。
エピローグ
数年後。アークライト公爵夫妻の名は、帝国中に知れ渡っていた。公爵の揺るぎない決断力と、公爵夫人の類まれなる知性は、国の発展に大きく貢献した。二人が発見した古代の技術は、農業や医療に革新をもたらし、多くの民を救った。
アークライト公爵邸の広大な書庫には、今日も寄り添う二人の姿があった。
「ゼィヴェリアス様、こちらの文献ですが、どうやら失われた古代都市『天空の都』への道筋を示しているようなのです」
「ほう。それは面白いな。今度の休みにでも、二人で探しに行ってみるか」
夫の腕に心地よく身を預けながら、セレスフィアナは幸せそうに微笑む。彼女の薬指には、あの日の青い指輪が、変わらぬ輝きを放っていた。
ゼィヴェリアスは、愛おしそうに妻の髪に口づける。
「君となら、世界のどんな謎も解き明かせる気がするよ」
「ふふ、わたくしもですわ」
書庫の静寂の中、二人の穏やかな笑い声が響く。
忘れられた文字は、愛の言葉となって、今も二人を、そして未来を、優しく照らし続けていた。
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