四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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3話 やることやったらあとは祈るだけ

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 俺達が行動を開始したその後は、レンさんがシンくんにボーナススキルの〈言語/人族共用語Lv1〉を習得して宿に行くように指示を出し、自分も村に入って宿をとったことを報告してくれた。
 大福さんも先程〈大福時間〉(呼び名を決めないと混乱するので各自の時間に関しては〈大福時間〉〈シン時間〉〈レン時間〉と呼ぶことにした)で正午前に町に入った事を告げてきた。
 ついでに言うと、その大福さんはドワーフ娘を見て大興奮での報告でした。

 大福さん的にはむしろこっちがメイン報告か。
 ホントにこの人はぶれないなぁ。

 そして現在の〈ねこ時間〉では夕刻。
 空が綺麗な茜色に染まりはじめている。
 4~5時間ほど川と森に挟まれた街道をひたすら歩くも、未だに人家が見えてくることは無い。
 唯一の救いは何度か冒険者や商人らしき人とすれ違うことがあるのと、すれ違った人の話を聞くと日が沈む頃には街に着くだろうとのことだ。
 全員むさいおっさんばかりでかわいい女の子冒険者とかには未だに会えていないがな。
 そもそも可愛い女の子冒険者とか夢見すぎだな。
 ソースはオリンピックの女子レスリングや柔道の選手。
 
 そうそう、この遠距離ボイスチャットだが、ウィンドウにチャットルームのようなものがあり〈退席〉することで会話に参加できなくなるとレンさんが教えてくれた。
〈サイレントモード〉で自分の音声をOFFにして声が聞かれないようにすることも可能。
 さすがに寝るときにまで人の声が聞こえてきたら嫌だし、人に食事中の咀嚼音とか排便で気張った声とか聞かせたくないわなぁ。
 ちなみに、俺達以外の声は一切聞こえないので、周りの音は拾わないみたい。
 他にも設定次第でテレパシーのように考えていることが相手に伝えることが出来る機能があり、思考が駄々漏れという訳でなく、強く発言したいという意思を込めたものだけが相手に聞こえるようだ。
 
 現在は就寝中のシンくんだけが、チャットルームから退席している。
 チャットルームに戻れることもレンさんが確認済みだ。

 それと、チャットルームでは本名がカタカナで表示されるのな。

 イチノセ・トシオ(俺)
 サタケ・マナブ(大福さん)
 サクライ・ナオキ(レンさん)
 イズミ・シンゴ(シンくん)

 ネットで本名暴露とかノーマナーすぐるだろ、異世界だけど…。

 システムに不満を抱く俺とは別に、この世界のシステムのことで語り合う大福さんとレンさん。

『やはりボーナススキルの〈言語/人族共用語Lv1〉を習得していないと相手の言葉はわからないな』
『せやな、もう街中は言語習得固定でええやろ』
『ボーナススキルのポイントが増えるまではそれで良いだろう』
「猫語とか獣人語とかモン娘語とか無いの?」

 先程のカエルが怖すぎるので、周りに注意しつつ早歩きで街道を進んでいる。
 そのためボーナススキルなどを再確認出来ていないのと、スキルが多すぎて覚えきれず、一部を除いて思い出せないため聞いてみた。

『『ねこさんもぶれないなぁ』』

 苦笑い交じりの二人の呆れ声が帰ってきた。

 だってせっかくの異世界ですよ?
 そこ大事ですやん? 
 あわよくば人外ハーレムなんて夢見ちゃいますやん?
 猫耳美少女とか美人のラミアとか、全身毛まみれなケモっ娘も素敵ですやん?
 大福さんがロリコン紳士なように、俺も人外大好き侍でござる。
 しかも年齢はロリから熟女までバッチ来いの悪食っぷりよう!
 ただしロリは二次元合法ロリorロリババアに限る。
 そう言えばレンさんは確かスポーツ女子や女騎士などの肉体派女性が好きで、シンくんは同世代の美少女が好みだったかな?
 レンさんも普段は真面目クールキャラだけど、女騎士のことになると信じられないくらい熱く語る事があるから、実物見たら性格反転しそうだ。
 ヒャッハー!
 今からニヤニヤがとまんねーぜ!

『猫語はさすがに無いが〈亜人共用語〉〈獣人共用語〉〈魔物語〉〈妖精語〉〈精霊語〉もあるな。普通に有能そうなのは〈古代魔術語〉とかだな』

 そんなアホな事を考えている俺にも、レンさんは真面目に教えてくれた。

「魔物語…だと…!」

 ますますモン娘ハーレムへの夢が加速しますな!

『ドワーフは人族共用語でいけたで!』

 すかさずロリ亜人原理主義を主張してくる大福さん。

 え、なにそれ、それを知ってるって事は、大福さんはもうドワーフ娘と会話したのか!?
 もしそうだったらうらやまけしからん。

『まぁ街中に関しては大福さんが言ったように人族共用語でいいが、問題は野外だな』
『せやな。ジョブがノービスやとやっぱ戦闘が有利になるスキルの方がええな』

 戦闘スキルが皆無な現状で経験値獲得上昇みたいなのを取ってる余裕なんてありゃしない。
 経験値獲得なんてもんは戦闘スタイルが確立してからで良いからね。

「ボーナススキルに攻撃魔法みたいな火力スキルってないんだよね…」

 一応そこは覚えている。
 そんな俺は一刻も早く人里にたどり着かないといけないため、現在は〈疲労軽減Lv1〉を習得して歩き続けている。
 吐きなれた靴は楽でいいが、オタクに良く見受けられる全身真っ黒な服装なため暑くてたまらない。
 
 日差しが憎い…。

「何か便利そうなお勧めスキルとかあった?」
『そうだなぁ、〈HP自然回復上昇Lv1〉とかどこまで機能するのか未知数だしな…。やはり何かに遭遇したときは素早く〈鑑定〉、戦闘になりそうならステータスUP系に切り替えるのが無難か?』

 やはりそうなりますか…。

 ピロン♪

《シンゴがチャットルームに入室しました》

 突然の効果音ともに視界の左隅に小さくメッセージが浮かんですぐに消えた。

『おはようございます』
『おはよう』
『おはようさん』
「おーはー」
『何か進展はありました?』

 やや不安げな声で問うてきた様子を見ると、やはり離れ離れになっている現状に不安を感じているのであろう。

『さっき大福さんが町に入った。だがねこさんがまだだ』
『そうですか…』
「日が沈む頃には街に着くって教えてもらったから大丈夫大丈夫!」
『それなら良いんですが…』

 安心させるために軽口で言ってはみたが、あまり気休めになっては居ないようだ。
 てかそんなに心配されると自分でも不安になってくるからやめてほしい。

『シンも起きたことだし、とりあえず今後のことを俺なりに考えてみたんだが聴いてくれるか?』
「ういうい」
『なんですか?』
『なんかいい案でも浮かんだんか?』
『良い案と言うより現状把握だな。まず――』

 レンさんの話しというのはこうだった。
・全員で一箇所に集まるのは現状不可能。
・しばらくは各自近場の街を拠点にレベルを上げ、力をつけてから合流を目指す。
・距離の問題は自分たちが居る場所が赤道直下とは限らないので、実際のところもっと近い可能性がある。が、逆に遠くに離れている可能性もある。
・この世界が地球より大きいとは限らないので距離的には案外近いのかもしれない。
・もしかしたらワープなどの長距離移動手段が何処かに存在するのかもしれない。

 最初の三つは現実的だが最後の二つは根拠なんて無いただの希望論である。
 下手をすれば地球より大きいのかもしてないし、ワープなんて便利なものが無い可能性もある。
 そこはレンさんも分かっているだろうが、誰も否定はしなかった。
 なぜなら現状取りえる手段がそれくらいしか無く、ならば折角の異世界だ、希望は持っていいんじゃないだろうか?

「当面はそれで良いんじゃないかな?ジョブスキルやボーナススキルも獲得していけばワープ系に派生するかもしれないし。正直こんな異世界に一人で飛ばされることに比べたら、情報が共有できて話し合える気の知れた人間が三人も居てくれるだけでかなり救われてるしね」
『せやな、もしかしてこの世界にバラバラで飛ばされて来たのにも何にかしら意味があるかもしれんしな…。あと、レンさんもあまりい気負わんでええで、人間一人の力なんてたかが知れとる。まずは各自が安全第一でがんばっていったらええんや』
『あぁ、そうだな…』

 大福さんの言葉で張り詰めていた糸が切れたのか、レンさんの口から小さくも深い吐息が零れた。
 レンさん自身もどれほど緊張していたのか気付いていなかったのだろう。
 この世界に来てからずっとスキルや状況の把握に勤め、現状をどうにかしようと思考し俺達の身の安全を気遣ってくれていたのを俺も気付いていた。
 根拠が無いとわかっていながらも、敢えて希望論を言うことで俺達を安心させようとしてくれたのもレンさんの優しさだ。

「まぁ俺達は四人なんだし、四人分のリスクマネジメントを一人で背負い込む事はないよ。みんなで意見を出し合って、この状況を乗り越えればいいと思う。それでもし何かあったとしても、『俺があの時ああ言っておけば』とかは言いっこなしかな、神でもないのにそんなこと言ったら、人の分際で何言ってんだってなるわ。やる事やったらあとは猫神様にお祈りしておけば何とかなるよ。気が向いたら助けてくれるはずだから」

 と、冗談っぽくそう述べる。

 俺今すごく良い事言った!
 大福さんに乗っかる形だけど。

『出たな、ねこさんの猫神様論』
『でも人知を尽くしたら天命待つしかないし、しゃーないやろ』
『まぁな』

 レンさんと大福さんも苦笑い交じりの口調でそれに同意してくれた。

『そうですよ! せっかくの異世界なんだから! これからすごくかわいい女の子と知り合えるかもしれないじゃないですか!』
『『「お前もぶれないな!」』』

 唐突なお花畑脳を披露するシンくんのせいで、折角のいい話が台無しである。
 みんなの笑い声が聞こえるも若干鼻声になってるが、俺達なんてこんな締まらないくらいが丁度いい。

 え、俺?
 べ、別に泣いてなんてないんだからねっ!

 そんな馬鹿を言い合っていると、ふと何気なく怖い事が脳裏に浮かんだ。
 恐らくレンさんなら気付いているだろうが、敢えて皆に教えなかった仮説。

 ここ、本当に皆が居る世界と繋がってるの?
 合流手段が確立され、いざ探し回っても見つかりませんでしたとかそんな事ないよな…?
 そう考えると途端に不安な気持ちを掻き立てられるが、今は言っても仕方がないことだ。
 仮にそうだったとしても、異世界に来てしまった以上は自分で何とかする他にないのだから。
 
 その後も街道を早足で歩き続け、もうすぐ日が暮れようかといった時間に差し掛かると、左に湾曲する街道の先から喧騒のようなものが聞こえて来た。
 激しい金属音と男の叫び、それを上回る程大量に鳴き喚く何かの甲高い声。

 警戒しつつも目視で確認できる距離まで接近した俺の目に飛び込んできたものは、緑色の肌をした醜い子供が手に剣や棒で武装し、大勢で馬車を取り囲む光景だった。
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