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4話 バックアタックから始まるファーストバトル

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 なにやら喧騒のようなものが聞こえてきた。
 激しくぶつかる金属音や怒号。
 間違いなく誰かが争っている音だった。

「なんか戦ってるような音が聞こえる」
『なんやて?』
「…ちょっと様子見てみる」
『ちょ、ねこさん! 慎重にならなあかんで!』
『き、気を付けて下さい!』
『くれぐれも様子見だけにするんだぞ!』

 もしかしたらこれが俺達4人の中で始めての戦闘になるかもしれない。
 チャットルームからはこれまでに無いほどの緊張が伝わってくる。

 とりあえずボーナススキルを〈鑑定〉に切り替えてっと。

 喧騒の現場を森側の木の陰から覗き見ると、数人の戦士が大きく傾いた馬車を守るように、三十匹を軽く超える緑いろの肌の醜い子供の群れを相手に防戦に徹していた。

ゴブリン Lv7
ゴブリン Lv4
ゴブリン Lv8
ゴブリン Lv7
ゴブリン Lv5
ゴブリン Lv3
ゴブリン Lv6
ゴブリン Lv6
ゴブリン Lv5

 etc...etc...etc...etc...etc...etc...

 ゴブリンha
大人の腹部から胸程の背丈で、手には剣や棒きれが握られており、一見子供にも見えるが、その醜く歪んだ凶暴な顔付が人ではない物と断定するのは容易いことであった。

 俺はそのゴブリンのあまりの数の多さにドン引きですよ…。

 馬車は幌馬車ではなく豪華な造りで、貴族が乗っていそうな馬車には馬が四頭繋がれている。
 それを必死に守る戦士風の5人と、傾いた馬車上にはアーチャーが一人。

リシア 
ファイターLv7

サラ
ファイターLv41

バルナック 
ファイターLv42

ベラーナ 
ウォーリアーLv28

ジスタ 
ウォーリアーLv30

ワイザー 
アーチャーLv45


 戦士側のレベルはそこそこ高く、金属鎧を身に着けているため装備もそれなりに充実している。
 それに対してほとんどのゴブリンは3~8レベルくらい。
 最大でも群れのボスらしき一回り大きな一匹がLv17。
 レベル的には質では上回っているが、あの数ならゴブリンに押し切られても不思議じゃない。

 ここは行かなきゃやばいのでは…いや、でも…。

 ゴブリンは人の腰から胸ほどの背丈しかない非力で醜い下級の魔物として知られているが、性格は極めて残忍で凶暴であるのが定番だ。
 決して舐めてかかって良い相手ではなく、ましてや駆け出し冒険者が手を出して良い数ではない。

 ここに来て、漸く命の危険があることを強く自覚する。
 自分はもう少し利口だと思っていたのだが、とんだ低脳野郎だったと思い知らされる。

 なにが四人で考えようだ!
 誰がこんな危機感の無いバカの意見に命を預けるんだ!

『――――?』

 焦りと不安と恐怖で手の汗が止まらない。

『――――!』

 ゴブリンに見つかるのではないかと思えるくらい口が震えて歯がカチカチと音を鳴らし始めた。
 人として助けに行かなきゃと頭ではわかっているが、体が生物として行くなと告げている。

「きゃあああああああああ!」
「リシア!?」

 俺がグダグダやっている間に、夕暮れを切り裂く叫び声が響き渡った。
 ファイターLv7の人がゴブリンの群れの中に引きずりこまれたのだ。

 あ、アレは、あかん、今、行かなきゃ、まずい、殺される…!

 俺は震える指でボーナススキルから〈鑑定〉を外すと、必要かもしれないと記憶に留めておいた感情操作系スキルの一つにポイントを割り振る。

 そして震える唇で小さくスキル名を呟いた。

「ブレイブ、ハート…!」 

 胸に暖かい光りが生まれ吸い込まれると、今まで感じていた全ての不安が嘘のように消え去り震えが止まった。

 ブレイブハートのスキル効果は使用者に勇気を与え、恐怖や不安を払拭する。
 頭でっかちでビビリな俺にはうってつけのスキルだった。
 ここで行かないでなにが異世界だ!

 ――良く見ろ。

 戦っている男達もゴブリンも馬車の屋根に居る弓使いも、全ての動きが遅く感じる。 
 
 ――行ける。

 群れは頭をやられれば一旦は引くはず。 
 まずは加速をつけて近付き、あのボスゴブリンの後頭部に全力で剣を叩き込んでやる。
 俺は腰のロングソードを引き抜くと、流石に人は無理でもゴブリンの細い首なら叩き折るだけの重量はあると確信した。

 ――行け!

 その確信をもって、俺は迷うことなく出来る限り足音を立てないように駆け出した。
 上半身をぶれさせず、地面を足の指先とその付け根だけで蹴り、低空を飛ぶように走る。
 元々足には自信があった。
 子供の頃、なんとなく足音を消して走る練習をしたら上手く出来た。
 爪先だけで走ればいつもより早く走れる気がした。
 根が幼稚なため、今も人気の無い夜道でたまに試したりしているから慣れている。

 群れにあと4メートルの距離まで近付くも、殺気立ったゴブリンは前方に気を取られて誰もこちらに気付いていない。
 俺は加速した勢いを殺すことなく両手で持つには短い柄を両手で握り、渾身の力を込めてボスゴブリンの首にロングソードを打ち込んだ!
 剣の刃が肉に食い込み反発する感触はまったく無く、ゴムタイヤをバットで殴りつけた時より心地の良い手応えが伝わってきた。

 剣はゴブリンの首に半分以上埋まり、骨を断ち切っていた。

ベースLvUP!
ベースLvUP!
ベースLvUP!
ベースLvUP!
ベースLvUP!
ジョブLvUP!
ジョブLvUP!
ジョブLvUP!
ジョブLvUP!
ジョブLvUP!
ジョブLvUP!

 支えの無くなったボスゴブリンの首が前に折れ、傷口が咥えていた剣を放したので無理に引き抜くこともなく離れてくれた。
 事切れ首の重さで前方に倒れるボスゴブリン。

 周りに居たゴブリンも、突然の背後からの襲撃に思考停止したのか動きが止まった。
 止まっているならと、すかさず近くに居た別のゴブリンの頭にロングソードを振り下ろした。

ベースLvUP!
ジョブLvUP!

「お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”!!!!!」
『『――――!?』』

 普段は決して出さない喉を傷める程の雄叫びを放つと、的確に剣をゴブリンに叩き込み、引き込まれたであろう戦士の元へ突貫した!
 雄叫びに前を向いていたゴブリンにも緊急事態に気が付きこちらに注目が集まる。

ベースLvUP!
ベースLvUP!

「ギャギャ!?」
「ギャギーギー!?」

 剣を振り下ろしたところに別のゴブリンが横から切りかかってきたが、その側頭部や腹部を矢に射抜かれ地に落ちる。
 そこへ踏み付けゴブリンの顔面を破砕する。

ベースLvUP!

 剣を一振りする毎に屠殺されていく事態に恐慌してか、一匹のゴブリンが逃走をはじめると、蜘蛛の子を散らすように全てのゴブリンが逃げ始めた。
 だが俺はさらに逃げ遅れたゴブリンの背中に剣で切りつける!

ベースLvUP!

「はぁはぁはぁ…」

 最後のゴブリンが絶命すると、辺りに残っていたゴブリン数匹の死体が黄緑色の光の粒子になって消えていった。

 雄叫びを上げたせいで喉が激しく痛い…。
 全力で攻撃したせいで手も腕も肩も痛い…。
 これ程激しい運動をしたのはいつ以来だ?
 明日は確実に筋肉痛だな…。

 でも――

「うぅ…」

 顔を両腕で庇っていたためか腕には大きな裂傷はあるものの、ゴブリンの群れに引きずり込まれた戦士は生きていた。
 すぐさま仲間の一人が駆け寄りポーションらしきものを取り出し飲ませようとしている。

 良かった…。
 
 俺はその光景を見ていると、なんとか守れた事に自然と涙がこぼれていた。

『――――ん!』
『―――さん!』
『――さん大丈夫なんか!?』
『大丈夫ですかねこさん!返事してください!』

 三人の悲痛な叫びに、今になってチャットルームからの声が聞こえていなかったことに気がついた。

『あー、ごめん、大丈夫。今終わった…』

 念話モードで皆に無事を知らせる。
 三人は戦闘中もずっと呼びかけてくれていたんだと思う。
 恐怖と焦りと興奮でまったく耳に入っていなかった…。
 あぁそうだ、街を目指さなきゃ。

 未だ混乱する頭でふと思い出した行動をとるように、歩みを進め馬車の横を通り過ぎようとしたとき、馬車を守って戦っていた男が両手剣を鞘に納めるながら行く手をさえぎる。

「***********」

 男はその歴戦の戦士の様な厳つい顔に穏やかな笑みを浮かべてなにやら語りかけてくるが、身長が170程の俺よりも頭一つ分以上背が高く、がたいの良い男に近付かれると流石に威圧感がすごい。
 確かウォーリアーLv30だったか。

「なに言ってるかわかんねぇよ、ヒノモトコトバでしゃべれよ」

 うん、言ってから思い出した。
 言語スキルが必要なんでしたねー。

 チャットルームからは『誰かと話してるみたいですね』『豊久とか結構余裕やな』との声を今度は意図的に聞き流しながら、慌ててアイコンからボーナススキルを開き〈言語/人族標準語〉を獲得。
 残りのボーナススキルのポイントが11も有ったことも強引に無視。

「すみません、気が立っていて地元の方言が出てしまいました」
「気にしないでくれ、それより助けてくれたことに感謝する。君が来なければ我々も危なかった」

 すごく友好的に接してくれているのはわかるのだが、泣きっ面で目を腫らした情けない顔をこれ以上見せたくないので、こちらとしては早く切り上げたいとです。

「…偶然通りかかて気まぐれで戦っただけです。別に見返りがほしくてやった訳じゃありませんから」

 だからお礼とか結構なので立ち去らせてくださいお願いしますなんでもしますから!

「見返りも求めず助けてくれたというのか!?」

 いつの間にやら俺の右隣に来ていた中年太りで油ぎった商人風のおっさんが、興奮気味に話しかけてきた。

 テメェはどっから沸きやがりましたか!?

「なんと高潔な若者なんだ! 是非私の家へ寄ってくれ! 礼がしたい!」

 興奮したおっさんは、俺の肩を力強くバンバンと叩きやがりますわよ。

 こうしておっさん'sに捕まった俺は、街から来た別の馬車から降りてきた男達の手で壊れた馬車の修理が終わるまで拘束されてしまいましたとさ。


 タスケテー!タスケテー!
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