四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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5話 それは正に肉塊だった

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『なんと高潔な若者なんだ』とはどの口が言いやがりますか…

 そう思ったのは馬車の修理が終わった後も拘束され続け、商人風おやじの横で馬車に揺られながらボーナススキルで〈鑑定Lv3〉を習得してからのことだった。

尚〈鑑定〉はLv3まででした。


【慈悲深き】リベク・アライマウ
人 男 44歳
奴隷商人
魔法布の服
ブラックダイルの革靴
ダイヤの指輪
エメラルドの指輪
アメジストの首飾り 

 
 その他貴金属が諸々な油ぎった商人風のおっさんことリベクさんは、戦士達の雇い主だと教えてくれた。

 奴隷商人なのに【慈悲深き】ってなに!?
 てか称号!?
 なんと高潔な奴隷商人なんだ!
 HAHAHA!

 戦闘後の高揚からなのか頭が錯乱しているからなのか、若干ハイになっているのは自覚している。

 あと装備品もなかなかお高そうだ。

「自己紹介がまだでしたな。私はリベク。近くの街で商いをしているちょっと太めのお茶目なおじさんですぞ。はっはっは! そしてこっちは私の護衛達の隊長を勤めるジスタ」
「トシオと申します。よろしくお願いします」


ジスタ
人間 男 35歳
ウォーリアーLv30
鋼鉄のツーハンドソード
鋼鉄のブレスプレートチェインメイル
鋼鉄のガントレット
鋼鉄のグリーヴ


 俺の正面には先程のジスタさんと、ジスタさんの隣にはフードを目深に被り顔が見えないがゴブリンにボコられてた獣人のリシア。
 ジスタさんを挟んだ反対隣には赤毛で野性味あふれる美しいお顔と頭に猫耳を持つベラーナさんが座っている。


リシア
獣人 女 17歳
ファイターLV7
鉄のバスタードソード
鉄のブレスプレート(破損)
鉄のガントレット(破損)
鉄のグリーヴ(破損)


ベラーナ
獣人 女 34歳
ウォーリアーLv28
鋼鉄のバスタードソード
鋼鉄ブレスプレート
鋼鉄のガントレット
鋼鉄のグリーヴ


 ベラーナさんの印象としては、猫というより虎だった。
 是非姉御あねご、もしくは姐さんとお呼びしたい。

 だが折角の猫耳獣人美女が目の前に居るのに緊張で全然楽しめない。
 それどころか全員が俺を注視してるものだから、余計に緊張して居心地が悪いの何の。
 てかおっさんが自分でお茶目とか言うなし。

「トシオ殿が来てくれて助かったよ~。いきなり馬車が壊れるじゃない? もう街の近くだし捨てるより修理呼んだほうが良いかなーと思ったけど、他の商人達を待たせるのも悪いじゃない? だから使いと一緒に街に帰ってもらって待っていたら、ゴブリンの群れが突然襲ってくるんだもの。いやまいっちゃうよ~」

 その奴隷商人で自称お茶目なおっさんは、どこかのハリウッドスターで州知事の吹き替えを担当している大御所声優みたいな声でまくしたててくる。
 どうやらこの世界の商人は、複数の商人で大きな商隊を作って行商に行くようだ。

 てかしゃべり方が軽いよこの人!
 もうただのおしゃべり好きな気の良いおっちゃんでしかないよ!
 職業を除けばだけど!

 流石に気分次第で何をされるかわからない相手を邪険にも出来ず「それは大変でしたねー」「皆さん無事で何よりでした」と、無難な相槌を返している。

 あとチャットルームの方では大福さんが出かけているので退席中。

『ねこさんが壊れたスピーカーみたいになってるな』
『あんな借りてきた猫みたいに大人しいねこさんの声初めて聞いた……』

 なんて会話が聞こえてくる。

 シンくんはレンさんと二人だけだと結構くだけた話し方になっている。
 そらそうか、シンくん的には親戚の兄ちゃんだしね。

「事実、彼が来てくれなければ私の娘は殺されていたでしょう。心より礼を申し上げる」

 っと、こちらでも話は続いている。
 厳つい親父共々その娘らしき獣人の少女と、なぜかワイルド系美女のお姉さんまで頭を下げる。

 もしかしてジスタさんの嫁さんか!?

「いえ、ホントにたまたま通りかかっただけなので気にしないでください……」

 そっか、ベラーナさんは既婚者なのか……。
 結構好みな美人さんだっただけに少し残念だ。

 そうこうしている間に、馬車は大きな外壁の門を抜け、街の中へと入っていく。
 馬車の車窓から外を見ると、日が沈んでいるにも関わらず多くの人達が行き交うのが目に飛び込んでくる。
 壁や街の大通りの規模からして、かなり大きな街なのだろうと想像する。
 馬車がしばらく進むと、その大通りに面した大きな建物の前で停車した。

 リベクさんの家に着いたのかな?

 しかし、馬車の左右に設置された扉を開けて外に出て行ったのはリシアとベラーナさんだけだった。
 他にも後ろを着いてきていた馬車に乗っていた護衛の人達も何人かが建物に入ってい行く。

「トシオ殿は怪我などされてはおらんかね?」

 ジスタさんが気遣うように聞いてきたが、怪我をしていないのは馬車の修理をしていたときに確認している。

「いえ、大丈夫です」
「そうか。よし、出してくれ!」

 ジスタさんが御者席に声をかけると、再び馬車は出発する。
 後ろから先程までの車輪の音が聞こえなくなったということは、後続の馬車とはさっきのところでお別れのようだ。

 今のやり取りを考えると、病院かそれに順ずる何かってことか。
 まぁ魔物がなんかの拍子で襲ってくる世界だ、これくらいの規模の街ならそういった施設はありそうだ。

 馬車は大通りを外れてしばらく進むと、大きな屋敷の門を潜って停車した。

「ここが私共の家だよ」

 リベクさんがそう告げて馬車を降り、ジスタさんに促されたので俺もそれに続いて降りた。

 すると、すぐに屋敷の扉が開け放たれ、家の中から何かが駆け寄ってきた。

「ア~ナ~タ~~~!」

 走ってきたのはリベクさんをさらに二回り太くしたような、それは正に肉塊と言っても過言ではない女性の服を着た何かであった。


ジョゼット・アライマウ
人 女 39歳


 でかい。

 頬から胸から腹から全ての肉が弾んでいる。
 それでいてその肉に振り回されること無くまっすぐリベクさんに向かっていった。

「マぁ~マ~~~!」

 リベクさんもその肉塊に突撃すると、接触と同時に二人は厚い――もとい熱い抱擁を交わす。

「アナタぁ、先に荷馬車だけが帰ってくるからすっごく心配しましたのよぉ~? もう、私を心配させるなんていけないオ・カ・タ」
「ごめんよママぁ、ママを悲しませてしまうとは、私はなんて駄目な亭主なんだぁー!」

 二人は再び強く抱きあい再会の喜びを分かち合う。

 なんだこれ……。

 そんな肉塊の宴を見せ付けられて呆然としている俺に、リベクさんの奥さんであろう肉――じゃなくて女性がこちらに目を向けた。

「アナタぁ、こちらの御方はどちら様ですの?」 
「おおそうだった! トシオ殿、紹介しよう! 彼女は私のワイフでジョゼットです!」

 あー、はい。ワイフ言うな。

「トシオと申します。よろしくお願いします…」

 大福さんに今の表情を見られたら『どうしたんやねこさん、目が死んどるで』とか言われそう。

「実はさっきゴブリン共に襲われてね、それを偶然通りかかったトシオ殿が助けてくれたのだよ!」
「まぁまぁまぁ!? 大丈夫でしたのアナタ! 怪我はありませんの!?」

 聞くや否や、ジョゼットさんはリベクさんに怪我は無いかと全身をくまなく確認する。

「心配してくれてありがとうママ! でも彼やジスタ達のおかげでこの通りピンピンしているよ!」
「まぁまぁまぁそれは良かったわ! トシオさんでしたか? 亭主を助けていただきありがとうございます! ジスタもありがと――あら? ベラーナ達の姿が見えないけどどうしたの!?」
「はい奥様、娘が少し怪我をしたもので治療院に付き添わせております。幸いトシオ殿のおかげで皆軽傷で済みました」
「まぁまぁ皆無事なのね? 良かったわ! 本当に、本当にありがとうございます! ジスタ達は私達夫婦にとって家族も同然の存在です! 是非お礼をさせてください!」
「あ、はい……」

 すごく、マシンガントークです……。

「はっはっはっ! ママ、だから彼を家に連れてきたのだよ! ささトシオ殿、中に入って入って! バルナック、ワイザー、すまんが馬車を車庫に入れておいてくれ。皆が帰ってきたらすぐ食事にしよう!」
「「はい旦那様」」

 御者席に座っていた二人の青年は笑顔で返事をすると馬車を屋敷の奥へひいていった。

 俺はただリベクさんご夫妻の怒涛のような濃厚空間に圧倒されるだけだった。

 ホントになんだこれ……。
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