四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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23話 夫婦の取り決め

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 部屋に戻るとまずステータス欄とアイテム欄を開く。
 ステータス欄に500.127カパーと表記されている。
 アイテム欄を見ると金貨50枚。

 一気にお金持ちにはなったが、実際どれほどの価値があるのかいまいちわからん……。
 地方の町の宿代が食事別で一泊10カパーなのは大福さんやレンさんに聞いてはいるが、外で買い食いとかもしていないので、庶民が一日いくらで生活しているのかがわからんと話しになんないなぁ。
 その点シンくんは街中を観光しているらしいが、あそこは物価が高いそうなのでめやすになるのかも少し怪しい。
 でもライシーンも大都市だし、むしろシンくんの方が参考になるかも?
 いや、そういうのはまずライシーンっ子であるリシアに聞くべきだな。

 椅子に座りながら金貨袋を取り出しテーブルの上に置く。
 二人で食事くらいは可能な大きさのありふれた丸い木のテーブル。
 すると、リシアがもう一つの椅子を俺の隣にもってきて並んで座る。
 肩が触れ合うのが甘酸っぱくて胸に来る可愛い。

 けど――。

「金貨5枚多くね?」
「それは恐らく冒険者ギルドに支払う手数料も込みだからですよ。売りに出すのも買い取りを依頼するのも手数料が発生しますので」
「あぁ、納得」

 そしてその冒険者ギルドへの依頼を取り下げるため、ワイザーさんがギルドへと走っていった。
 お手間を取らせてすみません。

「手数料は大体1割くらいか」
「そうですね」

 そんなことを言いながら、リシアも触れ合う肩の感触を楽しんでいるかのように、押したりすれたりを繰り返す。
 もうずっとこうしていたいところだが、俺達はただのカップルではない。
 まだ3日目だが夫婦なのだ。
 しっかり決めておかないと、夫婦としてこの先やっていけない事だってある。

「まずはこのお金をどうしたものか」

 そんな切り出しでスタートする。
 お金の問題は人を変える。
 ここを最初にきっちりしておかないと、夫婦の間に溝ができ、離婚なんて事にもなりかねない。
 だからできる限り早めにきっちりと決め、今後の憂いを取り除いておきたいのだ。

「どうされるのですか?」
「まずは半分を家計に入れて、残った半分をリシアと山分けにしようと思うんだけど、どうかな?」
「家計に金貨25枚は多すぎませんか? 一般のご家庭でも子供が5人居たって1年暮らすのに10万カパー、金貨10枚も必要としませんよ」
「そんなもんなんだ」
「そんなものなのです」

 てことは、消極的に考えても二人で生きていくだけなら5年は働かずに食っていけるという事か……え、リベクさんなんて大金渡してくれてやがりますん?
 正気かあのおっさん。
 そしてこれに見合ったものを返すつもりだったのか俺。

 あまりの大金に額と手と足の裏に変な汗が出始めたが、今は無視して話を続ける。

「じゃぁ先ず10枚を家計に入れて、残りを二人で――」
「トシオ様」
「なに?」
「私を信頼してくださるのは大変うれしく思いますが、10万カパーもあれば、例え3人でも2~3年はそれでやりくりして見せます。当然その中から私のお小遣いも少しは拝借させていただきますが。なので、残りはあなたが自由にお使いください」

 ……え、何言ってるのこの子。
 どんだけ男に都合が良いこと言ってるの?
 わかってますのリシアさん?
 は?
 え?

 リシアのあまりの無欲さに、思考が空転してしまう。

「それに、冒険者は何かとお金も要り様になるはず。残りのお金はすべてトシオ様が管理してください!」
「わかった」

 反論しようと言い訳を頭で練っている間に、先にリシアに力説され、たじろぎながら思わず頷いてしまった。
 何が彼女をそうさせているのかいまいちわからない。
 けど、やはりそれではリシアに申し訳がない。
 なので彼女には別に金貨を1枚渡す。

「必要になるかもしれないから、これだけでも取っておいて。1年後にはまた渡すから、余ったら好きに使ってくれていいから。あと、家計からも欲しいものがあったら買っていいからね?」
「わかりました。ではお預かりします」

 金貨11枚を手渡されたリシアがそれを〈魔道具袋〉に収納する。

 これでお金の話は決まったと言っていいだろう。
 今後は変化が起きる度に話し合いをすればいい。
 マイホームとかマイホームとか子供とか。

 俺に子供……ちょっとまだ想像もつかないな……。
 子供がそのまま大きくなったみたいな人間なだけに、色々と不安しかありやしない。
 あとは今日の戦利品だな。

 アイテム欄には〈初級魔道書〉〈中級魔道書〉〈上級魔道書〉〈エアレーカード〉〈エアレーの角〉〈山羊の角〉〈うさ耳〉と並ぶ。

 アイテムは冒険者ギルドの隣にある買い取り屋にもっていけばいいらしい。

 あと肉の類は部屋に戻る前、料理番の奥さん達に全て渡したが、実はある実験を兼ねて山羊のお肉を一つだけ残しておいた。
 真夏にも関わらず、その鮮度が思いのほか良かったため『これ、収納袋様に入れっぱなしにしたらどうなるんだろ?』というなぞの探究心に導かれてのことだ。
 とりあえず1週間放置してどうなるか見てみることにしよう。
 ちなみに魔道具袋の方はどうなのかとリシアに聞くと、汚れはしないが普通に傷むらしい。
 収納袋様の面目が保たれるのか楽しみである。
 だが調理場を出ていく際ジョゼットさんがリシアを呼び止め、リベクさんの時と同様、二人して内緒話をしていたのが印象に残ったというかそれしか残ってない。

 だからなぜこちらを見て悪い笑みを浮かべてるんだあんたらは。
 こうなったら横に居る本人に直接聞くしかない。

 そう思い横に目を向けると、リシアが何かを言いたそうにこちらを見詰めていた。
 まるで待ち構えていたと言わんばかりだ。

「どうかした?」
「少しだけよろしいですか?」
「良いけど?」
「ではお言葉に甘えて」

 リベクさんやジョゼットさんとしていた内緒話を打ち明けてくれるのかな? 

 なんて思っていたら、おもむろに抱き着き俺の肩に頬を擦り付け口づけを始めた。
 普段着である町娘風な服装のスカートから覗く尻尾が持ち上がり、まるで別の生き物かのようにゆっくりとふりふりうねうね揺れていた。

「ふふふ……♪」

 そしてご満悦でにやけているリシアさん。
 どうやら甘えたかっただけのようである。

 あーあー!
 まだ夜には早いどころか夕方ですらないですよ!
 もう今は夜ってことにして今すぐ彼女とゴートゥーベッド!
 なんてことをしたら部屋の前を通った人に、特に向かいの部屋の彼女の両親に聞かれたら取り返しのつかないことになるのでまだまだお預け。
 
「リシア、こっちを向いたまま俺の膝にまたがっくれる?」
「こ、こうですか……?」

 俺の太ももにリシアが跨り座ると、丁度目の前に来た彼女の大きな胸で顔が埋まる。
 リシアはリシアで、俺の頭を抱え込む様に抱きしめ頬を預ける。
 その間も背中や頭を撫でることを忘れない。

「はしたないですが、まるで抱っこされているのに抱っこしてるみたいな不思議な感じが一度に味わえるなんて……。こういうのも良いですね」
「喜んでもらえたみたいで良かったよ」
「トシオ様はどうなのですか?」
「俺も嬉しいよ?」
「ならよかったです♪」
 
 一つの椅子を二人で座りながら、互いの感触を堪能する。
 そして互いに示し合わせたかのように、黙ったまま二人同時に密着を解く。

「……ですがこれ、お昼にやると尋常じゃない熱が籠りますね」
「ホントそれ」
「残念です。早く夜がくれればいいのに」

 今は真夏のライシーンでも、夜になると日本の秋頃の様な涼しさになる。

 心底残念そうに愚痴を漏らす最愛の妻の美しい髪を、優しく優しく撫でて労う。

 まぁたまにはこういう事だってあるさ。

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