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31話 カステラと父の涙
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リベクさんの部屋を訪れたのは御昼時を少し過ぎたあたりだ。
「トシオです」
前回と同じようにドアをノックすると扉が開き、今度はサラさんが出迎えてくれた。
部屋の中にはこれまた前回と同じジスタさんご夫婦とワイザーさんが詰めている。
俺の後からローザとリシアが部屋に入って扉を閉めた。
「おおトシオくん、今日はどうしたのかね?」
何事も無くリベクさんが迎えてくれたが、ローザを目にして若干声が上ずった。
白々しいったらありゃしない。
「とりあえずこれを皆さんで」
と言って両手に抱えた大きな袋をサラさんとワイザーさんに渡した。
中身は例の東通り沿いのパン屋さんで買い占めた大量のカステラである。
買占めには店の人も難色を示していたが、事情を説明したら喜んで包んでくれた。
「もしやこの匂いはカステラかね? いやぁ私はカステラに目が無くてねぇ!」
「皆さんで召し上がってください」
「これはありがたい! サラ、すまないがカステラを食堂に持って行ってくれ。ジョゼットに渡せば夕食の後にでも出してくれるだろう」
「はい旦那様」
サラさんが部屋を出ると、俺はリベクさんに向き直る。
「では今日の用件ですけど、もうわかってますよね?」
「ええ? いやわかんないな~? アノことかな~? それともアレのことかな~?」
「旦那、今そんなお茶目は要らないからちゃんとしなよ」
リベクさんのすっとぼけにベラーナさんが嗜める。
流石のリベクさんも自分の娘のことになると冷静で居られないようだ。
「えっと、ローザを妻として娶らせてください」
リシアの時と同じように、きっぱりとリベクさんに向けてお願いする。
立派に宣言しているけど、実際は身体のあちこちが小さく震えている。
戦闘で命のやり取りをしているわけでもないのに、何でこう緊張の連続を強いられているんだ?
だがもっと緊張していたのはリベクさんであろう。
「そうか……。トシオくん、ローザを頼んだよ?」
搾り出すような声でローザを俺に託すと、普段のおちゃらけたリベクさんは見る影も無く、その目には涙であふれていた。
そしてリベクさんはローザに歩み寄ると、自分の娘を抱きしめた。
「ローザ、幸せになるんだよ」
「お父様……」
抱きしめあう親子の麗しい光景がそこにあった……とこの時は思ったが気のせいだった。
「もし何かあったらいつでも帰っておいで? 父さんは大歓迎だからね? なんなら刺して戻ってきても父さんが全力で庇ってみせる! あぁ、でも家に火を放って証拠を隠滅してくれると後々助かるかな~。安全に家を燃やす方法は知っているね?」
物騒なことを娘に吹き込むなし。
「お父様!」
「ぬははは! 冗談だよじょーだん! ぬぁーっはっはっはっ!」
ローザがリベクさんの悪魔の囁きを咎めて大声を張る。
ある意味これでこそリベクさんだな。
「トシオくん、くれぐれも娘のことは頼んだよ。まぁ君の事だから大丈夫だろうがね!」
なにやら確信の様なものがあるその物言いに、流石の俺もずっと感じていた違和感に気が付いた。
「リベクさん、貴方にはなにが見えているのですか?」
「ん? 私に見えているのは、沢山の孫に囲まれて幸せに暮らす老後だよ? ぬふふふふ」
俺の問いかけにとぼけるようにはぐらかすが、恐らくリベクさんは何らかの確信を持って行動している。
でないと見ず知らずの俺をここに住まわせ大金を持たせ、大事な一人娘を嫁がせるなんて普通しないしできない。
だがはぐらかすという事はリベクさん的には言うべきでないと判断してなのかもしれない。
なら深く追求するべきではないのかもしれない。
孫の催促は恐らく本気であろうが。
「それは……善処します……」
「ウチの方も頼んだよ」
ベラーナさんの追撃に、乾いた笑いを返しておく。
すごく恥ずかしくて死にたい。
とりあえずこの空気から早く逃れなければ。
「その話しはとりあえず置いといて、お金の方が少し余裕が出来たので、リベクさんの本業の方を見せてもらいたいのですが」
「というと魔物? それとも奴隷の方かな?」
「両方です。条件は戦闘に耐えられる女性であることです。ローザには家の管理を任せたいですし、リシアと2人では戦力として心もとなくて。見た目はあまり気にしませんのでお願いします」
「ふむ……、戦闘なら女性より男性の方が選択肢も多いのだが……男性じゃだめなのかね?」
「自分の妻が要る家に他の男を入れたくありません。かと言って納屋で寝かせるなんて良心の呵責に耐えられませんから」
そう告げるとリベクさんが「若いねぇ」と呟いて笑った。
「わかった。ベラーナ、すまないがマルタに今すぐ戦闘に耐えうる女性を集めるように言ってくれ来てくれ」
「はいよ」
ベラーナさんが出て行くとリベクさんが近付いて来て小声で「予算はどれほどかね?」と聞いてきたので、収納袋様から白金貨一枚と金貨50枚を取り出し見せた。
「なんと…!」
俺が出した予算はリベクさんの予想を大きく上回る額だったようで、目を見開いて驚いた。
そら俺の様な駆け出しっぽいのが元からそんな大金を持ってるとは思わないだろうし、自分が渡したお金が3倍以上になってるなんて思わんわな……。
その資金でどんな仲間が増えるのか今から楽しみである。
「トシオです」
前回と同じようにドアをノックすると扉が開き、今度はサラさんが出迎えてくれた。
部屋の中にはこれまた前回と同じジスタさんご夫婦とワイザーさんが詰めている。
俺の後からローザとリシアが部屋に入って扉を閉めた。
「おおトシオくん、今日はどうしたのかね?」
何事も無くリベクさんが迎えてくれたが、ローザを目にして若干声が上ずった。
白々しいったらありゃしない。
「とりあえずこれを皆さんで」
と言って両手に抱えた大きな袋をサラさんとワイザーさんに渡した。
中身は例の東通り沿いのパン屋さんで買い占めた大量のカステラである。
買占めには店の人も難色を示していたが、事情を説明したら喜んで包んでくれた。
「もしやこの匂いはカステラかね? いやぁ私はカステラに目が無くてねぇ!」
「皆さんで召し上がってください」
「これはありがたい! サラ、すまないがカステラを食堂に持って行ってくれ。ジョゼットに渡せば夕食の後にでも出してくれるだろう」
「はい旦那様」
サラさんが部屋を出ると、俺はリベクさんに向き直る。
「では今日の用件ですけど、もうわかってますよね?」
「ええ? いやわかんないな~? アノことかな~? それともアレのことかな~?」
「旦那、今そんなお茶目は要らないからちゃんとしなよ」
リベクさんのすっとぼけにベラーナさんが嗜める。
流石のリベクさんも自分の娘のことになると冷静で居られないようだ。
「えっと、ローザを妻として娶らせてください」
リシアの時と同じように、きっぱりとリベクさんに向けてお願いする。
立派に宣言しているけど、実際は身体のあちこちが小さく震えている。
戦闘で命のやり取りをしているわけでもないのに、何でこう緊張の連続を強いられているんだ?
だがもっと緊張していたのはリベクさんであろう。
「そうか……。トシオくん、ローザを頼んだよ?」
搾り出すような声でローザを俺に託すと、普段のおちゃらけたリベクさんは見る影も無く、その目には涙であふれていた。
そしてリベクさんはローザに歩み寄ると、自分の娘を抱きしめた。
「ローザ、幸せになるんだよ」
「お父様……」
抱きしめあう親子の麗しい光景がそこにあった……とこの時は思ったが気のせいだった。
「もし何かあったらいつでも帰っておいで? 父さんは大歓迎だからね? なんなら刺して戻ってきても父さんが全力で庇ってみせる! あぁ、でも家に火を放って証拠を隠滅してくれると後々助かるかな~。安全に家を燃やす方法は知っているね?」
物騒なことを娘に吹き込むなし。
「お父様!」
「ぬははは! 冗談だよじょーだん! ぬぁーっはっはっはっ!」
ローザがリベクさんの悪魔の囁きを咎めて大声を張る。
ある意味これでこそリベクさんだな。
「トシオくん、くれぐれも娘のことは頼んだよ。まぁ君の事だから大丈夫だろうがね!」
なにやら確信の様なものがあるその物言いに、流石の俺もずっと感じていた違和感に気が付いた。
「リベクさん、貴方にはなにが見えているのですか?」
「ん? 私に見えているのは、沢山の孫に囲まれて幸せに暮らす老後だよ? ぬふふふふ」
俺の問いかけにとぼけるようにはぐらかすが、恐らくリベクさんは何らかの確信を持って行動している。
でないと見ず知らずの俺をここに住まわせ大金を持たせ、大事な一人娘を嫁がせるなんて普通しないしできない。
だがはぐらかすという事はリベクさん的には言うべきでないと判断してなのかもしれない。
なら深く追求するべきではないのかもしれない。
孫の催促は恐らく本気であろうが。
「それは……善処します……」
「ウチの方も頼んだよ」
ベラーナさんの追撃に、乾いた笑いを返しておく。
すごく恥ずかしくて死にたい。
とりあえずこの空気から早く逃れなければ。
「その話しはとりあえず置いといて、お金の方が少し余裕が出来たので、リベクさんの本業の方を見せてもらいたいのですが」
「というと魔物? それとも奴隷の方かな?」
「両方です。条件は戦闘に耐えられる女性であることです。ローザには家の管理を任せたいですし、リシアと2人では戦力として心もとなくて。見た目はあまり気にしませんのでお願いします」
「ふむ……、戦闘なら女性より男性の方が選択肢も多いのだが……男性じゃだめなのかね?」
「自分の妻が要る家に他の男を入れたくありません。かと言って納屋で寝かせるなんて良心の呵責に耐えられませんから」
そう告げるとリベクさんが「若いねぇ」と呟いて笑った。
「わかった。ベラーナ、すまないがマルタに今すぐ戦闘に耐えうる女性を集めるように言ってくれ来てくれ」
「はいよ」
ベラーナさんが出て行くとリベクさんが近付いて来て小声で「予算はどれほどかね?」と聞いてきたので、収納袋様から白金貨一枚と金貨50枚を取り出し見せた。
「なんと…!」
俺が出した予算はリベクさんの予想を大きく上回る額だったようで、目を見開いて驚いた。
そら俺の様な駆け出しっぽいのが元からそんな大金を持ってるとは思わないだろうし、自分が渡したお金が3倍以上になってるなんて思わんわな……。
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