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38話 事前準備

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 モリーさんの店で支払いを済ませるも、所持金はまだ148万カパーも残っていた。

 これからはローザを置いて家を空けることが多くなるため、モリーさんには「もし何かあったらよろしく頼みます」とお願いすると「女一人だと何かと物騒だし家で面倒見ようか?」と申し出てくれた。
 ただ、居住スペースを考えると俺の家の方が明らかに広く部屋も余っているので、モティナの希望もありモリーさん親子が家に居候する形で話しがまとまった。

 どうしてこうなった?

 まぁ俺もローザを一人にするよりはその方が安心できるから良しとしよう。

 モリーさんとしても「実は受注品の置き場が足りなくて困ってたんだよねぇ」と、渡りに船だったようだ。
 実際引っ越しの時に生活部屋に上がらせてもらったが、剣やら槍やら鎧やらが部屋中に置かれていてかなり窮屈だった。

 あの散らかり様でローザをどう面倒見る気だったんだ……?

 それと気になっていたのでモリーさんの旦那さんのことを尋ねると、モティナの父親とは結婚すらしておらず、娘が生まれる前に別れたのでそれ以来会ってはいないそうだ。

「別に夫婦でも無いし、もし顔を出されても愛情なんてかけらも無いから知らないね」

 と、完全に目が座った状態で言い切っていた。
 完全に殺すつもりなのが解る程の殺気だったため、なにがあったかは聞かないでおく。

 そんなこんなで午前中はモリーさんの店を閉め、引越し作業に勤しんだ。
 簡単な家具なんかを搬出し、二階にそれらを運び入れた。

 シングルとはいえ、木製のベッドを片手で担いで運ぶモリーさんワイルド過ぎだろ……。

「良いのかい? 二階を使わせてもらっても」
「構いませんよ、手すりがないから使い辛かったですし、あってもやはり避けていたでしょうね」

 ローザに目を向けながら言うと、モリーさんも納得の表情をする。
 あの質量で階段から転げ落ちれば、大けがで済まない可能性が極めて高い。

 引っ越し作業は無事昼前には終わり、その間作ってもらっていたローザのご飯を皆で頂く。
 食卓を囲むのは魅力的な女性達。
 
 ハーレムktkrキタコレ
 いや、リシアとローザの二人以外とはまだ恋中ですらないし、モリーさん親子に至ってはただの同居人でしかないし。
 イチャラブスキーの俺としましては、例えドストライクなケモっ娘が隷属状態であろうと、無理矢理関係を迫るってのは本意ではないのである。

 

 昼食後はリシアとククとトトを連れ、冒険者ギルドに行ってみた。
 武器や防具は充実したので、今度はそれ以外の装備品の強化と行きたい。

「ローザちゃんに生活費を全て渡しておきましたけど、宜しかったですか?」
「あ、言う前に渡してくれたんだ、さすがリシアは気が利くね」

 リシアからの報告にご褒美として頭なでなでをしてあげると、神の芸術から満面の笑みを向けられた。
 おっふ。

 しかし、冒険者ギルドに到着すると、中は騒然となっていた。
 とりあえずリシアに二人の付き添いを頼んで冒険者登録に向かわせ、俺は人々の会話に聞き耳を立てる。

「タンザスの村が壊滅とか本当かよ」
「タンザスに居た俺の知り合いからも聞いた話だ、間違いねぇ」
「馬車で逃げようとした奴らが集中して狙われたらしい」
「道理でな、今日まで報告が来なかった訳だぜ……」
「どうする、お前らも討伐に行くのか?」
「当たり前だ、仲間がやられて黙ってられるか!」
「ライシーンに来られて街に被害が出てからじゃ遅いしな」
「だが村が壊滅する規模の魔物だぞ、西区の奴らにも声をかけて数を集めた方が良い」
「よし、俺が一っ走り行って来る!」

 などなど、血気盛んな冒険者達が、仲間を集って討伐の方向で話を進めていた。
 そんな彼らの前には、〈急募・魔物討伐 タンザス村を襲撃した謎の魔物の討伐。 討伐報酬10万カパー ☆☆☆☆〉の依頼書が張り出されていた。

 これのことを話しているのか。

「お待たせしました」

 二人の冒険者登録を済ませ、リシア達がこちらにやってくる。
 魔物ってことになっている二人でも、主人が居て知性があれば冒険者として登録できるのな。
 ライシーンの大らかな気風に感心させられる。

「どうでした?」
「あぁ、どうも魔物が出て村が一つ壊滅したらしい。みんなで人を集めて魔物退治って話になってるみたい」

 掲示板に貼られた依頼書を指さすと、リシアもそれを見て納得する。
 俺も再び掲示板に目を向けた。

〈志願兵募集。アイヴィナーゼ王国ライシーン領にて志願兵を募集中。国のために立ち上がれ! 給料要相談、熟練者は騎士への取り立てあり〉
〈初心者歓迎。デクシ村近くのクレアル湖でドラゴンフライ大量発生。夏季15日に3日間の大規模討伐を予定。参加者は日の出前にギルド前集合。参加報酬は日当300カパー、食事あり。☆~☆☆まで〉
〈ライシーン第一迷宮の入り口で崩落。撤去作業の護衛8名募集。日当1500カパー。☆☆☆〉
〈初心者歓迎。デクシ村近くのクレアル湖でドラゴンフライ大量発生。夏季15日に3日間の大規模討伐を予定。参加者は日の出前にギルド前集合。参加報酬は日当300カパー、食事あり。☆~☆☆まで〉
〈ライシーン第五迷宮一層でゴブリン大量発生。討伐報酬1匹200カパー。☆☆☆〉
〈ココンラット町の付近でアーミーラビットの目撃多数。討伐をお願いします。報酬6千カパー。☆☆☆〉
〈初心者歓迎。デクシ村近くのクレアル湖でドラゴンフライ大量発生。夏季15日に3日間の大規模討伐を予定。参加者は日の出前にギルド前集合。参加報酬は日当300カパー、食事あり。☆~☆☆まで〉
〈ルガリア連合国までの護衛募集。日当1千200カパー。冒険者ランクにより追加ボーナスあり。8名まで。☆☆☆以上〉
〈セラル森林でゴブリン大発生。討伐報酬1匹200カパー。☆☆〉

 こんな感じのメモが貼り出されている。
 他にも薬草採取などのアイテム収集系が幾つもあり、冒険者の街に恥じない程度には依頼内容は豊富だった。

 ドラゴンフライ討伐が多く張り出されているのは、初心者育成に力を入れている現れかな?
 でも、○○村~とか△△森林~と言われても、土地勘が無いので距離が分らんのはダメだな。

「ん~、地図が欲しい」
「地図ですか?」
「うん、俺達の居るライシーンやその周辺の街が、どこにあるのかが分かれば活動しやすい」
「それなら冒険者ギルドの販売窓口で売っていますよ」
「マジか、ちょっと買ってくるから、適当に飲み物頼んでその辺に座ってて」


 リシアに教えられてすぐに販売カウンターへ行ってみると、アイヴィナーゼ王国全土の地図が銀貨五枚で、ライシーンの街周辺の地図が銀貨四枚で売っていた。
 受付のお姉さんに金貨で支払い羊皮紙製の地図を受け取ると、皆の待つテーブルに着き地図を広げた。
 
 アイヴィナーゼ王国全土の地図には、首都を中心にしたこの国の全体的な位置が大まかに絵描かれている。
 絵的にはかなり大雑把ではあるが、街や村を結ぶ道にはそれぞれに番号が振られており、地図の下部に対応した番号と徒歩での到着日程が明記されていた。

 ついでに地図の左上には方角も書かれている。

 次にライシーンの街周辺の地図を開くと、近隣の町や村から主な迷宮まで網羅されていた。

 概ね求めていたものが既に書かれているのでこれは有り難い。
 そこで、先程の依頼書で気になったことを頭に浮かべながら地図と照らし合わせる。
 タンザス村はライシーンの北東、クレアンデル大森林の中にある迷宮近くの木材生産村で、迷宮探索目的の冒険者の拠点にもなっているとか言っていた。

 冒険者で賑わう村での魔物の被害って、初心者は顔を突っ込まない方がいいだろう。
 元々ランク4以上の仕事なので、俺達はお呼びじゃない。
 そのタンザス村の近くにある迷宮がライシーン第一迷宮だ。

 ドラゴンフライが湧いていると言うクレアル湖も同じく森の中にあり、リシアの話しではデクシ村は純粋に木材生産のためだけの村だとか。 
 地図的には村の場所はタンザスよりも近く、日帰りの距離だ。
 そしてタンザス村とデクシ村は、幅だけでも10キロはあるクレアル湖の対岸に位置していた。

 ゴブリンが湧いているライシーン第五迷宮も森の中か。
 第一迷宮よりも奥にあるのでかなり遠そうで、むしろ首都から行った方が近いくらいだ。

 セラル森林は俺とリシアが出会った街道沿いの森か。
 大発生していたから街道沿いなのにあの数だったのか。

 などを皆で地図を囲んであーだこーだ言ってると、先程注文を通してくれたウェイトレスさんがトレイに飲み物が入ったガラスコップを4杯持ってきてテーブルに置いた。
 中身は氷で冷やされた茶色く透き通っている。
 皆に杯を回した後も、ウェイトレスの猫耳さんが立ち去る気配が無い。

 ……あ、チップかな?

「ごめん、君が可愛かったからつい見惚れちゃったよ」
「口がお上手ですね♪」

 空いてしまった間を誤魔化し銅貨3枚を手渡すと、笑顔で軽く受け流して他のテーブルへと行ってしまった。

「……ここでもチップなんてあったんだね、誤魔化すのにお世辞言っちゃった」
「こういうところではお給料はでませんので、チップで賄われていますから。……ところで、今のは本当にお世辞だったのですか?」

 ウェイトレスさんの給金システムの説明後に詰問してくるリシア。
 さすが正妻、そこツッコんでくるのね……。

「そりゃこんなに美人な女の子三人に囲まれてるのに、猫耳とは言え他の女の子に見惚れる理由が無いからね」

 今度は誤魔化すつもりは無いので正直に言うと、リシアとククが照れた笑みを浮かべる。

 二人が可愛いのでずっと見惚れていたい。

「なあトシオ、あても? あても美人?」

 コップの中身を一気に飲み干してしまったトトが、元気良く聞いて来る。

「そうだね。でもトトは美人と言うよりは可愛いって感じかな? もう少ししたらククみたいな美人さんになるかもね」
「あてが、お姉ちゃんみたく美人になれる!?」
 
 トトがククを見つめながらトリップしてしまった。

 どんだけお姉ちゃん好きなんだよ。
 いやわかるけど。
 そんなトトも可愛いなぁ。

 その後ははちみつの入ったアイスティーを味わいながら、やたらと張り出されていたドラゴンフライ退治の依頼書にあった〈夏季〉について聞いてみた。

 ここでは一年を〈春季〉〈夏季〉〈秋季〉〈冬季〉の四つに分け、季は90日ほどで次の季に変わるのだそうだ。
 で、今日は〈夏季の14日〉だ。

「モーディーンさんに誘われたドラゴンフライ退治は明日の朝か」
「参加されるのですか?」
「うん。せっかく誘ってもらえたし、顔は出しておこうかなって」
「魔物と戦うの?」
「そうなるだろうね」

 妙に目を輝かせているトト。
 猪突猛進で事故らなきゃいいけど……。

「ならあてに任せろ、捕まるまではあてが狩りしてお肉とか持って帰ってたからなー」
「お、それは頼もしいね」

 鼻息を荒げて胸を叩くトトに水をかけないようによいしょしておく。
 だが逆にククはと言うと、ククはやはり怖いのか緊張している様子だった。

「クク、俺達が付いてるから大丈夫だよ。でも家に帰ったら少し訓練をしておこう、それで何とかなるから」
「……はい」

 たとえば〈バッシュ〉を使って盾で相手を殴りつける〈シールドバッシュ〉位は覚えておいたほうがいいかな。
 方針を決めたところでギルドカウンターに仕事の受注方の確認と、委託掲示板から見繕ったアイテムを幾つか購入する。


フレイムバードカード
攻撃時オートスキル〈ファイヤーストームLv2〉発動。

ジャック・オー・ランタンカード
攻撃時オートスキル〈ファイヤーアローLv2〉発動。

グリフォンカード
攻撃時オートスキル〈ウィンドブラストLv3〉発動。

エンシェントツリーカード
付与部位に攻撃を受けるとオートスキル〈ヒールLv2〉発動。

ブレードマンティスカード
武器に付与するとATK増加(中)二枚使用すると増加値(大)

バーバヤガーカード
魔力増加(中)二枚使用すると増加値(大)

マジックミラーカード×5枚
カード付与時に別のカードと併用するとそのカードを二枚使った扱いとなる。

竜石のブローチ
MATK上昇(中)
スロット【空き】【空き】【空き】

竜石のネックレス
MATK上昇(中)
スロット【空き】【空き】【空き】

ミスリル鉱石×5個


 合計46万カパーになりました。

 とりあえずカードは魔法攻撃系オートスキルを多めに買ってみた。
 でもなぜか殆どのオートスペル系が安かった。
 いやなぜも何も大体予想できる。
 オートスキルの魔法も使用者の魔力に依存しているからだ。
 近接職には魔力が実用レベルではなく、魔法職はそもそも近接戦闘に不向き。
 必然的に使える職が限られているのだ。
 マジックミラーカードは汎用性が高そうなのに、一枚8千カパー前後で取引されているのと、出物も多かったため複数買う。

 多々買わねばならない時もあるさ。

 あとアイテム委託掲示板を見ていて思ったことは、全体的にカードよりも装備品(特にミスリルの前面鎧)の方が高かった。
 確実性が高くそれでいて破損するため、需要と必要性の面で装備品の方がどうしても値段が上なのだろう。

 こちらとしては、資金が潤沢な上にネトゲーと違ってレアアイテムが出鱈目なくらいインフレしてない世界。
 実にストレスフリーである。
 レアは自分で出したい派ではないため、こういう金にモノを言わせてアイテムを買い揃えるところはネトゲーみたいでやはり楽しい。

 ま、カード合成錬金同様、程々にしなければいけないけど。

 
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