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42話 空回り
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アレッシオに近隣の情報を教えてもらうと、俺達はモーディーンさんの許可を得てから村の回りの森を散策し始めた。
周囲には甲殻昆虫に節足動物、蛇や猪などの魔物が徘徊しているとのこと。
特に熊には気をつけろと教えてくれた。
まずはPTの戦い方を見るため戦闘を3回毎に交代して狩りをすることに。
サベージLv9
属性:なし
耐性:なし
弱点:なし
状態異常:なし
サベージベビーLv6
状態異常:なし
サベージベビーLv5
状態異常:なし
サベージベビーLv5
状態異常:なし
サベージベビーLv5
状態異常:なし
サベージベビーLv5
状態異常:なし
散策を開始して10分ほど、早速俺達の前にエネミー発見。
体長4メートルオーバーくらいの灰色の大きな猪と50センチほどの同じく灰色の小さなうり坊数匹がこちらに気付いて戦闘体勢を取っている。
「トト、お姉ちゃんと戦線を合わせて。リシアは全体の被害状況を見てダメージを多く受けてる人を優先的に回復。複数被害が出てるようなら全体回復で」
「は~い」
「はい!」
そう指示を出しながら前方のサベージの動向を注視し、左サイドのククとトトを視界内で位置を確認する。
「クク、落ち着いて。敵が突っ込んできたら引き付けて盾で防ぐだけで良い」
「は、はい…!」
真ん中を担当するククに声をかけると、俺もサベージに槍を構える。
パニックになってる人が隣に居ると逆に落ち着くという話があるが、今それを実感した。
だが今ククに恐慌錯乱状態になられても困るので、無詠唱でボーナススキル〈ブレイブハートLv3〉を発動させる。
隣のククからぎこちなさが消え、冷静にサベージを見据えて大盾を構えた。
〈ブレイブハート〉の敵への恐怖心を消し臆病な心を奮い立たせるための勇気を与えるスキルが効果を表したようだ。
「フィローラ、君は最善を考えて自由に動いてくれ」
「は、はい」
フィローラの返事を聞きながら、俺は自分の戦い方を脳内でシミュレートする。
現在ステータスは敏捷多めの知力中振り。
武器性能で昨日よりは攻撃力が上がっているが、それでも筋力が下がっているためあまりあてにしていない。
そして現在俺の最大火力は武器ではなくブローチに込められたカードスキルだ。
業火の竜石のブローチ
MATK上昇(中)
攻撃時、オートスキル〈ファイヤーアローLv2〉発動。
攻撃時、オートスキル〈ファイヤーストームLv2〉発動。
攻撃時、オートスキル〈ファイヤーボールLv2〉発動。
スロット【ジャック・オー・ランタンカード】【フレイムバードカード】【ドラゴンパピーカード】
〈ファイヤーアロー〉はマジックキャスターのスキルで、魔法で生み出した火の矢をMATKの200%のダメージとして相手に与える。
発動するスキルはLv2なので火矢が3本。
今の俺の武器攻撃力は91で、魔法攻撃力は103のため、発動さえすれば単純計算なら200×3発で約600のダメージが出るはずである。
武器攻撃力の約6倍強。
これは悪くないはずだ。
さらに〈ファイヤーボールLv2〉はMATK+300%の火球を飛ばし、着弾地点で爆発する範囲魔法。
おまけに〈ファイヤーストームLv2〉はターゲットを中心に広範囲に250%の火柱を発生させる範囲魔法だ。
発動条件が相手に物理攻撃を与えるだけなので、高速で突けば敵はその内火達磨になるって寸法だ。
完璧だ!
これは行けるはず!
……あれ、火ダメージ?
広範囲の火柱?
こんな森の中で?
……ああああああああああああああああああああああ!!!!???
「誰かコレお願い!」
俺は自分のズボンのポケットに入れて装着していたブローチを、慌てて引きちぎり後方に投げ捨てる。
だがサベージは何を思ったか、このタイミングで俺に突っ込んできた!
「に”ゃ!?」
急いで無理矢理迎撃体勢を取ると、親猪はすでに槍を伸ばせば届く距離まで迫っていた!
くっそ!
その鼻へ狙いを定め、槍の切っ先を押し出した。
「ぶぎゅうううううううう!?」
槍は狙い違わずサベージの鼻に深々と突き刺さり、大猪は悲鳴と共に大きくのけ反る。
弱点属性は無くても弱点部位は存在するようだ。
のけ反るサベージの足元を抜けてサベージベビー達が突っ込んでくるも、ククの盾に阻まれ動きを止め、俺の槍で片っ端から突き刺し、トトの槍斧に両断されて粒子散乱させていく。
それを見て俺に再突撃してきた親猪の突進を、ククが俺と猪の間に入って盾を構える!
「〈バッシュ〉!」
ククが叫びながら大盾を力強く振りぬくと、〝ボゴンっ!〟と大きな音が盾から聞こえ、次に巨体が倒れる音と共に盾の向こう側から光の粒が空間に散った。
「危ねぇ……」
猪に轢き殺されそうになる恐怖と森を焼き払いかねなかった恐怖で二度美味しい。
いやなんも美味しくねーよ!
「もう、トシオちゃんはなにやってるのよ」
俺の狼狽ぶりにレスティーが呆れ声でそう言いながらブ、ローチを拾って持ってきてくれた。
「いやスマン。そのブローチにはオートスキルで火炎魔法が出るカードが刺さってて、危うく森林火災を起こすところだった……」
「それはダメね……」
ブローチを見ながらうわぁっとドン引き顔をするレスティー。
こうしてオートスペルの実験は使う前から失敗に終わった。
こんなことなら風魔法系オートスキルのも用意しておけば良かったなぁ。
仕方が無いので次の実験をやってみよう。
だがその前にやらねばならないことがある。
「クク、よくやった。最後のシールドバッシュは完璧だった」
「ありがとうございます。魔物を見たときはすごく怖かったのですが、ご主人様に声をかけてもらったら急に楽になりました」
興奮気味のククの頭を撫でて褒めた。
「トシオ、あては? あては?」
「トトも良かったよ、えらいえらい」
アイテム回収をし終えたトトがお姉ちゃんに抱きつきながら目を輝かせて聞いて来るので、こちらも頭を撫でて褒めてやる。
むしろ今の戦いで失態を演じたのは俺だけなので心が痛い。
これ以上その無邪気に輝く瞳で見詰めないで!
「さ、次にいくよ」
二人を促しながら顔だけをリシアに振り向き頷いた。
リシアの事は忘れてないよと意思を示すと、彼女も気付いて頷き返してくれたので、前を向いて進み始めた。
歩きながら収納袋様にブローチを収納し、次にステータスウィンドウを開きマジックユーザーのスキルを再設定。
〈コールドアローLv5〉
〈コールドボールLv3〉
〈コールドストームLv3〉
コレを攻撃を当てると同時に無詠唱で使ってオートスキルに見せかける作戦だ。
うん、今度こそ完璧。
ついでに近接戦闘中のスキル使用に慣れるための練習にもなり一石二鳥のパーフェクトプランである。
自分の才能に恐れすら感じてしまう…。
などと思っていると、早速前方の木の陰に動く物を発見した。
おっしゃ来いや!
意気揚々と槍を構えて近付くと、そこに居たのは分厚く白い体毛に覆われた人型の大猿だった。
サスカッチLv15
属性:なし
耐性:氷無効。凍結無効。斬撃軽減。
弱点:火ダメージ2倍。
状態異常:なし
ふざくんなクソがあああああああああ!!
なんで初夏の森の中に雪男が居るんじゃボケが!
たった今マジックユーザーのスキルを氷系で纏めたばかりでコレってどういうことだ!?
もうあまりの理不尽っぷりに「ふざけんな」ではなく「ふざくんな」って言ってしまったよ!
だがここで怒っても仕方が無い。
俺は後ろを振り返り全員に「行くよ」と告げると皆が頷いた。
隣の二人を連れて突撃を決行。
接敵時にサスカッチに気付かれたが勢いに乗せて槍を繰り出し先制攻撃をヒットさせると共に〈コールドボルト〉をLv2で発動させた。
胸に刺さる槍に気を取られるサスカッチに頭上に出現させた氷の矢を降らせるも、その毛皮に当たると氷の矢は霧散して消える。
「ウホッ!」
人間の倍以上もある握り拳で反撃してくるサスカッチの攻撃を身体を右回転させながら左に避け、遠心力を込めてパルチザンの刃を横っ腹に叩き込む。
槍の刃はサスカッチの毛を切るも本体を切り裂くには至らず。
打撃ダメージとしては少し入ったかもだが全然刃が通っていない。
刺突攻撃も深く刺さっていないとこを見ると、元の防御力もかなり高いようだ。
もしかしてレベル以上に種族としてこいつは強いのかもしれない。
俺とククとトトの三人でサスカッチを囲むとその正面を受け持ち、繰り出される豪腕を避けてカウンターを合わせ槍を繰り出す。
その尽くが分厚い毛に阻まれダメージが入らない。
むしろトトのハルバードによる打撃の方が効果がありそうだ。
「ホオオオオオ!!」
そんな俺達を脅威と感じなくなったのか、サスカッチは防御や回避を捨てて全力攻撃に切り替えやがった。
豪腕はその速度を増し、スピードの乗ったパンチを大盾で受けたククが吹き飛ばされる。
間髪いれずにククにヒールの光が包み込む。
「助かります!」
そう叫んですぐに立ち上がろうとするも、ククの脚が大きく震えて上手く立ち上がることができない。
ブレイブハート!
効果の切れていたブレイブハートを再発動。
ククの脚から振るえが消えるとすぐさま戦線に加わった。
俺一人ならこのまま避け続けることが可能であろうが、このままではその内誰かが大怪我を負いかねない。
なら試してみたいことがある。
「クク、トト、離れてくれ!」
俺の指示に素早く距離をとるククとトト。
それを見計らって槍の持ち手を切り替え左手で石突近くを握りこんで槍の柄の中腹を右手に置いた。
左半身をサスカッチに向ける。
槍の基本動作はどうも俺に合っていないと言うか魔物相手にもあまり意味が無い。
なら投げ捨ててでも自分に適した戦い方を模索するべきだ。
「ホッホー!」
囲んでいたのが3人から1人になったことで圧力が減ったため、更に調子付く雪男。
棍棒の様に振り下ろされる左腕を右にかわして石突をサスカッチの顔面に叩き込む。
「ホッ!?」
威力こそ低いが顔面を殴られて驚かない生き物なんてそうは居ない。
ステータスウィンドウで攻撃力などが数値化されてこそ居るが、結局のところは敵のどの部位にどんな攻撃を繰り出すかが肝心なのである。
地面を振り下ろされたサスカッチの左腕が跳ね上がり、裏拳が繰り出されるもバックステップで距離をとっていたため空振りに終わる。
裏拳で開いた正面に素早く飛び込むと右の拳が飛んで来たが、スライディングでサスカッチの股を潜り振り向き様に力いっぱい背中に槍を突き立ててやる。
コールドボール!
浅く刺さった槍を引き抜き飛びずさりながら、オートスキルっぽく魔法を発動させて目暗まし代わりにサスカッチの顔にぶち込んでやるが、着弾と共にまたも霧散する。
槍もあまり効果が無かったようで、こちらに向き直ったサスカッチの顔には笑みが浮かんでやがる。
まぁ予想通りなんだけどね、筋力1+5だし。
だが俺もなんとなくわかって来たことがある。
俺は敏捷70のステータスを活かしきれていない。
ゴブリンを後ろから襲撃した時はただ走っただけだったが、俺の想像を大きく超えるような速度は出ていなかった。
そして今も回避こそ出来てはいるが、どうも何かで動きが押さえられている感じがする。
少し機能したかなと思うのはモーディーンさんに手も足も出なかったあの時か。
だが後半こそそこそこの速度が出ていたと思うが、ステータスポイントを70も使ってアレだけの動きしか出来ないなら、体力に振った方がはるかにましなのではないだろうか。
敏捷70以上あるならもっとやれるんじゃないのか?
小刻みにステップを踏んで身体を左右に動かし、雪男の意識を左右に散らす。
徐々にそのステップを変則的なものにし速度を増すと、今までに無く視界が横に流れるのが意識できた。
たぶんこれだ。
俺が何かを掴んだと思った瞬間、突如サスカッチの背中が燃え上がった。
なんだ!?
炎に包まれのた打ち回るサスカッチを唖然としながら見ていると、トトが素早くサスカッチに襲い掛かり、その槍斧を叩き込んだ。
ククも腰の刺突剣を抜いて攻撃に加わる。
あぁそうだ、これは敵なんだからさっさと殺っちゃわないと。
二人に続いて槍を力いっぱい突き刺し続け、雪男の命を刈り取った。
視界左端のシステムメッセージが数人のLvUPを告げてすぐに消えると、サスカッチは毛皮を残して粒子散乱していった。
「………」
「お怪我はありませんか?」
粒子が消えたあとも、サスカッチが居た空間を心ここに在らずな面持ちで見詰めていると、心配したリシアが声をかけてきた。
「大丈夫。ちょっと考え事をしてた……そう言えばさっきの炎って誰?」
「私でふ…」
フィローラが消え入りそうな声で手を上げた。
「そう、助かったよ、ありがとう」
「いえ、攻撃が遅くなってしまいごめんなさいでしゅ」
俺の礼に申し訳なさそうに項垂れるフィローラ。
確かに遅いと言えば遅いかもだが、俺は彼女に最善を考えて行動しろと言った。
恐らく彼女には何かしらの考えがあってのあのタイミングなのだ。
それで怒るならこんなアバウトな命令を出した俺こそ叱られるべきなのだ。
「いや、君に責任は無いから気にしないで。それよりクク、大丈夫?」
「はい、リシアさんのお陰で問題ありません」
「どういたしまして」
ククの感謝に微笑むリシア。
実に尊い。
だが今回は反省すべき点が多すぎる。
対象は俺限定だが。
Q.なんで氷系だけでスキルを偏らせた?
A.はい、ターゲット指定の範囲攻撃が欲しかっただけです!
Q.サスカッチの耐性を見てなんでマジックキャスターのスキルを切り替えずに突っ込んだ?
A.はい、神の差配が絶妙すぎて頭に血が上りました!
Q.頭に血が上ったのならワンテンポ置けやボケが!
A.サーセンした!
本番に弱い男はやはりダメだな…。
マジックキャスターのスキルを弄りなおして散策を継続するも、サベージ一体と遭遇して戦闘をレスティー達第5PTと交代した。
周囲には甲殻昆虫に節足動物、蛇や猪などの魔物が徘徊しているとのこと。
特に熊には気をつけろと教えてくれた。
まずはPTの戦い方を見るため戦闘を3回毎に交代して狩りをすることに。
サベージLv9
属性:なし
耐性:なし
弱点:なし
状態異常:なし
サベージベビーLv6
状態異常:なし
サベージベビーLv5
状態異常:なし
サベージベビーLv5
状態異常:なし
サベージベビーLv5
状態異常:なし
サベージベビーLv5
状態異常:なし
散策を開始して10分ほど、早速俺達の前にエネミー発見。
体長4メートルオーバーくらいの灰色の大きな猪と50センチほどの同じく灰色の小さなうり坊数匹がこちらに気付いて戦闘体勢を取っている。
「トト、お姉ちゃんと戦線を合わせて。リシアは全体の被害状況を見てダメージを多く受けてる人を優先的に回復。複数被害が出てるようなら全体回復で」
「は~い」
「はい!」
そう指示を出しながら前方のサベージの動向を注視し、左サイドのククとトトを視界内で位置を確認する。
「クク、落ち着いて。敵が突っ込んできたら引き付けて盾で防ぐだけで良い」
「は、はい…!」
真ん中を担当するククに声をかけると、俺もサベージに槍を構える。
パニックになってる人が隣に居ると逆に落ち着くという話があるが、今それを実感した。
だが今ククに恐慌錯乱状態になられても困るので、無詠唱でボーナススキル〈ブレイブハートLv3〉を発動させる。
隣のククからぎこちなさが消え、冷静にサベージを見据えて大盾を構えた。
〈ブレイブハート〉の敵への恐怖心を消し臆病な心を奮い立たせるための勇気を与えるスキルが効果を表したようだ。
「フィローラ、君は最善を考えて自由に動いてくれ」
「は、はい」
フィローラの返事を聞きながら、俺は自分の戦い方を脳内でシミュレートする。
現在ステータスは敏捷多めの知力中振り。
武器性能で昨日よりは攻撃力が上がっているが、それでも筋力が下がっているためあまりあてにしていない。
そして現在俺の最大火力は武器ではなくブローチに込められたカードスキルだ。
業火の竜石のブローチ
MATK上昇(中)
攻撃時、オートスキル〈ファイヤーアローLv2〉発動。
攻撃時、オートスキル〈ファイヤーストームLv2〉発動。
攻撃時、オートスキル〈ファイヤーボールLv2〉発動。
スロット【ジャック・オー・ランタンカード】【フレイムバードカード】【ドラゴンパピーカード】
〈ファイヤーアロー〉はマジックキャスターのスキルで、魔法で生み出した火の矢をMATKの200%のダメージとして相手に与える。
発動するスキルはLv2なので火矢が3本。
今の俺の武器攻撃力は91で、魔法攻撃力は103のため、発動さえすれば単純計算なら200×3発で約600のダメージが出るはずである。
武器攻撃力の約6倍強。
これは悪くないはずだ。
さらに〈ファイヤーボールLv2〉はMATK+300%の火球を飛ばし、着弾地点で爆発する範囲魔法。
おまけに〈ファイヤーストームLv2〉はターゲットを中心に広範囲に250%の火柱を発生させる範囲魔法だ。
発動条件が相手に物理攻撃を与えるだけなので、高速で突けば敵はその内火達磨になるって寸法だ。
完璧だ!
これは行けるはず!
……あれ、火ダメージ?
広範囲の火柱?
こんな森の中で?
……ああああああああああああああああああああああ!!!!???
「誰かコレお願い!」
俺は自分のズボンのポケットに入れて装着していたブローチを、慌てて引きちぎり後方に投げ捨てる。
だがサベージは何を思ったか、このタイミングで俺に突っ込んできた!
「に”ゃ!?」
急いで無理矢理迎撃体勢を取ると、親猪はすでに槍を伸ばせば届く距離まで迫っていた!
くっそ!
その鼻へ狙いを定め、槍の切っ先を押し出した。
「ぶぎゅうううううううう!?」
槍は狙い違わずサベージの鼻に深々と突き刺さり、大猪は悲鳴と共に大きくのけ反る。
弱点属性は無くても弱点部位は存在するようだ。
のけ反るサベージの足元を抜けてサベージベビー達が突っ込んでくるも、ククの盾に阻まれ動きを止め、俺の槍で片っ端から突き刺し、トトの槍斧に両断されて粒子散乱させていく。
それを見て俺に再突撃してきた親猪の突進を、ククが俺と猪の間に入って盾を構える!
「〈バッシュ〉!」
ククが叫びながら大盾を力強く振りぬくと、〝ボゴンっ!〟と大きな音が盾から聞こえ、次に巨体が倒れる音と共に盾の向こう側から光の粒が空間に散った。
「危ねぇ……」
猪に轢き殺されそうになる恐怖と森を焼き払いかねなかった恐怖で二度美味しい。
いやなんも美味しくねーよ!
「もう、トシオちゃんはなにやってるのよ」
俺の狼狽ぶりにレスティーが呆れ声でそう言いながらブ、ローチを拾って持ってきてくれた。
「いやスマン。そのブローチにはオートスキルで火炎魔法が出るカードが刺さってて、危うく森林火災を起こすところだった……」
「それはダメね……」
ブローチを見ながらうわぁっとドン引き顔をするレスティー。
こうしてオートスペルの実験は使う前から失敗に終わった。
こんなことなら風魔法系オートスキルのも用意しておけば良かったなぁ。
仕方が無いので次の実験をやってみよう。
だがその前にやらねばならないことがある。
「クク、よくやった。最後のシールドバッシュは完璧だった」
「ありがとうございます。魔物を見たときはすごく怖かったのですが、ご主人様に声をかけてもらったら急に楽になりました」
興奮気味のククの頭を撫でて褒めた。
「トシオ、あては? あては?」
「トトも良かったよ、えらいえらい」
アイテム回収をし終えたトトがお姉ちゃんに抱きつきながら目を輝かせて聞いて来るので、こちらも頭を撫でて褒めてやる。
むしろ今の戦いで失態を演じたのは俺だけなので心が痛い。
これ以上その無邪気に輝く瞳で見詰めないで!
「さ、次にいくよ」
二人を促しながら顔だけをリシアに振り向き頷いた。
リシアの事は忘れてないよと意思を示すと、彼女も気付いて頷き返してくれたので、前を向いて進み始めた。
歩きながら収納袋様にブローチを収納し、次にステータスウィンドウを開きマジックユーザーのスキルを再設定。
〈コールドアローLv5〉
〈コールドボールLv3〉
〈コールドストームLv3〉
コレを攻撃を当てると同時に無詠唱で使ってオートスキルに見せかける作戦だ。
うん、今度こそ完璧。
ついでに近接戦闘中のスキル使用に慣れるための練習にもなり一石二鳥のパーフェクトプランである。
自分の才能に恐れすら感じてしまう…。
などと思っていると、早速前方の木の陰に動く物を発見した。
おっしゃ来いや!
意気揚々と槍を構えて近付くと、そこに居たのは分厚く白い体毛に覆われた人型の大猿だった。
サスカッチLv15
属性:なし
耐性:氷無効。凍結無効。斬撃軽減。
弱点:火ダメージ2倍。
状態異常:なし
ふざくんなクソがあああああああああ!!
なんで初夏の森の中に雪男が居るんじゃボケが!
たった今マジックユーザーのスキルを氷系で纏めたばかりでコレってどういうことだ!?
もうあまりの理不尽っぷりに「ふざけんな」ではなく「ふざくんな」って言ってしまったよ!
だがここで怒っても仕方が無い。
俺は後ろを振り返り全員に「行くよ」と告げると皆が頷いた。
隣の二人を連れて突撃を決行。
接敵時にサスカッチに気付かれたが勢いに乗せて槍を繰り出し先制攻撃をヒットさせると共に〈コールドボルト〉をLv2で発動させた。
胸に刺さる槍に気を取られるサスカッチに頭上に出現させた氷の矢を降らせるも、その毛皮に当たると氷の矢は霧散して消える。
「ウホッ!」
人間の倍以上もある握り拳で反撃してくるサスカッチの攻撃を身体を右回転させながら左に避け、遠心力を込めてパルチザンの刃を横っ腹に叩き込む。
槍の刃はサスカッチの毛を切るも本体を切り裂くには至らず。
打撃ダメージとしては少し入ったかもだが全然刃が通っていない。
刺突攻撃も深く刺さっていないとこを見ると、元の防御力もかなり高いようだ。
もしかしてレベル以上に種族としてこいつは強いのかもしれない。
俺とククとトトの三人でサスカッチを囲むとその正面を受け持ち、繰り出される豪腕を避けてカウンターを合わせ槍を繰り出す。
その尽くが分厚い毛に阻まれダメージが入らない。
むしろトトのハルバードによる打撃の方が効果がありそうだ。
「ホオオオオオ!!」
そんな俺達を脅威と感じなくなったのか、サスカッチは防御や回避を捨てて全力攻撃に切り替えやがった。
豪腕はその速度を増し、スピードの乗ったパンチを大盾で受けたククが吹き飛ばされる。
間髪いれずにククにヒールの光が包み込む。
「助かります!」
そう叫んですぐに立ち上がろうとするも、ククの脚が大きく震えて上手く立ち上がることができない。
ブレイブハート!
効果の切れていたブレイブハートを再発動。
ククの脚から振るえが消えるとすぐさま戦線に加わった。
俺一人ならこのまま避け続けることが可能であろうが、このままではその内誰かが大怪我を負いかねない。
なら試してみたいことがある。
「クク、トト、離れてくれ!」
俺の指示に素早く距離をとるククとトト。
それを見計らって槍の持ち手を切り替え左手で石突近くを握りこんで槍の柄の中腹を右手に置いた。
左半身をサスカッチに向ける。
槍の基本動作はどうも俺に合っていないと言うか魔物相手にもあまり意味が無い。
なら投げ捨ててでも自分に適した戦い方を模索するべきだ。
「ホッホー!」
囲んでいたのが3人から1人になったことで圧力が減ったため、更に調子付く雪男。
棍棒の様に振り下ろされる左腕を右にかわして石突をサスカッチの顔面に叩き込む。
「ホッ!?」
威力こそ低いが顔面を殴られて驚かない生き物なんてそうは居ない。
ステータスウィンドウで攻撃力などが数値化されてこそ居るが、結局のところは敵のどの部位にどんな攻撃を繰り出すかが肝心なのである。
地面を振り下ろされたサスカッチの左腕が跳ね上がり、裏拳が繰り出されるもバックステップで距離をとっていたため空振りに終わる。
裏拳で開いた正面に素早く飛び込むと右の拳が飛んで来たが、スライディングでサスカッチの股を潜り振り向き様に力いっぱい背中に槍を突き立ててやる。
コールドボール!
浅く刺さった槍を引き抜き飛びずさりながら、オートスキルっぽく魔法を発動させて目暗まし代わりにサスカッチの顔にぶち込んでやるが、着弾と共にまたも霧散する。
槍もあまり効果が無かったようで、こちらに向き直ったサスカッチの顔には笑みが浮かんでやがる。
まぁ予想通りなんだけどね、筋力1+5だし。
だが俺もなんとなくわかって来たことがある。
俺は敏捷70のステータスを活かしきれていない。
ゴブリンを後ろから襲撃した時はただ走っただけだったが、俺の想像を大きく超えるような速度は出ていなかった。
そして今も回避こそ出来てはいるが、どうも何かで動きが押さえられている感じがする。
少し機能したかなと思うのはモーディーンさんに手も足も出なかったあの時か。
だが後半こそそこそこの速度が出ていたと思うが、ステータスポイントを70も使ってアレだけの動きしか出来ないなら、体力に振った方がはるかにましなのではないだろうか。
敏捷70以上あるならもっとやれるんじゃないのか?
小刻みにステップを踏んで身体を左右に動かし、雪男の意識を左右に散らす。
徐々にそのステップを変則的なものにし速度を増すと、今までに無く視界が横に流れるのが意識できた。
たぶんこれだ。
俺が何かを掴んだと思った瞬間、突如サスカッチの背中が燃え上がった。
なんだ!?
炎に包まれのた打ち回るサスカッチを唖然としながら見ていると、トトが素早くサスカッチに襲い掛かり、その槍斧を叩き込んだ。
ククも腰の刺突剣を抜いて攻撃に加わる。
あぁそうだ、これは敵なんだからさっさと殺っちゃわないと。
二人に続いて槍を力いっぱい突き刺し続け、雪男の命を刈り取った。
視界左端のシステムメッセージが数人のLvUPを告げてすぐに消えると、サスカッチは毛皮を残して粒子散乱していった。
「………」
「お怪我はありませんか?」
粒子が消えたあとも、サスカッチが居た空間を心ここに在らずな面持ちで見詰めていると、心配したリシアが声をかけてきた。
「大丈夫。ちょっと考え事をしてた……そう言えばさっきの炎って誰?」
「私でふ…」
フィローラが消え入りそうな声で手を上げた。
「そう、助かったよ、ありがとう」
「いえ、攻撃が遅くなってしまいごめんなさいでしゅ」
俺の礼に申し訳なさそうに項垂れるフィローラ。
確かに遅いと言えば遅いかもだが、俺は彼女に最善を考えて行動しろと言った。
恐らく彼女には何かしらの考えがあってのあのタイミングなのだ。
それで怒るならこんなアバウトな命令を出した俺こそ叱られるべきなのだ。
「いや、君に責任は無いから気にしないで。それよりクク、大丈夫?」
「はい、リシアさんのお陰で問題ありません」
「どういたしまして」
ククの感謝に微笑むリシア。
実に尊い。
だが今回は反省すべき点が多すぎる。
対象は俺限定だが。
Q.なんで氷系だけでスキルを偏らせた?
A.はい、ターゲット指定の範囲攻撃が欲しかっただけです!
Q.サスカッチの耐性を見てなんでマジックキャスターのスキルを切り替えずに突っ込んだ?
A.はい、神の差配が絶妙すぎて頭に血が上りました!
Q.頭に血が上ったのならワンテンポ置けやボケが!
A.サーセンした!
本番に弱い男はやはりダメだな…。
マジックキャスターのスキルを弄りなおして散策を継続するも、サベージ一体と遭遇して戦闘をレスティー達第5PTと交代した。
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