四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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84話 理解者

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 足の痛みから四つ這い状態でその場に屈み、落ちていた物を物色する。
 アキヤの死体が粒子散乱し消えた跡に残っていた物は、オリハルコン製の装備一式とブローチにガントレットの中に残された指輪、俺が渡した白金貨、何処から現れたのかオリハルコンの兜と盾、そしていくつかの宝石に金貨十数枚。
 それとなんだか見慣れないカードだった。
 粒子散乱で異臭が消えたため、指輪とブローチを取り出し、鑑定眼を発動させる。
 

 魔滅の守護環
 範囲内の魔法攻撃を遮断する。
 

 生命のしずく
 HP・MP自動回復(特大)


 なんだ完全にただのチートアイテムか。
 ……チート過ぎだろ!?
 なんだよ〈魔滅の守護環〉って!
 こんなのつけて魔法使いの俺に一騎討だなんだと息巻いていたのか!?
 信じられん位のクソっぷりだなこいつ。
 あ、もうここには居ないしあいつと言うべきか。
 そしてこんなのがあるとわかっててぬけぬけと決闘の立会人を買って出たのなら、あそこに居る近衛騎士団長とやらも相当のクソ野郎だ。
 嫌味の一つは言ってやりたい。

 次に目を向けたのが謎のカード。


〈盗賊〉アキヤ
 人 男 20歳
 グラディエーターLv49
 ロイヤルガードLv46
 窃盗×42
 暴行×74
 強姦×24
 殺人×8
 

 あー、これが前に大福さんが言ってたウォンテッドカードか。
 でも、勇者なのにウォンテッドカードってどういう事だ?
 ていうか罪状件数がえげつないんですけどそれは……。
 それがこっちに来てからなのか向こうに居た頃からなのかは定かではないが、どちらにしても極めてクズっぽい、いやもうクズそのものだ。
 クズオブクズ野朗の称号を送ってやる。

 元から頭のおかしい奴を相手にしていたのかと思うと、罪悪感なんて一欠片も沸きやしない。
 その間にも、左足が尋常ではない痛みで悲鳴を上げ続ける。

 あ、これは今見たらアカン奴や……。

 脳内麻薬が切れたせいか、わずかな動きで激痛が走り、動く事すら出来なくなる。

「トシオ様!」

 痛みと疲労感にさいなまれていると、リシア達が駆け寄って来た。
 そして俺の左足を見たのか、その場にいた全員が絶句し、リシアが回復魔法を発動してくれた。
 左足を暖かな光に包まれると、先程の激痛が嘘のように消え去った。
 傷の具合を確認すると、履いていた靴がなくなっており、鋼鉄製のグリーブも足首辺りから完全に溶解していた。

 うひぃ……。 
 これは要改良案件だな。

「もう、無茶ばかりして、もしものことがあってからでは遅いのですよ?!」
「ごめん……」

 眉間にしわを寄せお怒りのリシアさんに謝罪すると、人目も気にせず頭を抱きかかえられるように抱きしめられた。

「貴方が私達のために戦ってくれたことは分かってはいますけど、あまり無茶はなさらないでくださいね?」

 彼女の優しさと理解力に心が緩み、不覚にも零れた涙を誤魔化そうと、彼女を抱き寄せ縋りついた。
 
 

 事後処理としては、残った装備を全て収納袋様に入れて立ち上がったところに、クラウディア王女がアウグストと騎士達を伴いやってくると、王女に割り込む様にクソジジイが「勇者殿を倒すとはどういう了見か!」と怒鳴り散らした。
 煩わしいのでじじいの足元にプラズマの弾丸を打ち込み黙らせる。
 そしてウォンテッドカードをその眼前に見せつける。

「こんなもんが出てくる奴を勇者と持ち上げ調子付かせ、一般人に迷惑をかけるのが近衛騎士って職業なら、そんな職業はクソの役にも立たない処か迷惑極まりないからさっさと解体してしまえ」

 俺の痛烈な苦言に騎士達は苦虫をかみつぶした顔となり、ジジイがぐぬぬと呻く。

 ザマァ。

「で、この〈摩滅の守護環〉ってなに? お前知ってて決闘の立会人とか言って来たの?」
「ワ、ワシはそんなものは知らん!」

 序とばかりに〈摩滅の守護環〉の事を問うてみると、あからさまに動揺しながらシラを切った。

 それはもう知ってますと宣言してるのと同じじゃねぇか。
 だから決闘の立会人に名乗りを上げ、奴に擦り寄るタイミングを作ったのか。
 こいつは俺の〈マスト殺すリスト〉の一番上に名を記しておく。

 アウグスト、覚えたからなっ!

 むしろ忘れてしまった方が精神衛生上いいかもしれないが。

 腹いせに再びウォンテッドカードを見せつけながら、お前が勇者と祭り上げていたのがどんな奴だったのかを罪状を読み上げてやる。
 悔しそうに打ち震えるジジイのプライドを殺しにかかる。
 ここに来て自分の小物感も果てしないなと振り返っていると、クラウディア王女が止めに入った。

「この度の責任は全てアイヴィナーゼ王国にあります。もし気が済まないというのであれば、すべての責はここに居る誰でもなく、わたくしにお与えください」
「……本当に詫びる気があるなら受けてみろよ」

 愁傷な態度のクラウディアに対し、八つ当たりと自覚しながらも奴隷契約を飛ばしと言ってやる。
 
「……そのウォンテッドカードを私に預けて頂けるのであれば」
「それは構わないけど」

 ウォンテッドカードを渡すと信じられない事に本当に受けやがった。

《新たな使役奴隷を獲得しました》

 マジか……。

 マジマジと王女を見ると、艶やかな金髪碧眼の美少女は、顔だけならリシアと同等に美しかった。
 しかし、彼女は至って普通のヒューム種である。

 いくらリシアレベルの美人だとしても、ドノーマルすぎていまいち食指が動かないぞヒューマン。
 それに冷静になって考えれば、お姫様とか色々と面倒すぎる。
 これ以上余計な者を内に取り込みたくないので却下である。
 まぁ国家絡みでまずい事態になった場合の保険として、この人脈を活用させてもらおうか。

 それから盗賊アキヤの女2人だが、どうやら奴隷契約を結んでいたらしく、奴が死んだ事により連鎖して死亡した。
 リシアもこうなっていたかもと思うと、今後一騎打ちなんて二度とやらないと心に誓う。

 なにが〝不幸な誰かとは間違いなくこいつらがなるべきだ〟だ、代償が自分と家族の命とか、バカも大概にしとけよクソ雑魚の癖に。
 今回の事を教訓とするならこんなところか。

 クラウディア王女には「その内王都にも顔を出すかも」とだけ言って別れを告げると「ではこれをお渡ししておきます」と、彼女がポーチ型の魔道具袋から羊皮紙とインクを取り出し書き込み呪文を唱えて封をした。

「わたくし名義の入城許可証です。王都にお越しの際は是非お立ち寄りください」
「何か有った時にでも頼らせてもらうよ」

 封書を受け取りクラウディア達を見送った。

「今度こそ、お疲れ様ですトシオ様」
「お疲れ様……、皆の命を危険に晒してしまってごめん……」

 優しい笑顔で迎えてくれたリシアに、再び謝ることしか出来なかった。
 今回は俺の考えが足りなさ過ぎ、反省してもしたり無い。
 リシアを託してくれたジスタさんやベラーナさん、ローザのご両親であるリベクさんやジョゼットさんにも顔向けが出来ない酷い内容だ。

「……ちゃんと反省しているようですし、今回だけはもう何も言わないで差し上げます」
「ありがとう、今回は本当にすまなかった」
「はい。ですが、この償いは必ずして頂きますからね?」

 にこやかな笑顔から一変、氷点下の笑みを浮かべてくれたリシアさん――いや、リシア様。
 どう償わされるのか聞くのが恐ろしいが、本気で怒ってらっしゃいますので、どんな事でも聞き届けなければならない。
 円満な夫婦関係のためにも。

「俺にできる事なら何でも言ってくれ……」

 以前にも似たような事を言った気がするが、あの時とは緊張感が段違いだ。

「そういうことですので、トシオ様が皆の言う事なら何でも叶えてくれるそうです。遠慮なく言ってあげてください。最初はククからです」
「私からでよろしいのですか?」

 リシアに促されたククもおねだりしたい事があるのか、躊躇いながらも期待に目を輝かせて尋ねてきた。

「も、もちろん構わないよ」
「では、ご主人様にブラシで毛繕いして頂けたらと……」
「あてはねー、もっと強い武器が欲しい!」
「美味しいお肉が食べたい……」
「あのあの、私は欲しい本がありましゅ!」
「自分はトシオ殿を背中に乗せ草原を駆けてみたいです!」
「私は抱きしめて頂けるだけで満足です……」
「クク、ユニス、セシル、トシオ様に無茶をさせないためにも、こういう時は無理難題に近い要求をするべきです」
「と言いますと?」

 皆が堰を切ったように望みを言い始める中、我が第一夫人にして筆頭奥様のリシアが無欲極まりない望みを言う3人を嗜めると、ユニスの問いにしばし思案顔。

「そうですね、例えば……トシオ様、白金の結婚指輪が欲しいです」

 白金の指輪……だと……?

「おお、さすがはリシア殿!? その容赦の無い要求に感服します!」
「私も欲しいです……!」
「ステキでふ……!」

 リシアの心地の良い声が運んだ盛大なノイズレベルの要望に、フィローラまでもが飛びついた。
 金貨百枚にも相当する白金貨一枚、それの素材となる白金の指輪だ。

 硬貨その物よりは安いと思うが……。

 結婚指輪ともなると当然4人にだけという訳にはいかない。

 9つか……。
 リシアさんマジ鬼畜可愛い。
 愛情があふれ過ぎて血反吐吐きそう……。

「結婚指輪とは何でしょうか?」
「結婚指輪というのはですね――」

 ピンと来ないククに乙女の顔で説明を始めるユニス達。
 それを少し離れた位置で見つめているメティーカさん。
 楽しくも姦しい妻達から逃れるように、ラミアの女性の元へ赴くと、簡単な挨拶を済ませて彼女達を連れ自宅へと帰還した。
 
 ファッキンヒートな真夏のある日、精神的にもお財布的にも手痛い半日が、こうして終了を迎えるのだった。

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