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116話 マナロード
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昼食を終え、ヴァルナさんをタンザスの村に送り届けると、リビングのテーブルを窓際に移動させての一休み。
一休みがてら、俺は早速〈マナロード〉のスキルを確認する。
〈マナ感知〉マナを知覚出来る。
〈マナ操作〉マナを自在に操る。
〈マナ吸収〉大気中のマナを吸収し、MPを回復させる。
〈マナ変換〉マナを魔法に変換する。
〈マナ消失〉自身の周囲にあるマナや魔法を消失させる。
〈ダブルキャスト〉魔法を二つまで同時に使える。
〈トリプルキャスト〉魔法を三つまで同時に使える。
〈クアドルプルキャスト〉魔法を四つまで同時に使える。
〈サイレントキャスト〉音声による魔法詠唱を必要としない。
〈マキシマイズマジック〉魔法攻撃力が上がる。
〈クリエイトマジック〉新たな魔法を創作する。
〈MP消費減少(特大)〉消費するMPを最大限少なくする。
ボーナススキルの劣化版みたいなのが幾つかあるな。
というか、ダブルキャスト系はマルチプルキャストの下位互換だ。
まずは〈マナ感知〉を習得すると、迷宮の光に似た黄緑色の輝きがきめ細かな粒子となって空間に満ち、床に落ちてそのまま沈み見えなくなる光景が目視で確認した。
世界はこんなにマナが溢れてたのか。
迷宮の色は青緑だけど、地上のマナの色は黄緑なのね。
でもこれどこから降ってきてるんだ?
リシアとローザから身を離して土間の扉から外を確認すると、粒子は空から降りてくるだけでなく、風に煽られるようにゆらゆらと辺りに漂っていた。
……言い方が悪いが、掃除のされていない部屋で暴れて舞い上がったホコリの様だ。
ホコリよりはほんの少し粒子が大きいか。
だがホコリと思うと呼吸するのも嫌になる。
実際息を吸っても口に入ってくるようなことは無いのが救いだけど。
次に〈マナ操作〉を習得してみる。
どうやって操るんだろ?
いつもの魔法の操作と同じ要領で意識を集中すると、小さな光の粒子がイメージ通りの動きを見せた。
このスキルがあるって事は、何かしらの意味があるから存在するのであって、ただマナっぽい粒子を自在に操れるだけのスキルだとは思えない。
部屋に満ちたマナを掲げた手に集約するイメージで強く集中すると、部屋中の粒子が手の平にゆっくりと集まり、20秒程かけて照明魔法の〈ライト〉と同じこぶしサイズの球体となる。
集まるのおっそ。
「トシオ様、それは?」
「あぁ、マナロードのスキルを実験中。ってこの光ってるのは見えてる?」
「はい、ちゃんと見えていますよ」
リシアがその球体を見詰めながら問うたので簡単に説明すると、モリーさん親子を含めた皆が注目する。
どうやら集約したマナならマナ感知の無い人でも見えるようだ。
ちなみにククやトト、メリティエはお昼寝中。
ポンチョを脱いだ状態で眠るケットシーのルーナがククの背中で眠っており、あまりにも保護色すぎて横から見ても分かり辛い。
頭が少し大きいところ以外、完全に普通の猫と化してるな。
「マナロードのスキル〈マナ感知〉で大気のマナを見たり肌で感じる事ができてる。で、これは〈マナ操作〉のスキルで集めたもの」
「それで何が出来るのでしゅか?」
「さぁ? まだわからないのでこれからスキルの〈マナ変換〉と〈クリエイトマジック〉を試してみる」
フィローラにそう答えながら、スキルポイントをその二つに振り込む。
「マナロードとはそれほどのスキルが揃うておるのかえ。……我の長年の苦労が小馬鹿にされた様で、なかなかに不愉快な気分じゃ」
イルミナさんが自身の感じた理不尽さに愚痴を零す。
その言い方だと、既にマナ感知や操作は習得してるのか。
流石元マジックショップ経営者にして魔道具制作者だ。
「まぁマナロードにならなくても使えてるんですから、それはそれで良いじゃないですか。むしろマナロードでもないのにそんなこと出来るイルミナさんは十分すごいですよ」
「そうなのじゃ、我は凄いのじゃ。存分に崇め持てはやし愛でるがよい」
巨大すぎる超乳を張って威張るイルミナさんが可愛かったので、魔乳を避けて横から頬にキスしておく。
正面から行くと、その胸威の弾力に理性が保てない自信があるので。
キスをされたイルミナさんが感極まりそのまま抱き着ついてきた。
これはローザのお腹、これはローザのお腹、クリアマインドこれはローザのお腹ー!
絶世の美女の抱擁と横乳の圧力に、冷静化のスキルを発動させて強引に持ちこたえる。
精神操作系スキルを持ち出さないと抗えない胸、魔乳は伊達じゃない。
お楽しみは今晩までお預けにするとして、今は魔法だ。
なにができるかな~っと。
マナ変換はマナ操作の派生なので、この集めたマナで何かが出来るのであろう。
だがこの部屋で魔法をぶっぱするのも問題なので、玄関から靴を持ってくると、ワープゲートを迷宮四十五階層のボス部屋に繋げて外に出る。
「それじゃちょっと試してみるね」
この球体でどれ程の魔法が使えるのやら。
試しにアイシクルスピアを発動させてみると、氷の槍が10本出現した。
Lv5相当の本数か。
上級魔法がマルっと一発分撃てるのは便利ではあるが、〝集める→放つ〟では動作が2つ必要なため、戦闘で使うにはあまり宜しくない。
そもそも、集めるのに時間がかかり過ぎな上に、この程度の量なら自然回復ですぐに撃てるので、咄嗟の時では使い辛く、緊急時以外で使うことは無いだろう。
緊急時にこれを用いている時点で、かなり駄目な気がしないでもないが。
「さっきの量のマナ程度ならアイシクルスピアが精々かな」
「もっと多くのマナを集める事は出来ないものですか?」
「やってみる」
ユニスの提案に頷き返す。
今度はもっと素早く集まるイメージで集中してみると、大きさは変わらないが明らかに存在感の増した球体が練りあがる。
大体先程の7倍程か。
何故そんな事がわかるのかと言うと、これもマナ感知が原因だろう。
それと、周囲の光が一瞬弱くなったのを感じ取る。
迷宮の光もマナを帯びている。
マナそのものが光って光源となっていた様だ。
もしかすると、魔物が死亡した時に出る粒子もマナかもしれないな。
地上のマナと同じ色だし。
まぁ後で試せば分かる事なので、それは少し置いておこう。
今はこれで何ができるかということだ。
まぁ試すとするなら、次は――
「〈クリエイトマジック〉」
唱えた瞬間、眼前にステータスウィンドウに似たものが浮かび上がると、脳内に音声が流れた。
『クリエイトマジックは新たな魔法を作成するスキル! 君のイメージと共にMPを消費することで完成ずるぞ! さぁ。君だけのオリジナル魔法を創ろう!』
頭に陽気な男が謳い文句を響かせたことに、若干もにゅっとしたイラ苛立ちめいたものを感じる。
おもちゃのキャッチフレーズかよ!
てか今まで無機質な文字だけのポップだったのに、なんでここに来てそんな訳の分からん変更をしてやがる。
苛立ちを無理矢理にでも心の片隅に追いやり、ウィンドウに集中する。
ウィンドウに現れた項目は、〈属性〉〈消費MP〉〈形状〉〈性質〉の4つ。
属性は火や水などの属性を設定し、消費MPは設定した消費MP分が魔力に倍率としてかかる様になっている。
つまり、瞬間的に重ね掛けして10倍までしか撃てなかった魔法でも、一瞬でMP全消費するような凶悪な攻撃魔法が撃てるようになるということだ。
必殺の指向性散弾魔法である〈クラウ・ソラス〉を、シャイニングランスの多重展開からの集約し圧縮し散弾化するプロセスが省けるのはありがたい。
何気に無属性とマジックキャスター系では初となる風属性が追加されているのも地味だが強みである。
これで属性に縛られない攻撃魔法が使えるのは胸熱だ。
それから〈形状〉だが、魔法なんてイメージ次第で形状が変えられるので、元々これが自然にできてる人間には結構どうでもいい設定だ。
イメージが面倒な人向けだな。
最後に性質では〈攻撃〉〈状態異常〉などがあり、これは魔法にダメージ判定を持たせたり、属性毎の攻撃に状態異常を追加することが可能となる。
火属性でも、ナパームフレアの様に可燃性魔力として着火するか、普通に炎を相手に叩き付けるかが選べ、光属性では光量の調整、闇属性ではMP消失が設定可能。
魔法の弾速もここで調整できる。
でもこれ、付属効果を付けた分、純粋な火力が落ちるみたいだなぁ。
あれもこれもとやってると、MPの消費量に比べてダメージが低いなんて魔法も出来上がる訳か。
逆に言うと、〝魔法ダメージは皆無だが、継続ダメージが延々と残るなんて呪いみたいな魔法〟も可能っと……。
悪用が捗るな。
「トシオ様」
「うん、わかってる」
悪い笑みが顔に出ていたのをリシアに窘められ、すぐに手で口元を隠す。
同じことをまた注意されるとか、これはいよいよもって治らないな。
自分の悪癖に口元を押さえたまま眉を寄せていると、リシアが不安げな表情で横顔を覗き込んできた。
「出過ぎた真似でした?」
「そんなことないよ。俺のことを想って注意してくれてるリシアには、感謝こそすれ疎ましいと思ったことすらない」
むしろそう思わせてしまった自分の仕草こそが疎ましい。
「不安にさせてごめんね。いつも見ててくれてありがとね」
リシアの髪を撫で、微笑みかけながら謝罪の言葉を口にする。
ミルクティー色の柔らかな髪を撫で続けると、シリアの表情から不安の色が消え、綻んできた。
尻尾がスカートを押しのけピンと上がると、背後でゆっくりくねくねと動かし始めた。
恥じらいながらも、嬉しそうに撫でられ続けるリシアが可愛すぎる。
スカートから見える紐パンが、普段しっかりしている彼女からは想像もできない程ぬけているのでそれも可愛い。
愛らしい仕草をするリシアをこのままずっと撫でていたいが、約束の時間もあるため血涙を流さんばかりの心境で中断する。
そして、凍結榴弾魔法〈フレズヴェルク〉をイメージしながら、先程集めたMPをこのウィンドウに入れ、新魔法のMP設定する。
『最後にジョブポイントを消費すれば、君だけの魔法が完成さ! おっと、忘れる所だった、登録した魔法を消去すれば、ジョブポイントは戻って来るぞっ』
〈ジョブポイントを消費しますか?〉
>YES NO
ジョブポイント要るんかい!
ま、まぁ消せば戻って来るとか言ってるし、1ポイントくらい消費しておくか。
しぶしぶながらYESを選択し、ジョブポイントと共に魔法の登録を完了した。
早速登録した魔法を発動させると、目の前に純白の大鷲が姿を現す。
大体ダイヤモンドダスト4発分程の白き大鷲だ。
密度が初召喚時と比べて全然薄く、その身体から発する冷気には威圧感めいたものが感じられない。
まぁそれでもダイヤモンドダスト4発分だ、バカには出来る火力ではない。
20秒程でこれだけのマナが集まるなら、雑魚敵相手なら実用性は十分か。
マナ操作の制御力でもっと早く集められたら良いんだけど……あと、このフレズヴェルクどうしよう?
霧散させようと思ったが、マナ変換で逆の事も出来ないのかとフレズヴェルクをマナに変わるよう念じてみたが、流石にそれは無理だった。
魔法を属性変化させてしまえば、それはもう純粋なマナでは無くなるし仕方がない。
もしこれが思ったように出来ていたら、敵の魔法もマナに変えられるって事だ。
流石にそんな都合の良いことはやらせてくれないか。
あ、でもこれならいけるか?
スキルの〈マナ消失〉にポイントを振り込みフレズヴェルクに向けて発動してみると、半径15メートル程の周囲のマナの輝きと共にその身体がまるごと消えた。
おー、出来た出来たーって、こーれーはー…。
あることに気付いた瞬間、背筋がゾっとするほどの悪寒に襲われた。
マナ消失、これはまずい。
スキル発動中のためか、一定の範囲から俺の周囲で迷宮が輝きを失ったままだ。
心の中でスキルをオフにすると、消失したマナが床や壁から湧き上がり、周囲をマナの輝きが甦る。
ON/OFFは有効。
なら戦闘中はずっとOFFにする事も可能か。
ならこのスキルによって攻撃魔法が全て消されるのであれば、対勇者戦で魔法が意味を成さない可能性が出てきやがった。
なぜなら魔法系の勇者がマナロードにたどり着かないなんて事があるとは思えない。
よしのんですら出会ったときには最上級職一歩手前まで行っていた。
あのアキヤに至ってはその最上級職がカンスト間近だった。
ヤツのレベルからして、迷宮をクリアした事は無いはずだ。
それであのレベルなら勇者が普通に召喚された場合、最初のジョブ二つは魔水晶で即レベルカンストも考えられる。
なら当然マナロードに辿り着く勇者が居てもおかしくは無い。
まずい……、まずい……、まずい、まずい、まずい、まずい、まずいまずいまずいまずい。
マナ消失で対象の周囲の魔法を全て消されれば紫電一閃すら効かなくなる。
マナ消失を保有している勇者からすれば〈魔滅の守護環〉なんて子供の玩具どころかガラクタでしかない。
そうなると魔法オンリーの勇者なんて赤子に等しい。
渾身の魔法を打ち込んでもこちらの攻撃は消失し、物理スキル攻撃によるカウンターで屠殺される未来しか見えない。
ようやく手に入れた戦闘スタイルが失われるとか、ここに来てとんだ落とし穴があったものだ。
「どうしたのじゃお前様、急に考え込みおって」
「あー、緊急事態です。いや、まだ事件は起きてないので緊急ではありませんがやばいです。マジヤバです」
レベルを上げて物理で殴る脳筋な世界の始まりに愕然となりながら、俺はイルミナさんにそう告げる。
一体一日に何度気分を乱高下させれば気が済むんだ。
この世の不条理を恨みながらリビングに戻り、マナロードの〈マナ消失〉について皆に意見を求めることにした。
「やはり物理攻撃職に転向でしょうか?」
「ならばいつまでも革鎧という訳にはいくまい、アダマンタイトの装備を揃えるべきじゃな」
「エキドナに使ったワープゲートや物理スキルを駆使するのは如何でしょう?」
「念のため消えない魔法があるのかもしれません……。検証してみましょう……」
「マナ消失の性能や特性をもっと試してみても良いと思いまふよ」
ユニスが近接職への転向を口にすると、イルミナさんがそれにあわせた防具の必要性を示唆。
リシアが有効な手段を提示すると、セシルが魔法の可能性を提案し、フィローラがスキルの性能実験を具申した。
いきなりこれだけの案を出してくれるのだから、相談する相手がいるってだけでありがたい。
皆に心の中で感謝していると、モリーさんが渋い顔をして口を挟んできた。
「近接職は良いんだけど、今は手元にライトウエイト付与に必要な触媒鉱物が無いんだよねぇ……」
「……ディオン達に頼んで冒険者ギルドに買いに行ってもらいましょうか?」
「ここのところそれらの消費が増えてるみたいで、その冒険者ギルドにも無かったんだよ」
モリーさんの追い討ちに眉をひそめて唸ってしまう。
「ライシーンの領主が兵を集めていることから、近々戦争が起きるのではという話ですし、武具の需要が高まっているのかもしれませんね」
ユニスが冒険者ギルドの張り紙などで見かけた者から推測を述べる。
魔法終了、品の不足、そして戦争。
一体どうしたモノか……。
とりあえずレンさん達にも報告を入れておこう。
「友人に定時連絡を入れる」
皆にそう言うと、俺はチャットルームを開いた。
一休みがてら、俺は早速〈マナロード〉のスキルを確認する。
〈マナ感知〉マナを知覚出来る。
〈マナ操作〉マナを自在に操る。
〈マナ吸収〉大気中のマナを吸収し、MPを回復させる。
〈マナ変換〉マナを魔法に変換する。
〈マナ消失〉自身の周囲にあるマナや魔法を消失させる。
〈ダブルキャスト〉魔法を二つまで同時に使える。
〈トリプルキャスト〉魔法を三つまで同時に使える。
〈クアドルプルキャスト〉魔法を四つまで同時に使える。
〈サイレントキャスト〉音声による魔法詠唱を必要としない。
〈マキシマイズマジック〉魔法攻撃力が上がる。
〈クリエイトマジック〉新たな魔法を創作する。
〈MP消費減少(特大)〉消費するMPを最大限少なくする。
ボーナススキルの劣化版みたいなのが幾つかあるな。
というか、ダブルキャスト系はマルチプルキャストの下位互換だ。
まずは〈マナ感知〉を習得すると、迷宮の光に似た黄緑色の輝きがきめ細かな粒子となって空間に満ち、床に落ちてそのまま沈み見えなくなる光景が目視で確認した。
世界はこんなにマナが溢れてたのか。
迷宮の色は青緑だけど、地上のマナの色は黄緑なのね。
でもこれどこから降ってきてるんだ?
リシアとローザから身を離して土間の扉から外を確認すると、粒子は空から降りてくるだけでなく、風に煽られるようにゆらゆらと辺りに漂っていた。
……言い方が悪いが、掃除のされていない部屋で暴れて舞い上がったホコリの様だ。
ホコリよりはほんの少し粒子が大きいか。
だがホコリと思うと呼吸するのも嫌になる。
実際息を吸っても口に入ってくるようなことは無いのが救いだけど。
次に〈マナ操作〉を習得してみる。
どうやって操るんだろ?
いつもの魔法の操作と同じ要領で意識を集中すると、小さな光の粒子がイメージ通りの動きを見せた。
このスキルがあるって事は、何かしらの意味があるから存在するのであって、ただマナっぽい粒子を自在に操れるだけのスキルだとは思えない。
部屋に満ちたマナを掲げた手に集約するイメージで強く集中すると、部屋中の粒子が手の平にゆっくりと集まり、20秒程かけて照明魔法の〈ライト〉と同じこぶしサイズの球体となる。
集まるのおっそ。
「トシオ様、それは?」
「あぁ、マナロードのスキルを実験中。ってこの光ってるのは見えてる?」
「はい、ちゃんと見えていますよ」
リシアがその球体を見詰めながら問うたので簡単に説明すると、モリーさん親子を含めた皆が注目する。
どうやら集約したマナならマナ感知の無い人でも見えるようだ。
ちなみにククやトト、メリティエはお昼寝中。
ポンチョを脱いだ状態で眠るケットシーのルーナがククの背中で眠っており、あまりにも保護色すぎて横から見ても分かり辛い。
頭が少し大きいところ以外、完全に普通の猫と化してるな。
「マナロードのスキル〈マナ感知〉で大気のマナを見たり肌で感じる事ができてる。で、これは〈マナ操作〉のスキルで集めたもの」
「それで何が出来るのでしゅか?」
「さぁ? まだわからないのでこれからスキルの〈マナ変換〉と〈クリエイトマジック〉を試してみる」
フィローラにそう答えながら、スキルポイントをその二つに振り込む。
「マナロードとはそれほどのスキルが揃うておるのかえ。……我の長年の苦労が小馬鹿にされた様で、なかなかに不愉快な気分じゃ」
イルミナさんが自身の感じた理不尽さに愚痴を零す。
その言い方だと、既にマナ感知や操作は習得してるのか。
流石元マジックショップ経営者にして魔道具制作者だ。
「まぁマナロードにならなくても使えてるんですから、それはそれで良いじゃないですか。むしろマナロードでもないのにそんなこと出来るイルミナさんは十分すごいですよ」
「そうなのじゃ、我は凄いのじゃ。存分に崇め持てはやし愛でるがよい」
巨大すぎる超乳を張って威張るイルミナさんが可愛かったので、魔乳を避けて横から頬にキスしておく。
正面から行くと、その胸威の弾力に理性が保てない自信があるので。
キスをされたイルミナさんが感極まりそのまま抱き着ついてきた。
これはローザのお腹、これはローザのお腹、クリアマインドこれはローザのお腹ー!
絶世の美女の抱擁と横乳の圧力に、冷静化のスキルを発動させて強引に持ちこたえる。
精神操作系スキルを持ち出さないと抗えない胸、魔乳は伊達じゃない。
お楽しみは今晩までお預けにするとして、今は魔法だ。
なにができるかな~っと。
マナ変換はマナ操作の派生なので、この集めたマナで何かが出来るのであろう。
だがこの部屋で魔法をぶっぱするのも問題なので、玄関から靴を持ってくると、ワープゲートを迷宮四十五階層のボス部屋に繋げて外に出る。
「それじゃちょっと試してみるね」
この球体でどれ程の魔法が使えるのやら。
試しにアイシクルスピアを発動させてみると、氷の槍が10本出現した。
Lv5相当の本数か。
上級魔法がマルっと一発分撃てるのは便利ではあるが、〝集める→放つ〟では動作が2つ必要なため、戦闘で使うにはあまり宜しくない。
そもそも、集めるのに時間がかかり過ぎな上に、この程度の量なら自然回復ですぐに撃てるので、咄嗟の時では使い辛く、緊急時以外で使うことは無いだろう。
緊急時にこれを用いている時点で、かなり駄目な気がしないでもないが。
「さっきの量のマナ程度ならアイシクルスピアが精々かな」
「もっと多くのマナを集める事は出来ないものですか?」
「やってみる」
ユニスの提案に頷き返す。
今度はもっと素早く集まるイメージで集中してみると、大きさは変わらないが明らかに存在感の増した球体が練りあがる。
大体先程の7倍程か。
何故そんな事がわかるのかと言うと、これもマナ感知が原因だろう。
それと、周囲の光が一瞬弱くなったのを感じ取る。
迷宮の光もマナを帯びている。
マナそのものが光って光源となっていた様だ。
もしかすると、魔物が死亡した時に出る粒子もマナかもしれないな。
地上のマナと同じ色だし。
まぁ後で試せば分かる事なので、それは少し置いておこう。
今はこれで何ができるかということだ。
まぁ試すとするなら、次は――
「〈クリエイトマジック〉」
唱えた瞬間、眼前にステータスウィンドウに似たものが浮かび上がると、脳内に音声が流れた。
『クリエイトマジックは新たな魔法を作成するスキル! 君のイメージと共にMPを消費することで完成ずるぞ! さぁ。君だけのオリジナル魔法を創ろう!』
頭に陽気な男が謳い文句を響かせたことに、若干もにゅっとしたイラ苛立ちめいたものを感じる。
おもちゃのキャッチフレーズかよ!
てか今まで無機質な文字だけのポップだったのに、なんでここに来てそんな訳の分からん変更をしてやがる。
苛立ちを無理矢理にでも心の片隅に追いやり、ウィンドウに集中する。
ウィンドウに現れた項目は、〈属性〉〈消費MP〉〈形状〉〈性質〉の4つ。
属性は火や水などの属性を設定し、消費MPは設定した消費MP分が魔力に倍率としてかかる様になっている。
つまり、瞬間的に重ね掛けして10倍までしか撃てなかった魔法でも、一瞬でMP全消費するような凶悪な攻撃魔法が撃てるようになるということだ。
必殺の指向性散弾魔法である〈クラウ・ソラス〉を、シャイニングランスの多重展開からの集約し圧縮し散弾化するプロセスが省けるのはありがたい。
何気に無属性とマジックキャスター系では初となる風属性が追加されているのも地味だが強みである。
これで属性に縛られない攻撃魔法が使えるのは胸熱だ。
それから〈形状〉だが、魔法なんてイメージ次第で形状が変えられるので、元々これが自然にできてる人間には結構どうでもいい設定だ。
イメージが面倒な人向けだな。
最後に性質では〈攻撃〉〈状態異常〉などがあり、これは魔法にダメージ判定を持たせたり、属性毎の攻撃に状態異常を追加することが可能となる。
火属性でも、ナパームフレアの様に可燃性魔力として着火するか、普通に炎を相手に叩き付けるかが選べ、光属性では光量の調整、闇属性ではMP消失が設定可能。
魔法の弾速もここで調整できる。
でもこれ、付属効果を付けた分、純粋な火力が落ちるみたいだなぁ。
あれもこれもとやってると、MPの消費量に比べてダメージが低いなんて魔法も出来上がる訳か。
逆に言うと、〝魔法ダメージは皆無だが、継続ダメージが延々と残るなんて呪いみたいな魔法〟も可能っと……。
悪用が捗るな。
「トシオ様」
「うん、わかってる」
悪い笑みが顔に出ていたのをリシアに窘められ、すぐに手で口元を隠す。
同じことをまた注意されるとか、これはいよいよもって治らないな。
自分の悪癖に口元を押さえたまま眉を寄せていると、リシアが不安げな表情で横顔を覗き込んできた。
「出過ぎた真似でした?」
「そんなことないよ。俺のことを想って注意してくれてるリシアには、感謝こそすれ疎ましいと思ったことすらない」
むしろそう思わせてしまった自分の仕草こそが疎ましい。
「不安にさせてごめんね。いつも見ててくれてありがとね」
リシアの髪を撫で、微笑みかけながら謝罪の言葉を口にする。
ミルクティー色の柔らかな髪を撫で続けると、シリアの表情から不安の色が消え、綻んできた。
尻尾がスカートを押しのけピンと上がると、背後でゆっくりくねくねと動かし始めた。
恥じらいながらも、嬉しそうに撫でられ続けるリシアが可愛すぎる。
スカートから見える紐パンが、普段しっかりしている彼女からは想像もできない程ぬけているのでそれも可愛い。
愛らしい仕草をするリシアをこのままずっと撫でていたいが、約束の時間もあるため血涙を流さんばかりの心境で中断する。
そして、凍結榴弾魔法〈フレズヴェルク〉をイメージしながら、先程集めたMPをこのウィンドウに入れ、新魔法のMP設定する。
『最後にジョブポイントを消費すれば、君だけの魔法が完成さ! おっと、忘れる所だった、登録した魔法を消去すれば、ジョブポイントは戻って来るぞっ』
〈ジョブポイントを消費しますか?〉
>YES NO
ジョブポイント要るんかい!
ま、まぁ消せば戻って来るとか言ってるし、1ポイントくらい消費しておくか。
しぶしぶながらYESを選択し、ジョブポイントと共に魔法の登録を完了した。
早速登録した魔法を発動させると、目の前に純白の大鷲が姿を現す。
大体ダイヤモンドダスト4発分程の白き大鷲だ。
密度が初召喚時と比べて全然薄く、その身体から発する冷気には威圧感めいたものが感じられない。
まぁそれでもダイヤモンドダスト4発分だ、バカには出来る火力ではない。
20秒程でこれだけのマナが集まるなら、雑魚敵相手なら実用性は十分か。
マナ操作の制御力でもっと早く集められたら良いんだけど……あと、このフレズヴェルクどうしよう?
霧散させようと思ったが、マナ変換で逆の事も出来ないのかとフレズヴェルクをマナに変わるよう念じてみたが、流石にそれは無理だった。
魔法を属性変化させてしまえば、それはもう純粋なマナでは無くなるし仕方がない。
もしこれが思ったように出来ていたら、敵の魔法もマナに変えられるって事だ。
流石にそんな都合の良いことはやらせてくれないか。
あ、でもこれならいけるか?
スキルの〈マナ消失〉にポイントを振り込みフレズヴェルクに向けて発動してみると、半径15メートル程の周囲のマナの輝きと共にその身体がまるごと消えた。
おー、出来た出来たーって、こーれーはー…。
あることに気付いた瞬間、背筋がゾっとするほどの悪寒に襲われた。
マナ消失、これはまずい。
スキル発動中のためか、一定の範囲から俺の周囲で迷宮が輝きを失ったままだ。
心の中でスキルをオフにすると、消失したマナが床や壁から湧き上がり、周囲をマナの輝きが甦る。
ON/OFFは有効。
なら戦闘中はずっとOFFにする事も可能か。
ならこのスキルによって攻撃魔法が全て消されるのであれば、対勇者戦で魔法が意味を成さない可能性が出てきやがった。
なぜなら魔法系の勇者がマナロードにたどり着かないなんて事があるとは思えない。
よしのんですら出会ったときには最上級職一歩手前まで行っていた。
あのアキヤに至ってはその最上級職がカンスト間近だった。
ヤツのレベルからして、迷宮をクリアした事は無いはずだ。
それであのレベルなら勇者が普通に召喚された場合、最初のジョブ二つは魔水晶で即レベルカンストも考えられる。
なら当然マナロードに辿り着く勇者が居てもおかしくは無い。
まずい……、まずい……、まずい、まずい、まずい、まずい、まずいまずいまずいまずい。
マナ消失で対象の周囲の魔法を全て消されれば紫電一閃すら効かなくなる。
マナ消失を保有している勇者からすれば〈魔滅の守護環〉なんて子供の玩具どころかガラクタでしかない。
そうなると魔法オンリーの勇者なんて赤子に等しい。
渾身の魔法を打ち込んでもこちらの攻撃は消失し、物理スキル攻撃によるカウンターで屠殺される未来しか見えない。
ようやく手に入れた戦闘スタイルが失われるとか、ここに来てとんだ落とし穴があったものだ。
「どうしたのじゃお前様、急に考え込みおって」
「あー、緊急事態です。いや、まだ事件は起きてないので緊急ではありませんがやばいです。マジヤバです」
レベルを上げて物理で殴る脳筋な世界の始まりに愕然となりながら、俺はイルミナさんにそう告げる。
一体一日に何度気分を乱高下させれば気が済むんだ。
この世の不条理を恨みながらリビングに戻り、マナロードの〈マナ消失〉について皆に意見を求めることにした。
「やはり物理攻撃職に転向でしょうか?」
「ならばいつまでも革鎧という訳にはいくまい、アダマンタイトの装備を揃えるべきじゃな」
「エキドナに使ったワープゲートや物理スキルを駆使するのは如何でしょう?」
「念のため消えない魔法があるのかもしれません……。検証してみましょう……」
「マナ消失の性能や特性をもっと試してみても良いと思いまふよ」
ユニスが近接職への転向を口にすると、イルミナさんがそれにあわせた防具の必要性を示唆。
リシアが有効な手段を提示すると、セシルが魔法の可能性を提案し、フィローラがスキルの性能実験を具申した。
いきなりこれだけの案を出してくれるのだから、相談する相手がいるってだけでありがたい。
皆に心の中で感謝していると、モリーさんが渋い顔をして口を挟んできた。
「近接職は良いんだけど、今は手元にライトウエイト付与に必要な触媒鉱物が無いんだよねぇ……」
「……ディオン達に頼んで冒険者ギルドに買いに行ってもらいましょうか?」
「ここのところそれらの消費が増えてるみたいで、その冒険者ギルドにも無かったんだよ」
モリーさんの追い討ちに眉をひそめて唸ってしまう。
「ライシーンの領主が兵を集めていることから、近々戦争が起きるのではという話ですし、武具の需要が高まっているのかもしれませんね」
ユニスが冒険者ギルドの張り紙などで見かけた者から推測を述べる。
魔法終了、品の不足、そして戦争。
一体どうしたモノか……。
とりあえずレンさん達にも報告を入れておこう。
「友人に定時連絡を入れる」
皆にそう言うと、俺はチャットルームを開いた。
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