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122話 招かれざる客

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「ご主人様、窓の外に誰か居ます……」

 ククのその一言に、先程までの和気あいあいとした気持ちが吹き飛んだ。

 え、なにそれこわっ!?
 泥棒!? 泥棒!?

 寝室の窓の外と言えば、家とモリーさんのお店との間である。
 泥棒の線は極めて濃厚だが、覗き魔の可能性も否定できない。
 だがサーチエネミーに反応は無く、こちらに危害を加えるという類のものではなさそうだった。

 ククの勘違いであってほしいが、ダンジョンではどんな些細な音でも聞き逃さなかった彼女が居ると言ったのだ、間違いなく居るに決まっている。
 気分は家にゴキが出た時のそれに近いが、実害が発生しかねないだけに、逃すなんてありえない。

 俺は窓の外と家の裏の間取りを思い出すと、適当に当たりをつけて大量の拘束魔法を発動させた。
 
「っ!?」

 壁超しに侵入者の動く気配。
 バインドの状況を知るためマナ感知で探りを入れると、魔法の鎖に拘束されているらしき人の様な物体を検知する。

 マナ感知でも人の体内に流れるマナや周囲のマナの差で索敵できるのか。
 これは便利だ

 このまま窓に向かい覗き込もうとすると、ユニスが俺の肩を掴んで止めた。

「顔を出した瞬間攻撃される恐れがあります」
「了解。ありがとね」

 彼女の忠告に従い不意打ちを食らわないよう考える。

 不意打ちされても問題ないほどの防御魔法を展開していればいいだろう。
 だが窓から覗くと攻撃された際、窓が割られかねない。
 寝室はともかく、裏口なら扉が壊れても生活には支障が無いので、そっちから行こう。

 ズボンを履いてワープゲートで裏口に行くと、土属性片手剣を取り出しながらサンダルを履き、裏口のドアノブに手をかける。

 鬼が出るか蛇が出るか。
 こういうのってやはり緊張するな。

 ゆっくりと扉を開き、防御魔法を展開させてからそっと顔を覗かせると、絡まる魔法の拘束からもがく細身の男が一人。
 服装はごく普通の町の人と言った出で立ちに口元と頭部を布で覆っていた。
 警戒しながら近付き、その布を剥がす。


 オズウェル
 人 男 27歳
 ファントムシーフLv45


 顔にも見覚えが無い。

「こんなところで何をしてるのかな?」
「………」

 声をかけるも返事は無い。
 死んではいないので黙秘を決め込む様子。

「丁度良い、全身血を噴出して死ぬ毒を入手したところだ。お前で実験しようか?」

 そんな持ってもいない劇物で脅してみたが、身動ぎ一つしやがらない。

 それだけでわかる。
 こいつはプロだ。
 暗殺諜報その類のプロだろう。
 ジョブからして諜報の方だろうが。

 こそ泥なら見逃してくれと懇願するし、ならず者なら悪態を突くと思う。
 それにバインドで拘束された時に悲鳴一つ上げなかった。
 そんな奴がこそ泥やその辺のならず者な訳が無い。

 じゃぁ決まりだな。

 心当たりが一つしかないので推測はとても容易だ。
 
「こんな夜更けにウィッシュタニア魔法王国の関係者が、一般人のお宅に何の用かな?」

 男にそう告げるも、肩どころか眉一つ動かさない。

 すごいな、プロフェッショナルって本当に居るんだ。
 こうも具体的に名を告げられてもだんまりとかなんなんだ。
 間抜けなら今ので顔に出るんだが……。
 あ、もしかして俺の予想が大外れしてる可能性もあるか。
 だからの余裕なのかもしれない。
 だがそう思わせるのがこいつの狙いなのかもしれない。

 答えも確証も無い状況では、下手に考えてもこちらが混乱する。

 ……よし、考えるのを一旦止めよう。

 思考を切り替え、バインドを操作し納屋へと連れ込むと、魔法の明かりで納屋の中を照らす。
 
「それで、とっ捕まったことはもう仲間に報告済みだと思うけど、その仲間はいつ助けに来るのかな?」

 声をかけ続けながら顔色を伺うも、逆に男もこちらを観察している。

 どうしたものか……。

 サーチエネミーは対勇者戦でもちゃんと機能しているので、人間相手でも効果は発揮する。

 それが反応しないということは、こちらに危害を加えるつもりは無いという事なのだが、明らかに敵だが敵意をださないってのはどうやるんだ?
 例えばこいつが依頼主の目的も知らず、俺の調査だけを命じられていれば、敵意を出さずに済むかもしれない。
 だがとっつかまった状態で敵意を持たないってことがありえるのだろうか?
 あり得るからこの状況なのだろうが……拷問にかければ白状するかもか。

 やはり答えにたどり着けない思考に陥ったので、今度は拷問方法はどうするかに考えをシフトさせる。

 エグイ拷問なら二つほど大福さんに聞いたことがある。
 足に五寸釘を打ち込み火のついた蝋燭を立てるとか、足の裏にバターだか塩だかを塗って数頭の山羊に舐めさせるなんてものがある。
 前者は明らかに拷問だが、後者を聞いたときは〝なにそれ、くすぐって笑わせる系の拷問?〟なんて笑ったものだが、実はそうではなかった。
 羊はバターが無くなってもずっと足を舐め続け、次第に足がふやけ皮がめくれ、皮の無くなった肉を舐め続けられるという恐ろしいものだった。

 理解したときのあの寒気は今でも忘れられないぞっ!
 とりあえずもう少し脅してみよう。

「足に金属の杭を打ち込み火のついた蝋燭を立てられるのと、槍で指から切り刻まれるのどっちが良い?」
「……」

 やはり口を開かずだんまりである。
 うーん、どうしたものかなぁ。
 ここは本気で実行してやるべきか。
 ……一旦保留しよう。

 PTチャットでリシア達に布袋とロープを持ってこさせると、手足を縛り布袋を男に被せてワープゲートを開く。
 そして四十七階層のボス部屋に放り込んだ。
 部屋には着物を着た太ましい二足歩行の猫仙ビョウセンが居り、すぐさま寄って来た。
 他にもカシャが五十匹ほど。

 我が世の春が来た!
 夏だけど。

「悪いが少しだけそいつを預かってくれ。決してそいつを殺さず傷つけるな。だがもしこの部屋から逃げたり暴れたりしたら餌にして良いから。あ、ワザと部屋から出るように仕向けるのも無しだからね」

 最後の台詞で猫仙が舌打ちする。
 デブ猫好きだけど、こいつのこういう所が早々に見え透いたため家に連れて帰らなかったのだ。 
 
「代わりにこれでも食ってろ」

 以前ミネルバの餌として買っておいた謎の魔物の肉を全部出して与えておく。
 ビョウセン共々カシャ達が肉に群がり食らいはじめる。

「聞いた通りだ。もし暴れたり逃げ出しても命は保障しないからそのつもりで」

 周囲に肉を貪る謎の咀嚼音が響く中でそう告げると、ボス部屋の扉にロックを掛け、男を置き去りにして自宅へ戻った。

 厄介な事になりやがった……。
 まさかこんなにも早く自宅を嗅ぎ付けられるとは思ってもみなかった。

 この出来事が本日何度目かの気持ちの乱高下の中で最低の下落となり、ストップ安を更新した。

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