四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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129話 駆け付け救護

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 チャットを終えた俺は他に何をすべきかを思案していると、不意にあることを思い出す。

 そういえば、クラウディア王女御一行は大丈夫なのだろうか?
 PTチャットの要領で個別にチャットを飛ばせないものか。
 出来るとしたら使役奴隷の所からかな?

 ステータスウインドウから使役奴隷の欄を開き、クラウディアの名前に意識を集中して語りかけてみる。

『ハローハロー、クラウディアさん居る?』
『ハい!? ど、どなた様でしょうか……?』
『おお、繋がった』

 突然の問いかけに驚きを隠せないクラウディア王女が、警戒しながらも返事を返してきた。

 主従間で遠距離会話が出来るとは便利な世界だな。
 奴隷側からすればプライバシーもへったくれも無いため、迷惑なことこの上ないだろうけど。

『俊夫です。今よろしいですか?』
『トシオ様!? どちらに居られますでしょうか?!』

 なにやら緊迫した雰囲気が声から感じ取れる。
 何か不味いことでも起きている様だ。
 
『こちらは四十六階層ですけど、何かありました?』
『四十六階層……、あぁ、どうやらこれまでの様ですね……。トシオ様、もし良ろしければ父と母、それと妹に〝クラウディアは最後まで三人を愛していました〟とお伝えください』

 俺の現在位置を聞いて絶望でもしたのか、この世の終わりと言わんばかりに若干芝居かかった口調で遺言を託してきた。

 何か知らんが、勝手に遺言を託されても困る。

『殿方に恋することもなく、清らかな身体のまま神の身元へと旅立ちますわ……』

 まるで悲劇のヒロインの如きセリフを垂れ流す王女様。

 あ、中古じゃなかったんだ。
 てっきり貫通済みなものとばかり思ってましたごめんなさい。
 貫通済みとはまぁ説明する必要はないだろう。

 だが俺の質問に答えてくれない彼女に、少しばかりのイラだちを覚える。

 俺ってこんなに短気だっただろうか?
 いや待て落ち着け、相手は年頃の女の子だ、こんなことでイラついては大人気無い。
 とりあえずもう一度聞いてみよう。

『何かあったのかと聞いているのですが?』
『いえ、もうよろしいのです。最後に貴方と話せて良かったですわ。よよよ……』

 よよよって、時代劇かよ。

 先程からの芝居がかった口調に、よしのんに引き続いてこの子にも敬語を使うのが面倒になってきた。

『困ってるなら迎えに行くけど? 俺の知ってる所ならワープゲートで直ぐに迎えに行くんで』
『ワープゲートのスキルも有りますの!?』
『うんまぁね』

 そら流れ人にも勇者と同じボーナススキルがあるんだからそれくらいはあるだろ。

『四十階層のボスの間に居ます! どうか至急いらしてください!』

 悲壮感漂う言葉で場所を指定される。

 四十階層……たしかサンドワームの居たフロアだったか?
 あ、もしかしたら復活してるかも!?

 サンドワーム殲滅戦を思い出し、背筋に悪寒が走る。

 あれを近接職主体の部隊で防ぐのは至難の業だ。
 急いで向わないと!

「緊急事態だ、2人共こっちに来てくれ!」
「なにかあったー?」
「あの糞勇者の連れだった奴らが四十階層で足止めを食らっているみたい。これから助けに行く」
「あんな奴ら、放っておけば良いではないか」

 メリティエがいつもの感情の起伏が乏しい口調で辛辣な言葉を吐く。
 自分の母であるイルミナさんを見世物にして殺しかけた連中なだけに、その気持ちは分からなくも無いが、流石に救助しない訳にもいかない。

「色々と思うところはあるけど、ここは素直に従ってくれ」
「……仕方がない、プリンで手を打とう」

 安っ!?

「わ、わかったよ」

 可愛い要求が飛んできたので素直に飲む。

「あてはー?」
「オーケーオーケー、皆の分も買って来る」
「おー、またプリンが食べれるー!」
「やったな」

 キラキラ顔のトトとニヤリと笑うメリティエが、口の端によだれを見せる。

 だからどんだけプリン好きなんだよ。

「救助が終わってからだからね」

 念を押しながら四十階層のボス部屋へワープゲートを開く。
 ゲートの先では、大の男達が四十階層側の扉を押さえ、凄まじい音を響かせる扉の向こうの何かによる侵入を防いでいた。
 それ以外の男達はぐったりとした様子で、ある者は意識を失って倒れている。
 アキヤの元女達も、顔に恐怖を張り付け打ち震えていた。

「どうしてこうなった……」
「あぁトシオ様、良くぞ来て下さいました!」

 クラウディアは俺の姿を確認し、安堵からその場でへたり込む。
 彼女を支えるように、黒髪の地味な美少女メイドさんが寄り添い後ろから王女の両肩を掴む。
 一瞬そのメイドに目を奪われるも、今は無視して扉に目を向け直す。
 迷宮の大きな扉からは、物体がうごめき擦れ、扉を軋ませる音が聞こえてくる。
 こんな状況で1~2日も居たのかと思うと、男達の疲弊っぷりも納得である。
 
「説明よりも先に向こうだな」

 彼女に近付きその金色の頭を手の平でぽんぽんと優しくたたいてそう告げる。

 扉を塞ぐ男達を退けずに扉に蓋をしなきゃか。

 幸い扉はこちら側からだと外に押さないと開かないので、今のところは大丈夫そうではあるが、抑えていないとサンドワームの圧力でドアが破られかねない。
 洞窟の扉って壊れる物なのか少し興味があるが、この状況で試すのは危険この上ない。
 よく見ると両端の蝶番が歪んでいる。

 案外決壊寸前だったのかもしれないな。
 ここは……小型のマジックシールドを無数に生み出して扉を押さえつけ――

 バガァァァァン!!

「「「うあああああっ!?」」」

 打開策を講じる前に扉の蝶番が外れ、扉と共に男達が盛大に吹き飛んだ。
 入り口からなだれ込んだサンドワームが近くに居た兵士を頭から丸のみにし、円形の口が閉じると血しぶきが飛んだ。

 今のシーン、パニックホラーとかで見たことあるわぁ……。

 更になだれ込む後続のサンドワームが男たちに襲い掛かるのをフィールドプロテクションで防ぎ、マジックシールドによる半透明の盾で入り口までサンドワームを押し戻す。
 取りこぼしが数匹居るが、俺の横を飛び出して行ったトトとメリティエが物理攻撃で仕留める。 
 戦闘になると途端に獰猛さを発揮する我が家の狂犬達。
 サイズ的には猛犬と称したいオルトロスのペスルは、その戦闘を俺の後ろからビクビクしながら覗き込んでいた。

 ビビリな大型犬ってのも動物番組で見たことあるわぁ……。
 まぁまだ生まれて二日目だししょうがないか。
 ミネルバは生まれたその日でドラゴンフライやデブワニと殺り合ってたけど。

 そうこうしている間にも、ボス部屋のサンドワームが二人によって処理される。

 マジックシールドを扉に見立てて張り付け、フィールドプロテクションの反発作用で固定っと。

「もう大丈夫だぞ」
「た、助かった……」

 男達が魔法で塞がれた入り口を見つつ、戦々恐々の面持ちでその場から離れてこちらに来る。
 その中にはフルブライトのおっちゃんとアウグストの糞ジジイも発見する。

 ちっ、ジジイ生きてやがったか。

「貴様、何処から沸いて出おった!?」
「何処からもなにも、ワープゲートが見えないのかよ」

 疲労困憊といった面持ちのじじいが詰め寄って来たので、親指でワープゲートを指し示す。
 次に自宅の納屋へと繋げ直す。

「こ、これはワープゲートのスキルではないか!? どうして貴様がこれを!? 流れ人とは誠だったのか!?」
「誠だろうが何だろうがどうでも良いからほ早く入れ。置いていくぞー」

 ジジイを再び無視して他の皆に声をかけると、気丈にも立ち上がった王女が、率先して疲労した者を起こして回り、自力で立ち上がれない者に手を差し伸べ肩を貸かす。

 なかなか人の出来た姫様である。

「俺達も手伝うぞ」
「「おー」」

 トトとメリティエも疲労者に駆け寄り片手に一人ずつ掴んでは乱暴に納屋の中に運ぶと、ペスルが受け取り納屋の奥に引きずっていく人間バケツリレーを展開した。
 納屋の奥に運ばれる騎士達は恐怖で顔を引き攣らせているが、抵抗する力が残っていないらしくなすがままだ。
 俺も皆を回収しやすいようにワープゲートを移動させながらPT欄から個別チャットでリシアに連絡を入れる。
 しばらくすると、ユニスとミネルバを除く我が家の奥さん'sが駆け付け、撤収作業に加わった。

「モリーさん、疲労しているだけの人達はそのまま表通りの宿にお連れしてください。クク、トト、貴方達もモリーさんを手伝って。怪我をしている方はすぐに治療します。しばらく我慢してください」

 リシアのテキパキとした指示の下、数十人は居るクラウディアの連れを片っ端から処理され、作業は急ピッチで終了した。

 リシアとセシルに治療を受ける男達の鼻の下の伸びっぷりに、男達の死を呪わずにはいられなかった。


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