四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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130話 魔族の出自

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 最後の一人を納屋に運び終え、試したかった事をやってみる。
 納屋からワープゲートを覗き込むように身を乗り出し、ボス部屋の入り口を塞いでいた魔法を消し去った。
 再びサンドワームが大量になだれ込んでくる。

 うひぃ、やっぱ怖っ!
 
 だが来るとこは分かっていたので、予め用意していた魔法を発動する。
 MP容量の半分を消費し、白き大鷲を模した凍結榴弾魔法フレズヴェルクをぶっ放す。
 翼を大きく広げた氷の死鳥が先頭のサンドワームに着弾すると、着弾地点を境に通路側を青白い氷の世界に染め上げた。
 飛び跳ねるように空中に身を投げ出していたサンドワームが重力に従い地面に落下。
 凍り付いた身体が砕けて赤い血肉の破片を撒き散らし、粒子散乱を開始した。
 着弾後の凍結域の方向も自在に指定できるのは非常に便利である。
 通路の方でもサンドワームが次々と粒子散乱していくのを確認できる。

 さぁ、ここからが本番だ。

〈マナ感知〉を起動したままその様子を見ていると、黄緑色の粒子が通常では目視不能なまでに薄れるも、大気に混ざることなく俺の身体に流れ込むのを視認した。
 それと同時に視界の左端では、いつもの様に俺達やレスティー達のレベルUPがポップする。
 家の納屋からレスティー達の宿まで100メートルも離れていないお陰であろうが、流石にモーディーンさん達とは距離が離れすぎているため無理なようだ。

 レベルUPって魔物がマナ化して身体に流れ込むことで、自分達の力に変換されるのか。
 じゃぁ〈マナ操作〉で集めたマナを〈マナ吸収〉で吸い込み続ければ、簡単にレベルUPが加速するんじゃね?
 ……ニヤソ。
 
 早速試しにやってみたところ、数秒もしない内にいきなり後頭部をはたかれた。

「変な笑みを浮かべたと思うたら、何をしでかすかこのたわけ! 迷宮のマナは魔素に汚染されておるのじゃ、そんなものを直接肉体に取り込めば魔族になってしまうわ!」

 衝撃に驚きながら振り返ると、イルミナさんがもの凄い剣幕で怒鳴り散らす。

 怒った顔もお美しい。

「あ、そうなんですか?」
「はぁぁぁぁ……。お主はほんに物を知らんのぅ。よぉく聴きやえ。迷宮に満ちた魔力はダンジョンコアに因って強引に集められ満たされた物じゃ。その魔力には生命にとっては毒物となる〈魔素〉が多分に含まれる故、MPの様に一時的に貯蔵をする分には影響を受けぬが、肉体の成長に関わる程の深部にまで取り込み続ければ、やがては魔族化じゃ」

 今明かされる衝撃の事実。
 魔物の能力を取り込んだ人間が魔族だとは知っていたが、そんな取り込み方をしていたとは……。
 さすがイルミナさん、元魔族領の住人なだけのことはあり、色々なことを存じてらっしゃる。
 命が惜しいので決して年の功などと言わないが。

「その毒素に因って数年後には精神まで汚染されおるでな、次第に理性が潰え本能や強い殺戮衝動に支配され、晴れて〈世界の敵〉の出来上がりじゃ。あとは周りの者を犯し殺し食らうだけの生物に成り果てるえ」
「こわっ!? 魔族ってそんななの!?」
「うむ。先天的な魔族ならば、魔素に耐性を有しておる故そうはならぬ。が、後天的な魔族化では皆そうなってしまいおる。魔物の力を内に宿す手っ取り早い方法として編み出されたのが〝マナを直接吸収する〟というものじゃったが、古代魔法人が衰退した原因の大半はマナ吸収による魔族化と魔族化した者による殺し合いじゃ」

 でも迷宮にあふれるマナは緑に青が混じった色に対し、地上のマナは黄緑なので、青色の部分が魔素ということなのか?
 なら魔素を取り除けばいけるのだろうか?
 実験してみたい気もするが、失敗したらウィッシュタニアだバラドリンドだという前に人生が詰むので出来はしない。

「あれ? それだと魔力を吸収し続けた魔族はレベルが上がりまくるんですよね? そうなると誰も手に負えなくなるんじゃ。しかもそんな化け物が徘徊してるとか危険では?」

 後天性魔族は迷宮に篭って魔力を大量に吸い続ければ無限に強くなれるが、他はモンスターを倒さないと強くなれないのだ。
 それだとレベル的な差が開く一方のはず。

「それがのう、殺戮衝動に駆られた魔族はその衝動がやがて自身に向かいおる。自滅するまでやり過ごせば、後はそれで何とかなる事が殆どじゃな。それに言うたであろう、〈世界の敵〉じゃと」
「あっそうか、殺戮衝動の向かう先は人間に限らないのか」
「うむ。殺戮衝動に支配された魔族の天敵は身近に居る同じ魔族じゃ。それと魔素に耐性のある先天性魔族である第二世代以降の者でさえ、過ぎた毒にはいずれ精神が蝕まれおる。前例があるだけに、先天性の者の方が魔素の吸収を恐れるであろうのう」
「つまり、例え魔族でも普通にレベル上げしなきゃなんですね」
「その魔族のレベル上げじゃがな、魔力を多く取り込んだ魔族は魔物と同義。しかも経験値が通常の魔物よりも豊富ときたものじゃ。先程のお主の様な事をして魔族化した狂人を魔力感知に優れた者が探り当て、手下を引き連れ駆逐するのが魔王を名乗る者の間では定番と化していると聞くえ」

 なにその武装地方自治組織。
 しかも話しぶりからして、魔王も勇者みたく複数居るんだ。

「まぁ魔族でもそれなりの実力者が居城を構え魔王を名乗りおるが、時折自身の領地や居城が欲しいというだけで、現存の魔王達に隠れて辺境で魔王を名乗る者も居たりと、実力はピンキリじゃ」

 名乗った者勝ちかよ魔王。
 じゃぁ俺も今日から魔王トシオで!
 ……クソ弱そうな上に恥ずか死ぬから今の無しでオナシャス。
 でも殺戮衝動の無い魔族って、肉体的には魔族でも精神的には普通の人間と変わらないのでは? だったら人族と魔族って争う意味無くね? なんで戦争してるの? いやまぁ戦争する理由はいくらでもあるか。
 あとダンジョンの魔物って、マネーロンダリングならぬマナロンダリング的な魔素除去フィルターの意味合いが強い気がするな。
 ダンジョンコアは古代魔法人が作り迷宮を生み出しているのだから、案外そのつもりで迷宮に設けたのかもしれない。
〝ダンジョンコアで魔力を抽出してパワーアップしようとしたら、利用者が魔族になってしまうでござる。魔素を取り除いてマナだけ獲得する方法として、魔物をフィルターにしたらいいんじゃね?〟ってところか。

 イルミナさんに時系列を聞いてみたところ、魔族の発生前には迷宮など無かったそうで、ダンジョンコアの本当の名称は〈魔力集積装置〉なのだとか。

 魔物の力を手に入れるために魔族になったり、魔素を取り込んで狂人生んだりと、何やってんだよ古代魔法人は。

「当時の魔物は今よりもはるかに強力であったらしいからのう。詮無きことじゃな」
「でも一歩間違えば世界が終わってるレベルじゃないですか。そら滅ぶわ古代魔法人」
「魔物と戦うために試行錯誤した結果じゃ。それと、彼奴らはまだ滅んではおらんえ」
「なんと」
「魔族化やその被害から逃れた古代魔法人は、魔族領の最深部で細々と余生をおくっておるようじゃ」
「それって今は隠居して、新人類である現在の人族や魔族に世界を明け渡した感じですか?」
「理由は分からぬが、結果的にはそうなるのぅ」

 イルミナさんが小首を傾げながら追加補足を入れる。
 そして此処からは人に聞かれると不味いかもしれないので、イルミナさんに顔を近付け、更に声を潜める。

「魔族と話し合いで平和的な道を模索するのは可能ですかね?」
「どうじゃろうな。あくまで魔素の影響を精神に受けなんだ者と言うだけで、根本的には普通の人間と差異は無い。強靭な肉体を持つ者は粗暴となり、強大な魔力を宿した者が高慢になるのは人にも言えた事じゃ。こればかりは当人に会ってみんとなんとも言えぬ。それにじゃ、人族にも殺人鬼と化した魔族への恐怖が根付いておる。魔族側を説得できようとも、人族側がどう出るかまでは我にも図りかねる」

 イルミナさんがそこまで言うと、お腹の辺りで腕を組み、小首を傾げながら思考に耽ってしまった。
 組まれた腕で魔乳が持ち上がり存在を主張したため、朝からいかがわしい気持ちにさせてくれる。
 節操が無いと思われるのも避けたいため、俺も腕を組んで思考に耽る。

 個人を説得できるかはその相手次第で、人族側にも理解が得られるよう働きかけが必要か。
 こうなると人種問題になってくるな。
 元居た世界でも根強い対立やいさかいの元である。
 肌の色や国や思想や宗教の違いだけで、殺し合いにまで発展するのはよくあることだ。
 ましてや魔族には人族以上の戦闘力があるのだから、元の世界以上に分かり合う事は難しいだろう。
 まぁ魔族となんて出会うことも無いだろうし、今は人間同士の問題が優先だ。
 てな訳で、一先ずは助けた序でにクラウディア王女とコネでも作っておくか。
 その先の事はまた周りの人達やレンさん達のアドバイスを参考にしよう。
 
 イルミナさんのオパーイをぼーっと見ながらそう結論付けると、目の前のイルミナさんが何やらモジモジとした仕草で不安げにこちらの様子を伺っていた。

「どうかしました?」
「さっきはすまなんだ。咄嗟のことで思わず手が出てしもうた……」

 俺を止めるためとはいえ、叩いたことを謝罪するイルミナさん。
 そのシュンとしょげた様子も愛らしいので、こっそりと彼女の頬にキスをする。

「また何かあった時はお願いしますね」
「怒ってはおらんのかえ?」
「全然。でも起こった顔のイルミナさんも、不覚にも綺麗だと思いました」
「こ、こんな年寄りを揶揄からかうでないわ!」

 絶世の美女が一瞬にして茹蛸のように赤く染まり、恥らいながら言葉を吐き捨てると、悶えながら母屋へ行ってしまった。

 愛されてるなぁ。

 でも、彼女に限らず多くの女性に愛されていると、冒険者から足を洗っても〝職業パントマイマー、主な収入源ヒモ〟で生きているのではと不意に浮かぶ。

 それなんてクズ?

 そんなの〝夢は武道館ライブとか語りながら、昼間からパチンコに入り浸る売れない自称ミュージシャン〟と何が違うのか本気で考え込んでしまう。

『hahaha! このクズ野郎め、これでもくらいな! そして悔い改めたならオレ達と筋肉に磨きをかけるんだ!』

 またしても俺の頭の中から沸いて出てきたボディビルダーが、全力でプロテイン缶を投げつけ俺の顔面を強打する。
 更にはどこから連れてきたのか横幅のある寸胴ビルダーとソフトマッチョ、そしてスポーツしてます風の筋肉質な少年が現れる。
 更に更に、彼らに挟まれてごく普通の中肉中背の一般人にブーメランパンツをはかせたエセビルダーの四人が、ニカっと笑って親指を立てる光景が浮かび上がった。
 合計4人と1人の謎のビルダー集団。

 最初の奴は兎も角、横に広い寸胴ビルダーのモデルは恐らく大福さんで、細マッチョはレンさん、スポーツマン風の少年がシンくんだろう。
 となると真ん中のブーメランパンツ野郎は俺か?
 無意識とはいえ、なに変なもの頭の中で生み出してるんだ死にたい。

 頭の悪い妄想を苦笑いで誤魔化し、逃れるように俺は一人取り残された納屋を後にした。

 これだけ毎日立て続けに面倒が起こると、頭の悪い妄想の1つや2つ湧き出るというものだ。
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