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139話 上位種
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隊列を整えた俺達は、勢いをつけてボス部屋の扉を開く。
「〈ブレイブハート〉! 行くぞ!」
「「「おー!」」」
俺の合図と共に全員が駆けだし中へと突入すと、いつもの如く赤黒い魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣の正面にククが、側背面にクサンテとマルグリットさんが回り込む。
後はイビルデスナイトの時と同様、出現と同時に防御スキルの封鎖結界で囲って押し込み、動けなくしてから全力でボコるのみ。
魔法陣からゆっくりと現れたのは、レッサーデーモンと同じ山羊の頭に人の体、下半身は山羊の悪魔だった。
ただし大きさはレッサーデーモンの3倍以上、10メートルを優に超え、迷宮の高い天井が低く感じられる。
肩からは筋肉隆々の巨木の様な剛腕が伸び、山羊の足はバランス的にはしなやかだがその太さは象以上だ。
そして手には巨大な鎌を握りしめていた。
グレーターデーモン Lv48
属性:なし。
耐性:魔法ダメージ半減。物理ダメージ半減。
弱点:神聖属性ダメージ倍。
状態異常:なし。
全体的な体の造りはモティナの本性と酷似しているが、でかすぎる上に全身血管がビキビキと浮き上がっていて生々しく、とても同じ世界に存在する生き物だとは思えない。
「文献に記されているのより大きしゅぎましゅ!?」
「レナルドルの予感が当たったか?」
慌てふためくフィローラに、ベクスさんが苦笑い交じりで強がってみせる。
なんだよ文献よりもデカいって、個体差でもあるってのか!?
「落ち着け、冷静に対処すれば何とかなる!」
自分に言い聞かせるつもりで周りに注意を飛ばす。
想像以上の巨大質量が現れたが、こちらにはそれ以上の大きさを誇ったエキドナを受け止めたククが居るのだ、このくらいならやってやれないことは無い。
予定通りにの作戦で潰すだけだ!
「「「キャッスルウォール!」」」
それぞれのPTの防御担当者であるクク、クサンテ、マルグリットさんがキャッスルウォールが同時に発動。
半透明の分厚い壁が巨大悪魔を三方向から取り囲むと、山羊頭の悪魔を抑え込む――はずが、そうは問屋が卸してはくれなかった。
グレーターデーモンは防御壁を膂力で強引に押しのけ、僅かにできた空間に指を挿し込み、ククとマルグリットさんの間を一気にこじ開けた。
スキルによって生み出された城壁は崩壊こそ免れたが、俺とモーディーンさんのPTが凄まじい力で押しのけられ、悪魔を囲いから解き放ってしまった。
「城塞陣形に移行!」
「了解だぁ!」
「了解よ~!」
俺の号令にベクスさんとレスティーが返事を返し、PTリーダーがそれぞれのメンバーに指示を出す。
押しのけられた2PTの全員が崩れた陣形を立て直すべく、素早くレスティー班の両サイドに就く。
それに合わせてクサンテがキャッスルウォールの2枚目を生み出しへの字型に組むと、ククとマルグリットさんがキャッスルウォールを操作し方円陣になる様に重ね合わせた。
その上から魔法使い達が全体を防御魔法で分厚く覆い、イルミナさんが強固なマジックシールドを多重展開。
瞬く間に強固な防御陣地が出現した。
四十八階層で先程の包囲を突破される事など想定外であったのだが、ベクスさんが教えてくれた〝レナルドルさんの謎のジンクス〟を警戒し、この陣形に移行する可能性が高いことを前もって皆に告げていたのだ。
包囲が破られること自体が想定済みなら、当然別のプランも用意してしかるべき。
こうして包囲作戦が失敗した俺達ではあったが、事前準備のお陰で直ぐに方円陣へと円滑に移行できたのだ。
「放て!」
陣形の完成を確認するや、俺は再び号令を発する。
その号令に呼応し、トーチカ内からありったけのスキルや魔法が打ちまれる。
拘束魔法を担当するヴァルナさんがこれでもかとバインドを打ち込みグレーターデーモンの身体を縛り上げると、そこにユニスとベクスさんのスキルの乗った矢が分厚い胸部に突き刺さり、レスティーが〈業禍剣乱・黒曜〉を発動。
多重展開した黒曜石の刃を高速回転させて打ち出した。
しかし、悪魔はヴァルナさんの拘束魔法を引きちぎりながら、飛来するアースランスを握りしめた大鎌で叩き落とした。
遠距離から撃たれるのを嫌ってか、グレーターデーモンが前傾姿勢となる。
タックルで突っ込む気なのが容易に見て取れた。
「セシル、奴の動きを止めるぞ!」
「は、はい……!」
指示と共に念話で頭の中のイメージを送ると、セシルが俺と同じ魔法を紡ぐ。
「「フレズヴェルク!」」
俺とセシルの凍結榴弾魔法がグレーターデーモンの両足に着弾。
純白の大鷲が分厚い氷となって奴の足を地面に縫い付け、その機動力を奪う。
こんな状況でジョブに頼らない魔法などとは言っていられない。
習得できていない不確かな技術よりも、今は確実な攻撃手段こそ必要なのだ。
更なる攻撃がグレーターデーモンに降り注ぎ、魔法や飛び道具を着弾させるも、致命傷には至らない。
そんな大悪魔の足元から爆炎が吹きあがり、足元の氷が一瞬で蒸発した。
見た目通り、レベルの割にはなかなかにしぶとい。
グレーターデーモンに新たなバインドが絡まりその動きを制限しているが、それでもグレーターデーモンはしっかりとした足取りでクサンテの前に立ちはだかると、その剛腕が握りしめた武器を真っ直ぐ振り下ろされた。
イルミナさんが魔法の盾で受け止め直撃を防ぎ、各種防御魔法が攻撃の勢いを落とす。
それでも強引に振り下ろされた大鎌を、最終的には傾斜装甲と化したキャッスルウォールで受けめた。
もしかしてこいつ、身体能力だけならズワローグやエキドナ並みに強いんじゃないか?
そこでこの迷宮システムの罠にふと気付かされる。
階層ボスは階層に出た魔物の一つ上位の魔物である。
今まではランクが上がったところで元居た敵に毛が生えた程度の物だった。
だがもし仮に、直系の上位モンスターが階層の雑魚モンスターよりも遥かに強力な魔物ならばどうなるだろうか。
以前もゴブリンとドラゴンは同じレベルでも強さが同じなはずがないと思ったことがある。
いわゆるモンスターその物の格というやつだ。
四十八階層に出てきたレッサーデーモンは中級の魔物だとしても、レッサーデーモンとグレーターデーモンではゴブリンとドラゴン程の格の違いがあるのかもしれない。
それに加え、出現したモンスターの個体差を加わったとすると、こいつの強さにも納得がいく。
などと思案している間も、グレーターデーモンの攻撃が緩むことなく続いている。
その悉くは先程の防御手順で防いで入るが、鎌が振り下ろされる度に盾が砕かれ、力場が削れ、防壁に亀裂が入る。
次々と繰り出される苛烈な攻撃に、トーチカが限界を迎えるのも遠くはないと誰もが予測する。
「ヴァルナ、奴の上半身にバインド! よしのん、ビアンカ、全員に強化魔法! リシア、皆の武器に神聖属性付与! 近接班、補助が掛かり次第打って出るぞ!」
「分かったわ!」
「は、はい! 〈マジックアーマー〉!」
「〈フィジカルエンチャント〉!」
「〈ホーリーウェポン〉!」
重ねられる支援魔法を受け、俺も槍を片手に飛び出すタイミングを見計らう。
しかし、年長者を呼び捨てにするのには慣れないな。
戦闘中は名前の後に〈さん〉付けするなと、モーディーンさん達にキツク仰せつかってしまったのでそうさせてもらっているし、命令が長くなるからって理由もわかるんだけど、感覚的な気持ち悪さにもにゅっとする。
ヴァルナさんのバインドが三度グレーターデーモンの胴体を腕ごと縛り付け、近接職の全身と武器に魔法の強化が施される。
「後衛、奴の顔面を狙え!」
「「〈流星弓〉!」
「〈レイボウ〉!」
「燃やし尽くせ~破滅の~太陽ぉ~お~~~~♪」
俺の指示にベクスさんとユニスが顔目がけて〈流星弓〉を、レスティーが数条の光線魔法を放つ。
無数の光の矢が悪魔の大きすぎるの顔に集弾し、魔法の光線が右の頬を掠めるも傷口は浅い。
ちっ、ダメージ減算とイビルナイト並みかそれ以上の防御力を見せつけてくれやがる。
だが最後には先程から長々と美声で歌っていたアーヴィンが詠唱を完成させると、最大出力の光魔法が発動。
真正面に現れた大きな光の球体が、奴の顔と身体の前面を閃光で溶かす。
さすがは称号〈吟遊詩人〉持ち、魔法の詠唱を歌に乗せただけでこの火力だ。
攻撃回数こそ少ないが、火力だけならレスティー達の中でも頭一つ抜きんでているな。
だがそのアーヴィンはというと、その一撃に全てのMPをつぎ込んだらしく、白目を剥いて倒れた。
それを抱き留めるカリオペさん。
「アーヴィン、お前の死は無駄にしないぞっ!」
「まだ死んでませんわよ!」
仲間への労いとして頭の悪いセリフで送ると、アーヴィンを抱くカリオペさんが般若の形相で抗議を上げる。
だがそれに反応する余裕はない。
「ぶもおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
アーヴィンによって顔を焼かれたデーモンが、縛り上げられた上半身を激しく仰け反らせると、次にこちらを向くなり大きな咆哮を上げる。
音が衝撃となり防御結界を激しく振るわせる。
スタンすると噂の咆哮の正体は、このバカでかい音の衝撃波が原因か。
だがこの程度の衝撃波なら、皆が構築した防御結界で防いでくれる。
行くなら今だ!
「近接、突撃ー!!」
「「「応!」」」
音が途切れた所を見計らい、大声で皆に指示を出す。
今か今かと待ちわびていた近接職の全員も声を上げ、結界の外に躍り出た。
メリティエが一番に奴の足元にたどり着くなり、強烈なローキックで右足首を内側から外へと蹴り飛ばし素早く横に飛ぶ。
〈鬼神瀑布〉によって綺麗に足を刈り取られた悪魔が、バランスを崩しその場に膝をつく。
ディオンがイビルデスナイトから手に入れたツーハンドソード〈首切りゲルハルト〉を振り被り、動きを止めたグレーターデーモンの左の足首を豪快に断ち切って後ろに抜ける。
ん? そんな呪われていそうな武器で大丈夫かだって?
鑑定をして安全を確認しているので大丈夫だ問題ない。
「〈パニッシュメント〉!」
続いてメリティエと場所を入れ替わったユーベルトが、手にしたバスタードソードで奴の腹部を突き刺した。
攻撃スキル〈パニッシュメント〉の貫通エネルギーに神聖属性が合わさり、グレーターデーモンの腹の中で炸裂。
大量の血液と臓物が背部から噴出した。
ディオンとユーベルトも既にバトルマスターへと転職を遂げ、こうして十分な火力を持ち合わせている。
2人がトトやメリティエを羨む必要なんてないが、隣の芝は青く見えてしまうものだ。
グレーターデーモンが口からも大量の血を零しながらも大鎌を振り回し、追撃を加えようと戻って来たメリティエとディオンを追い払う。
これではうかつに近付けない。
「「〈バインド〉!」」
その大鎌にイルミナさんとヴァルナさんの拘束魔法が無数に絡みつき、奴の得物を地面に縫い付ける。
そこへトトが一気に距離を詰め、口腔から盛大に血をまき散らすグレーターデーモンへと飛び掛かった。
「とーどーめー!」
天井近くまで飛び上がり、大上段に振り上げた斧槍が、トトの黄金色に輝く燐光を吸収して一気に巨大化。
金色に光り輝くバカでかい斧となった斧を力いっぱい振り下ろした。
だがそうはさせまいと、グレーターデーモンが大鎌を手放し、飛び跳ねたトト目がけて蚊でも叩き潰すかのように両手での平手打ちを放った。
まずい、完全に攻撃態勢に入っているトトにアレを回避する術がない!?
「させるか、〈ゲイ・ボルグ〉!」
「マクマトーレ流剣技・究極〈鮮血万華〉ですにゃ!」
モーディーンさんが神速の動きで飛び出し、グレーターデーモンの左手に刺突剣を繰り出した。
いつでもカバーに入れるよう一歩引いた位置に居た俺も、彼が向かった腕とは反対側にありったけの魔力を込めた槍を投擲する。
魔力による加速した超速の槍が、モーディーンさんを追い抜きグレーターデーモンの右腕に着弾。
剛腕がトトへと届くよりも速く、槍は腕を貫き、内蔵する魔力を全て開放して肩ごと爆ぜ、そのまま壁に突き刺さり埋没した。
そしてグレーターデーモンの左手へ突撃したモーディーンさんが、腕が霞む程の超々高速の刺突を相手の左手に繰り出すと、大きな掌を肉片交じりの血風に変えてみせた。
大質量の手が赤い大輪の花となって咲く光景は、背筋が凍る程恐ろしく凄まじい。
俺達2人の迎撃に、一瞬で両手を失った巨大悪魔が、自身の身に起きたことが理解できず、欠損した部位に目を向けた。
「やああああああああああ!!」
そこに振るわれたトトの一撃が天井を掠め、焼けただれたグレーターデーモンの頭部を割り、なんの抵抗もないまま一気に股下を抜けて床に埋没した。
トトが武器を振り下ろしたままのポーズで着地すると、真っ二つに割れた巨大悪魔の身体が左右に分割して倒れ、粒子散乱を開始するのだった。
それを確認したところで、俺の視界も黒く染まっていった……。
「〈ブレイブハート〉! 行くぞ!」
「「「おー!」」」
俺の合図と共に全員が駆けだし中へと突入すと、いつもの如く赤黒い魔法陣が浮かび上がる。
その魔法陣の正面にククが、側背面にクサンテとマルグリットさんが回り込む。
後はイビルデスナイトの時と同様、出現と同時に防御スキルの封鎖結界で囲って押し込み、動けなくしてから全力でボコるのみ。
魔法陣からゆっくりと現れたのは、レッサーデーモンと同じ山羊の頭に人の体、下半身は山羊の悪魔だった。
ただし大きさはレッサーデーモンの3倍以上、10メートルを優に超え、迷宮の高い天井が低く感じられる。
肩からは筋肉隆々の巨木の様な剛腕が伸び、山羊の足はバランス的にはしなやかだがその太さは象以上だ。
そして手には巨大な鎌を握りしめていた。
グレーターデーモン Lv48
属性:なし。
耐性:魔法ダメージ半減。物理ダメージ半減。
弱点:神聖属性ダメージ倍。
状態異常:なし。
全体的な体の造りはモティナの本性と酷似しているが、でかすぎる上に全身血管がビキビキと浮き上がっていて生々しく、とても同じ世界に存在する生き物だとは思えない。
「文献に記されているのより大きしゅぎましゅ!?」
「レナルドルの予感が当たったか?」
慌てふためくフィローラに、ベクスさんが苦笑い交じりで強がってみせる。
なんだよ文献よりもデカいって、個体差でもあるってのか!?
「落ち着け、冷静に対処すれば何とかなる!」
自分に言い聞かせるつもりで周りに注意を飛ばす。
想像以上の巨大質量が現れたが、こちらにはそれ以上の大きさを誇ったエキドナを受け止めたククが居るのだ、このくらいならやってやれないことは無い。
予定通りにの作戦で潰すだけだ!
「「「キャッスルウォール!」」」
それぞれのPTの防御担当者であるクク、クサンテ、マルグリットさんがキャッスルウォールが同時に発動。
半透明の分厚い壁が巨大悪魔を三方向から取り囲むと、山羊頭の悪魔を抑え込む――はずが、そうは問屋が卸してはくれなかった。
グレーターデーモンは防御壁を膂力で強引に押しのけ、僅かにできた空間に指を挿し込み、ククとマルグリットさんの間を一気にこじ開けた。
スキルによって生み出された城壁は崩壊こそ免れたが、俺とモーディーンさんのPTが凄まじい力で押しのけられ、悪魔を囲いから解き放ってしまった。
「城塞陣形に移行!」
「了解だぁ!」
「了解よ~!」
俺の号令にベクスさんとレスティーが返事を返し、PTリーダーがそれぞれのメンバーに指示を出す。
押しのけられた2PTの全員が崩れた陣形を立て直すべく、素早くレスティー班の両サイドに就く。
それに合わせてクサンテがキャッスルウォールの2枚目を生み出しへの字型に組むと、ククとマルグリットさんがキャッスルウォールを操作し方円陣になる様に重ね合わせた。
その上から魔法使い達が全体を防御魔法で分厚く覆い、イルミナさんが強固なマジックシールドを多重展開。
瞬く間に強固な防御陣地が出現した。
四十八階層で先程の包囲を突破される事など想定外であったのだが、ベクスさんが教えてくれた〝レナルドルさんの謎のジンクス〟を警戒し、この陣形に移行する可能性が高いことを前もって皆に告げていたのだ。
包囲が破られること自体が想定済みなら、当然別のプランも用意してしかるべき。
こうして包囲作戦が失敗した俺達ではあったが、事前準備のお陰で直ぐに方円陣へと円滑に移行できたのだ。
「放て!」
陣形の完成を確認するや、俺は再び号令を発する。
その号令に呼応し、トーチカ内からありったけのスキルや魔法が打ちまれる。
拘束魔法を担当するヴァルナさんがこれでもかとバインドを打ち込みグレーターデーモンの身体を縛り上げると、そこにユニスとベクスさんのスキルの乗った矢が分厚い胸部に突き刺さり、レスティーが〈業禍剣乱・黒曜〉を発動。
多重展開した黒曜石の刃を高速回転させて打ち出した。
しかし、悪魔はヴァルナさんの拘束魔法を引きちぎりながら、飛来するアースランスを握りしめた大鎌で叩き落とした。
遠距離から撃たれるのを嫌ってか、グレーターデーモンが前傾姿勢となる。
タックルで突っ込む気なのが容易に見て取れた。
「セシル、奴の動きを止めるぞ!」
「は、はい……!」
指示と共に念話で頭の中のイメージを送ると、セシルが俺と同じ魔法を紡ぐ。
「「フレズヴェルク!」」
俺とセシルの凍結榴弾魔法がグレーターデーモンの両足に着弾。
純白の大鷲が分厚い氷となって奴の足を地面に縫い付け、その機動力を奪う。
こんな状況でジョブに頼らない魔法などとは言っていられない。
習得できていない不確かな技術よりも、今は確実な攻撃手段こそ必要なのだ。
更なる攻撃がグレーターデーモンに降り注ぎ、魔法や飛び道具を着弾させるも、致命傷には至らない。
そんな大悪魔の足元から爆炎が吹きあがり、足元の氷が一瞬で蒸発した。
見た目通り、レベルの割にはなかなかにしぶとい。
グレーターデーモンに新たなバインドが絡まりその動きを制限しているが、それでもグレーターデーモンはしっかりとした足取りでクサンテの前に立ちはだかると、その剛腕が握りしめた武器を真っ直ぐ振り下ろされた。
イルミナさんが魔法の盾で受け止め直撃を防ぎ、各種防御魔法が攻撃の勢いを落とす。
それでも強引に振り下ろされた大鎌を、最終的には傾斜装甲と化したキャッスルウォールで受けめた。
もしかしてこいつ、身体能力だけならズワローグやエキドナ並みに強いんじゃないか?
そこでこの迷宮システムの罠にふと気付かされる。
階層ボスは階層に出た魔物の一つ上位の魔物である。
今まではランクが上がったところで元居た敵に毛が生えた程度の物だった。
だがもし仮に、直系の上位モンスターが階層の雑魚モンスターよりも遥かに強力な魔物ならばどうなるだろうか。
以前もゴブリンとドラゴンは同じレベルでも強さが同じなはずがないと思ったことがある。
いわゆるモンスターその物の格というやつだ。
四十八階層に出てきたレッサーデーモンは中級の魔物だとしても、レッサーデーモンとグレーターデーモンではゴブリンとドラゴン程の格の違いがあるのかもしれない。
それに加え、出現したモンスターの個体差を加わったとすると、こいつの強さにも納得がいく。
などと思案している間も、グレーターデーモンの攻撃が緩むことなく続いている。
その悉くは先程の防御手順で防いで入るが、鎌が振り下ろされる度に盾が砕かれ、力場が削れ、防壁に亀裂が入る。
次々と繰り出される苛烈な攻撃に、トーチカが限界を迎えるのも遠くはないと誰もが予測する。
「ヴァルナ、奴の上半身にバインド! よしのん、ビアンカ、全員に強化魔法! リシア、皆の武器に神聖属性付与! 近接班、補助が掛かり次第打って出るぞ!」
「分かったわ!」
「は、はい! 〈マジックアーマー〉!」
「〈フィジカルエンチャント〉!」
「〈ホーリーウェポン〉!」
重ねられる支援魔法を受け、俺も槍を片手に飛び出すタイミングを見計らう。
しかし、年長者を呼び捨てにするのには慣れないな。
戦闘中は名前の後に〈さん〉付けするなと、モーディーンさん達にキツク仰せつかってしまったのでそうさせてもらっているし、命令が長くなるからって理由もわかるんだけど、感覚的な気持ち悪さにもにゅっとする。
ヴァルナさんのバインドが三度グレーターデーモンの胴体を腕ごと縛り付け、近接職の全身と武器に魔法の強化が施される。
「後衛、奴の顔面を狙え!」
「「〈流星弓〉!」
「〈レイボウ〉!」
「燃やし尽くせ~破滅の~太陽ぉ~お~~~~♪」
俺の指示にベクスさんとユニスが顔目がけて〈流星弓〉を、レスティーが数条の光線魔法を放つ。
無数の光の矢が悪魔の大きすぎるの顔に集弾し、魔法の光線が右の頬を掠めるも傷口は浅い。
ちっ、ダメージ減算とイビルナイト並みかそれ以上の防御力を見せつけてくれやがる。
だが最後には先程から長々と美声で歌っていたアーヴィンが詠唱を完成させると、最大出力の光魔法が発動。
真正面に現れた大きな光の球体が、奴の顔と身体の前面を閃光で溶かす。
さすがは称号〈吟遊詩人〉持ち、魔法の詠唱を歌に乗せただけでこの火力だ。
攻撃回数こそ少ないが、火力だけならレスティー達の中でも頭一つ抜きんでているな。
だがそのアーヴィンはというと、その一撃に全てのMPをつぎ込んだらしく、白目を剥いて倒れた。
それを抱き留めるカリオペさん。
「アーヴィン、お前の死は無駄にしないぞっ!」
「まだ死んでませんわよ!」
仲間への労いとして頭の悪いセリフで送ると、アーヴィンを抱くカリオペさんが般若の形相で抗議を上げる。
だがそれに反応する余裕はない。
「ぶもおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
アーヴィンによって顔を焼かれたデーモンが、縛り上げられた上半身を激しく仰け反らせると、次にこちらを向くなり大きな咆哮を上げる。
音が衝撃となり防御結界を激しく振るわせる。
スタンすると噂の咆哮の正体は、このバカでかい音の衝撃波が原因か。
だがこの程度の衝撃波なら、皆が構築した防御結界で防いでくれる。
行くなら今だ!
「近接、突撃ー!!」
「「「応!」」」
音が途切れた所を見計らい、大声で皆に指示を出す。
今か今かと待ちわびていた近接職の全員も声を上げ、結界の外に躍り出た。
メリティエが一番に奴の足元にたどり着くなり、強烈なローキックで右足首を内側から外へと蹴り飛ばし素早く横に飛ぶ。
〈鬼神瀑布〉によって綺麗に足を刈り取られた悪魔が、バランスを崩しその場に膝をつく。
ディオンがイビルデスナイトから手に入れたツーハンドソード〈首切りゲルハルト〉を振り被り、動きを止めたグレーターデーモンの左の足首を豪快に断ち切って後ろに抜ける。
ん? そんな呪われていそうな武器で大丈夫かだって?
鑑定をして安全を確認しているので大丈夫だ問題ない。
「〈パニッシュメント〉!」
続いてメリティエと場所を入れ替わったユーベルトが、手にしたバスタードソードで奴の腹部を突き刺した。
攻撃スキル〈パニッシュメント〉の貫通エネルギーに神聖属性が合わさり、グレーターデーモンの腹の中で炸裂。
大量の血液と臓物が背部から噴出した。
ディオンとユーベルトも既にバトルマスターへと転職を遂げ、こうして十分な火力を持ち合わせている。
2人がトトやメリティエを羨む必要なんてないが、隣の芝は青く見えてしまうものだ。
グレーターデーモンが口からも大量の血を零しながらも大鎌を振り回し、追撃を加えようと戻って来たメリティエとディオンを追い払う。
これではうかつに近付けない。
「「〈バインド〉!」」
その大鎌にイルミナさんとヴァルナさんの拘束魔法が無数に絡みつき、奴の得物を地面に縫い付ける。
そこへトトが一気に距離を詰め、口腔から盛大に血をまき散らすグレーターデーモンへと飛び掛かった。
「とーどーめー!」
天井近くまで飛び上がり、大上段に振り上げた斧槍が、トトの黄金色に輝く燐光を吸収して一気に巨大化。
金色に光り輝くバカでかい斧となった斧を力いっぱい振り下ろした。
だがそうはさせまいと、グレーターデーモンが大鎌を手放し、飛び跳ねたトト目がけて蚊でも叩き潰すかのように両手での平手打ちを放った。
まずい、完全に攻撃態勢に入っているトトにアレを回避する術がない!?
「させるか、〈ゲイ・ボルグ〉!」
「マクマトーレ流剣技・究極〈鮮血万華〉ですにゃ!」
モーディーンさんが神速の動きで飛び出し、グレーターデーモンの左手に刺突剣を繰り出した。
いつでもカバーに入れるよう一歩引いた位置に居た俺も、彼が向かった腕とは反対側にありったけの魔力を込めた槍を投擲する。
魔力による加速した超速の槍が、モーディーンさんを追い抜きグレーターデーモンの右腕に着弾。
剛腕がトトへと届くよりも速く、槍は腕を貫き、内蔵する魔力を全て開放して肩ごと爆ぜ、そのまま壁に突き刺さり埋没した。
そしてグレーターデーモンの左手へ突撃したモーディーンさんが、腕が霞む程の超々高速の刺突を相手の左手に繰り出すと、大きな掌を肉片交じりの血風に変えてみせた。
大質量の手が赤い大輪の花となって咲く光景は、背筋が凍る程恐ろしく凄まじい。
俺達2人の迎撃に、一瞬で両手を失った巨大悪魔が、自身の身に起きたことが理解できず、欠損した部位に目を向けた。
「やああああああああああ!!」
そこに振るわれたトトの一撃が天井を掠め、焼けただれたグレーターデーモンの頭部を割り、なんの抵抗もないまま一気に股下を抜けて床に埋没した。
トトが武器を振り下ろしたままのポーズで着地すると、真っ二つに割れた巨大悪魔の身体が左右に分割して倒れ、粒子散乱を開始するのだった。
それを確認したところで、俺の視界も黒く染まっていった……。
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冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
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日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
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クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
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最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
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