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154話 共謀者

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 部屋が明るすぎるくらいに明るくして恐怖心を誤魔化したところで、隠し保管庫の別の書類を手に取った。
 先程の装備以外にも決して安くはない額の領収書がいくつも出てくる。

 絨毯100万カパー……え、これ金貨100枚もするの!?
 金貨10枚あれば5人家族でも1年は余裕で過ごせる世界で100万カパーとか狂気を感じる!
 しかもこれだけ高価なら普通は壁に飾るところなのに、執務室の床にってますます正気を疑うぞ。

 だが足元に広がる絨毯の感触に、自宅のリビングにも絨毯を敷くことを検討に入れる。

 冬用に家にもこんなふかふかの絨毯欲しいなぁ。
 でも100万カパーかぁ……ってそうじゃない。
 これは本当に近衛騎士団長としての正当な報酬なのか?
 これらのお金の出どころがバラドリンドに情報を流した見返りによる謝礼だと考える方が、全然自然じゃないのか?

 アウグストの短期間での散財ぶりに、疑惑がますます深くなる。
 しかし、領収書だけではスパイと断定するには無理がある。
 確かな証拠を求めて他に隠し場所は無いかと再び〈アナライズ〉を走らせると、保管庫の中に二重底の構造があるのを発見した。
 魔念動力で底板をはずすと、筒状に丸められた書簡がみつかる。

 これはアタリかな。

 書簡を開き最初に見えた文字が〝君命〟であったことから、どうやら国王陛下からの命令書のようだ。
 好奇心交じりに命令書に目を通すと、ふざけた内容が書かれていた。
 その内容とは、〝バラドリンドとの同盟を結ぶための特使として、アウグストを任命する〟というものだった。
 更に別の命令書には、同盟国バラドリンドとの共闘作戦の連絡役に任命するとも書かれていた。

 流れとしては、ウィッシュタニアが勇者を呼び出したことに危機感を覚えたアイヴィナーゼが、ウィッシュタニアを共通の敵に持つバラドリンドに同盟を持ち掛け成立させると共に勇者召喚を行ったってところか?
 元居た世界でも近隣諸国と仲が悪いなんて国は多く、ウィッシュタニアを共同で潰したいといった思惑が容易に想像できてしまう。
 ……さて、思っていたのとは違う予想の斜め上な証拠が出てきてしまった以上、姫さんに確認を取ってもらうとするか。

 ワープゲートをライシーン城の一室にあるクラウディア王女が滞在する部屋へと繋ぐと、目の前の壁をノックする。

「クラウディア王女、居る?」
「トシオ様!? ど、どうなされました?」
「ちょっと見てもらいたい物があるんだけどいいかな?」
「少しお待ちくださいまし! ……ど、どうぞ!」

 クラウディアの許可が得たのでワープゲートを操作して部屋が一望できる向きにすると、シルクのネグリジェに美しい下着姿の美王女様が、顔を赤らめながらこちらを向いていた。
 態々自分の胸を腕で挟んで強調するという、とても煽情的なポーズと共に。

 真昼間からなんて恰好してんだこの人は……。
 てかさっき昼食の時には上品なワンピースを着てただろ。

 彼女の意図が透けて見えるが、無視するのも忍びないので一応は言葉を選ぶ。

「お、その下着かわいいね」
「それで、如何でしょうか?」
「ん? とても似合ってるよ?」
「……他には?」
「エロいねー(棒)」
「…………はぁ~~」

 王女は下着姿の女を目の前にした男としての反応を示さない俺が余程不満なのか、ワザとらしく大きなため息を吐き出した。

 慌てふためいたり欲情して襲ったりするとでも思ったのか?
 ヒューマンのメスごときが思い上がるな(暴言)
 そういうのは頭にケモ耳でも生やしてからにしやがってください。
 リシアという至高のケモ耳嫁が居る時点で、今更ただのケモ耳にトキメいたりはしないけど。
 あと、金髪美少女の時点で普段のセシルと被ってる上にエルフ耳すら生やしていないので劣化版もいいとこだ(暴言テイク2)
 基本的に女性はムチムチしている方が好みなので、ローザ並みとは言わないまでもだらしないお腹回りであってほしい……が、彼女に言うと本当に駄肉を付けかねないので決して口にはしないでおこう。

「それ程までにわたくしに魅力はありませんの? よよよ……」

 またも芝居がかった仕草で泣いてみせる王女様。

 そのノリ好きだなぁ。
 けど付き合ってやるのも面倒なので話を進めよう。

「君に魅力がないんじゃなくて、俺が特殊なんだと何度言わせれば……。それと、これ以上嫁を増やす気はないとも言ってるんだからいい加減諦めろ。それより真面目な話をさせてくれる?」
「……わかりましたわ」

 クラウディアが不満げな顔をしながらも渋々俺が差し出した命令書を確認すると、先程の馬鹿をやっていたのが頭から消し飛ぶ程の驚きを顔に張り付かせた。
 
「すごいねー、あのアウグストじじいは国王公認だったんだー。序にこの領収書の量は異常にすぎない? もしかして連絡役なのを良いことに、アイヴィナーゼの情報を売っていたのかにゃー?」
「………」

 あまりの呆れっぷりにお道化どけてみせると、クラウディアが言葉を失いこめかみに手を当てる。
  
「さてと、国王の命令だってわかったところで、奴のスパイ容疑云々に関係無く俺とアイヴィナーゼとの協調路線は消えた訳だけど、どうする?」
「お待ちください、私がお父様を説得してみせます!」
「それで、もし君の父がバラドリンドとの同盟路線を頑なに曲げない場合はどうするの?」
「それは……」

 説得が失敗した際の案を追及すると、王女が言葉を詰まらせた。

 国のトップである国王が決めたことを、その娘である彼女がそれを覆す権限などないだろう。
 何もできないからこそクラウディアは口をつぐまざるを得なかった。
 こちらとしてはライシーンが巻き込まれかねない以上〝専守防衛に因る防衛戦になら加担しても良い〟というのが、妻達と話し合った上で出した結論だ。
 だがアイヴィナーゼ王国が他国を侵略するというなら話は変わる。
 他国を侵略しておいて、危なくなったから守ってくれでは筋も道理も通らないからだ。
 なので、侵略戦争なんかに向かわせないためにも何とかできるかもしれない力と考えがある俺が、建設的かは定かではないが問題解決の方向にもっていかなければならない。
 そのためにも、国王よりも説得が通じそうな彼女には、きっちり自分の立場を理解し覚悟を持ってもらう必要がある。

「もしウィッシュタニアがバラドリンドに敗れれば、次はアイヴィナーゼにその矛先が向くだろうね」
「そんな、この命令書では既に同盟国と書かれています。そう易々と裏切るとは思えません!」

 王女が俺が発見した2枚目の命令書をかざし願望にすがる。

「その約束に拘束力は?」
「奴隷紋の様な呪いの魔法を用いれば――」

 反論しようとしたクラウディアが、再び言葉に詰まらせた。

 クラウディアの反応からして、国家間の約束事にその手の魔法を用いるものなのだろう。
 しかし、バラドリンドは魔法絶対許さないマン国家。
 そんな当たり前すら教義の下では行われないのが、宗教の怖い所である。

「それって神聖魔法?」
「……いいえ……」
「バラドリンド相手にそれって、実質無いって言ってるのと同じだよね?」
「……はい……」

 ワープゲートを挟んで2人して鎮痛な面持ちとなる。
 クラウディアに至っては、うっすら涙をにじませている。
 しかし、王女としての自覚がある彼女を、敢えて女の子扱いはしない。
 大勢の命がかかっている話に、女子供なんて関係ないのだから。

「バラドリンドは周辺諸国すべてと険悪な宗教国家だ。国家間の約束すら守られるか怪しい国が、魔法の根付いたアイヴィナーゼを見逃すと思う? 仮にアイヴィナーゼという国を見逃したとしても、魔法使いであるキミの命の保証は誰がしてくれるの?」
「……そのような補償など必要ありません。私の命で国が守られるなら、この命惜しくはありませんわ!」

 俺の言葉に身体を小刻みに震えさせるも涙を拭い、キッと睨むように見詰め潔く言い切った。

 王女としての覚悟は立派だが、問題を何もわかっていない。
 〝魔法使いであるキミの命の保証〟の〝キミ〟の部分を〝一般人〟に置き換えても、同じ言葉を言えるのだろうか。
 それに一国の王女の命がそんな不確かな願望に奉げられるのも駄目だ。
 相手の気まぐれでどうにかなってしまうような、その程度の約束に賭けるなんて駄目駄目だ。
 この程度のことで行動や思考が止まるのなんて論外である。

「じゃぁ聞くけど、君が死んだ後、やっぱり気が変わったとバラドリンドが同盟を破棄して侵攻して来たらどうするの?」
「そうはならないかもしれないではありませんか! それに、もしもの際はお父様達が何とかしてくださいます!」

 同盟を破棄するかもしれないし、破棄しないかもしれない。
 そんな〝かもしれない〟に命運が左右されるアイヴィナーゼの脆弱さも問題だ。

「勇者の居ないアイヴィナーゼが、バラドリンドの侵攻を阻めると本気で思ってる?」
「……トシオ様は、この国を守ってはくださらないのですか?」
「なぜ俺がアイヴィナーゼを守らないといけないの?」
「ライシーンはアイヴィナーゼに属する領地です。アイヴィナーゼ王国を守ることは、いてはローザお姉さまやそのご家族が暮らすライシーンを守ることにもなりましょう」

 不安を抱えながらもこちらの痛い所を付いてくる辺り、流石は王女様といったところか。
 国家間の戦争ともなるとライシーンの被害は避けられないのも事実だし、モーディーンさん達が逃げずに戦うというのであれば、俺も出来る限りのことはするつもりでいる。
 しかし、元よりライシーンのために戦うつもりでも、アイヴィナーゼのために戦わされる形に持っていかれると、いざという時にライシーンを切り捨てられては困る。
 俺としてはライシーンを守るためにアイヴィナーゼの国力を使わせなければいけないので、アイヴィナーゼ側に主導権を握られせてはならないのだ。

「それに関しては、一つ重大な見落としがあるよ思うんだけど?」
「とおっしゃりますと?」
「俺にはワープゲートがあるし、飛行魔法だって使える。家族を連れて国外に脱出が出来るんだから、無理にライシーンに固執する必要が無い」

 家族限定であれば確かにそれでいいだろうが、街全体となるとこれまた話しが変わってくる。
 ライシーンの街だけで数万から十数万人は居ると仮定して、それだけの人数を避難させることは可能かもしれないが、避難先で彼らが飢えずに暮らせるかはまた別の話だ。
 そんな民族大移動、どう考えても現実的ではないため今の発言は完全にブラフである。
 
「貴方には、民を守ろうという気概はありませんの?!」
「え、んなもん無いよ? ついこの前まで村人Aみたいな生活をしてた人間に何を求めてるの?」
「で、でしたら妻であるわたくしのために、ではいけませんか?」

 こちらが散々断っているにも関わらず、押し掛け女房の自称妻が、既に婚姻を結んでいるかのような口ぶりでのたまった。

「だから認めてない」
「近隣諸国や民たちからは〈アイヴィナーゼの至宝〉とまでうたわれたわたくしの、何処に不満がありますの? 至らない所がお在りでしたら改善致します、なんなりとおっしゃってください!」

 クラウディアが自分の容姿をしっかり認識した上で、貞淑な女を演じてみせる。

 ここまで言われても拒む自分の漢気の無さに情けなさが込み上げてくるが、向こうが勝手に言ってることで真に受けるのもどうかと思う。
 そして、彼女の根本的な間違いは今の内に正しておこう。

「なら言わせてもらうけど、キミが俺の妻を自称するなら、その時点で俺とその家族を一番に考え、例え国を裏切ることでも俺達のためになる行動をとらなければならない。それが国家に依存せず、王族になるつもりのない人間に嫁入りするということだ。それが出来て初めて自分の生家に対する想いを説くならまだわかるけど、キミはその真逆のことを望んでいる訳だ」

 クラウディアが国を捨てるなんて出来ないと分かっているから、俺は彼女を傷物にはしなかった。
 身体を重ねれば少しは愛情が湧くだろう。
 リシア達を抱いてからは、より彼女達に対する愛しさが増している。
 だが、俺に好意を持っておらず、打算だけで傍にいる彼女が俺と同じ精神構造をしているのかなど、信じろという方が無理である。
 最悪俺だけが愛情があるものと勘違いすることだって十分ありえるのだ、そんなのを傍に置いて愛でるなど、他の妻達に対する裏切り以外の何物でもない。
 なので、彼女には俺のことはここで諦めてもらいたい。

「その上で、キミの容姿や家柄に魅力を感じていない俺に、キミは何を差し出してくれるのかな?」
「すべてを差し出すと言っても拒まれ、それでも国も守れないというのであれば、わたくしはどうすれば良いのですか……!」

 大粒の涙をポロポロとこぼし、王女は無力さに打ちひしがれた。
 クラウディアが自身の現状を理解できたようなので話しを続ける。

「アイヴィナーゼが侵略戦争に加担させなければいい。そうすれば俺も出来る限り手を貸してやる」
「ですから、わたくしがお父様を説得すると申しているではありませんか!」
「説得して駄目だったら諦めるってのがさっきのキミだよね? キミの優先順位はなに? 俺の優先順位は妻達だ。だから何かあった場合は真っ先に彼女達を連れて逃げる。逃げられないなら全員を守るために戦うし、人を殺すことだって辞さない。アキヤを相手にした時の様にね。それで、キミはどうなの? キミの守りたい物はなに? 家族? それとも他のなにかなの?」
「わたくしは……、確かに家族は大事です。わたくしにとってかけがえのない大切なモノです。ですが、わたくしにも王族としての誇りと責任があります。これまで何不自由なく暮らせてきたのは、ひとえに支えてくれる民がいてこそです。それはわたくしだけではありません、アイヴィナーゼ王家はずっと何年も何十年も何百年も民に支えられ生きてきました。そんなわたくし達が民を見捨てて逃げるなど、そのような恥知らずな真似出来ようはずがありません! 御自身の周りにしか責任の無い貴方とは、責任の重さが違いますわ!」

 憎しみをぶつける様に睨みつけ、そう宣言してみせた高潔で無力な王女がそこに居た。
 国を守るためなら娼婦に成り下がろうとも事を成そうとする気高い王女が。
 例えお門違いな恨みを俺に抱こうとも、そんな彼女には尊敬の念を禁じ得ない。
 だからこそ、俺は彼女に敬意を込めて呪いをかける。
 彼女が国を守るためになりふり構わないように、俺も自分の妻達とその家族を守るため、若き王女を生贄に奉げる。

「だったら王族としての義務をまっとうしろ。国民を危険に晒すような真似をさせるな。説得に失敗したからってそこで止まるな。例えそれが誰であろうと、キミの父親であろうと王族の責務を果たさせるんだ」
「言われるまでもありませんわ!」
「それじゃあ今度こそ本題に入ろう。俺は全力でバラドリンドの行軍を止めてみせる。」

〝止めてみせる〟と断言はしたが、実際に出来るという保証はない。
 もし仮に出来なければ、多くの一般市民が犠牲となる。
 彼らの命にまで責任が持てないので、失敗したら〝防げなかったけどしょうがないよね〟程度の心積もりだ。
 だから別に正義の味方を気取りたい訳じゃ無い。
 ただ欲にかられた一握りの馬鹿のせいで、関係のない大勢の人が苦しむ理不尽には腹が立つ。
 夢の異世界生活なのだから、出来れば苦しむ人で溢れ返る世界より、幸福で彩られた世界で暮らしたい。
 そのためにも、自己の欲望で人を殺そうとする奴には、それ相応の痛手を用意してやろう。

 まぁごちゃごちゃと考えたところで、結局の所は〝土足で人の庭を荒らす馬鹿が居たらぶん殴ってでも追い返したい〟ってだけの話だけど。

「キミは国王に働きかけ、ウィッショタニアへの開戦を止めてみせろ。どんな手段を使ってでもだ。もし少しでも失敗する可能性があるなら俺に言え。暴力で解決する話なら俺が手を汚してやる」
「それって……」
「〝それって〟ってのは何を指した? 王女として自覚したのならはっきり言ってくれ」

 尚も彼女の覚悟を試す様な問いを投げかける。

「……お父様を殺害することも視野に入れろということですの?」
「頼むのかどうするのかは国王次第でありキミの覚悟次第だ。それが嫌なら他に代替え案を出してくれ」

 家族を守るために人を殺すことに関してためらいは無いとはいえ、殺した後の嫌悪感が凄まじい。
 どれほど強がっても、それはアキヤ戦の後に嫌というほど思い知らされた俺のトラウマである。
 人を殺したことがないであろう彼女には解らない事だろうが、せめてその半分は担いでもらいたい。

「それとジャクリーン、悪いけどキミには俺の奴隷になってもらう。ここでの話を他言される訳にはいかないからね」

 物陰に隠れていた地味っ娘メイドが、音もなく姿を現した。
 どれ程巧妙に気配を消そうと、マナ感知による空間スキャンは見逃さない。

「姫様、私は……」
「ジャクリーン、わたくしからもお願いできますか?」
「姫様がそうおっしゃるのであれば。それではご主人様、よろしくお願い致します」

 表向きにしろなんにしろ、了承したようなので奴隷契約を飛ばす。

《新たな使役奴隷が追加されました》

 よし、これでこの部屋に居る人間すべての口は封じたことになる。
 本性アラクネである彼女ジャクリーンが人なのかは定かではないが、一応魔物契約ではなく奴隷契約だし人ということにしておこうそうしよう。 

「もしこのことを他の誰かに話した場合、ジャクリーンキミは死ぬことになるから覚悟しておいてくれ。あと、命を懸けて他の人に伝えようとしてもその前に死ぬから、そんな無駄なこともしないように」
「私が忠誠を奉げているのは姫様だけです。例え何があろうとも、姫様を裏切るような真似は致しません!」
「ジャクリーン……」

 自分にも信頼のおける味方が居ることに感激してか、王女の目から涙があふれた。
 先程の悔し涙ではない暖かな涙だ。

 だけど今は込み入っている、その感動は俺が居なくなってからやってくれ。

 彼女との会話を切り上げるべく、後方に広がるアウグストの屋敷を親指で指しながら口を開く。

「他に何か言いたいこととかはある? 別に俺への悪口でもなんでもいいよ? 無かったらもう少し家宅捜索を続けるけど」
「……貴方はアキヤ様の時もわたくし達を見捨て、自分達だけで逃げようとしました。本当に嫌な性格をしてらっしゃいますこと」

 精神的にかなり追い込んでしまったため少しガス抜きは必要かなと思い付きで聞いてみたが、これまでの鬱憤を晴らすかのように悪い笑みを浮かべて本気の嫌味をぶつけて来た。
 でもまぁこの際だし、彼女の本音を洗いざらいぶち撒けさせておくべきか。
 ならばとこちらは満面の笑顔で言い返してあげよう。
 
「知ってる。で、それだけ? 他には無いの? え、マジで無いの? しょっぼいなぁ」
「くぅーっ! 貧弱なのに勇者に挑むとか思慮が無いにも程がありますわ! 冴えないのに複数の女性と関係を持つ不誠実さには嫌悪感しかありません! そのくせこれ程の美貌を誇るわたくしに見向きもしないとはどういった了見ですの! わたくしの自尊心をお返しください! 他にもまだまだありますが、それら全てをおまとめして、私は貴方様の事が大っ嫌いですわっ!」
「そんなのすべて分かった上で、俺は君キミのこと、存外好きだよ?」
「なっ!?」

 こちらからの思いもよらない言葉に、激昂していたクラウディアの顔が崩れ、顔全体から耳まで真っ赤に染まっていく。

 この子は確かに腹黒さを持っているが、そのすべてが見え透いていて分かり易い。
 恐らく誰に対しても誠実であろうとする生真面目さが、悪人に徹しきれない原因だろう。
 それが実に滑稽で面白く、つい好意を抱いてしまうのだ。
 なので、嫁としては傍に置きたくはないが、彼女と話すのはそれなりに楽しいので結構気に入っていたりする。

「好きだとおっしゃってくださるのなら、なぜわたくしを抱いてはくださらなかったのです!」
「面倒だからに決まってるだろ。アイヴィナーゼの王女であるキミを抱いた場合、キミの立場的な面倒をすべてひっくるめて一生付き合わないといけなくなる。いくらキミみたいな美人でも、そんなモノと一緒くたなら願い下げだ。てかそんな度量があったら今頃こんな屋敷をコソコソ探ってないで、国王脅して影の支配者してるわ」
「極端すぎますわ!? 今からでも遅くありません、わたくしを抱いて民を守り英雄になるという折衷案せっちゅうあんで手を打とうとは思いませんの?!」
「それなんて飼い殺し? そんな中途半端なことして窮屈な暮らしをするくらいなら、全部片付けた後にでも国を出奔すしてやる!」
「英雄ともなれば人々からの尊敬と裕福な暮らしが約束されますのに!?」
「それが窮屈だって言ってんの。あと、俺は今の時点でも十分裕福な暮らしが出来るんよ? アキヤのために魔水晶を買いあさった挙句、現在進行形で兵を募って散財まったなしのアイヴィナーゼ王国よりもよっぽどね」

 そう言いながら収納袋様をひっくり返し、エキドナの巣から拝借した金銀財宝を蛇口をひねった水の様に吐き出させた。
 そしてひっくり返すのをやめた収納袋様の袋口と床をワープゲートで繋ぎ、床に散った貴金属を全て回収する。

 むしろお前が尻尾を振って〝王族辞めますから娶ってくださいなんでもしますから!〟とお願いする方なんだよっ!
 いや、マジでこの後のアイヴィナーゼ王国の財政ってどうなるんだろね。
 
 俺を英雄として囲ったクラウディアが、遊び惚ける俺の横で帳面とにらめっこして唸る姿が容易に想像できてしまった。

「………」
「だからさっきの手を汚す話だけど、キミが国王殺害を指示したなんて臣下に知られれば国が纏まらなくなる可能性があるから、もし実行された場合はすべての罪を俺になすりつけろ。俺ならさっきの金かあるから国外に逃げても問題なくやっていける」
「なっ!?」
「それじゃ、家宅捜査の続きをするからまた後で」
「トシオ様、お待ちくだ――」

 クラウディア王女が引き留めようとしたのを無理やり遮りワープゲートを閉じてやる。

 彼女の方はこれで良い。
 次はこちらの問題を片付けるとするか。

「お待たせ」

 国王が説得に応じてくれることを願いつつ、軽い口調と共に部屋の入り口に顔を向ける。
 そこには先程魔法で眠らせたはずのマルモル種ショタエルフの少年が、拘束魔法で縛られ地面に転がされた状態でこちらを見据えていた。


―――――――――――――――――――――――――

 投稿が遅くなり申し訳ありません。
 次回の更新は出来るだけ早く上げられるように頑張ります。
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