四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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155話 ジジイ、タイキック!

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「お待たせ」

 魔法で縛り上げ地面に転がる少年に軽い口調で告げると、少年はすべてを諦めた様子で見上げていた。
 クラウディアと話している途中、目覚めた少年がサーチエネミーにヒットしたので警戒していたら、声に釣られてこの部屋に来たので即拘束魔法で捕縛しておいたのだ。
 少年の顔には疲れが浮き出ており、完全に身動きが取れないものだから諦め切ってた表情をしている。

 確か名前は……そうそうジャンだった。
 これ程早く眠りから覚めるということは、睡眠魔法の濃度不足か?
 初めて使う魔法なため、いろいろと不備があったようだ。
 逆に全力の睡眠魔法ならどこまで眠り続けるのかも気になるな……。
 っと、こんな時にまで魔法のことが気になるのは悪い癖だな。

 暴れる様子が見られないので、一先ず口元の拘束を解く。

「いきなりふん縛って悪かったな、ちょっと大事な話をしてたんでね」
「……別に良いよ。お前が何者かは知らないけど、アウグストあいつを困らせに来たんだろ?」
「まぁね」

 少年の手にはショートソードが握られていることから、侵入者の排除が目的でこの部屋に来たのだろう。

「それで、キミがここを逃げ出さないってことは、アウグストの奴に奴隷として縛られてるんだよね?」
「……そうだ」
「そして、侵入者は排除するように命令されているってところかな?」
「そうだ」

 無気力な表情だった少年の顔が憎悪に塗れ、こちらを激しく睨んではいるが、恐らく俺を通してアウグストを見ているのだろう。

 一体この少年にどれだけのことをしたんだあのジジイは……。
 ここは俺もあいつを恨んでいる風に話を進めておこう。
 その方が話が上手く運ぶかもしれない。
 恨んでるというほどではないが、嫌悪しているのは確かだし。

「じゃあキミにとって良い話をしよう。あのクソジジイを破滅させるための話だ。まずはこの屋敷に居る魔族の少年を連れて来てくれないか? そしたら俺は彼を連れてこの屋敷を退散する。何も剣を振り回して追い出すだけが排除行動じゃないんだ、これも立派な排除行動ってことでどうだろうか?」
「……ダメだ、もしあいつらが屋敷から逃げたら俺は死ぬように命令されてるんだ、それは出来ない。それにあいつらを連れて行くのがどうしてあいつの破滅になるんだ?」
「てことは、やっぱりこの屋敷に魔族の少年が居るんだな」
「……知らない」
 
 俺のブラフに狼狽し、そっぽを向く少年。
 教えてはならないという命令も受けているのだろう。
 故意に教えた訳ではないので奴隷契約の禁足事項に触れなかったのだろうが、一歩間違えれば自害していたかもしれない。
 迂闊な聞き方をしてしまったと反省する。
 
「とりあえず、キミのお陰で地下に居る2人が魔族だって判明したことだし、ちょっとお礼をさせてもらおうか」

 少年に向けて手をかざし、彼に施された呪術を破壊する。

「なにをするつもりだ!?」

 純粋にお礼をしようと思ったのだが、どうやら自分の身に危険が及ぶと勘違いしたのか急に暴れ出した。

 確かに今の言い回しでは、そう捕らえられてもおかしくは無いか。
 てか、さっきまで諦めていたのに急に生に執着を見せはじめたな。

「あー、すまんすまん、別に殺すとかそういうんじゃなくて、純粋なお礼としてキミを奴隷から解放しようかなって」
「お前、奴隷魔法が使えるのか!?」
「まぁね。で、奴隷から解放された気分はどう?」

 拘束していた魔法を解きながら問うと、ジャンが服をめくり下腹部付近を確認する。
 そこはリシア達にもある奴隷紋が浮かぶ場所だった。
 しかし、ジャンの腹部には怪しい文様などありはしなかった。

「奴隷紋が、消えてる……!?」
 
 こんなこともあろうかと、ここに来る前にリベクさんに奴隷紋の解除方法を学んでいたのだ。
 学んだと言っても使ってる所を見せてもらい、行使中のスキルを解析して魔法で再構築しただけなんだけど。
 余談だが、クラウディア王女の時にドアノックのマナーが行えたのも、以前『伝説級のスキルでいきなり来ないでくれるかい?』とのお叱りを受けたので学んだことだ。

「やったねジャンくん、自由になったよ♪」
「っ、なんで俺の名前を知ってるんだ!?」

 親指を立てながらにこやかに告げてやるも、驚きと共に胡散臭いモノを見るような目をこちらに向けながら立ち上がるショタエルフ。
 エルフじゃないけど。

「鑑定スキル?」
「あれは魔物にしか効果が無いはずだ!」

 それは恐らくノービスの初級鑑定のことだろう。

「特別性でね」
「………」

 肩を竦めながらそういうも、またも全然信じてませんって目でにらまれた。
 彼が信じようと信じまいとどうだっていいので気にしない。

「そんなことより、実は結構急いでるんだ。悪いんだけど地下に居る魔族の子達をここに連れて来てくれない? 彼らも解放してやりたいんでね」
「そう言って、連れてきたら俺を殺――」

 ジャンの頬を黒曜石の弾丸が掠め、廊下を跨いで窓ガラスを粉砕したことでそこから先の言葉が言えなくする。
 
 今のは石矢ストーンアローの魔法を最小のサイズで発動させ、アイシクルスピアの弾速の速度だけを上乗せしたもので、魔法のイメージとしては対物銃アンチマテリアルライフルだ。
 この弾速強化魔法は一回かけるとどんな物質も亜音速に到達し、重ね掛けすると回数分速度が上昇する優れものである。

「急いでるって言ってるだろ? キミが獲るべき返事はイエスはいオアイエスはいだ。それ以外の選択肢は選ばない方が良い」

 有無を言わせない雰囲気に、ジャンが高速で首を縦に振る。
 お道化て誤魔化しているが、実は先程から悪寒が消えず、さっさと屋敷から出たいのだ。
 しかし、虫の居る部屋にも入りたくないヘタレっぷりに、全米がスタンディングからの大ブーイングである。

「わ、わかった、連れて来るから攻撃しないでくれ! だけどあいつら首輪で拘束されてて、じじいが持つカギが無いと連れ出せないんだ!」
「そうなんだ、ちょっと待ってて」

 早速マナに干渉し、干渉したマナに乗せた解析スキルの〈アナライズ〉やマナによる接触感知で首輪の構造を調べる。
 どうやら専用の鍵でないと罠が発動し、少年達は絶命する仕組みの様だ。
 二重底を探り当てた要領で索敵魔法を走らせると、ベッドの近くに小さな隠し金庫を発見するも、その中に首輪の鍵らしきものは出てこなかった。

 まぁそんなものは関係ないけど。

 極小のフレアランスで鎖部分を焼き切った。
  
「拘束は外しといたから、あとよろしく」
「お前は一体何者なんだ……?」
「一ノ瀬敏夫、冒険者さ」

 真実はいつも一つとか言いそうなニュアンスでお道化てみせた。


 
「へー、魔族ってこんななのか」

 アウグスト邸の庭に連れて来られた魔族の少年の1人は黒髪で、全裸のため露わになった肌はダークエルフと同じ濃い褐色だった。
 角は額から真っ直ぐ2本生えているが、尻尾と羽根は生えていない。
 もう1人は黒髪に青い肌、ユニコーンの様な額の角、お尻に尻尾を生やしている。
 2人共人間なら白目の部分が真っ黒で、黒目の部分が金色である。


 マルク
 魔族 男 11歳
 リオナス
 魔族 男 13歳


 ジャンと同じく2人共顔が整っており、一見すると少女の様に愛らしい。

 これだけ可愛いとホモじゃなくても変な気を起こしたくなる気持ちがわからなくもない。
 ……アウグストのクソと同じとか気持ち悪いので今の無し!

 なんて魔族の少年に布をかけながら思っていると、執事服の少年が口を開く。
 
「それで、これからどうするんだ?」
「こうする」

 ワープゲートを騎士達が駐屯する宿の食堂に繋げると、そこにはクラウディアや集まっていた近衛騎士達の姿がそろい踏み。
 ジャンが魔族の少年を連れて来る間、クラウディアにはちゃんとした身なりになるように伝え、事情を説明してからジャクリーン共々近衛騎士団が駐屯する宿屋に送り届けておいたのだ。

 何故かレスティー達も居たりするけど今は関係ないので無視しよう。

「はい近衛騎士団の皆さん、ここはあんた達の団長であるアウグストの屋敷です。そしてこの少年達は先程この家で保護した魔族の子だよー。ほら、状況説明してほしい人はさっさとこっちに来てくれる? 聞きたくないって人も入っておいた方が良いからね。はい、入った入った~」

 ワープゲートを移動させながら玄関の扉を開くと、中庭に騎士達で溢れかえる。
 その中にはアウグストの姿は無く、其れとは別に何故かレスティー達まで来てしまった。

 いやまぁ俺が何かやってれば気になってもしょうがないか。
 
「トシオくん、なにやってるの?」
「近衛騎士団団長からバラドリンドのスパイ容疑が出てきたから、その証拠を探してた。そしたら観ろよ、アイヴィナーゼでは所持が許されていない魔族の奴隷を家に隠してやがったんだよ」

 ドワーフの青年神官アレッシオが好奇心を覗かせ俺に聞いてきたので、この場に居る全員への説明がてら、やや大きめの声で答えてあげる。
 途端に周囲がざわめきで溢れる。

 見世物にして心苦しいが、ことがすべて終わればこれ以上苦痛にさらされる無いはず。
 もう少し我慢していただこう。

 それからクラウディアがアウグストの一連の行動とこの状況をその場に居た全員に細かく説明し、騎士達にアウグスト捕縛の命を出した。
 アウグストがバラドリンドの連絡役とする国王の命令書の存在を隠した状態で。
 例え国王の命令であっても、奴が魔族の少年を家に隠して良い理由にはならない。
 それに、まだアウグストのバラドリンド側のスパイである容疑は晴れていないのだ。
 魔族の少年達の出所を聞き出しながら、その辺も問い正すつもりだ。

「トシオったら、また変なことに首突っ込んでるのねぇ」

 レスティーが完全に他人事な口調でぼやく。
 以前俺に変な野心が無いかを心配していたのと同一人物とは思えない態度である。

 ここに来てる時点でお前らも他人じゃないからな?

 それからアウグストを捕縛に向かった騎士達が戻ってくるまでの間、残った騎士達が家宅捜索を行う。
 告げておいた隠し部屋の隠し金庫からは、バラドリンドのスパイであることを裏付ける証拠が出るわ出るわ。
 そこには王族の趣味趣向から王城の見取図、警備内容から巡回ルートに見張りの交代時間、その他諸々の内部情報が大量に発見された。
 そしてバラドリンドから貰ったであろう証拠の書類も。

 おおすげぇ、あいつバラドリンドに爵位と法位、それに領地まで持ってるのか!? どう見たって真っ黒じゃねーか!

 だが、こうも証拠が揃い過ぎていると、逆に不自然さを感じずにはいられない。

 もしかして〝誰かがこうなることを狙って証拠物を置きまくっていた〟なんてことないよな?
 ヘタしたらジジイ以外にもスパイが居て、貶めるためにやっているとか。
 念のため、最近金遣いの荒い人間や、アイヴィナーゼの首都にあるバラドリンドの諜報活動拠点に出入りしている奴を洗い出しを進言しておいた方がいいかもだな。

 早速姫さんに先程の証拠物を見せながら話し合っていると、近衛騎士団の連中はアウグストを連れて戻って来た。
 宿の自室に居たところを捕縛したそうだ。

「これはどういうことだ! なぜ貴様がワシの家に居る!?」
「そこは気にするな、そんなことよりあの2人は何?」
「2人? なっ――知らん、ワシはあんな魔族知らんぞっ!? どうして魔族がワシの家に居るのだ!?」
「どうしてかなんて俺が聞きたいわ。とりあえずちょっと待って、お前の身の潔白を証明するための準備をしてやるから。潔白であればの話だけどな」

〝無罪を晴らすためなら何でもするよな?〟とアウグストを煽り、姫の奴隷として契約をさせ、クラウディア一行を王城へと送り届ける。
 その道中、アウグストが人目をはばからず喚き散らす。

「ワシは何も知らない、これは誰かの陰謀だ! さては貴様がワシをハメたのだな! 聞いているのか偽勇者!」
「うるさい」

 あまりにうるさいのでケツにタイキックをぶち込んで黙らせる。

 身体をひねり、足をしならせ、その勢いを余すことなく足に乗せて押し込むように打つべし!
 俺の蹴りが体育会系のこのジジイにどれ程の痛みを負わせたのかは不明だが、未成年を強姦する様な老害に蹴りの一発でもぶち込んでやらなければ気が済まなかった。

 序でにクラウディアに頼み、アウグストが虚偽を述べられないようにしてから同じことが言えるか尋ねてみたところ、不貞腐れた顔で押し黙った。

 あぁ、俺も誰かが陰謀でアウグストをハメた説を少しは疑っていたが、結局はこいつ自身まっくろくろすけだったかー。

 これから国王の前に連れ出し証言させるのだ、どんな言い訳をしてくれるのか楽しみである。

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