四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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200話 報告と今後

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 朝食を終えた俺はアイヴィナーゼ王国へ事後報告に向かうと、グレアム殿下の執務室に通された。
 執務室では国王をはじめとする首脳陣に加え、初顔となる要人が3人ほど。
 最初に出迎えてくれたのは10歳にも満たない少女だった。

「ようこそおこしくださいました、トシオさま」
「え、あ、はい、お邪魔します。え、なにこの可愛い子、お菓子食べる?」

 つたない言葉と愛らしい笑顔で迎えてくれた少女にしゃがんで目線を合わせると、ローザお手製の焼き菓子を袋ごと差し出す。
 明らかに少女より出来の悪い挨拶をしている気がしてならない24歳。

「妹のオフィーリアですわ。オフィーリア、お礼はちゃんと言えて?」
「はい、おねえさま。ありがとうございます、トシオさま」

 オフィーリアがピンクのドレスの端をつまみ、お遊戯会の劇のようなお辞儀を披露する。

「いえいえ、どういたしまして。オフィーリアちゃんはおいくつですか?」
「7つでございます」
「7つなのにちゃんと挨拶が出来てえらいねー。俺が7歳の頃なんて、こんなにきちんと挨拶出来た記憶が無いわ。まぁ今でも礼儀なんてなっちゃいないけど」
「これを機に貴族としての教養を身につけられてはいかがかしら? トシオさまもこれから必要となられるのですから」
「あ、そういうの結構です」

 クラウディアが暗にお前も王族になるんだよと言わんばかりに勧めてきたが、そうはなるまいと拒否させてもらう。

「こんなところに居ても退屈でしょ、あっちで食べておいで」

 オフィーリアを解放すると少女はこちらへ一礼し、クラウディア付きの侍女であるジャクリーンにお菓子の包みを渡してから母親らしき女性の元へ。

 もらったお菓子をすぐ口にしない辺り、本当にしっかりしていらっしゃる。
 
 そしてお菓子を受け取ったジャクリーンは、隣接する給湯室へと行ってしまった。

「あちらが母のジャネットと――兄のアルフォンスよ」

 クラウディアの紹介に小さく会釈する王妃と、とってつけた感のある笑顔を浮かべるアルフォンス王太子。
 ジャネット王妃は実の兄妹であるローザの母ジョゼットさんや、ライシーン領主のビレーデンさんとはかけ離れた細身の美女だった。

 ジョゼットさんが痩せたらちょっと似てるかも。

 アルフォンス王太子(20)は高身長の細マッチョ。
 笑顔がまぶしい好青年といった印象を受ける彼だったが、実は部屋に入る前からサーチエネミーにヒットする程の敵意を向けられていた。

 恨まれるようなことをした覚えはないんだが?
 笑顔の下に敵意を向けてくるような奴とは一生関わりたくないなぁ。

 兄の紹介に若干の間があったクラウディアに、2人の間に確執めいたものを感じる。
 そこでふと、クラウディアが迷宮内でサンドワームに襲われていた際の遺言に、兄のことには触れていなかったのを思い出す。

 咄嗟にしても兄貴だけ忘れるか普通?

 やはり何かありそうだと思っていると、アルフォンスが笑顔のまま歩み寄ってきた。

「貴殿がトシオ殿か、報告は受けている。妹が世話になったようだ」

 差しだされた右手。
 だが彼から発する敵意が消えた訳ではない。

「………」
「どうかしたかい?」
「いえ」

 不審に思いながらも手を握り返すと、手のひらの剣ダコと力強さに男らしさを感じた。
 その力強さは痛みを伴うまでに達してもなお弱まらず、咄嗟に肉体強化魔法を発動させる。
 込められた力は強化魔法が無ければ手の骨が折れる程の強さとなる。

 なに考えてんだこいつ、アイヴィナーゼにとっての俺はデリケートに扱う必要のある物体だと思うんだけど、そんなものの機嫌を損ねるようなことして何の得になるんだ?

「………」
「すまない、緊張で力が入りすぎてしまったようだ」

 歯を食いしばるほど力む男を氷点下の眼差しで瞳を見続けていると、男が薄ら笑いを浮かべながら手を放そうとした――が、今度は俺が男の手を離さず、そのままの冷たい眼差しで見つめ続けた。
 マスト殺すリストに新たな名を書き加えて。

「いやぁ、とても力強い腕ですね。魔法使いの俺ではこうも見事に引き締まりませんよ」 
「ぐっ……」

 俺の嫌味に王太子が腕の力だけで離そうともがくも、ピクリとも動かしてはやらない。
 この世界でも腕の太さは筋力に直結する。
 勇者のステータスボーナスで同じ筋力ボーナスが99だとしても、〝本来の筋肉量が多い程、その恩恵を得られる〟と、レンさんが教えてくれた。
 マッチョとはお世辞にも言えない俺を相手に純粋な力比べで勝てない時点で、体を鍛えている近接職にとっては悪夢に等しい。
 少しずつ力を込めてゆき、骨が折れない程度には締め付けてやると、王太子の顔が苦痛に歪む。
 それを確認したところで悪趣味な仕返しをすぐに止め、手を開放してやっった。

「すごい汗ですが大丈夫ですか、王太子殿下?」
「あ、あぁ……」
『これに懲りたらくだらないことしないでくれる?』
 
 念話でそう告げ、彼を置いてアイヴィナーゼ首脳陣の待つテーブルに着くと、ジャクリーンに似た地味っ娘メイドが、ティーセットを乗せた台を押しながら入ってきた。

「あの子はジャクリーンの双子の妹よ」

 隣りに座ったクラウディアが、顔を近づけ小声で紹介してくれる。

 双子と言うだけあってジャクリーンによく似ているな。

 鑑定眼がジャクリーンと同様蜘蛛女アラクネの姿をうっすらと映し出す。
 鑑定眼で本性が見れるお陰で、人間に化けている亜人種や異種族は見ていて楽しい。

「あら、これは……」

 俺が持参した焼き菓子を見て何かに気付いたジャネット王妃が、手に取り香りを確かめてから一口かじる。

「それはジョゼットさんの娘のローザが作ったものです」
「道理で香りと見た目が似ていると。……懐かしいわねぇ。食の細いわたくしのためにと、姉が毎日のように焼いてくれていたわ」

 薄っすらと涙と笑顔を浮かべてお菓子をむジャネット王妃。

 嫁ぐ前って、あの人貴族のご令嬢だった頃からそんなことしてたのか。
 道理で料理が上手い訳だ。
 
 マシンガントークと肉塊夫婦のイチャイチャアメリカンラブコメが脳裏によぎり、危うく笑いしそうになったので思い出をかき消す。
 
「ローザの作るお菓子は家でも大好評でして、よく焼いてくれるんですよ。なんでしたら、またお持ちしましょうか?」
「あらあら、よろしいの?」
「えぇ、なんでしたらワープゲートをライシーンに繋ぐことも可能です」
「まぁまぁ、今日はなんて素敵な日なのかしら。これ程心が躍ったのは、陛下の添い遂げたあの日以来ですわ!」
「ジャネットよさないか」

 興奮して少女のように喜ぶジャネット王妃に、耳まで赤くしたグレアム陛下が手で顔を隠しながら妻をたしなめた。

 さてはこいつらラブラブだな?

 そんなほっこりとするひと時の後、ウィッシュタニアで起きた事件の事後報告と共に、エルネスト新国王の依頼であるウィッシュタニアとの同盟締結の話を伝えてお開きとなった。
 


「トシオさまはやはりお優しい方ですわ」

 クラウディアに唐突にそう言われたのは、グレアム陛下から会談の日程調整を聞き終わった後、自宅での昼食後のことだった。

「え、なにが?」

 意味も意図も分からなかったので短い言葉で問い返しながら、食後の昼寝をむさぼる下着姿のトトの獣っ腹を優しくモフる。

 寝こけてるトトもかわいいなぁ。

「あ、もしかしてクラウディアもモフモフしたいの?」
「そうではありませんわ! ……母のこともそうですが、兄の行いを見逃したことを言っているのです」
「可愛い子には優しくしたいだけだからな」
「まさかトシオさま、兄をそんな目で見てらしたのですか!?」
「んな訳あるか。オフィーリアの前で実の兄貴が泣きわめく姿なんて見せられないだろ? そういうことだよ」

 俺の否定にホッとするクラウディア。

 気色の悪い想像はやめてもらいたい。

「ちなみにそのクラウディアさんのお兄さんはどんな感じでした? 一ノ瀬さんなら映像で出せますよね?」
「汚腐れ様、顔が近い。出してあげるから離れてくれ」

 ホモォのにおいを嗅ぎつけたよしのんからのけぞって離れようとすると、よしのんも近付きすぎたことに慌てて身を放す。

 男が苦手なくせにBLが絡むと距離感まで見失う辺り度し難い。
 そしてよしのんは一見地味だがメガネ美少女なので、こういう時は少し焦る。

「それでそれで、どんな感じです?」
「こんなやつ」

 魔法装甲エインヘリヤルの応用でアルフォンス王太子の立体光学映像を手のひらに作り出す。

「すごくかっこいいじゃないですか!」

 画版を肩に吊るし高速で万年筆を走らせるよしのん画伯。
 描いているものをクラウディアと2人でのぞき込むと、男同士が絡み合う線画が短時間で出来上がっていた。
 描き始めたタイミングからしてこの男同士が俺とアルフォンス以外に考えられないため、魔念動力でグシャリと握りつぶす。

「きゃー!? なんてことするんですか一ノ瀬さん! ここから魂入れるところなのに!」
「俺を絡めた絵を描くのはやめろ、気色悪い」
「ヨシノ様の創作物には一目も二目も置いておりましたが、そこに描かれているモノがわたくしの兄ではただの汚物。いいえ、見た者に不幸な死をもたらす邪神の肖像画以下ですわ」
「私の絵が呪のアイテム以下!?」

 2人からダメ出しを受けたよしのんがショックを受ける。

 BLの題材にされた俺が一番ショックだわ。
 あと王女様がよしのんの腐ったライフワークに二目も置くんじゃありません。

「そうそう、兄で思い出しましたわ。トシオさま、城の執務室を覗き見ることは出来ますかしら?」

 何かを思い出したクラウディアが、またも訳の分からない注文をよこす。

「できるけど――ノゾキミル?」
「えぇ、ワープゲートを用いて天井から室内を一望できるようにしていただけますかしら?」
「何が見たいか知らないけど……」

 クラウディアの頼みに応じ、先程話し合いをしていた執務室の天井に小さな穴を開けて空間をつなぐ。
 すると、つないだ穴からはグレアム殿下やマクシミリアン将軍、それにセドリック大臣の怒鳴り声が聞こえてきた。

「なんぞ?」
「覗いてみて下さいまし」

 クラウディアに言われるがままに穴を覗き込むと、執務室の床に正座させられているアルフォンス王太子を取り囲むヤンキー座りの強面3人衆。

「お前は何をしてくれてんだ?」
「国を潰すつもりか?」
「黙っててもわからないだろうが、なんとか言いたまえ」
「お前のような頭湯豆腐、堀に沈めて魚のえさにしてやろうか?」
「市中引き回しじゃろ」
磔刑たっけいor牛引きが妥当では?」
「それ採用」
「ひぃっ!?」

 などと吊し上げている光景を目の当たりにした。

 頭湯豆腐ってなんやねん……。

「なにこれ?」
「トシオ様に対する不埒な行いに対する制裁、といったところでしょうか?」
「うへぇ、20にもなってあんな吊し上げ絶対にされたくないわ」

 てか脅しとはいえ次期国王にクシミリアンさんとセドリックさんが死刑を推奨すいしょうとかどんな国家だよ……ってあれ? 

「これっていつからこの状態なん?」
「わたくしたちが城を出た直後からですわ」
「は、マジで?」
「大マジですわ」
「私たちがごはんを食べてる間もってことですよね?」
「当然ですわ」

 俺とよしのんの問いに、クラウディアが平然とした様子で食後のお茶をたしなみながらうなずいた。

 俺たちが城を出た直後からって、30分以上は軽く経ってますやん。

 いくらいけ好かない奴とはいえ、さすがにこれはもうやめてあげてと思わずにはいられない。
 同情を誘って俺の溜飲りゅういんを下げるためのアイヴィナーゼ首脳陣の作戦だとしたら、それは見事に功を奏していた。

「アイヴィナーゼの首脳陣は色々とエグいなぁ」
「私だったら泣いちゃいますよ」
「こんなん俺でも泣くわ」

 独房にぶち込まれるより遥かにキツい……。

 歳の近い男がつるし上げられる光景を見ているのはつらく、さりとて止めに入るのも恐ろしいため、ワープゲートをそっと閉じることしか出来なかった。

「お風呂頂いたけど――どうかしたの?」

 俺とよしのんがドン引きしていると、冒険者仲間でお風呂大好きなヴァルナさんがリビングに戻ってきた。
 鑑定眼で薄っすらと見えるイルカの皮膚感をしたタコ足が、彼女の本性がスキュラであると思い出させてくれる。

 ウェーブのかかった濡れた深緑の髪と上気した頬が色っぽい。

「いえ、なんでも」

 先程の光景を伝えるわけにもいかず適当にはぐらかすと、リシアがコップに冷えた紅茶を注いでヴァルナさんに渡した。

「ありがとうリシア」
「いえいえ。ところであなた、ヴァルナさんに言うことがあったのでは?」
「あ、そうだった」

 リシアに促されたことで、この前までアイヴィナーゼの王都で投獄され現在は別宅(旧アウグスト邸)で保護しているとある親子のことを思い出す。

「なにかしら?」
「ヴァルナさんのご親戚に、ヴァレリアとヴァララて親子は居たりします?」

 そう尋ねた瞬間、ふろ上がりで緩み切っていたヴァルナさんの表情が凍り付く。

 あぁ、居るのね。

「さ、さぁ? 知らないわね。……ところでその2人が、ど、どうかしたの?」

 一度はスッとぼけながらも、何気ない風を装い腹の底から無理やり絞り出した声で質問をするヴァルナさん。

 誰がどう見たって関係者ですやん……。

 濃緑色の髪を含めた面影が彼女に似ていること、名前が〝ヴァ〟から始まっていること、なにより種族が同じスキュラなことなど、共通点が多すぎて役満以外の何ものでもない。
 俺は包み隠さず「アイヴィナーゼでちょっとありまして」と前置きしてから、王都の別宅で保護している旨とその経緯、スキュラは魔族領の種族なため俺の奴隷下に置かれている状況を伝えた。
 それを聞いていたヴァルナさんの表情がみるみる青ざめていく。

「私はどうなっても良い。だから2人にだけは酷いことしないで、お願い……!」

 俺に脅されていますと言わんばかりの不穏な発言が飛び出した。

 俺ってどんだけ信用ありませんの?

「あの、何か勘違いしてません? 単に身元の確認と、もしよければ引き取って頂ければと思っただけなんですが?」
「え、そうなの? あんた亜人種の女なら誰かれかまわず手を出してるみたいだったから、てっきり母と妹を使って私も手籠めにしたいのかと……」
「手籠めって……」
「なんて言うかその、変な勘違いをしてたみたい。ごめん」

 気まずそうに謝るヴァルナさん。

 今までそんな風に思われていたのか。
 いやまぁこれだけ異種族の美女をかこっていたら、そう思われても当然っちゃぁ当然か。

「ところで、本当に母や妹には手を出してないのよね?」

 ヴァルナさんのダメ押しの確認に、そんなに言うなら逆に手を出してやろうと心に決めた。

 その後の話し合いで、モーディーンさんたちが開拓村の警備の仕事が終わり次第、彼女が家族を引き取る方向で話がまとまった。
 それから我が家の納屋とモーディーンさんたちが利用している宿の一室をワープゲートで繋いで固定し、いつでも家を経由して別宅に行ける様に手配した。

 オパーイのひと揉みくらいさせて貰ってもばちが当たらないレベルの配慮である。
 当然その時には皮膚がイルカの様な質感であるタコ足も一緒に堪能させてもらいたい。
 むしろその足で全身もみくちゃにされたい(願望)
 っと、馬鹿なこと考えてないでそろそろ出かけるか。

「それじゃ、そろそろ行ってくる」
「あら、どちらへ行かれるのです?」
「ちょっと野暮用」

 クラウディアには適当に返し、俺は裏のお仕事へと向かった。
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