四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

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211話 迷宮の最下層へ

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 場所はライシーン第五迷宮五十階層中心部。

 バラドリンドの6勇者に対抗すべく、俺たちは切り札となる〈ダンジョンコア〉を求めて迷宮攻略を再開した。
 五十階層の中心部に位置する場所には石材で組まれた大きな円形の昇降機があり、その中心部には巨大なクリスタルが石碑せきひのように存在した。

「ふあ~~っ……」
「眠そうでしゅね」

 クリスタルを見ながら大きなあくびを上げていると、すぐそばからフィローラがこちらを見上げていた。
 クセ毛の金髪に大きな眼鏡をかけたロリエルフの姿は、キツネ娘形態の本性と違いもふもふ感こそ失われるものの、この姿も非常に愛らしい。

「寝不足ですか……?」
「ん~最近なんか寝つきが悪くてね」

 フィローラの後ろに居たセシルも心配そうにたずねてくる。
 エルフを逸脱いつだつした豊満な肢体で、寝不足の原因の1つが顔を出しそうになる。

「良質な食事と睡眠こそ、冒険者の資本である健康を保つ基本。ちゃんと寝ないとダメだろう」
「んなの百も承知なんだけどちょっと……ね?」
「……あんた、もしかして寝る間も惜しんで盛ってるんじゃないわよねん?」
「んな訳あるか」

 ディオンとレスティーにイラっとしながらも平静で返す。
 実はレスティーの言ったこととは真逆で、さくらを家で預かってからというもの幼子の前で嫁とエチエチなことなどできるはずもなく、夜のお楽しみが一切無くなったのだ。
 これだけの美女たちにかこまれて夜の営みが出来ないのは、俺にとってはかなりのストレスである。
 戦争になるかもという緊張感が日に日に増し、ただでさえストレスが溜まっているのに、それを解消する最大の行為が禁じられている状況が余計に辛い。
 それだけに、最近借家で2人暮らしを始めたこのホモカップルの言葉が余計なイラ立つ。

 完全に逆恨みだな……。

「はぁ、またここに戻って来ちまったぜ……」
「ガハハ! そう言うなチャドよ、小僧が勝算も無くこのタイミングで迷宮攻略などと言うはずがなかろう!」

 俺が反省しつつも悶々もんもんとしていると、この階層で天使の群れに殺されかけたチャドさんがため息交じりで愚痴ぐちり、同じ目にったザーラッドさんが豪快に笑い飛ばした。
 今回はいつものレスティーたちやモーディーンさんたちベテラン勢にルージュを加えた総力戦である。
 未だに信用していないルージュを加えるのはどうかと思うが、これは〝強力なユニークスキル〈時間停止〉を保有するルージュに戦闘経験を積ませて戦力にしたい〟というウィッシュタニア側からの強い要望である。
 使えるものは何でも使えって気持ちはわからなくもないだけに、仕方なく了承した。 
 そのルージュはと言うと、この前見せた爆裂魔法がよっぽどショックだったのか、俺への敵意は鳴りを潜め、時折こちらに視線を向けてくる。

 そのまま大人しくしててほしい。

 それと総力戦なのに影剣さんが居ないのは、現在戦場と化す予定地で急ピッチな大規模工作が行われており、敵が通るであろう場所に火属性魔晶石ファイアクリスタルを加工した地雷を設置や、砦に風属性魔晶石ウィンドクリスタルを用いた強風を相手に向けることで相手に不利益を与えるような結界を張るなど、レンさん発案の兵器群も設けるためである。

 夜はバラドリンド大教会の潜入に昼は罠などの設置って、スーパー社畜星人のぼっちさんじゃあるまいし、あの人いつ寝てるんだ?

 ボーナススキルの〈睡眠耐性〉は通常の眠気が緩和かんわされる類いの者じゃないだけに、影剣さんの活動時間の異常さが心配になる。

 寝不足気味なのはこちらも同じだけど。

「あ、そうだ」

 あることを思い出したのでルージュに向き直ると、その挙動きょどうだけでルージュが体をビクつかせ、全身を甲冑に身を包んだマルグリットさんの背に素早く隠れた。

 薬が効きすぎたか?

「ルージュ、胸の爆弾は外しておくから、もし危ないと感じたら〈時間停止〉でもなんでも使って逃げろよ」
「え……、あーしの時間停止、使っても良いの? ……もしかしたらまたあんたを攻撃するかもしんないけど?」
「ここ数日のお前を見てると、人の信頼を裏切るような奴には見えないから信用しても良いかなって。それに、裏切るつもりの奴が自分から裏切るかもなんて口にするか」
「う、ん……。えへへ……、あーしがそんなしょぼいマネする訳ないじゃん! やるなら正々堂々真正面から叩き潰すのがあーしのスタイルなんだから!」
「あぁ、是非そうしてくれ」
 
 なぜか急に晴れやかな顔でそうのたまうルージュに、適当な相づちで返した。
 それっぽいことを言って、実は何1つ信用していない。
 単に胸に仕込んだ心臓止めの爆弾以外にも対抗手段を用意したのと、ウィッシュタニアの意向をんでから外してやっただけに過ぎない。

 殺し合いの最中に時間停止なんてチートスキルを迷うことなく使っておきながら何がそんなマネはしないんだか。
 数日前のこいつに聞かせてやりたいと心底思う。

「つーか、トモノリは連れて来なくていいの?」
「あの子は元々戦いとかが好きじゃないしな。そんな子を無理に連れても大けがの元だわ」
「ふ~ん、あんたも色々と気を使ってんだ」

 急になれなれしくなったルージュにこれまたイラっとしながら、戦うことが怖かったククを戦闘の真正面に立たせた俺が言っても説得力無いなぁと自虐する。

「そろそろ行きましょうか」

 このままここでグダグダしていても仕方が無いので皆を促しクリスタルへ近づいた。
 階層中央部には石材で組まれた大きな円形の昇降機があり、その中心部にあるクリスタルに触れると〝ガコン〟という音と共に昇降機が地面に沈み始めた。
 五十階層だった地面にゆっくりと沈む足元を不安げに見つめていると、すぐに五十一階層とご対面。
 地上から50メートル離れた天井付近から見る五十一階層の造りは、地形や木々の配置こそ違うものの五十階層とあまり変わらなかった。

「ウヒィッ」
「この高さなのに手スリが無いのって怖いですね」

 俺が小さく悲鳴を上げ、よしのんが四ついになって昇降機から顔を出し下を覗く。
 その突き出されたお尻に今朝のおぱんちゅ姿を思い出し目をそらした。

「トシオくん、ヨシノさん、我々のステータスなら落ちても死にはしませんにゃ」
「そういう問題じゃないと思うんだけど?」

 気楽に言ってのけるモーディーンさんにマルグリットさんがツッコミを入れる。
 高所恐怖症の俺もファイヤーボール式飛行魔法を習得した時にそんなことを思ったが、さすがに大阪城天守閣と同じくらいの高さともなると話は別だ。
 最低でもエインヘリヤルで装甲して飛行魔法をかけないと恐怖を打ち消せそうにない高さである。

 てか怖いとか言いながらよく落ちそうな場所に行けるなぁ。
 よしのんって度胸があるのか単に鈍感なのかって鈍感しかないな。

「一ノ瀬さん、今失礼なこと考えてませんでした?」
「言いがかりもいいとこだろ!?」
「あはは」

 俺のごまかしによしのんも自分の失礼さを笑ってごまかした。

 時々妙に鋭いから困る。

「これくらいの高さは鍛錬たんれんでしょっちゅう跳ね回っていたんだ、さすがに慣れたな」

 チャドさんが無精ヒゲの生えた顎をさすりながら下を覗き込む。

「それよりもトシオ、バラドリンド教国との開戦も間近だろ? あと何層あるかわからんダンジョンの攻略を今日中になんて本当に出来るのか?」
「それは考えがあるので最下層まで到着するのは可能なはずです」
「保障出来るのは攻略じゃなくて最下層に行くだけかよ。本当に大丈夫なのか?」
「最下層の敵がどれほど強いかにもよりますから、攻略できるかまではさすがに」

 無精ひげから手を放すことなく疑問を口にするが、どんな敵が待ち構えているのかは出会ってからでないと分からないだけに何とも言えない。

「Lv400でも苦戦するもんなの?」

 はじめて魔物と戦うであろうルージュが何も考えていなさそうな表情で問うてくるが、命に関わることなので安易な気休めは口に出せない。

「俺たち以上のステータスを持ったモンスターが現れたら当然苦戦するわな。特に迷宮のモンスターって共食いでレベル上げたり種族そのものが進化して凶悪な物体になってることもあるから、最悪即逃げもあり得る」
「うーわっ、共食いとかマジでキモいんですけど」
「言っとくけど、俺らが居た世界でも共食いする生物はかなり多いんだぞ?」
「そうなんだ」
「魚とか雑食性の虫なんかは殆どが共食いしてるからな」
「メダカも卵を産んだ後は隔離しないと、生まれた赤ちゃんが食べられるってお父さんが言ってましたよ」

 よしのんがメダカあるあるネタを挟んでくる間に、昇降機が五十一階層の地面に到達した。

「してお前様、これからどうするのじゃ?」

 それぞれが昇降機を降りると、イルミナさんが訪ねてきた。

「こうします。クラウ・ソラス!」

 無数の光弾を高速回転させて目の前に光のまゆを形成すると、それを地面に打ち込んだ。
 光の繭は地面を削りながらそのまま直進し、地中深くへと進んでいく。
 迷宮の地面や壁などはよっぽどのことが無い限り削れたりしないのだが、今の俺のクラウ・ソラスをもってすればこれくらいは造作もない。
 程なくして五十一階層と五十二階層との間にある岩盤をぶち抜くと、魔法装甲車両〈グリンブルスティ〉に皆を載せて下の階層へと降りた。
 あとは同じ工程で次の階層が現れなくなるまで掘り進み、六十八階層で終着を迎えた。

 穴は土魔法でガッチガチに固めて塞いだし、生態系的には問題ないだろ。

「デタラメにも程があるだろ……」
「さすが我が友~、とんでもない偉業を平然とやってのける~う~~~♪」
「だろ?」

 げっそりとぼやく犬耳少年のユーベルトと、リュートを鳴らし歌いながらの賞賛しょうさんを送ってくれる出っ歯エルフのアーヴィンへ、ニヤリと笑いながら親指を立てる。
 アーヴィンの隣りでは彼を心酔するカリオペが、相変わらず俺を睨んでいた。

 俺なにかやっちゃいましたか?

 未だ彼女に恨まれる理由がわからないだけに、対人関係の難しさを痛感させられた。
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