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213話 魔導装甲
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後にユニスはこう語った。
「あれは完全に捕食者の眼でしたね。止めるべきだと思いはしたのですが、食に対し極めて貪欲でトシオ殿と同等の魔法を扱えるあの子を私に止められるはずがないと諦めました」
体長40メートル、一番デカいので80メートルはあろう6匹の鎧の大蛇を、ミネルバが大木の高い位置に陣取り狙いを定める。
ミネルバが止まる大木へと巨大な頭に生えた鋭利な角を向けバチバチと帯電音を鳴らすと、黒い雷が一斉に打ち出された。
漆黒の雷が束となって一直線にミネルバへ伸び、俺の心が悲鳴を上げる。
しかし狙われた本人は眼前でブリージンガメンを展開。
無数にばらまかれた小さな防御盾で雷撃を相殺して阻んだ。
自分が攻撃されるより心臓に悪い。
「我らの攻撃を防ぐとは生意気な鳥なの蛇!」
「なかなかにやるよう蛇が、どの道食われるが定め蛇」
「いいや、あれはワシが食らう。ここいらの奴らには飽いておったの蛇、たまには別のを食わんとのう!」
「それはワシも同じこと、うぬらはすっこんでおるの蛇!」
「ちいとばかりワシより先に生まれたからと偉そうに、貴様こそ下がっておればよいの蛇!」
語尾の〝蛇〟がウゼェ。
翻訳スキルを切っても良いですか?
ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ、早く止めないと!
慌てて飛び出そうとしたところでミネルバが大木の幹を蹴り、空に飛び立つのを許してしまう。
「〈ネヴァン〉……!」
ミネルバが大きく翼を広げながら魔法を発動。
彼女の身体が魔法外骨格の強化装甲に包まれると、全長15メートルの女性のようなフォルムを形成した。
見た目は確かに女性だが、腕と腰には群青色をしたガラスで出来ているかのように透けた翼と尾羽があり、太ももから下は逆関節な鳥の脚といった、漫画などでよく見るハーピーの形をしていた。
その洗練されたデザインに思わず見とれてしまう。
彼女が使ったのは、俺がクレアル湖ですでに稼働実験を済ませたエインヘリヤルの拡張型だ。
仮に〈魔導装甲〉とでも呼ぶべきそれは、〈巨大ロボ〉な外見をしていた。
巨大な外骨格は非常に燃費が悪いモノの、防御面ではヤトノカミの様な巨体を持つ魔物相手に使うには打って付けかもしれない。
そんな巨大なハーピーが重量を感じさせない動きで天井の低い空を旋回すると、蛇たちが届かない場所から巨大な氷の槍を機関砲の様に連射した。
蛇たちも黒い霧を口から吐いて防御幕を展開して攻撃を阻む。
『お父様、アレを……』
ミネルバから念話と共に〝索敵魔法に使う集中力が惜しい〟という意図をイメージとして送られてきたので、すぐさまご所望の魔法を発動させる。
『〈イージスシステム〉起動!』
説明しよう。
イージスシステムとは、ボーナススキル〈ブレイブハート〉などの精神操作系スキルに組み込まれた〈スキルのPT共有化〉を解析し、複合索敵魔法〈フリズスキャールヴ〉に組み込むことで情報の共有化を行ったものである。
欠点としては、俺が情報を集積し受け手に発信する形なため、俺が知りえた情報しか共有できず、先程のミネルバみたく強くイメージを送られて来たものをこちらでまた発信しないと情報が共有できない手間とタイムラグがある。
『来ました。聞いてはいましたがこれはすごいですね、周囲の状況が直接頭に入ってきます』
『なによこれ、あんたこんなの使ってあーしと戦ってた訳? ちょっとズルくない?』
『ちょっとどころかもう別次元でしょ。これだけはっきりと周りがわかるなら、目を瞑ってたって戦えるわよ』
ユニスの報告でリンクされたことを確認すると、ルージュが憤慨しマルグリッドさんが呻いた。
『これなら……』
周辺状況の把握を俺に丸投げしたミネルバが小さく呟くと、アイシクルスピアを蛇の居ない地面へと放った。
放たれた氷槍が地面に当たる直前で直角に軌道を変え、黒い霧の無い側面から大蛇たちを横射。
高速で飛来する横からの攻撃に対応が遅れた蛇たちの体に、氷の巨槍が深々と突き刺さる。
「ぐぎゃああああ!」
「おのれおのれ、大人しくワシの腹に収まればいいものを!」
「生意気な鳥め、必ずその羽根を引き裂いてから足からじわじわと食ろうてやる!」
大蛇たちが痛みでのたうちながらも恨み言を垂れ流していると、〝パン!〟と空気が爆ぜるような音が迷宮の空から響いた。
「ぬっ、あの鳥どこに行きおった!?」
「どこにも居らぬの蛇!」
頭上にミネルバが居ないことに気付いた大蛇たち必死にその姿を探すが、お探しの相手は羽根を畳んで音速を突破し既に遥か彼方。
無駄に広いとはいえ天井のある迷宮内を15メートルもの物体が音速飛行するのだ、索敵魔法に使う集中力も惜しい訳と納得する。
遠くで旋回しこちらに向きを変えながら折りたたんだ羽根の先から魔力を噴射して加速をつけると、自身の体を蛇たちからブラインドになるよう森スレスレの低空飛行で一気に距離を詰めた。
自分は索敵魔法で相手を捉え、相手にはその位置を悟らせないとか超絶にタチが悪い。
あれ絶対加速スキルの〈クイックスピード〉に永続化した〈弾速強化魔法〉を重ね掛けしてるだろ。
飛翔体の軌道に危険を感じた俺は、防御魔法でPT全体を覆った。
音速を超えたミネルバが森を抜けそのまま大蛇の群れに突っ込むと、その中で一番小さかった蛇を足で掴んでかっさらった。
遅れてやってきたソニックブームが防御魔法を打ち付ける。
「「「「「ナナツグーーー!!!!」」」」」
大蛇たちが弟であろう攫われた蛇の名を叫ぶも、攫われた大蛇は音速による風圧で暴れることもままならない。
大蛇が動けないのを確認した巨大鳥人間が遠くの方で横に大きく弧を描くと、再びブラインド殺法を駆使してこちらに戻って来る。
あ、あれはアカン。
『みんな衝撃に備えろ!』
ミネルバの動きで次の行動を予想した俺は、皆に指示を出すとともにククへとイメージを送る。
『シタデルウォール!』
送ったイメージに従ったククが大盾を構え、防壁スキルで俺たちと大蛇たちを隔てる様に強固な壁を作る。
それとほぼ同時に森を抜けたミネルバが、大蛇の群れめがけて掴んでいた個体を投下。
40メートルの巨大質量弾となった大蛇が地面を跳ね転がりながら仲間たちの元へゴールIN、その衝撃で大蛇たちの鎧のような外皮が割れ肉が千切れ、大量の赤黒い血しぶきが宙に舞う。
投げ落とされた個体に至っては肉体がバラバラで、すぐに粒子となって消失した。
遅れてやってきた強い衝撃と砲弾と化した肉片を、シタデルウォールによる防壁に打ち付けられた。
『まるで昔お父さんと見た怪獣映画みたい……』
よしのんが落ちそうになる眼鏡を抑えながら、俺が思っていたことと全く同じ感想を口にする。
眼前では5匹の大蛇がピクピクと体を震わせ虫の息といった有様で、戻ってきたミネルバがその内の1匹の頭を文字通り鷲掴みにして丘の上へ連れ去ると、地面に抑えつけた。
赤黒い血を流すその上に魔鎧装甲の胸部から姿を現した4メートル妖鳥が静かに降り立ち、鋭い爪と強靭な足で巨体を覆う鎧のような皮を容赦なく引き剥がし、露わになった肉に食いついた。
血に染まるミネルバの顔は赤く上気し、艶やかな瞳と美しい横顔に思わず色気を感じてしまう。
「な、なぜ貴様がワシを食っておるの蛇……? 食らうのはワシのはず蛇ぞ……!」
生きながらに食われる蛇が恨みを口にするも、受けたダメージの大きさと頭を押さえられた状態では身動きすら叶わず。
他の4匹も虫の息で、兄弟が食われるのを見るどころか聞いているのかも怪しい状態だ。
こんなんで停戦を持ち掛けても絶対に無理ですやん。
「おい、俺と〈魔物契約〉するなら従魔として生かしてやるが、どうする?」
無理だと思いながらも姿を現して蛇たちに尋ねると、大蛇が薄っすらと目を開けた。
「おお、人蛇、人の子蛇……」
「鳥の次は人蛇と……?」
「人蛇な……」
「久々の人の肉が食えそう蛇……」
「蛇がオスではないか……。ワシはメスの方が柔らかくて好き蛇……」
「ワシはイチイロウ兄蛇とちがい、硬い方が好き蛇……。こやつで構わんの蛇……」
「ならワシはガキが良い蛇……」
「ガキか……。ガキも良いが今はこやつでも食ろうてくれよう……」
大蛇たちがぐったりとしながらも弱弱しく体を動かし、俺を捕食せんとゆっくりと向かってきた。
俺の言葉はわかるはずだが、会話として成立していなかった。
「人を食うことしか頭にない化け物じゃねぇか」
「トシオよ、お前の気持ちは汲んでやりたいが、冒険者として人食いの魔物を生かしてはおけん。覚悟が定まらんのならワシがやるぞ」
俺のボヤキにザァラッドさんがそう言うと、ベテラン冒険者たちも得物を構えて前に出る。
「いえ、さすがに会話の成り立たない人食いの魔物まで情けをかける気はありませんので大丈夫です。総員、攻撃用意――放て!』
目の前大蛇への攻撃命令を下し、大蛇たちを葬った。
しばらくして満腹になったミネルバが、大蛇の頭部を握りつぶし、最後の1匹の頭部を潰して粒子に変えると いつもの雛鳥サイズとなってユニスの背に着地する。
顔に付着した血も黄緑色の粒子となって消えていた。
「ただいま……」
「ただいまではない。今回は上手く行ったが、もし何かあったらどうするの!」
「ごめんなさい……」
ユニスのお説教に、しゅんとしたミネルバが素直に謝る。
「トシオ殿も言ってやってください!」
「え、あぁ、そうだね。……ミネルバ、次やったらごはん抜きね?」
「チぃッ!?」
食い意地の張ったミネルバには効果的かなと言ってみたところ、びっくりしすぎて普段聞いたことのない鳴き声と共に首を引っ込める潰れ饅頭。
初めて見るミネルバの反応に吹きそうになった俺の袖を、後ろからクイクイと引っ張られた。
振り返ると不安げなトトとその隣にメリティエの姿が。
「トシオ~、ごはん抜きはあんまりだよー、あてだったら死んじゃうよ?」
食いしん坊娘がここにも居たわ。
別に絶食のつもりで言ったんじゃないんだが。
「1食抜いたくらいで死んでたまるか」
「えー? 昔夜ごはんが食べられなかったら、お腹すいて死にそうになったよー?」
トトの真剣な訴えに思わず彼女の姉へ顔を向けると、笑顔で首を横に振った。
これはトトが大げさに言ってるだけだな。
「んじゃトトがメシ抜きになったら俺も抜くわ。だから一緒に死んでくれ」
「こわっ、なに無理心中せまってんのよ。キモイんですけどサイコパスのストーカーですかー? 死ぬなら誰も居ないところで1人寂しく死んでもらって良いですかー?」
トトに笑顔で告げてやったら、近くに居たルージュに侮蔑の眼差しで冷たく罵られた。
「うるさいバーカ。お前こそカメムシの如く腋臭をこじらせて死んどけバーカ」
「フンっ」
唐突に脈絡もない絡んできたルージュの悪態に口で応戦するも鼻で笑われてしまう。
カメムシは自分が分泌する臭いで死ぬことがあるという博識さが伝わらないだと!?
「トシオ殿は時々どうしようもなく語彙力が低下しますね」
「そこがこの人の可愛い所よ」
ユニスの呆れにリシアが慈母の如き優しさで受け入れてくれた。
「リシア愛してる!」
悔しさと不甲斐無さと心細さを振り払い、人目をはばかることなく最愛の猫耳妻を抱きしめた。
「あれは完全に捕食者の眼でしたね。止めるべきだと思いはしたのですが、食に対し極めて貪欲でトシオ殿と同等の魔法を扱えるあの子を私に止められるはずがないと諦めました」
体長40メートル、一番デカいので80メートルはあろう6匹の鎧の大蛇を、ミネルバが大木の高い位置に陣取り狙いを定める。
ミネルバが止まる大木へと巨大な頭に生えた鋭利な角を向けバチバチと帯電音を鳴らすと、黒い雷が一斉に打ち出された。
漆黒の雷が束となって一直線にミネルバへ伸び、俺の心が悲鳴を上げる。
しかし狙われた本人は眼前でブリージンガメンを展開。
無数にばらまかれた小さな防御盾で雷撃を相殺して阻んだ。
自分が攻撃されるより心臓に悪い。
「我らの攻撃を防ぐとは生意気な鳥なの蛇!」
「なかなかにやるよう蛇が、どの道食われるが定め蛇」
「いいや、あれはワシが食らう。ここいらの奴らには飽いておったの蛇、たまには別のを食わんとのう!」
「それはワシも同じこと、うぬらはすっこんでおるの蛇!」
「ちいとばかりワシより先に生まれたからと偉そうに、貴様こそ下がっておればよいの蛇!」
語尾の〝蛇〟がウゼェ。
翻訳スキルを切っても良いですか?
ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ、早く止めないと!
慌てて飛び出そうとしたところでミネルバが大木の幹を蹴り、空に飛び立つのを許してしまう。
「〈ネヴァン〉……!」
ミネルバが大きく翼を広げながら魔法を発動。
彼女の身体が魔法外骨格の強化装甲に包まれると、全長15メートルの女性のようなフォルムを形成した。
見た目は確かに女性だが、腕と腰には群青色をしたガラスで出来ているかのように透けた翼と尾羽があり、太ももから下は逆関節な鳥の脚といった、漫画などでよく見るハーピーの形をしていた。
その洗練されたデザインに思わず見とれてしまう。
彼女が使ったのは、俺がクレアル湖ですでに稼働実験を済ませたエインヘリヤルの拡張型だ。
仮に〈魔導装甲〉とでも呼ぶべきそれは、〈巨大ロボ〉な外見をしていた。
巨大な外骨格は非常に燃費が悪いモノの、防御面ではヤトノカミの様な巨体を持つ魔物相手に使うには打って付けかもしれない。
そんな巨大なハーピーが重量を感じさせない動きで天井の低い空を旋回すると、蛇たちが届かない場所から巨大な氷の槍を機関砲の様に連射した。
蛇たちも黒い霧を口から吐いて防御幕を展開して攻撃を阻む。
『お父様、アレを……』
ミネルバから念話と共に〝索敵魔法に使う集中力が惜しい〟という意図をイメージとして送られてきたので、すぐさまご所望の魔法を発動させる。
『〈イージスシステム〉起動!』
説明しよう。
イージスシステムとは、ボーナススキル〈ブレイブハート〉などの精神操作系スキルに組み込まれた〈スキルのPT共有化〉を解析し、複合索敵魔法〈フリズスキャールヴ〉に組み込むことで情報の共有化を行ったものである。
欠点としては、俺が情報を集積し受け手に発信する形なため、俺が知りえた情報しか共有できず、先程のミネルバみたく強くイメージを送られて来たものをこちらでまた発信しないと情報が共有できない手間とタイムラグがある。
『来ました。聞いてはいましたがこれはすごいですね、周囲の状況が直接頭に入ってきます』
『なによこれ、あんたこんなの使ってあーしと戦ってた訳? ちょっとズルくない?』
『ちょっとどころかもう別次元でしょ。これだけはっきりと周りがわかるなら、目を瞑ってたって戦えるわよ』
ユニスの報告でリンクされたことを確認すると、ルージュが憤慨しマルグリッドさんが呻いた。
『これなら……』
周辺状況の把握を俺に丸投げしたミネルバが小さく呟くと、アイシクルスピアを蛇の居ない地面へと放った。
放たれた氷槍が地面に当たる直前で直角に軌道を変え、黒い霧の無い側面から大蛇たちを横射。
高速で飛来する横からの攻撃に対応が遅れた蛇たちの体に、氷の巨槍が深々と突き刺さる。
「ぐぎゃああああ!」
「おのれおのれ、大人しくワシの腹に収まればいいものを!」
「生意気な鳥め、必ずその羽根を引き裂いてから足からじわじわと食ろうてやる!」
大蛇たちが痛みでのたうちながらも恨み言を垂れ流していると、〝パン!〟と空気が爆ぜるような音が迷宮の空から響いた。
「ぬっ、あの鳥どこに行きおった!?」
「どこにも居らぬの蛇!」
頭上にミネルバが居ないことに気付いた大蛇たち必死にその姿を探すが、お探しの相手は羽根を畳んで音速を突破し既に遥か彼方。
無駄に広いとはいえ天井のある迷宮内を15メートルもの物体が音速飛行するのだ、索敵魔法に使う集中力も惜しい訳と納得する。
遠くで旋回しこちらに向きを変えながら折りたたんだ羽根の先から魔力を噴射して加速をつけると、自身の体を蛇たちからブラインドになるよう森スレスレの低空飛行で一気に距離を詰めた。
自分は索敵魔法で相手を捉え、相手にはその位置を悟らせないとか超絶にタチが悪い。
あれ絶対加速スキルの〈クイックスピード〉に永続化した〈弾速強化魔法〉を重ね掛けしてるだろ。
飛翔体の軌道に危険を感じた俺は、防御魔法でPT全体を覆った。
音速を超えたミネルバが森を抜けそのまま大蛇の群れに突っ込むと、その中で一番小さかった蛇を足で掴んでかっさらった。
遅れてやってきたソニックブームが防御魔法を打ち付ける。
「「「「「ナナツグーーー!!!!」」」」」
大蛇たちが弟であろう攫われた蛇の名を叫ぶも、攫われた大蛇は音速による風圧で暴れることもままならない。
大蛇が動けないのを確認した巨大鳥人間が遠くの方で横に大きく弧を描くと、再びブラインド殺法を駆使してこちらに戻って来る。
あ、あれはアカン。
『みんな衝撃に備えろ!』
ミネルバの動きで次の行動を予想した俺は、皆に指示を出すとともにククへとイメージを送る。
『シタデルウォール!』
送ったイメージに従ったククが大盾を構え、防壁スキルで俺たちと大蛇たちを隔てる様に強固な壁を作る。
それとほぼ同時に森を抜けたミネルバが、大蛇の群れめがけて掴んでいた個体を投下。
40メートルの巨大質量弾となった大蛇が地面を跳ね転がりながら仲間たちの元へゴールIN、その衝撃で大蛇たちの鎧のような外皮が割れ肉が千切れ、大量の赤黒い血しぶきが宙に舞う。
投げ落とされた個体に至っては肉体がバラバラで、すぐに粒子となって消失した。
遅れてやってきた強い衝撃と砲弾と化した肉片を、シタデルウォールによる防壁に打ち付けられた。
『まるで昔お父さんと見た怪獣映画みたい……』
よしのんが落ちそうになる眼鏡を抑えながら、俺が思っていたことと全く同じ感想を口にする。
眼前では5匹の大蛇がピクピクと体を震わせ虫の息といった有様で、戻ってきたミネルバがその内の1匹の頭を文字通り鷲掴みにして丘の上へ連れ去ると、地面に抑えつけた。
赤黒い血を流すその上に魔鎧装甲の胸部から姿を現した4メートル妖鳥が静かに降り立ち、鋭い爪と強靭な足で巨体を覆う鎧のような皮を容赦なく引き剥がし、露わになった肉に食いついた。
血に染まるミネルバの顔は赤く上気し、艶やかな瞳と美しい横顔に思わず色気を感じてしまう。
「な、なぜ貴様がワシを食っておるの蛇……? 食らうのはワシのはず蛇ぞ……!」
生きながらに食われる蛇が恨みを口にするも、受けたダメージの大きさと頭を押さえられた状態では身動きすら叶わず。
他の4匹も虫の息で、兄弟が食われるのを見るどころか聞いているのかも怪しい状態だ。
こんなんで停戦を持ち掛けても絶対に無理ですやん。
「おい、俺と〈魔物契約〉するなら従魔として生かしてやるが、どうする?」
無理だと思いながらも姿を現して蛇たちに尋ねると、大蛇が薄っすらと目を開けた。
「おお、人蛇、人の子蛇……」
「鳥の次は人蛇と……?」
「人蛇な……」
「久々の人の肉が食えそう蛇……」
「蛇がオスではないか……。ワシはメスの方が柔らかくて好き蛇……」
「ワシはイチイロウ兄蛇とちがい、硬い方が好き蛇……。こやつで構わんの蛇……」
「ならワシはガキが良い蛇……」
「ガキか……。ガキも良いが今はこやつでも食ろうてくれよう……」
大蛇たちがぐったりとしながらも弱弱しく体を動かし、俺を捕食せんとゆっくりと向かってきた。
俺の言葉はわかるはずだが、会話として成立していなかった。
「人を食うことしか頭にない化け物じゃねぇか」
「トシオよ、お前の気持ちは汲んでやりたいが、冒険者として人食いの魔物を生かしてはおけん。覚悟が定まらんのならワシがやるぞ」
俺のボヤキにザァラッドさんがそう言うと、ベテラン冒険者たちも得物を構えて前に出る。
「いえ、さすがに会話の成り立たない人食いの魔物まで情けをかける気はありませんので大丈夫です。総員、攻撃用意――放て!』
目の前大蛇への攻撃命令を下し、大蛇たちを葬った。
しばらくして満腹になったミネルバが、大蛇の頭部を握りつぶし、最後の1匹の頭部を潰して粒子に変えると いつもの雛鳥サイズとなってユニスの背に着地する。
顔に付着した血も黄緑色の粒子となって消えていた。
「ただいま……」
「ただいまではない。今回は上手く行ったが、もし何かあったらどうするの!」
「ごめんなさい……」
ユニスのお説教に、しゅんとしたミネルバが素直に謝る。
「トシオ殿も言ってやってください!」
「え、あぁ、そうだね。……ミネルバ、次やったらごはん抜きね?」
「チぃッ!?」
食い意地の張ったミネルバには効果的かなと言ってみたところ、びっくりしすぎて普段聞いたことのない鳴き声と共に首を引っ込める潰れ饅頭。
初めて見るミネルバの反応に吹きそうになった俺の袖を、後ろからクイクイと引っ張られた。
振り返ると不安げなトトとその隣にメリティエの姿が。
「トシオ~、ごはん抜きはあんまりだよー、あてだったら死んじゃうよ?」
食いしん坊娘がここにも居たわ。
別に絶食のつもりで言ったんじゃないんだが。
「1食抜いたくらいで死んでたまるか」
「えー? 昔夜ごはんが食べられなかったら、お腹すいて死にそうになったよー?」
トトの真剣な訴えに思わず彼女の姉へ顔を向けると、笑顔で首を横に振った。
これはトトが大げさに言ってるだけだな。
「んじゃトトがメシ抜きになったら俺も抜くわ。だから一緒に死んでくれ」
「こわっ、なに無理心中せまってんのよ。キモイんですけどサイコパスのストーカーですかー? 死ぬなら誰も居ないところで1人寂しく死んでもらって良いですかー?」
トトに笑顔で告げてやったら、近くに居たルージュに侮蔑の眼差しで冷たく罵られた。
「うるさいバーカ。お前こそカメムシの如く腋臭をこじらせて死んどけバーカ」
「フンっ」
唐突に脈絡もない絡んできたルージュの悪態に口で応戦するも鼻で笑われてしまう。
カメムシは自分が分泌する臭いで死ぬことがあるという博識さが伝わらないだと!?
「トシオ殿は時々どうしようもなく語彙力が低下しますね」
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