忌み嫌われる夜の令嬢ですが国家の中枢を担っています

think

文字の大きさ
7 / 88

苦悩する王子

しおりを挟む
王子セイクリッドは朝早くに目を覚ますと、カーテンを開いた。
前夜の生誕祭の賑わいが嘘のように静かな朝。
彼は昨日会ったライラックのことを思い出す。

彼女はさらに美しくなっていたな……

頭の中にある表情、声、身体が鮮明に脳内に映し出されると身体が火照っていく。

また会える日まで一ヶ月か……
どうにかして会いに行けないものか?

少し考え込んだセイクリッドだったが、父の忠告が頭によぎった。

その恋心は叶わんぞ。

同じ国の王子と伯爵令嬢。
結ばれてもおかしくない二人だが、現実は不可能に近い。
太陽と月に例えれば分かりやすいか。
その二つが触れ合うと、全てが滅ぶ。

「ふぅ……顔を洗って剣でも振るか……」

彼はそう思い立つと、洗面所へと向かった。
道すがら使用人が挨拶をする中、廊下を歩く。
そうして洗面所で顔を洗い、幾分すっきりとした表情を見せると中庭へと向かう。

王城から出た瞬間、綺麗に植えられた花々がセイクリッドを出迎える中、彼は片隅にある木造の管理小屋に目を移す。
そこに彼の練習用の木剣があるのだ。

ガタン。

小屋のドアを開くと園芸用品がところ狭しと並んでいる。
そういったものと並んで、一本の木剣が立てかけてあった。
木剣とはいえ、柄には装飾があり王子が使うに相応しい剣だ。
そんな一振りを持って小屋を出ると、大きな木の下で剣を上段から振り下ろした。

「ふっ!」

気迫とともに振り下ろされた剣が空気を切り裂く。
その凄まじい剣筋を縦横斜めと縦横無尽に繰り出すと、頭の中が空っぽになる。
そう思ったのだが、

「くっ……」

浮かんでくるのはライラックの姿だった。

「ライラック……」

彼がライラックと初めて会ったのは自身の十歳の誕生パーティーのとき。
真っ黒な髪とドレス。
自分のパーティーに相応しくないその格好に憤りを覚えたが、その顔を見た時に一瞬で心奪われた。
まだ少女のはずだというのに、他の令嬢が霞んで見えるほどの美しさ。
彼の心は高鳴った。
セイクリッドは父に問う。
彼女は誰ですか、と。
すると父は忌まわしそうに表情を歪めた後に、あやつらはレミゼラルムーン家だ。忌々しい奴らよ。と言い放った。

レミゼラルムーン家。
その名は知っていた。
歴史はあれど品格はなし。
それが王族と貴族の認識だった。
しかし彼は思った。
彼女の立ちふるまいは、どの令嬢よりも美しいと。
そう思う中でパーティーが進むとライラックが父親に連れられて、セイクリッドの前へとやってきた。

「娘とは初めてお顔を合わされますな。ほらお二方に挨拶なさい」

「お初にお目にかかります。ライラックと申します」

「ふん。そうか」

父がぞんざいにあしらうが、彼の瞳はライラックに釘付けだった。

「ライラック……」

「はい」

セイクリッドが呟き、それを聞いたライラックがにこりと微笑んだ瞬間、彼の胸は高鳴っていた。
自分でもこれが初恋なのだと分かるほどに。
父の手前上、それ以上は何もせずにいたがダンスのパートーナーを申し出たかった。
だが、それが許されないとも察した彼はその気持ちを押し殺すのだった。
そしてその気持ちは収まるどころか彼が成長するにつれ増していくばかり。

「この想い、そうやすやす断ち切れんな……」

剣を横に振るった後、彼は空を見上げた。
青く澄み晴れた空には太陽がある。

彼女は今頃眠っているのだろう。

そう思うとセイクリッドの心は重くなった。
その重みを振り払う為、

「はぁっ!」

彼は剣をまっすぐに振り下ろすのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!

satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。  私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。  私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。  お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。  眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!

処理中です...