18 / 88
異国連合の本部へ
しおりを挟む
報告書を読んでから三日の時が過ぎた。
今日がデレリアット侯爵に関する報告期限日。
───ライラックの執務室───
私はゼオンの持ってきた書類の束に目を通す。
「あれから大人しくはしてるみたいね」
一度、第三騎士団に捕まったデレリアット侯爵は、夜遊びすることなく過ごしている。
「はい、仕事に関しても部下に任せっきりのようで屋敷から出ていません」
「頭を引っ込めた亀ね……」
「言い得て妙ですね」
「当然夫婦関係は最悪で、式を挙げてからは夫人は別館で暮らしている、と」
「デレリアット侯爵も肩書さえ手に入れてしまえば夫人のことなどどうでもよかったのでしょう」
「同じ女として、何とか助けてあげたいものね」
「離縁させるにはそれなりの不祥事を暴く必要があるでしょう」
「もう少し時間が必要かしら……」
私たちは、少し沈黙の時間を過ごす。
「あっ、そうだわ」
「なにか良い考えでも」
「異国連合の本部に行ってみましょう」
「敵……とまではいきませんがあまり友好的ではない場所へ向かうつもりですか?」
「ええ、同業のよしみで挨拶がてらにね」
「気軽におっしゃいますね……」
「大丈夫大丈夫。あちらも不用意なことはしないでしょうから」
「賛成はしかねますが、言っても聞かないのでしょう?」
「分かる?」
「長いお付き合いですから。分かりました。護衛はどうされます?」
「いつも通りハオルだけでいいわ。大人数で行けば警戒されるでしょうし」
「……かしこまりました」
おでこに手を当てて、ため息を吐くゼオンだった。
そうして夕方、ナディアスの街が活発になる頃、私とハオルは馬車に揺られて西エリアに向かっている。
「姉様、到着しました」
ハオルが馬車を停めると、中央と西の狭間にある馬車乗り場で降りる。
乗り場のスタッフに馬車を預けると、西エリアへと向かっていく。
今日のドレスは少し派手に黒地に金の斜線が刺繍されたもの。
その他にはフリルなどはなく、東洋の民族衣装に近い。
半袖、足には大きなスリットが入っており、なんとも動きやすい。
ハオルはそんなドレスに不満そうではあるけど、今回は動きやすさが肝要であるので不満を口には出さなかった。
西エリアに入ってすぐに目に付くのは亜人と言われる種族であり、動物の耳や尻尾が特徴の彼らは最近増えてきた移民。
そんな彼らは同じ外国人が運営する異国連合に多く集まっている。
一応、私たちのエリアにも少数は居るのだけどそう多くはない。
そのため、同じ街とは思えないほどに異国感があるけど、街の作りは似たようなものでどのような店かは王都民でも分かるようになっている。
「あらあら、注目の的ね」
「それはそうでしょう。レミゼラルムーン家の当主がいるのですから」
「まあいいわ。さっさと本部に向かいましょう」
「場所は分かるのですか?」
「ゼオンが調べてくれてるわ。本当に有能よね」
「むぅ……」
ゼオンを褒めたのが気に障ったようで、ハオルはふくれっ面になる。
「ほらほら、今はあなたが頼りなんだから」
「はい!姉様はボクが守りますから!」
我が弟ながら単純な子である。
私は笑いながら、道を歩いていた。
そんなときに、
「失礼ですが、ライラック様でいらっしゃいますね?」
黒いスーツを纏った背の高い犬耳を持つ亜人の男が立ち塞がった。
彼の後ろには同じ種族の二人が控えている。
「そうよ」
「どういったご要件でしょうか?」
「貴方がたの本部に挨拶をしようと思って。本部長はいらっしゃるんでしょう?」
この時間には本部に着たばかりのはず。
「ずいぶんとお調べになっているようで?」
「ふふっ。唐突な訪問失礼します」
「……ご案内いたします」
「あら、ありがとう」
先頭の亜人が背中を向けると、ハオルはふっと息を吐いた。
それから五分ほど歩くと、先頭を歩く男たちは三階建ての石造りの建物の前で止まった。
鉄柵の門の内側には緑の芝生があり、噴水も見えるというなかなかに豪華な造りね。
「本部長にお客様だ」
「ああ、分かった」
門番には二人組の亜人の男。
こちらは熊のように大きな身体と耳を持っている。
さすが本部というわけね。
屈強なガードマンだこと。
「申し訳ないが、そちらの少年は身体を改めさせてもらえるか?」
「ええ、もちろんよ。ハオル、よろしくね」
「分かりました」
ハオルは両手を上げると、二人のガードマンは胸元や腰のポケット辺りを探っていく。
「協力感謝する」
「いえ」
ハオルは短く答えると、スーツを着直した。
「それではどうぞ」
その言葉と同時に、二人の門番が鉄柵をキィィィ……と小さな音立てて開いていく。
───異国連合本部、本部長執務室───
コンコン。
「失礼いたします。レミゼラルムーン家当主、ライラック様がお見えです」
耳が鋭く長い老年の執事が、扉を叩き報告する。
「そうか。すぐに応接室へご案内しろ」
「かしこまりました」
その指示を聞いた執事は執務室の扉の前から立ち去った。
「ふふっ……黒き薔薇の令嬢……はてさていったいどのようなご要件かな?」
静かに笑う男の赤い瞳が妖しく輝くのだった。
今日がデレリアット侯爵に関する報告期限日。
───ライラックの執務室───
私はゼオンの持ってきた書類の束に目を通す。
「あれから大人しくはしてるみたいね」
一度、第三騎士団に捕まったデレリアット侯爵は、夜遊びすることなく過ごしている。
「はい、仕事に関しても部下に任せっきりのようで屋敷から出ていません」
「頭を引っ込めた亀ね……」
「言い得て妙ですね」
「当然夫婦関係は最悪で、式を挙げてからは夫人は別館で暮らしている、と」
「デレリアット侯爵も肩書さえ手に入れてしまえば夫人のことなどどうでもよかったのでしょう」
「同じ女として、何とか助けてあげたいものね」
「離縁させるにはそれなりの不祥事を暴く必要があるでしょう」
「もう少し時間が必要かしら……」
私たちは、少し沈黙の時間を過ごす。
「あっ、そうだわ」
「なにか良い考えでも」
「異国連合の本部に行ってみましょう」
「敵……とまではいきませんがあまり友好的ではない場所へ向かうつもりですか?」
「ええ、同業のよしみで挨拶がてらにね」
「気軽におっしゃいますね……」
「大丈夫大丈夫。あちらも不用意なことはしないでしょうから」
「賛成はしかねますが、言っても聞かないのでしょう?」
「分かる?」
「長いお付き合いですから。分かりました。護衛はどうされます?」
「いつも通りハオルだけでいいわ。大人数で行けば警戒されるでしょうし」
「……かしこまりました」
おでこに手を当てて、ため息を吐くゼオンだった。
そうして夕方、ナディアスの街が活発になる頃、私とハオルは馬車に揺られて西エリアに向かっている。
「姉様、到着しました」
ハオルが馬車を停めると、中央と西の狭間にある馬車乗り場で降りる。
乗り場のスタッフに馬車を預けると、西エリアへと向かっていく。
今日のドレスは少し派手に黒地に金の斜線が刺繍されたもの。
その他にはフリルなどはなく、東洋の民族衣装に近い。
半袖、足には大きなスリットが入っており、なんとも動きやすい。
ハオルはそんなドレスに不満そうではあるけど、今回は動きやすさが肝要であるので不満を口には出さなかった。
西エリアに入ってすぐに目に付くのは亜人と言われる種族であり、動物の耳や尻尾が特徴の彼らは最近増えてきた移民。
そんな彼らは同じ外国人が運営する異国連合に多く集まっている。
一応、私たちのエリアにも少数は居るのだけどそう多くはない。
そのため、同じ街とは思えないほどに異国感があるけど、街の作りは似たようなものでどのような店かは王都民でも分かるようになっている。
「あらあら、注目の的ね」
「それはそうでしょう。レミゼラルムーン家の当主がいるのですから」
「まあいいわ。さっさと本部に向かいましょう」
「場所は分かるのですか?」
「ゼオンが調べてくれてるわ。本当に有能よね」
「むぅ……」
ゼオンを褒めたのが気に障ったようで、ハオルはふくれっ面になる。
「ほらほら、今はあなたが頼りなんだから」
「はい!姉様はボクが守りますから!」
我が弟ながら単純な子である。
私は笑いながら、道を歩いていた。
そんなときに、
「失礼ですが、ライラック様でいらっしゃいますね?」
黒いスーツを纏った背の高い犬耳を持つ亜人の男が立ち塞がった。
彼の後ろには同じ種族の二人が控えている。
「そうよ」
「どういったご要件でしょうか?」
「貴方がたの本部に挨拶をしようと思って。本部長はいらっしゃるんでしょう?」
この時間には本部に着たばかりのはず。
「ずいぶんとお調べになっているようで?」
「ふふっ。唐突な訪問失礼します」
「……ご案内いたします」
「あら、ありがとう」
先頭の亜人が背中を向けると、ハオルはふっと息を吐いた。
それから五分ほど歩くと、先頭を歩く男たちは三階建ての石造りの建物の前で止まった。
鉄柵の門の内側には緑の芝生があり、噴水も見えるというなかなかに豪華な造りね。
「本部長にお客様だ」
「ああ、分かった」
門番には二人組の亜人の男。
こちらは熊のように大きな身体と耳を持っている。
さすが本部というわけね。
屈強なガードマンだこと。
「申し訳ないが、そちらの少年は身体を改めさせてもらえるか?」
「ええ、もちろんよ。ハオル、よろしくね」
「分かりました」
ハオルは両手を上げると、二人のガードマンは胸元や腰のポケット辺りを探っていく。
「協力感謝する」
「いえ」
ハオルは短く答えると、スーツを着直した。
「それではどうぞ」
その言葉と同時に、二人の門番が鉄柵をキィィィ……と小さな音立てて開いていく。
───異国連合本部、本部長執務室───
コンコン。
「失礼いたします。レミゼラルムーン家当主、ライラック様がお見えです」
耳が鋭く長い老年の執事が、扉を叩き報告する。
「そうか。すぐに応接室へご案内しろ」
「かしこまりました」
その指示を聞いた執事は執務室の扉の前から立ち去った。
「ふふっ……黒き薔薇の令嬢……はてさていったいどのようなご要件かな?」
静かに笑う男の赤い瞳が妖しく輝くのだった。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる