41 / 88
姉と弟と
しおりを挟む
セイクリッド様が帰った後も、私はただボーっと黒猫のブローチを見ていた。
(……可愛い子)
そう思った矢先、
「姉様!セイクリッドが来たというのは本当ですか!?」
ハオルがノックもせずに飛び込んでくる。
「ハオル!ノックくらいなさい!それに殿下の敬称はしっかりと付けなさいな!」
「本人が目の前にいれば考えますがいないのなら知りません!それよりもやつはなにをしに姉様に会いに来たのですか!?」
もはや名前でもなく、やつ呼ばわり。
よほど嫌いなのね……
「セイクリッド様は、その……」
なんというか言いづらい。
私を心配して会いに来てくれたと言えばいいだけなのに、告白めいた言葉が頭の中でぐるぐると渦巻いて上手く言葉にできそうにない。
「はっ!?」
そんな私を見たハオルは何かを察したようだ。
「もしや破廉恥な真似をしたのでは!?」
「そ、そんなことされてないわよ!セイクリッド様はただ私を心配して会いに来てくれただけ!」
「心配?」
「ほら、新聞に私のことが大きく載ってしまったでしょ?それを読んで来てくださったのよ」
「……それだけですか?」
「どういうこと?」
「姉様が先ほどから妙にご機嫌なことが気になっています。今日は延々と書類作業が続いていて不機嫌だろうと思い、ミッドナイトのナイトケーキを購入してきたのですが……そのようなボクの気遣いよりも機嫌が良いなんて何かあったに決まっています!」
ハオルには街の見回りを頼んでいた。
その帰りにケーキを買ってきたのね。
いつもならとても喜んだのだけど……
私はさりげなく咳払いをし、ケースに入ったままの黒猫のブローチを書類の影に隠す。
「あら、嬉しいわ。早速食べたいからお茶を淹れてきてくれる?」
「ええ、わかりました。ですがその前に今隠したものを見せてくれますか?」
「な、なんのこと?」
「姉様の右手がさりげなく書類の影に移動させたものですよ」
「き、気の所為じゃないかしら?」
「姉様、ボクを甘く見ないでください。視線は真っ直ぐにボクを見ていましたが手が不用な動きをしていたのを見逃してはいません」
(……我が弟ながらやっかいな子ね)
「なら、三つのことを誓いなさい。まず一つ冷静であること」
「もちろんです。ボクはいつも冷静ですから」
嘘をつきなさい。
そう思いつつも私は言葉を続ける。
「二つ目は乱暴に扱わないこと」
「ええ、ボクは何ごとも丁寧にを心掛けていますので」
実際そうではあるのだけれど、不安が募るのはなぜかしら。
「それで三つ目はなんですか?」
「セイクリッド様の悪口を言わない」
「……」
「黙ってないで約束しなさいよ」
「姉様……なんて困難なことをおっしゃるのですか……?その約束がどれだけ難しく、ボクを苦しめるかということをわかっていません……」
「そこまでのことではないでしょう」
「そこまでのことではあります!くっ!あの野郎!」
「はい、失格」
「姉様。今のは間違いです。セイクリッド殿下は素晴らしい……お方、です……」
もう少しスムーズに話せるでしょうに。
ハオルは無理やりつくった笑顔を見せる。
「はぁ……ちゃんと約束守りなさいよ」
「もちろんです!」
「これ、セイクリッド様から頂いたの」
私は黒猫のブローチが入ったケースを開けたまま渡した。
すると不自然だった笑顔がさらに不自然さを増していく。
頬はピクピクと揺れ、目には怒りがこもっているように見えた。
「へ、へぇ……大人の女性に渡すものとしてはずいぶんと可愛らしいですね……」
「私もそう思ったのだけど、これはセイクリッド様が初めて私のために選んでくれたものだと思うと、嬉しい気持ちでいっぱいだわ」
「……なぜそんなことがわかるので?」
「包み紙やリボンがずいぶんと色褪せていたから。どれくらい前かわからないけどね」
「むむむ……」
ハオルは私の言葉についに笑顔を崩してしまった。
「姉様!ボクの初めてのプレゼントを覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、あなたが三歳のころにくれたキスが一番最初ね」
「……えっ?」
「あら覚えてないの?私の誕生日にチュってしてくれたんだけど……」
「覚えていません!ボクが覚えているのは五歳のときの……!」
「ああ、折り紙で作った花かしら?ちゃんと取ってるわよ。ちょっと待ってね」
私は机の引き出しから、おしゃれな木箱を取り出すと中を開いた。
そこにはハオルの折った折り紙の花が咲き誇っている。
「ほら、綺麗でしょう?」
「ま、まだ持っていてくれたんだ……」
「当然じゃないの。大切な弟からもらったプレゼント。捨てられないわ」
「……て、照れるよ姉様……」
そう顔をうつむかせたハオルは、ブローチの入ったケースを差し出してくれる。
「ありがとう」
「そ、その……ケーキとお茶を持ってくるから……」
「ええ、お願いね」
「ん……」
ずいぶんと大人しくなったハオルだけど、なにがきっかけかしら?
良くわからないけれど、良かったわ。
コトン。
机に上にサクリッド様から頂いた万年筆とハオルの折り紙の花々、そして黒猫のブローチが並ぶ。
「私は幸せね。こんなにも愛されているのだから……えへへ」
あまりの嬉しさに、ついにやけてしまうライラックだった。
(……可愛い子)
そう思った矢先、
「姉様!セイクリッドが来たというのは本当ですか!?」
ハオルがノックもせずに飛び込んでくる。
「ハオル!ノックくらいなさい!それに殿下の敬称はしっかりと付けなさいな!」
「本人が目の前にいれば考えますがいないのなら知りません!それよりもやつはなにをしに姉様に会いに来たのですか!?」
もはや名前でもなく、やつ呼ばわり。
よほど嫌いなのね……
「セイクリッド様は、その……」
なんというか言いづらい。
私を心配して会いに来てくれたと言えばいいだけなのに、告白めいた言葉が頭の中でぐるぐると渦巻いて上手く言葉にできそうにない。
「はっ!?」
そんな私を見たハオルは何かを察したようだ。
「もしや破廉恥な真似をしたのでは!?」
「そ、そんなことされてないわよ!セイクリッド様はただ私を心配して会いに来てくれただけ!」
「心配?」
「ほら、新聞に私のことが大きく載ってしまったでしょ?それを読んで来てくださったのよ」
「……それだけですか?」
「どういうこと?」
「姉様が先ほどから妙にご機嫌なことが気になっています。今日は延々と書類作業が続いていて不機嫌だろうと思い、ミッドナイトのナイトケーキを購入してきたのですが……そのようなボクの気遣いよりも機嫌が良いなんて何かあったに決まっています!」
ハオルには街の見回りを頼んでいた。
その帰りにケーキを買ってきたのね。
いつもならとても喜んだのだけど……
私はさりげなく咳払いをし、ケースに入ったままの黒猫のブローチを書類の影に隠す。
「あら、嬉しいわ。早速食べたいからお茶を淹れてきてくれる?」
「ええ、わかりました。ですがその前に今隠したものを見せてくれますか?」
「な、なんのこと?」
「姉様の右手がさりげなく書類の影に移動させたものですよ」
「き、気の所為じゃないかしら?」
「姉様、ボクを甘く見ないでください。視線は真っ直ぐにボクを見ていましたが手が不用な動きをしていたのを見逃してはいません」
(……我が弟ながらやっかいな子ね)
「なら、三つのことを誓いなさい。まず一つ冷静であること」
「もちろんです。ボクはいつも冷静ですから」
嘘をつきなさい。
そう思いつつも私は言葉を続ける。
「二つ目は乱暴に扱わないこと」
「ええ、ボクは何ごとも丁寧にを心掛けていますので」
実際そうではあるのだけれど、不安が募るのはなぜかしら。
「それで三つ目はなんですか?」
「セイクリッド様の悪口を言わない」
「……」
「黙ってないで約束しなさいよ」
「姉様……なんて困難なことをおっしゃるのですか……?その約束がどれだけ難しく、ボクを苦しめるかということをわかっていません……」
「そこまでのことではないでしょう」
「そこまでのことではあります!くっ!あの野郎!」
「はい、失格」
「姉様。今のは間違いです。セイクリッド殿下は素晴らしい……お方、です……」
もう少しスムーズに話せるでしょうに。
ハオルは無理やりつくった笑顔を見せる。
「はぁ……ちゃんと約束守りなさいよ」
「もちろんです!」
「これ、セイクリッド様から頂いたの」
私は黒猫のブローチが入ったケースを開けたまま渡した。
すると不自然だった笑顔がさらに不自然さを増していく。
頬はピクピクと揺れ、目には怒りがこもっているように見えた。
「へ、へぇ……大人の女性に渡すものとしてはずいぶんと可愛らしいですね……」
「私もそう思ったのだけど、これはセイクリッド様が初めて私のために選んでくれたものだと思うと、嬉しい気持ちでいっぱいだわ」
「……なぜそんなことがわかるので?」
「包み紙やリボンがずいぶんと色褪せていたから。どれくらい前かわからないけどね」
「むむむ……」
ハオルは私の言葉についに笑顔を崩してしまった。
「姉様!ボクの初めてのプレゼントを覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、あなたが三歳のころにくれたキスが一番最初ね」
「……えっ?」
「あら覚えてないの?私の誕生日にチュってしてくれたんだけど……」
「覚えていません!ボクが覚えているのは五歳のときの……!」
「ああ、折り紙で作った花かしら?ちゃんと取ってるわよ。ちょっと待ってね」
私は机の引き出しから、おしゃれな木箱を取り出すと中を開いた。
そこにはハオルの折った折り紙の花が咲き誇っている。
「ほら、綺麗でしょう?」
「ま、まだ持っていてくれたんだ……」
「当然じゃないの。大切な弟からもらったプレゼント。捨てられないわ」
「……て、照れるよ姉様……」
そう顔をうつむかせたハオルは、ブローチの入ったケースを差し出してくれる。
「ありがとう」
「そ、その……ケーキとお茶を持ってくるから……」
「ええ、お願いね」
「ん……」
ずいぶんと大人しくなったハオルだけど、なにがきっかけかしら?
良くわからないけれど、良かったわ。
コトン。
机に上にサクリッド様から頂いた万年筆とハオルの折り紙の花々、そして黒猫のブローチが並ぶ。
「私は幸せね。こんなにも愛されているのだから……えへへ」
あまりの嬉しさに、ついにやけてしまうライラックだった。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─
あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」
没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。
しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。
瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。
「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」
絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。
嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる