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第二の容疑者 ファレド・オンフレッド
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「失礼いたします」
そう言って応接室に入って来たのは、濃紺の髪を肩まで伸ばした一見大人しそうな男だった。
歳は二十代後半くらいかしら?
それなりに整った顔立ちだけど、どこか冷たい印象を受ける。
「初めまして、ファレド・オンフレッドと申します」
「ライラック・レミゼラルムーンよ。おかけになって」
「ありがとうございます」
私とローリィが並んで座る中、ファレドは対面に座る。
「単刀直入に聞きます。なぜ私が遠ざけられているのでしょうか?」
「ならば私も簡潔に答えるわ。担当の歌姫に手を出そうとしたらダメでしょう」
「人が人を愛することがダメだというのですか?」
「別に愛し合うのなら問題ないわ。だけどあなた一度だけではなく何度も断られているのよね?それでも執着していることはローリィにとって恐怖でしかないわ」
「それだけ愛しているということを伝えたかっただけなのですが……」
「まったくの逆効果ね。あなたは確かに彼女にとって恩人だけど、感謝はしていても男女の愛情までは持っていなかった」
ファレドはチラリとローリィに顔を向けると、
「そうなのか?」
問いただした。
その眼差しはまるで敵を見るように冷たい。
本性が出てきたわね。
「……」
震えるローリィ。
そんな彼女の手を握り、
頑張りなさい。
私は視線で想いを伝えた。
「ファレドさんには本当に感謝しています……だけどお付き合いとなると話しは違うんです……私は誰にも優しい人が好きなんです。その人がいれば周囲の人も温かく笑える、そんな人が……」
単純そうに思えて、意外と難しいのよね。
優しい人って。
好きな人や親しいに優しいのは当然だけど、それ以外にも優しさを見せられるのは心に余裕のある人間でしか達成できない。
財力の有無や立場の問題ではなく、ただ単純なことを知っている人が優しくなれる。
それは自分がされたら嫌なことを他人にしないこと。
私はそう思っている。
「……ローリィの考えはわかった。担当を代わってもいい。だから所属は変わらないで欲しい」
ファレドは深々と頭を下げてそう言った。
それはそうだろう。
ナディアスだけでなく王国内でも一番人気のあるローリィが脱退するとなれば、彼の所属する組織は甚大なダメージを受けてしまう。
告白を断ったローリィが脱退を考えていると思うことは自然なことね。
「……私は、劇場所属の歌手になります。相談に乗ってくれたライラック様や支配人さんに感謝の意を伝えるために」
それは聞いていなかったわ。
劇場は私が運営するもの。
ひいてはレミゼラルムーン家に所属をするということになる。
彼女が生み出す利益があれば、シュレンに支払った金貨三百枚なんて一瞬で回収できるのだけど。
「ライラック様、よろしいでしょうか?」
「逆にこちらが聞きたいわ。いいの?」
「はい。私は歌うことさえできれば幸せなので」
「そんなことが許せるかぁぁぁ!お前は私の為に歌い!金を稼いでいればいいのだ!」
「きゃぁぁぁ!」
逆上したファレドが、ローリィの腕を掴もうと席を立った。
「みっともない真似はおよしなさい。全てはあなたの自業自得でしょ」
私は伸ばしてきたファレドの腕を掴むと、ギリギリと締め上げる。
「自業自得だとぉ……!」
「あなたが周囲の人にもっと優しくしていれば、ローリィの愛をも手に入れていたかもしれない。だけどあなたには自分と名誉、お金しか見えていなかったのでしょう?それがあなたの業なのよ」
「ふざけるな!女如きが俺を見下すんじゃない!」
「その女に稼がせてもらっていたあなたはいったいなんなのかしら?それと一応言っておくけど、私ってそこそこ偉い人なの知ってる?」
「あっ……」
そこでファレドは自分が誰に向かって暴言を吐いたのかを思い知った。
「ゼオン!」
「はいお嬢様」
「シェルドに連絡を。暴言を吐いた輩を捕らえたとね」
「かしこまりました」
ゼオンは恭しく頭を下げると、ファレドを持っていた紐で後ろ手に縛り上げた。
「申し訳ありませんでした!どうかお許しを!」
「ならば正直に答えなさい?脅迫状を書いたのはあなた?」
「ローリィを傷つけることなんて絶対にする理由がありません!だって彼女は大事な金の卵を産む鳥なのですから!」
ここに来てファレドが嘘を吐く理由はないと思う。
だけど逆恨みをする可能性は十分にある。
「わかったわ。その言葉信じましょう」
「なら……!」
「暴言の件も私の中で留めておいてあげる。だけど……ローリィに仕返しを企もうとでもすれば、どうなるかわかるわよね?」
「もちろんです!ローリィには一切手出しをいたしません!」
「それじゃあそのまま帰っていいわよ」
「はい!ありがとうございます!失礼いたしました!」
解き放たれたファレドはそそくさとこの場から去っていった。
「良かったのですか?あんなことを言われたのに……」
ローリィが納得いかないような表情を見せる。
「いいのよ。追い詰めすぎるとなにをするかわからないからね。ああいうのはあれくらいのお仕置きで十分よ」
「ライラック様がそう言うのなら……」
「それよりもファレドも違ったようね」
「はい……」
「残るはあと一人か……」
はてさて、どうなることやら。
そう言って応接室に入って来たのは、濃紺の髪を肩まで伸ばした一見大人しそうな男だった。
歳は二十代後半くらいかしら?
それなりに整った顔立ちだけど、どこか冷たい印象を受ける。
「初めまして、ファレド・オンフレッドと申します」
「ライラック・レミゼラルムーンよ。おかけになって」
「ありがとうございます」
私とローリィが並んで座る中、ファレドは対面に座る。
「単刀直入に聞きます。なぜ私が遠ざけられているのでしょうか?」
「ならば私も簡潔に答えるわ。担当の歌姫に手を出そうとしたらダメでしょう」
「人が人を愛することがダメだというのですか?」
「別に愛し合うのなら問題ないわ。だけどあなた一度だけではなく何度も断られているのよね?それでも執着していることはローリィにとって恐怖でしかないわ」
「それだけ愛しているということを伝えたかっただけなのですが……」
「まったくの逆効果ね。あなたは確かに彼女にとって恩人だけど、感謝はしていても男女の愛情までは持っていなかった」
ファレドはチラリとローリィに顔を向けると、
「そうなのか?」
問いただした。
その眼差しはまるで敵を見るように冷たい。
本性が出てきたわね。
「……」
震えるローリィ。
そんな彼女の手を握り、
頑張りなさい。
私は視線で想いを伝えた。
「ファレドさんには本当に感謝しています……だけどお付き合いとなると話しは違うんです……私は誰にも優しい人が好きなんです。その人がいれば周囲の人も温かく笑える、そんな人が……」
単純そうに思えて、意外と難しいのよね。
優しい人って。
好きな人や親しいに優しいのは当然だけど、それ以外にも優しさを見せられるのは心に余裕のある人間でしか達成できない。
財力の有無や立場の問題ではなく、ただ単純なことを知っている人が優しくなれる。
それは自分がされたら嫌なことを他人にしないこと。
私はそう思っている。
「……ローリィの考えはわかった。担当を代わってもいい。だから所属は変わらないで欲しい」
ファレドは深々と頭を下げてそう言った。
それはそうだろう。
ナディアスだけでなく王国内でも一番人気のあるローリィが脱退するとなれば、彼の所属する組織は甚大なダメージを受けてしまう。
告白を断ったローリィが脱退を考えていると思うことは自然なことね。
「……私は、劇場所属の歌手になります。相談に乗ってくれたライラック様や支配人さんに感謝の意を伝えるために」
それは聞いていなかったわ。
劇場は私が運営するもの。
ひいてはレミゼラルムーン家に所属をするということになる。
彼女が生み出す利益があれば、シュレンに支払った金貨三百枚なんて一瞬で回収できるのだけど。
「ライラック様、よろしいでしょうか?」
「逆にこちらが聞きたいわ。いいの?」
「はい。私は歌うことさえできれば幸せなので」
「そんなことが許せるかぁぁぁ!お前は私の為に歌い!金を稼いでいればいいのだ!」
「きゃぁぁぁ!」
逆上したファレドが、ローリィの腕を掴もうと席を立った。
「みっともない真似はおよしなさい。全てはあなたの自業自得でしょ」
私は伸ばしてきたファレドの腕を掴むと、ギリギリと締め上げる。
「自業自得だとぉ……!」
「あなたが周囲の人にもっと優しくしていれば、ローリィの愛をも手に入れていたかもしれない。だけどあなたには自分と名誉、お金しか見えていなかったのでしょう?それがあなたの業なのよ」
「ふざけるな!女如きが俺を見下すんじゃない!」
「その女に稼がせてもらっていたあなたはいったいなんなのかしら?それと一応言っておくけど、私ってそこそこ偉い人なの知ってる?」
「あっ……」
そこでファレドは自分が誰に向かって暴言を吐いたのかを思い知った。
「ゼオン!」
「はいお嬢様」
「シェルドに連絡を。暴言を吐いた輩を捕らえたとね」
「かしこまりました」
ゼオンは恭しく頭を下げると、ファレドを持っていた紐で後ろ手に縛り上げた。
「申し訳ありませんでした!どうかお許しを!」
「ならば正直に答えなさい?脅迫状を書いたのはあなた?」
「ローリィを傷つけることなんて絶対にする理由がありません!だって彼女は大事な金の卵を産む鳥なのですから!」
ここに来てファレドが嘘を吐く理由はないと思う。
だけど逆恨みをする可能性は十分にある。
「わかったわ。その言葉信じましょう」
「なら……!」
「暴言の件も私の中で留めておいてあげる。だけど……ローリィに仕返しを企もうとでもすれば、どうなるかわかるわよね?」
「もちろんです!ローリィには一切手出しをいたしません!」
「それじゃあそのまま帰っていいわよ」
「はい!ありがとうございます!失礼いたしました!」
解き放たれたファレドはそそくさとこの場から去っていった。
「良かったのですか?あんなことを言われたのに……」
ローリィが納得いかないような表情を見せる。
「いいのよ。追い詰めすぎるとなにをするかわからないからね。ああいうのはあれくらいのお仕置きで十分よ」
「ライラック様がそう言うのなら……」
「それよりもファレドも違ったようね」
「はい……」
「残るはあと一人か……」
はてさて、どうなることやら。
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