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第三の容疑者 カーズ・ドライク
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カーズ・ドライク。
ファレドと面会を終えた翌日、私は最後の容疑者である人物の屋敷へと訪れていた。
さすが王国でも有数のビジネスを行っているだけに、白を基調とした屋敷は大きくありつつも壮麗である。
我が家よりも大きいわね。
少し負けた気持ちになるけれど、そんな些細なことはどうでもいい。
ローリィの女の勘が当たっているのならば、脅迫状の送り主はカーズ・ドライクその人なのだから。
「ライラック・レミゼラルムーン様がカーズ・ドライク殿に面会に来た。取り次ぎをお願いしたい」
私の御者が門番に立つ二人の警備員に話を告げると、
「承っております。すぐに門を開きますので少々お待ちくださいませ」
丁寧な回答があった。
あら、ずいぶんと扱いがいいこと。
前回のシュレン様の門番とは違うわね。
貴族としての応対をナディアス以外であまりされたことがないのでとても新鮮に思えた。
「ようこそ、おいでなさいました」
玄関ホールへと通された私たちが一番最初に出会った人物。
それがカーズ・ドライクだった。
茶色の髪は適度な長さでカットされており、清潔感が漂っている。身だしなみも茶色で統一されたスーツで申し分もない。
それに加えて精悍な顔立ちは逞しさと知性の相反した魅力を感じさせていた。
だが、一番目がいくのはやはり瞳だろう。
左目は金、右目は茶と違った色を見せている。
とても珍しいオッドアイというものね。
「わざわざのお出迎え、感謝いたしますわ」
「いえいえ、レミゼラルムーン家の当主様をお出迎えさせていただくのは当然のことです。早速応接室へご案内いたします」
「ええ、よろしく」
御者と別れた私は豪華な通路を歩き、応接室へと案内された。
そしてカーズによって開かれた扉から入室すると、
「おぎゃぁぁぁ!」
赤ちゃんの泣く声が響いた。
どうしたことかと思って見てみると、困ったように赤ちゃんを抱いている若いメイドが、赤ちゃんを泣き止ませようとあやしているところだった。
「若様……申し訳ありません……」
「ああ、構わない。私が抱こう」
そう言ってメイドから赤ちゃんを譲り受けると、すぐに赤ちゃんは泣き止んだ。
「ふふっ、どうも申し訳ありません。この通り私と妻以外には懐いてくれないようでして。その妻も少し所用で出かけています。静かにさせておきますのでご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?」
「別に構いませんわ。私も子どもは好きですから」
「そう言っていただけると助かります」
「赤ちゃんは男の子ですか?女の子ですか?」
「女の子で、ソフィアと名付けました」
「可愛らしいお子様ですね」
赤ちゃんはカーズの胸ですやすやと眠り始めた。
言葉通り彼にはよく懐いているようね。
「それで、どのようなご要件でしょうか?」
「ローリィという歌姫についてなのですが、あなたが求婚なさったことで彼女は非常に悩んでおります。その後に脅迫状めいた手紙も来ていて、心身ともに疲れ果てているという状況なのです」
「それは申し訳ありませんでした。彼女の歌を初めて聴いたときに恋に落ちたようの感覚を覚え、つい楽屋でそのようなことを言ってしまいました」
「衝動的だっただけで今はそういった気持ちはないと?」
「ええ、私にはありません。ですが……」
「なにか思うことでも?」
「いえ、これは自分で解決するべきことです。ライラック様にお話しすることは無用だと思います」
「聞きたいわ、と言っても話してくださらないのですよね?」
「ええ、ローリィ様の件は本当に申し訳ありませんでした。これからは接近しないことをお約束いたします。あと、前回にお会いしたときの私の言葉は全て撤回させていただきますのでご容赦をお願いしたいのです」
「わかりました。持ち帰り検討させていただきます」
「今回はご足労いただきましてありがとうございました」
ふむ……話してみた結果、私が会ったことのある人物だった。
ローリィが言うように家庭を破壊する約束をしてまで口説くような愚行をする人物とは思えない。
私が応接室から出て、少し考えごとをしていると、
「おぎゃぁぁぁ!」
突然、赤ちゃんの泣き声が響いてきた。
「大丈夫ですか?」
私はすぐに引き返し、ノックとともに扉を開けた。
「これはこれは、ご心配をおかけしました。たまに僕でも泣かせてしまうことがあるんですよね」
ん?なにか引っかかるものがあったような……?
「よーしよし……」
だけど、カーズはソファに座って赤ちゃんを抱っこしてあやしている。
その姿に違和感はない。
「それでは今度こそ失礼いたしますわ」
「はい、ご心配ありがとうございました」
会ってみた結果、私の思考は問題ないという判断を下す。
だけど、直感というべきものが彼にはなにかあると告げてくる。
……良きパパだけど、白になるにはまだ時期尚早かしらね。
私はそう思い、ドライク家を後にするのだった。
ファレドと面会を終えた翌日、私は最後の容疑者である人物の屋敷へと訪れていた。
さすが王国でも有数のビジネスを行っているだけに、白を基調とした屋敷は大きくありつつも壮麗である。
我が家よりも大きいわね。
少し負けた気持ちになるけれど、そんな些細なことはどうでもいい。
ローリィの女の勘が当たっているのならば、脅迫状の送り主はカーズ・ドライクその人なのだから。
「ライラック・レミゼラルムーン様がカーズ・ドライク殿に面会に来た。取り次ぎをお願いしたい」
私の御者が門番に立つ二人の警備員に話を告げると、
「承っております。すぐに門を開きますので少々お待ちくださいませ」
丁寧な回答があった。
あら、ずいぶんと扱いがいいこと。
前回のシュレン様の門番とは違うわね。
貴族としての応対をナディアス以外であまりされたことがないのでとても新鮮に思えた。
「ようこそ、おいでなさいました」
玄関ホールへと通された私たちが一番最初に出会った人物。
それがカーズ・ドライクだった。
茶色の髪は適度な長さでカットされており、清潔感が漂っている。身だしなみも茶色で統一されたスーツで申し分もない。
それに加えて精悍な顔立ちは逞しさと知性の相反した魅力を感じさせていた。
だが、一番目がいくのはやはり瞳だろう。
左目は金、右目は茶と違った色を見せている。
とても珍しいオッドアイというものね。
「わざわざのお出迎え、感謝いたしますわ」
「いえいえ、レミゼラルムーン家の当主様をお出迎えさせていただくのは当然のことです。早速応接室へご案内いたします」
「ええ、よろしく」
御者と別れた私は豪華な通路を歩き、応接室へと案内された。
そしてカーズによって開かれた扉から入室すると、
「おぎゃぁぁぁ!」
赤ちゃんの泣く声が響いた。
どうしたことかと思って見てみると、困ったように赤ちゃんを抱いている若いメイドが、赤ちゃんを泣き止ませようとあやしているところだった。
「若様……申し訳ありません……」
「ああ、構わない。私が抱こう」
そう言ってメイドから赤ちゃんを譲り受けると、すぐに赤ちゃんは泣き止んだ。
「ふふっ、どうも申し訳ありません。この通り私と妻以外には懐いてくれないようでして。その妻も少し所用で出かけています。静かにさせておきますのでご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?」
「別に構いませんわ。私も子どもは好きですから」
「そう言っていただけると助かります」
「赤ちゃんは男の子ですか?女の子ですか?」
「女の子で、ソフィアと名付けました」
「可愛らしいお子様ですね」
赤ちゃんはカーズの胸ですやすやと眠り始めた。
言葉通り彼にはよく懐いているようね。
「それで、どのようなご要件でしょうか?」
「ローリィという歌姫についてなのですが、あなたが求婚なさったことで彼女は非常に悩んでおります。その後に脅迫状めいた手紙も来ていて、心身ともに疲れ果てているという状況なのです」
「それは申し訳ありませんでした。彼女の歌を初めて聴いたときに恋に落ちたようの感覚を覚え、つい楽屋でそのようなことを言ってしまいました」
「衝動的だっただけで今はそういった気持ちはないと?」
「ええ、私にはありません。ですが……」
「なにか思うことでも?」
「いえ、これは自分で解決するべきことです。ライラック様にお話しすることは無用だと思います」
「聞きたいわ、と言っても話してくださらないのですよね?」
「ええ、ローリィ様の件は本当に申し訳ありませんでした。これからは接近しないことをお約束いたします。あと、前回にお会いしたときの私の言葉は全て撤回させていただきますのでご容赦をお願いしたいのです」
「わかりました。持ち帰り検討させていただきます」
「今回はご足労いただきましてありがとうございました」
ふむ……話してみた結果、私が会ったことのある人物だった。
ローリィが言うように家庭を破壊する約束をしてまで口説くような愚行をする人物とは思えない。
私が応接室から出て、少し考えごとをしていると、
「おぎゃぁぁぁ!」
突然、赤ちゃんの泣き声が響いてきた。
「大丈夫ですか?」
私はすぐに引き返し、ノックとともに扉を開けた。
「これはこれは、ご心配をおかけしました。たまに僕でも泣かせてしまうことがあるんですよね」
ん?なにか引っかかるものがあったような……?
「よーしよし……」
だけど、カーズはソファに座って赤ちゃんを抱っこしてあやしている。
その姿に違和感はない。
「それでは今度こそ失礼いたしますわ」
「はい、ご心配ありがとうございました」
会ってみた結果、私の思考は問題ないという判断を下す。
だけど、直感というべきものが彼にはなにかあると告げてくる。
……良きパパだけど、白になるにはまだ時期尚早かしらね。
私はそう思い、ドライク家を後にするのだった。
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