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第四話 おばさん冒険者、弟子の依頼を受ける
8(第四話完結)
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「やっと終わりましたね……」
リーナは食堂のテーブルにぐったりと突っ伏した。
「ホント疲れたわ……」
ノーラがため息を吐くから、リーナは、
「すみません。私の帰省でこんなことになって」
「あんたが悪いわけじゃないわよ」
「でも、ノーラはギルドからの依頼は受けなくても良かったんですよ?」
「私に一人で先に帰れって言うの?」
「そんなことはないですけど」
「旅費の足しに都合が良かったのよ!」
リーナとノーラは何度目かのやりとりを繰り返す。
「まあまあ。もう終わったことなんだから」
そこでアリスが割って入った。
「今日は何でも好きなものを食べて飲んでちょうだい!」
それにはリーナも素直に「わー!」と歓声を上げたのだった。
――ミロルル村で六字名の魔物を討伐してから、一週間後。三人はネプラースの街の食堂にいた。
あの日、昼近くになってやっと援軍が到着したときには、緑青六花氷蛇は黒焦げ、蛇に丸呑みされた山荒針猪は蒸し焼き状態だった。
問題の魔物は討伐済みだったけれど、他にも山から魔物が下りてくる可能性があっため、ネプラースから来た冒険者はそのままミロルルに滞在することになった。
また、突然高レベル魔物が現れた理由を探るために山に調査に行く必要もある。
ネプラースの冒険者ギルドから遅れて到着したギルド職員から、リーナたち――というよりはアリスに、依頼があったのだ。
(『完全防御の魔女』がいるって聞いたら、依頼したくなりますよね……)
高レベル冒険者は緊急時や災害時のギルドからの依頼は、優先的に受けるルールになっている。
アリスは断れないが、リーナもギルド職員のため断れなかった。
ネプラースのギルドからファーラドのギルドに連絡してもらったら、「休暇を途中から出張に切り替えるから協力するように」とサブマスターのジャスパーから返事が届いた。――ジャスパーのことだから何か交換条件を出したのかもしれない。
ノーラも一緒に依頼を受けてくれたため、三人はネプラースの冒険者たちと一緒に山の調査をしたのだ。
(緑青六花氷蛇の討伐時の報告書はわかりますけど、なぜ山の調査の報告書も私が書かなければならなかったんでしょうか……? ネプラースのギルド職員が書くものでは? あれ? 私は出張扱いだから、私の仕事ですか?)
けれども、その仕事のおかげで、改めて両親がリーナのファーラド暮らしを認めてくれたのだから、感謝しないとならない。かもしれない。
「アリスさんが言うように、リーナは冒険者ギルドで必要とされているのねぇ」
「魔物が出たときに声かけして回ったのを、村の皆が感謝していたぞ」
と、両親はリーナを送り出してくれた。
――その一連の依頼が、やっとさきほど終わったところだ。
もう夕方に近かったため、ネプラースに宿を取って一泊し、明日改めて長距離馬車に乗ることにした。
ジュースとエールで乾杯し、次々と届く料理に手を付ける。
ファーラドは『リリンの森』で捕れた魔物の肉が圧倒的に多いが、この辺りは家畜の肉がほとんどだ。しかし、味付けや料理の種類が変わるほどではないため、アリスやノーラも食べやすいだろう。
黒牛のステーキを飲み込んでから、リーナは口を開く。
「それにしても、山に異常がなくて良かったですねー」
「ええ、そうね。……まさか、あの蛇が山の主だったなんて、驚いたわね」
「ですよねぇ」
リーナとアリスがうなずき合う横で、ノーラが「山の主を丸焼きに……」とつぶやくが二人には聞こえない。
アリスが倒した緑青六花氷蛇を調べたところ、百年以上生きた個体だとわかった。
あの蛇がいたため、他に高レベルの魔物がいなかったようだ。
「百年ずっと山に引きこもっていた蛇は、なんでいきなり下りてきたんでしょうね」
「どうしても猪が食べたかったんじゃない?」
「アリスさんの魔力に釣られたとか?」
「やめてちょうだい」
アリスが顔を顰めるのに、リーナたちは笑う。
すると、後ろの席から男の大声が聞こえてきた。
「おっ! なんで女の子が二人だけで飲んでんの?」
「そんなんつまんねぇだろ。俺らと一緒に飲もうぜ!」
うるさいですね、と思って振り返ると、なんとなく既視感がある。
「あれってさ、こっち来るときの馬車のナンパ男たちじゃない?」
リーナと同様に振り返ったノーラがそう囁く。
「え? そうですか?」
「前と服が同じだし」
リーナには全然わからない判断基準だ。
声をかけられた女二人組は、うっとおしそうに「どっか行って」と追い払おうとしている。
「何、そういう作戦?」
「いいから、ここ座っちまおうぜ!」
リーナたちが声をかけられたわけじゃないのに、声が大きいせいで成り行きを見守ってしまう。
「ちょっと! 勝手に座らないでよ!」
「いいじゃん、いいじゃん。何食べてんの? それ。俺にも食べさせてよ」
「やめて!」
というやりとりを聞かされた結果、声をかけられた当人たちよりアリスのほうが先にブチ切れた。
すくっと立ち上がると、後ろの席まで近づく。
「アリスおばさん、ここは穏便に……」
リーナが止める間もなく、アリスは仁王立ちする。
「嫌がってるんだから、やめなさいよ!」
「ああん? なんだ、ババア」
「うぜぇな、どっか行けよ」
(向こうは私たちと馬車で会ったことに気づかないみたいですね……)
アリスを思い出していたら、このあとのことは避けられただろう。
「どっか行くのはあんたたちのほうよ」
アリスがそう睨むと、男二人組はがたんっと椅子を倒して立ち上がって、アリスを見下ろした。
「殴られたいのかぁ?」
「黙れよ、ババ、っぐ!」
「うっ!」
アリスは全部をしゃべらせずに、身体強化で二人の胸倉を掴んで持ち上げ、床に投げ捨てた。
「ババアじゃなくて、おばさんとお呼び!」
――直後、食堂はどこからともなく起こった拍手に包まれたのだった。
リーナは食堂のテーブルにぐったりと突っ伏した。
「ホント疲れたわ……」
ノーラがため息を吐くから、リーナは、
「すみません。私の帰省でこんなことになって」
「あんたが悪いわけじゃないわよ」
「でも、ノーラはギルドからの依頼は受けなくても良かったんですよ?」
「私に一人で先に帰れって言うの?」
「そんなことはないですけど」
「旅費の足しに都合が良かったのよ!」
リーナとノーラは何度目かのやりとりを繰り返す。
「まあまあ。もう終わったことなんだから」
そこでアリスが割って入った。
「今日は何でも好きなものを食べて飲んでちょうだい!」
それにはリーナも素直に「わー!」と歓声を上げたのだった。
――ミロルル村で六字名の魔物を討伐してから、一週間後。三人はネプラースの街の食堂にいた。
あの日、昼近くになってやっと援軍が到着したときには、緑青六花氷蛇は黒焦げ、蛇に丸呑みされた山荒針猪は蒸し焼き状態だった。
問題の魔物は討伐済みだったけれど、他にも山から魔物が下りてくる可能性があっため、ネプラースから来た冒険者はそのままミロルルに滞在することになった。
また、突然高レベル魔物が現れた理由を探るために山に調査に行く必要もある。
ネプラースの冒険者ギルドから遅れて到着したギルド職員から、リーナたち――というよりはアリスに、依頼があったのだ。
(『完全防御の魔女』がいるって聞いたら、依頼したくなりますよね……)
高レベル冒険者は緊急時や災害時のギルドからの依頼は、優先的に受けるルールになっている。
アリスは断れないが、リーナもギルド職員のため断れなかった。
ネプラースのギルドからファーラドのギルドに連絡してもらったら、「休暇を途中から出張に切り替えるから協力するように」とサブマスターのジャスパーから返事が届いた。――ジャスパーのことだから何か交換条件を出したのかもしれない。
ノーラも一緒に依頼を受けてくれたため、三人はネプラースの冒険者たちと一緒に山の調査をしたのだ。
(緑青六花氷蛇の討伐時の報告書はわかりますけど、なぜ山の調査の報告書も私が書かなければならなかったんでしょうか……? ネプラースのギルド職員が書くものでは? あれ? 私は出張扱いだから、私の仕事ですか?)
けれども、その仕事のおかげで、改めて両親がリーナのファーラド暮らしを認めてくれたのだから、感謝しないとならない。かもしれない。
「アリスさんが言うように、リーナは冒険者ギルドで必要とされているのねぇ」
「魔物が出たときに声かけして回ったのを、村の皆が感謝していたぞ」
と、両親はリーナを送り出してくれた。
――その一連の依頼が、やっとさきほど終わったところだ。
もう夕方に近かったため、ネプラースに宿を取って一泊し、明日改めて長距離馬車に乗ることにした。
ジュースとエールで乾杯し、次々と届く料理に手を付ける。
ファーラドは『リリンの森』で捕れた魔物の肉が圧倒的に多いが、この辺りは家畜の肉がほとんどだ。しかし、味付けや料理の種類が変わるほどではないため、アリスやノーラも食べやすいだろう。
黒牛のステーキを飲み込んでから、リーナは口を開く。
「それにしても、山に異常がなくて良かったですねー」
「ええ、そうね。……まさか、あの蛇が山の主だったなんて、驚いたわね」
「ですよねぇ」
リーナとアリスがうなずき合う横で、ノーラが「山の主を丸焼きに……」とつぶやくが二人には聞こえない。
アリスが倒した緑青六花氷蛇を調べたところ、百年以上生きた個体だとわかった。
あの蛇がいたため、他に高レベルの魔物がいなかったようだ。
「百年ずっと山に引きこもっていた蛇は、なんでいきなり下りてきたんでしょうね」
「どうしても猪が食べたかったんじゃない?」
「アリスさんの魔力に釣られたとか?」
「やめてちょうだい」
アリスが顔を顰めるのに、リーナたちは笑う。
すると、後ろの席から男の大声が聞こえてきた。
「おっ! なんで女の子が二人だけで飲んでんの?」
「そんなんつまんねぇだろ。俺らと一緒に飲もうぜ!」
うるさいですね、と思って振り返ると、なんとなく既視感がある。
「あれってさ、こっち来るときの馬車のナンパ男たちじゃない?」
リーナと同様に振り返ったノーラがそう囁く。
「え? そうですか?」
「前と服が同じだし」
リーナには全然わからない判断基準だ。
声をかけられた女二人組は、うっとおしそうに「どっか行って」と追い払おうとしている。
「何、そういう作戦?」
「いいから、ここ座っちまおうぜ!」
リーナたちが声をかけられたわけじゃないのに、声が大きいせいで成り行きを見守ってしまう。
「ちょっと! 勝手に座らないでよ!」
「いいじゃん、いいじゃん。何食べてんの? それ。俺にも食べさせてよ」
「やめて!」
というやりとりを聞かされた結果、声をかけられた当人たちよりアリスのほうが先にブチ切れた。
すくっと立ち上がると、後ろの席まで近づく。
「アリスおばさん、ここは穏便に……」
リーナが止める間もなく、アリスは仁王立ちする。
「嫌がってるんだから、やめなさいよ!」
「ああん? なんだ、ババア」
「うぜぇな、どっか行けよ」
(向こうは私たちと馬車で会ったことに気づかないみたいですね……)
アリスを思い出していたら、このあとのことは避けられただろう。
「どっか行くのはあんたたちのほうよ」
アリスがそう睨むと、男二人組はがたんっと椅子を倒して立ち上がって、アリスを見下ろした。
「殴られたいのかぁ?」
「黙れよ、ババ、っぐ!」
「うっ!」
アリスは全部をしゃべらせずに、身体強化で二人の胸倉を掴んで持ち上げ、床に投げ捨てた。
「ババアじゃなくて、おばさんとお呼び!」
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